※内容は、取材当時のものです。

EV電池の「価値の見え
る化」で、
国内の資源循
環市場を創造

~EV性能予測技術を持つ
MobiSaviへの出資で、
EV市場の
サーキュラーエコノミーを加速~

  • 左向 貴代 氏
    (株)MobiSavi 左向 貴代 氏
  • 三澤 直也
    (株)三井住友銀行 三澤 直也
  • 東 なな
    (株)三井住友銀行 東 なな

環境

パートナーシップ

世界的な脱炭素化を背景に電気自動車(EV)への移行が加速している。EV電池にはリチウムやコバルトなどのレアメタルが使われ、日本はその多くを輸入に依存している。さらに国内には使用済みEV電池の性能と価値を正しく評価する仕組みが未整備であるため、中古EVの約8割が海外へ流出している。この状況の解決には、EV電池の価値の可視化と国内流通を促す新たな仕組みが不可欠である。

この課題に対し、三井住友銀行(以下、SMBC)の二つの部門がそれぞれの視点から着目していた。次世代産業の創出を目指すコーポレート・アドバイザリー本部は2016年よりスマートモビリティやEV電池分野を重要領域と捉え、社会的価値創造本部は、環境課題の解決と経済安全保障の観点からEV電池のサーキュラーエコノミー(以下、CE)構築に関心を寄せていた。こうしたなか、SMBC副会長のアドバイスを受け、SMBC コーポレート・アドバイザリー本部 三澤 直也が、EV電池の将来性能予測技術を持つ株式会社MobiSavi 代表取締役社長 左向 貴代氏に出会ったことを機に両部門が連携し、新たな市場創出に向けた取組を開始した。

デバイスレス、マルチ
ブランド対応で
EV電池性能を予測できる
MobiSaviに出資

MobiSaviのEV性能予測技術は、従来の手法とは異なり物理的な計測デバイスを設置せず、車両のカタログ情報や、運転挙動、道路環境、外気温といったデータをもとに、統計分析を用いてバッテリーの劣化状態を「推定」する。このアプローチにより、特定のメーカーに縛られず、国内外の多様なメーカーの車種に対応可能だ。さらに、現在の電池の状態だけでなく、将来の性能劣化まで高い精度で予測できる。これにより、これまで不透明だった中古電池の価値を客観的に評価し、適正な価格形成を促すことが可能になる。

三澤は、MobiSaviが持つこの独自の技術力に加え、左向氏の社会課題解決への姿勢にも感銘を受けたことから、本件が日本の産業競争力強化に資する重要な取組であると判断し、SMBC 社会的価値創造企画部 東 ななと連携。経済的リターンだけでなく社会的価値も重視する「社会的価値創造投資枠」を活用したエクイティ出資を実行した。出資の背景にある、事業パートナーとしての姿勢を三澤は次のように語る。

「本件は単なる金融支援にとどまりません。CE構築には多様な業界が連携するバリューチェーンが不可欠です。エコシステム構築の課題をMobiSaviと共に考え、エコシステムに足りないピースをSMBCグループのネットワークでつなぎ、新たな産業を『共に創り上げる』という想いで取り組んでいます」

MobiSaviが持つ技術への
理解の醸成と、
SMBCグループとしての
投資意義の構築

今回の出資を実現するには、主に二つの課題があった。一つは、MobiSaviが持つ技術の優位性について行内理解を醸成することだった。EV電池のCEは専門性が高い黎明期の市場であり、その重要性の共有が不可欠だった。

行内での説明に説得力を持たせるため、三澤はまず専門知識の習得に努めた。当初は「アンペア」という電流の単位も分からない状態から、バッテリー技術の根幹である物理化学や電気化学を基礎から学習。さらに、福岡県での実証実験などにも参加し、現場の課題やニーズの解像度を高めることで、技術の重要性を論理的に説明する土台を築いていった。

こうした専門性を追求する姿勢は、MobiSaviからも高く評価されている。左向氏は「三澤さんをはじめSMBCグループの皆さんは驚くほど自動車業界への知見が深く、課題を的確に捉えていました。その専門性の高さに、パートナーとして大きな信頼を寄せています」と印象を語る。

もう一つの課題は、技術の優位性に加え、SMBCグループとしての投資の妥当性を明確にすることだった。この取組を推進した東は、社会的価値創造投資枠の活用にあたっての要点を次のように説明する。

「単にMobiSaviの技術が優れているというだけでなく、SMBCグループが目指すCEの方向性と合致し、グループ全体の事業開発に寄与するかどうかが採択の要件でした」

グループ全体の事業開発の一環として出資を位置づけるため、東はまず、グループ各社のEV関連事業の動向を調査。そのうえで、MobiSaviの技術をバリューチェーンに落とし込み、電池の性能が可視化された先に、SMBCグループが既に取り組んでいるリユース電池事業などとの連携可能性を見出した。また、EV電池市場が黎明期で十分な予測データがないなか、東は「データがないからこそ先行して取り組む意義」や「経済安全保障への貢献」といった社会的価値も前面に押し出すことで、投資の妥当性を訴求した。

現場の知見に基づく技術的な説得力と、グループ全体の事業開発を見据えた戦略の妥当性。この二つが組み合わさることで、MobiSaviへの出資は実現に至った。

社会課題解決と
経済合理性を両立させる
「仕組みのデザイン」で、
CEを持続可能なビジネスへ

この出資は、MobiSaviにとって大きな転機となった。左向氏は、その変化を次のように振り返る。

「正直、当時は起業への覚悟も曖昧でした。しかし、SMBCグループの方々の深い事業理解と伴走支援が精神的な支えとなり、事業を推進する覚悟が定まりました。事業面でも、対話を通じて『デバイスレス』という技術の価値に気づき、訴求点が明確になったほか、提携発表が『EVバッテリーといえばMobiSavi』と認知される大きな弾みにもなりました」

出資公表後は、行内外から多数の問い合わせが寄せられ、SMBCグループのお客さまとMobiSaviとのビジネスマッチングも複数実現するなど、新たな連携が生まれ始めている。MobiSaviは、SMBCグループとの連携を軸にさらなる成長を目指す。左向氏は、自社の将来像を次のように描く。

「人口減少社会では大量生産・大量消費は成り立たず、『今あるものを使い尽くす』CEの思想が不可欠です。そして、その本質は『独占』ではなく、業界全体で『共創』することにあります。私たちは、EVの価値を可視化する『基盤技術』を、まさにそのための社会インフラと位置づけています。だからこそ、私たちは特定の誰かと競合するのではなく、あらゆるプレイヤーと『協調』する触媒のような存在として、EVの普及や市場の成長を支えていきたいと考えています」

SMBCグループは、事業パートナーとしてこのビジョンを支え、産官学を巻き込みながらエコシステムを構築することで、EV・EV電池のCEを日本の新たな基幹産業へと昇華させることを目指す。さらに、今回のEV市場への早期参入を足がかりとして、CEの取組を他分野へ拡大していく。

取組を振り返り、三澤は、社会課題解決を経済合理性と両立させる「持続可能なビジネスデザイン」の重要性を強調した。

「私が考える『持続可能』な状態とは、誰も無理せず、活動が自律的に行われる仕組みが成立していることです。規制や補助金に依存せず、企業がビジネスとして自然に参入できる市場を創り出すことが重要となります。今回のEV電池のCEの取組のように、価値を可視化し取引を促す仕組みをデザインすれば、新たな事業機会が生まれるとともに、社会課題の解決にもつながります。こうしたデザインこそ、社会課題を継続的に解決する鍵だと考えています」

プロフィール

左向 貴代 氏

(株)MobiSavi
代表取締役社長

三澤 直也

(株)三井住友銀行
コーポレート・アドバイザリー本部

東 なな

(株)三井住友銀行
社会的価値創造企画部 
サステナビリティ・アドバイザリー室