※内容は、取材当時のものです。

秋田県大潟村でタマネギ
の産地形成に挑む
「みら
い共創ファーム秋田」

~ゼロから挑んだ10年の知見で新
規就農を支援し、
日本農業の再生
を構想~

  • 畑澤 雅之 氏
    (株)秋田銀行 畑澤 雅之 氏
  • 菊池 進
    (株)みらい共創ファーム秋田
    ((株)三井住友銀行)
    菊池 進
  • 新地 琢也
    三井住友ファイナンス&リース(株) 新地 琢也

日本の再成長

環境

パートナーシップ

日本の農業は、担い手不足という構造的課題に直面している。農林水産省の統計では、基幹的農業従事者は2000年の240万人から2024年には111万4千人へと半減し、平均年齢は69.2歳に達した。この状況は、国内の食料生産基盤の維持や、食料安全保障の観点からも大きな懸念材料となっている。農業を持続可能な産業として次世代に継承するには、若年層が魅力を感じる、効率的で収益性の高い営農モデルの構築が不可欠だ。

こうした状況に強い危機感を持ち、農業を有望なビジネスにしようと取り組む株式会社大潟村あきたこまち生産者協会の涌井 徹氏と三井住友銀行(以下、SMBC)の担当者の出会いを契機にプロジェクトが始動。2016年、同社やSMBC、三井住友ファイナンス&リース(以下、SMFL)、株式会社秋田銀行などが共同で、邦銀として初となる農地所有適格法人「株式会社みらい共創ファーム秋田(以下、MKFA)」を設立した。SMBCからの出向メンバーが中心となり、秋田県大潟村で日本農業の課題解決の糸口を探る実践に取り組んでいる。

秋田県大潟村でタマネギ
生産と産地形成に挑戦、
生産の現場で培った視点

MKFAは設立当初、米どころである秋田県大潟村の特性を活かし、米の生産から事業を開始した。しかし、当時は市場が米余りの状況にあり、持続的な収益確保には新たな活路を見出す必要があった。そこで着目したのが、主要野菜として通年で需要があるにもかかわらず、夏場の供給を輸入に頼るタマネギだ。東北地域は気象条件上、夏場にタマネギが収穫できることから、日本の食料安全保障にもつながるとして、高収益作物であるタマネギ生産へと事業の領域を広げ、東北を新たな産地として形成することを目指した。

地域で前例のない挑戦は、生産ノウハウから販路まですべてがゼロからのスタートであったが、MKFAは一つひとつ課題を解決していった。例えば、約1年というタマネギの生産期間における天候や病害のリスクに対し、東北農業研究センターの指導のもと植え付け時期を最適化。収穫後は梅雨時の湿気による腐敗を防ぐため乾燥工程をマニュアル化し、さらに販売面では株主の支援を受けながら販路を開拓した。こうした地道な取組を積み重ね、 MKFAは、村全体のタマネギ生産面積の約半分を占める規模まで拡大。大潟村のタマネギ生産を牽引する存在となっていった。一連の事業構築のプロセスのなかで、多くの気づきがあった。SMBCから出向し、事業運営全般を担うMKFAの 菊池 進は、次のように語る。

「実際に農業に携わることで、生産現場や生産者こそが最も重要であるという考えに至りました。銀行業務のなかでは実感しづらかったことですが、実際に汗を流す人々がいて初めて経済が成り立つということを、日々痛感しています。そして、農業は単に食料を生産するだけでなく、国土の保全など、社会インフラに近い多面的な機能を持っています。経済的な効率性だけを追求するのではなく、その本質的な価値を社会全体で支えていく必要があると強く感じています」

現場でのスマート農業の
実践で見えてきた課題を、
業界の多様な
プレイヤーに連携

MKFAは作業の省力化と効率化を目指し、「スマート農業」の実証にも着手。2021年には農林水産省の「スマート農業加速化実証プロジェクト」に採択されるなど、新たな農業の形を探求してきたが、その実践のなかで課題も明らかになった。菊池は次のように説明する。

「自動走行が可能なロボットトラクターを例に挙げると、その性能を最大限に引き出すには、作業速度やどの程度の深さまで耕すかといった農業技術に関する細かな設定を、タブレット上で行う必要があります。しかし、経験豊富なベテランはIT機器の操作に不慣れな方が多く、逆にITに慣れた若手は農業の知見が十分でない。結果として、十分に活用しきれていない現状もあります」

こうした現場の課題感を受け、SMFL営業推進部の新地 琢也は、農機メーカーや開発ベンチャーなど、業界の多様なプレイヤーにその声を共有。どうすればより使いやすいものになるか、改善に向けた対話を始めている。

失敗の知見を、社会の
共有財産に。
農業支援のあり方を見つめ
直し、
新規参入を後押し

近年は、タマネギの連作によって土壌に病原菌が蓄積する「連作障害」が深刻化し、収穫量が前年の3分の1以下にまで激減する事態に見舞われた。これに対しMKFAは隣接する未利用地40ヘクタールを追加で開墾。合計60ヘクタールを超える農地を確保し、異なる作物を数年ごとに一定の順序で循環させて栽培することで土壌への負荷を軽減する「輪作」体系の構築に乗り出している。

MKFAの当面の目標は、この輪作体系を構築し、安定的で収益性の高い営農モデルを確立することだ。しかし、この取組の価値は、一法人の成功にとどまらない。約10年の試行錯誤で得られたリアルな知見、なかでも失敗の記録は社会の共有財産となる。

出資各社はこの経験を、農業分野への支援強化に活かす方針だ。新たに農業参入を目指す企業に対し、金融機関としての資金供給にとどまらず、現場で培った知見を提供することで産業構造の変革を後押ししていく。株式会社秋田銀行 営業支援部 法人支援グループ チーフの畑澤 雅之氏は、MKFAが持つ独自の価値と、地域金融機関としての新たな役割を次のように語る。

「MKFAは多様な人材が集まる組織だからこそ、地域の発想だけでは生まれにくい解決策を見出せます。私たちはその動きを県内の事業者さまとつなぐとともに、この経験を未来の農業者たちにも還元したい。新規就農を希望される方が一度の失敗で断念することのないよう、今後は金融面にとどまらない多角的な支援を検討していきたいと考えています」

この視点は、SMFLも共有している。新地は、MKFAでの学びを礎に、より高度な支援モデルの構築を目指す。

「農業経営の難しさと収益性の厳しさを、この10年の取組を通じて深く学びました。この実践的な知見があるからこそ、今後農業参入を検討される事業者さまに対し、生産計画にとどまらない、サプライチェーン全体を見据えた事業の構築を支援できます。こうした取組を通じて、農業への新規参入を促し、産業全体を活性化させていきたいと考えています」

そして、この活動の根底には、日本の農業を持続可能なものにしたいという各社の強い想いがある。それは、誰か一人が利益を得るのではなく、関わるすべての人々、そして社会全体にとって良い状態を目指すという哲学だ。新地は、このプロジェクトが目指す未来を、近江商人の経営哲学である「三方良し」という言葉に重ね合わせた。

「この取組は、生産者、そして私たち消費者、ひいては社会全体が共に豊かになる『三方良し』の考え方そのものだと考えています。食の安定供給が実現し、誰もが安心して暮らせる社会が続くこと。それが、社会全体の持続可能性につながるものだと考えています」

プロフィール

畑澤 雅之 氏

(株)秋田銀行
営業支援部 法人支援グループ

菊池 進

(株)みらい共創ファーム秋田
((株)三井住友銀行 社会的価値創造推進部)

新地 琢也

三井住友ファイナンス&リース(株)
営業推進部