日常業務の中にある「社会的価値」に気づき、「仕事を通じて社会を変えられる」実感を深める。そして、未来に向けた行動を一歩踏み出すことを目的に、2025年12月14日に開催されたSMBCグループの社内イベント「SMBC Group Day 2025 ~私たちの仕事で社会的価値を創る~」。
プログラムの一環として、社会課題を起点にビジネスを推進する第一線の経営者やクリエイター、SMBCグループの実践者を招き、意見を交わし合う「社会的価値創造(シャカカチ)トーク」セッションも設けられた。
全部で5回あったトークセッションのうち、今回のテーマは、「“ワクワク”が未来を動かす─社会的価値と企業成長をつなぐ新しいルール」。NOT A HOTEL株式会社(以下、NOT A HOTEL)代表取締役CEO 濵渦 伸次氏 をお招きし、フリーアナウンサー 實石 あづさ氏の進行の下、三井住友フィナンシャルグループ 執行役員グループCSuO 髙梨 雅之を交えて語った。
ビジネスと社会課題解決が
結びつく時代へ。
社会的価値創造による
企業価値の向上
「世界を救う」というビジョンと事業活動が一貫している企業が、極めて高い企業時価総額を示すようになった昨今、ビジネスと社会貢献が密接に結びつく時代になってきていると濱渦氏は語る。
髙梨はSMBCグループの社会的価値と企業価値の関連について、そのベネフィットを投資家に2つの軸で伝えているという。1つは、社会的価値の創造に資するような商品やサービスを提供することで得られる直接的な収益、そしてもう1つは、投資家やお客さま、従業員、学生といったステークホルダーからの見え方の変化だ。
「社会的価値の創造を通じて、類似サービスを展開する他の金融機関との差別化がしやすくなり、お客さまとのリレーション強化や優秀な学生の採用・リテンションへの良い影響が期待できます。投資家の方々に将来の期待成長率の高さを見せることによって、結果、中長期で企業価値が向上する。そういった好循環の創出に繋がるという考えです」
後者の社会的価値と採用・リテンションとの関連性について、特に強い同意を示す濱渦氏。社会的価値を見いだせない会社には、Z世代を始めとする新しい世代が魅力を感じないため、優秀な人材も集まりにくくなり、事業成長も滞りやすくなると、見解を述べた。
さらに、SNSの普及がこの状況を後押ししている。SNSを通じて「この会社が何をしたいのか」が伝わるようになり、従来なら広告や決算書しか判断材料がなかった部分でも、学生がよりダイレクトに情報を集め、本質を見極められるようになったと髙梨は語る。
加えて濱渦氏は、気候変動等の年々深刻化する社会課題が若い世代には切実な問題となっている点にも言及した。結果として「収益を上げるのも大事だけれど、他にも大事なことがあるのではないか」という考えを持つ人が増えている印象だと、自身の所感を述べた。
「我慢しないサステナビリティ」で、
事業の継続と社会課題の解決を両立
社会的価値の向上に向けた取組には、中長期視点が欠かせないことは明らかだ。では、持続的な社会的価値創造を実現するために、具体的にどのような要素が求められるのか。濱渦氏は世界的な建築家 ビャルケ・インゲルスが提唱する「ヘドニスティック・サステナビリティ(快楽主義的持続可能性)」の概念に言及した。
ビャルケは、我慢や制約がつきものとされてきたサステナビリティを「人々の生活の質を高める機会」として捉え直し、楽しさやデザインと環境配慮の両立を訴えた。この思想に、濱渦氏は強く共感しており、実際に広島県三原市 佐木島の開発プロジェクトでは彼に設計を依頼したという。結果、同プロジェクトでは独自開発の「瓦型太陽光パネル」導入により、日本家屋の景観を損ねないインフラ周りを実現できたと、具体事例を語った。
「無理があるサステナビリティは、やはり長続きしません。会社としてインパクトのあるところに投資をし、事業を継続させながら、企業活動の一環として、地域が潤い、環境改善に繋がる取組をしていくのが大切だと思います」
残念ながら、社会的価値創造を目的としたプロジェクトの中には、途中でコストが見合わなくなり、頓挫するケースもある。そういった事例に対し濱渦氏は、工夫が足りない部分はあるとした上で、大規模開発がより困難になってきている社会的な背景についても指摘した。
実情として、業界全体で施工可能な職人が不足しており、建てた後の維持も難しくなってきている。だからこそ、日本に眠っている魅力的な場所を掘り起こし、小規模な開発を分散して行っていくやり方の方が、ユーザーニーズにも合うし、オーバーツーリズムの問題解決にも繋がってサステナブルだと、濱渦氏は語る。
大手が参入しない立地で、
地元民の情熱がある
「宝物」の地域を見出す
濱渦氏は、NOT A HOTELの立地選びの基準として、大手ホテルが絶対に出さないような場所で、かつ地域の人達がどれだけ土地の魅力を信じているか。その情熱の量を重視しているという。実際、佐木島の事例では、濱渦氏の自宅まで足を運んだ市長から土地の魅力をプレゼンされたことがきっかけになったそうだ。
一般的に、ホテル建設は地元の環境を損ねることが多く、地域からの反対運動が起こりやすいと言われている。しかし、NOT A HOTELの場合は、地域からの反対を受けたことが一度もないという。むしろ自治体の方から「本当にここで大丈夫か」と心配されるほどだと話す濱渦氏の表情はにこやかだ。
NOT A HOTELが地域に生み出す経済効果は、極めて大きい。富裕層やインバウンドの観光客が6人訪れるだけで、地域住民1人分の年間消費額に匹敵するだけのインパクトが生まれるからだ。
「600人の島に年間数千人が宿泊すれば、島民が2倍3倍に増えたのと同等の経済効果が生まれます。NOT A HOTEL以外では決して出店しないだろう場所で、それだけの経済効果を生み出すこと。それが、私たちの事業価値だと思うのです」
地域を置き去りにしない開発で
「地元の人が誇りに思えるもの」を
作る
とはいえ、それまで栄えていなかった土地に富裕層の方が来ることで、地域内に格差のようなものが生まれるのではないかといった懸念も生じてくる。これに対し、濱渦氏は佐木島のプロジェクトでの事例をもとに、自身の考えを述べた。
佐木島の住民からは当初「自分たちはNOT A HOTELを使わないし、置いてきぼりになるのではないか」という声もあったという。とはいえ、仮に別のホテルが島に出来たとしても、自分たちの家がある以上、島民の方々が利用する機会がほぼない点は変わらない。それであれば、島にお金を落とすNOT A HOTELの方がよいのではないか。濱渦氏はそう伝えたのだという。
「地元の人が誇りに思えるようなものを作る」ことで、地元の人たちを置きざりにしない。そして、NOT A HOTELが出来たことで、地元をもっと好きになってもらえる。そんな役割を担っていきたいと語る濱渦氏。
日本では「我慢が美徳」という考え方が根強いことから、持続的なサステナビリティに対して懐疑的な意見も少なくない。「ヘドニスティック・サステナビリティ」の概念は、日本企業と合うものなのか。 の17 ゴールと169 ターゲットの達成を通じて、持続可能な社会を実現する』ことと明言したのです」
濱渦氏は、続かないサステナビリティには意味がなく「我慢しないサステナビリティ」を持続させていくほうが望ましいのではないかと、自らの意見を述べた。自分たちが本来やりたいことを我慢せず、課題解決していく方法がイノベーションであり、革新的な技術なりデザインなり、やりようはあるというのが濱渦氏の考えだ。
「子どもたちの世代のことを考えると、科学的根拠や数値に基づいた我慢が必要になる部分もあるでしょう。そこは否定しません。ただ、我慢という美徳が強すぎるあまり、結果的に日本経済が低迷し、価値が下がってしまったので、経済的な価値と社会的価値の創造をきちんと両立させていくことが大事だと思います」
観光業を通じて地域課題解決に挑む
濱渦氏は、NOT A 2025年にミッションを刷新し、現在は「日本の価値を上げる」という使命のもと、総額2,000億円にのぼる開発計画を進めているNOT A HOTEL。しかし「当初は『楽しいことをしたい』という思いだけで、特に社会的価値への意識はなかった」と濱渦氏は語る。濱渦氏がNOT A HOTELの事業に社会貢献を見出したきっかけは、最初の拠点である青島のプロジェクトがもたらした波及効果を目の当たりにしたからだった。
「青島は元々、マイナス成長が続いていた土地でした。建物も古びたものばかり。そこに開発の手を入れたことで、青島のホテルが竣工した2022年から、地価上昇は2025年の今に至るまで、県内でも最大の伸び率で続いてます。たった6室しかないホテルで、地元の地価を高めることができた。『これが自分たちにできる社会貢献だ』と思ったのです」
一昔前と比べると、スタートアップがチャレンジしやすい環境は確実に整ってきており、金融機関がスタートアップと同じ目線で話をしてくれるようになったと、濱渦氏は笑顔で語る。
地域課題の解決に向けて、観光業を盛り上げていくためには資金が必要だ。SMBCグループの社会的価値創造に対し、濱渦氏はNOT A HOTEL青島のプロジェクトを振り返りながら、期待感を込めて次のように語った。
「金融機関の多くが、バブル崩壊時のトラウマから、観光やリゾート事業への融資に消極的な傾向があるように思います。ですが、地域を活性化させていくためには観光業の力が必要だということは、地元の方々ほど実感しているのです。青島のプロジェクトの際も、三井住友銀行の方々には力を尽くしていただきました。地方に観光拠点をさらに増やしていけるよう、後に続く方々の挑戦もぜひ応援してもらえたらありがたいです」
「SMBC Group Day 2025」にて行われたその他の「社会的価値創造(シャカカチ)トーク」セッションについては、別レポートにまとめています。合わせて、ご参照下さい。