特集:SMBCグループの将来の成長を牽引する主要施策

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新たな価値を提供する
「Jenius Bank」で、
米国事業の成長を目指す

2023年に米国でスタートしたデジタルリテールバンキング事業「Jenius Bank」。
立ち上げまでの経緯と、現在の取組、今後の展望について、
Jenius Bank PresidentのJohn Rosenfeldと米州戦略統括部 副部長の田中大輔が対談を行いました。

Jenius Bank President John Rosenfeld × 米州戦略統括部 副部長 田中大輔

田中  私が2018年に米州戦略統括部に着任した当初から、駐在員同士で米国での今後の成長機会について議論していました。その中で、将来を見据えた成長のためには、これまで事業を展開していなかった新規領域を開拓し、さらに米ドルの資金調達基盤を多様化することが必要だという結論に至り、デジタルリテールバンクに目を付けたのです。

 また、当時、米国地銀に対する出資機会も検討していましたが、一方でデジタル化により、銀行の支店の重要性が低下しているという課題も顕在化していました。そうした課題を踏まえ、実店舗を持たないデジタルリテールバンクの構想が生まれ、本プロジェクトがスタートしました。

 SMBCグループ傘下のマニュファクチャラーズ銀行の一部門として事業参入することにより、既存のライセンスを活かして短期間でビジネスを展開することができました。さらに、米国地銀大手のデジタルバンクを率いた経験のあるJohnを迎え、一緒にプロジェクトを進められたことはとても心強かったです。

John  ありがとうございます。私は米国の金融サービス業界で20年以上の業務経験がありましたが、田中さんに最初にプロジェクトへの参加を打診された時、実は三井住友銀行のことをあまりよく知りませんでした。ただ、米国での存在感を十分に発揮できていない現状だからこそ、競争力を生む可能性があると思い、参加を決めました。田中さんとビジネスをゼロから立ち上げ、最先端テクノロジーを活用し、SMBCグループを成長させる方法について議論を重ねました。

 米国の多くの銀行は、システムや設備の老朽化、膨大な手作業、高コストの支店やATMネットワークを抱えており、新しいデジタル技術を導入する上で、大きな障害となっています。また、物理的なインフラの高いコストを相殺するために、分かりにくい手数料収入に大きく依存している銀行も多い状況です。さらに、コロナ禍により、世界のあらゆる分野においてデジタルサービスの導入が加速し、銀行取引においても支店に行く必要のないデジタルサービスの利用が増えたことも、デジタルバンクを立ち上げる追い風になりました。「Jenius Bank」のビジネスモデルには、従来の銀行のような高いコストが含まれていないため、その分をより有利な商品設計や手数料をいただかないとすることでお客さまに還元し、マージンを確保しながら競争力のあるサービスを提供していきます

田中  「Jenius Bank」は、デジタルバンクである利点を活かして米国各地から人材を採用しており、約270名の従業員が業務の大半をオンライン上で行う形態を取っています。多くの企業が従業員のオフィス回帰を推進する中で、私たちはリモートワークの環境を提供しています。国籍もバックグラウンドも異なる従業員が数多く在籍する中で、効率的に業務を進めるためにはさまざまな工夫が必要でした。Johnもプロジェクトの責任者として、従業員の意見をどのように取り入れていくかを常に考え、実践してくれました。

John  実際にプロジェクトを進めていくと、遠隔地に住む従業員同士の合意形成をどのように進めていくかが最初の課題となりました。そこで、「The Jenius Way」という指針を作成し、従業員同士の意見交換や合意形成に関するルールを定めたところ、社内の意思決定も円滑に進むようになりました。従業員それぞれのダイバーシティを活かすことで、より多くのアイデアから最善の解決策を生み出すことができるようになったと自負しています。

 従業員同士の打ち合わせはWeb会議ツール等を活用して実施していますが、実際に顔を合わせて対話することも大切にしています。私を含めマネジメント層は、月に1回、「Jenius Bank」の拠点等、米国各地で集まっているほか、戦略的な方向性を確認し、取組を強化するために、1年に2回、約100名のリーダーが集まる会議を開催しています。

田中  従業員の中には、SMBCグループというバックグラウンドに魅力を感じて入社した人も多くいます。SMBCグループという安定した資本の上で、先進的なデジタルリテールバンキング事業にチャレンジできる環境を非常に魅力的に捉えてくれているようです。SMBCグループの歴史の長さや長期的かつ持続可能な成長に注力する姿勢は、短期的な成長に重きを置く他の米国企業とは一線を画しています。JohnはSMBCグループの企業文化について、どのように感じていますか。

John  SMBCグループの「Five Values」は、とても私の心に響きました。特に、「Customer First」「Proactive & Innovative」は、チームをまとめる大きな土台となっています。まずサービスを作り、それをお客さまに使っていただき、フィードバックを得て、さらにサービスを向上させていくアプローチはまさしく、この価値観を体現しているといえるでしょう。

 私は、もともと他国の人々と交流し、異文化を体験することが好きです。日本のビジネス文化に関する書籍を読みましたが、従業員の忠誠心、労働倫理、コンセンサスを得るために協力し合う精神、規律に基づくリスクマネジメントへの取組は、とても興味深いものです。また、日本企業は長期的な視点で、戦略的に持続可能性を重視した取組を行っていると思います。

田中  「お客さま」というキーワードが出てきましたが、「Jenius Bank」では、デジタルに普段から触れている方々を主な顧客ターゲットとして想定しています。

 私たちのビジョンは、お客さまのあらゆるライフステージに合わせた対応ができるプラットフォームになることです。将来的に、結婚や出産、子どもの進学、家や車の購入といった変化に合わせて、住宅ローン、自動車ローン、学生ローン等の商品を提供し、さらにライフステージが進むと、新たに資産運用等のニーズも出てくるので、そこに見合った商品ラインアップの充実を図っていきたいと思っています。こうした「お客さまの声」を重視し、事前の顧客調査に多くの時間を費やしました。

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John  そうした調査で、「金融分野での判断にもっと自信を持ちたい」というお客さまからの声が多く寄せられました。その原因を分析すると、金融に関する知識や理解不足が関係していることが分かりました。米国には4,500以上の銀行が存在しており、米国個人は平均して約5.3の金融機関の口座を持っています。金融商品・サービスへのニーズが高いことを示していますが、同時に複数銀行との取引を管理するのは煩雑で、資産状況を明確に把握することが難しくなっています。

田中  個人のお客さまに長く使っていただける銀行になることが大切ですから、主な接点になるモバイルアプリの開発についても注力しており、お客さまが複数の銀行にあるすべての口座をまとめて確認できる機能を開発中です。豊富なデータを活用してお客さまの支出を分析し、高金利のローンの借り換えや計画的な貯蓄をお手伝いします。こうしたサービスが、お客さまがより豊かな生活を送れるように支援するという「Jenius Bank」の理念につながっていきます。

John  データやAI活用の将来性は誰もが認めるところですが、お客さまと実際に対話でやりとりを行う体制整備も重要だと考えています。デジタルバンクの中には、Webサイトに電話番号を掲載せず、お客さまをチャットボット等に誘導する企業もあります。しかし、私たちはお客さまの不安や疑問を解決するための窓口として、24時間365日、電話で応対できる体制を整えており、他のデジタルバンクとの差別化を図っています。

田中  「Jenius Bank」は、設立当初よりSMBCグループからの支援を受けることができました。これにより、短期間で事業基盤を確立し、複数の商品の立ち上げを実現させようとしています。大企業だからこそ可能なスタートアップの形であるといえるでしょう。この金融業界が激動する環境下においても、SMBCグループのサポートがあることは、お客さまに安心感をもたらしていると思います。

John  私から「Jenius Bank」の強みを挙げるとするなら、世界で最も先進的な銀行基幹システムを採用している点です。従来のシステムは、一度プログラムが完成した後に変更を加えたり、新しいサービスを導入したりすることは技術的に困難でした。しかし、本事業が採用している新しいプラットフォームでは、お客さまのニーズに合わせてシステムを柔軟に再構築し、既存商品の見直しや新商品の投入を競合他社よりも迅速かつ効率的に実施できるのです。

 一般的に、従来の銀行基幹システムはサイロ化していることから、変更やアップデートが非常に難しく、コストもかかります。一方で、「Jenius Bank」の最先端のシステムでは、お客さまのニーズが変化し続ける中で、サービスを改良していくことが可能です。

田中  米国のマーケットは巨大で、伝統的な支店を持つ銀行の預金だけでなく、デジタルバンクの預金についても日本よりはるかに成長しています。米国の消費者はこれまで以上にデジタルサービスを受け入れるようになりました。また、低コストのビジネスモデルのおかげで、新しい機能や競争力のある金利を提供できるようになりました。ただし、市場環境が流動的な中で大手銀行と競合してシェアを獲得することに重きを置くのではなく、まずターゲットとする顧客層に集中し、ニッチな市場を開拓していきます。

 多様な商品・サービスを提供することで、お客さまのあらゆるニーズを捉えて、一人ひとりに最適化した、一歩踏み込んだサービスをスピーディーに事業展開していきます。

John  おっしゃる通り、中長期的な視点に立ち、戦略を貫くことが重要ですね。具体的なサービス面においては、個人向けローンから始め、貯蓄性・決済性預金、デビットカード、ATMへのアクセス等のサービスを加え、さらに充実させていきます。また、クレジットカード、自動車ローン、ホームエクイティローン、学生ローンへと商品をさらに拡大していきたいと考えています。

田中  「Jenius Bank」は、単に米国における成長戦略にとどまらず、SMBCグループのグローバル戦略を推進する重要なプロジェクトです。本事業で得られた知見をグループの他事業部門とも共有することで、SMBCグループ全体の価値向上につなげていきます。