
ストーリー


2025.03.24
こどもたちの創造力や好奇心
が交差する空間づくりとは?
アトリエ・バンライ-ITABASHI-
に込めた思い。
三井住友銀行の板橋中台出張所跡地に、2025年4月にオープンするこどもたちのための施設「アトリエ・バンライ-ITABASHI-」。第2回目となる対談では、施設の空間づくりに携わった三井住友銀行の河村と吉沢、イトーキの山﨑さん、図書館流通センターの松田さん、電通の熊谷さんの5人が登場。設計や内装、図書スペースのこだわりについて語り合いました。
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株式会社三井住友
フィナンシャルグループ河村 優里 氏
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株式会社三井住友銀行
吉沢 聡美 氏
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株式会社イトーキ
山﨑 揚子 氏
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株式会社図書館流通センター
松田 広太 氏
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株式会社電通
熊谷 由紀 氏
教育や体験の場を提供し、
こどもたちの未来の選択肢を広げたい。
“カードゲーム”から始まった
空間づくり
河村 「アトリエ・バンライ-ITABASHI-」のプロジェクトは、弊社が所有する遊休施設の活用方法を検討する管理部と私たち社会的価値創造推進部のこどもの体験格差を解消する施設を作りたいという想いが合致して、2024年6月頃始まりました。空間づくりが動き出したのは、同年の8月ごろでしたね。プロジェクト・アドバイザリーの放課後NPOアフタースクールさんのご提案のもと、設計・内装を担当いただくイトーキさんと一緒に、私たちがどんな空間を目指すのか、ゴールの認識を擦り合わせるための“カードゲーム”をしました。それぞれが思い描く理想や本質を深く分かり合えた、新鮮な体験でした。
山﨑 あれが空間づくりの原点でしたね。カードゲームは、チームでのアイデア出しやブレストに使われる手法の一つ。単語が書かれたたくさんのカードの束から各自が順番に1枚ずつ取って、「アトリエ・バンライ-ITABASHI-」で大事にしたい要素を5枚まで取捨選択し、最後にテーマを言葉にするんです。例えば、個性、多様性、心地よさ、寛容、安心の5枚を選んだ人なら「どんな感情、どんな個性も受け入れる」といったように。全員分のテーマを言語化して並べることで、みんなで目指すゴールが俯瞰できます。同じ構想について話していても、実は各自が違うイメージを持っていることに気づいたりと発見も多く、私の中で空間のイメージがどんどん膨らんでいきました。
河村 こどもたちが育つ環境の変化で地域とのつながりが希薄化するなか、多様な体験機会の場を設けたい。興味の対象や好きなことを見つけ、自分で未来を選び取ってほしい——。そんな構想から、このプロジェクトはスタートしています。構想を具現化する前段階として、ゲームを使ったブレストや、こども向けの教育施設の見学などを通して方向性を明確に共有できたことが、理想的な空間づくりにつながったとあらためて感じています。

管理部の吉沢(中)と、
内装、レイアウト設計を担当したイトーキの山﨑さん(右)。
初めてのこども向けの空間づくりは、
難しくも面白いプロセスだったと振り返る
あらゆるこどもに開かれた、
クリエイティブで楽しい空間。
“元銀行の建物”を
活かした空間づくりのアイデア
吉沢 こども向けの施設をつくるにあたっての最初の課題は「安全性」、そして古い建物を活かしながらいかにこどもが楽しめるようなポップな空間にしていくかという点でした。その点、もともとSMBCの施設の什器を担っていただいていたイトーキさんはこども向け施設の実績も多く、ぜひ知見をお借りしたいと考えたんです。イトーキさんとともに建物のあらゆる場所の危険性を検証し、アドバイスをいただきながらイメージをつくっていきました。
山﨑 初めてこの場所を訪れたとき、公園や団地が隣接し、近隣の大人やこどもたちが行き交う賑やかな印象を受けました。広場に面する窓面や開放的な吹き抜けなど、元銀行ならではの意匠を活かすことで、「おもしろそう!」と、みんなの興味を引くような場がつくれるのではと、ワクワクしましたね。実際の設計においては、高い吹き抜けに立ち上がるように書棚を積み上げたり、旧金庫室は特徴的な扉をあえて残して事務室に活用しました。また元食堂と厨房の設計や設備を活かして食のスペースにリノベーションするなど、こどもたちが建物の記憶を見て、体感できるような空間を目指しました。書棚は夜間にライトアップされ、ガラス扉越しに住民の皆さんを見守るような設計もこだわりの一つです。
熊谷 私は元銀行ならではの重厚な建築と内装、そしてユニークな階段状の外観がとても印象に残りました。「アトリエ・バンライ-ITABASHI-」のロゴと、外装・内装に使用するツール類のデザインを担当させていただきましたが、ロゴには階段状のフォルムを取り入れ、カラフルで明るい色彩を意識しながら、“体験の財産が貯まっていく”という施設の魅力が一目で分かるようなデザインを意識しました。こどもたちが楽しみながら、自分でやりたいことを見つけられる場所になってほしい、そんな思いを込めています。
山﨑 本当に可愛いロゴですよね。初めて見たとき、書棚や壁面のグラフィックのほか、吹き抜けの天井から吊るすモビールなど、いろいろな場所へ散りばめたらどうかとさまざまなアイデアが浮かびました。こどもたちがロゴの世界に飛び込んで、興味や想像の世界に浸れるような楽しい空間になったのではと思います。

用いた施設の装飾用モビールのデザイン
こどもたちの想像力と
好奇心を引き出す
セレンディピティに満ちた
図書スペース
河村 「アトリエ・バンライ-ITABASHI-」の核となるのが、約4000冊の本に囲まれた空間です。構想の源になったのは、SMBCの大阪本店近くにある「こども本の森 中之島」。こどもたちと本との出会いを目的にさまざまな工夫が凝らされた文化施設で、指定管理者として運営を担当されていたのが図書館流通センターさんでした。偶然にも当社のお客様だったこともあり、ぜひ本のディレクションをとお願いしました。
松田 お話をいただいたとき、「こどもたちの知的好奇心を刺激し、体験や思い出を資産として提供する」というコンセプトに、強く共感しました。一番の課題は、いかに本と体験をセットにするか。まずはこどもたちの興味を引き、本を手に取ってもらう必要がありました。そこで工夫したのが、従来のジャンル分けではないテーマでの分類や、本の表紙をできるだけ見せた陳列です。昨今はインターネットが浸透するなかで図書館のありかたも多様化し、“既存の並べ方では出会えない本といかに出会うか”、またその場所でしかできない“体験”の大切さを重視するなど、従来とは違ったアプローチをする施設も出てきています。「アトリエ・バンライ-ITABASHI-」では、例えばサッカーについて知りたいとき、ルール本や専門書だけでなく、サッカーの小説にも出会えます。検索で見つける“正解”だけでなく、偶然の出会いから広がる世界を、ぜひ体験してほしいなと思っています。
熊谷 ものづくりの仕事に携わるなかで、松田さんのおっしゃるセレンディピティ(偶然の出会い)はとても大事な要素だと感じます。アイデアは知っているものと知らないもの、かけ離れた要素を掛け合わせて生まれるもので、創造性の源泉と言えます。また私が6つのテーマ(「じぶんにについて」「これからのこと」「フィーリング!」「まなぶ・きわめる」「くつろぐ」)のなかでもいいなと思ったのが「くつろぐ」。“本=敷居が高いもの”と感じるこどもも多いと思うので、“リラックスして楽しむ”という関わり方が新しくて素敵だなと思います。
松田 ありがとうございます。「アトリエ・バンライ-ITABASHI-」に置いてあるのは、大人が読んでほしい本よりも「こどもが読みたい本」。こどもにとって読書はある意味“背伸び”の行為なので、年齢を少し上に設定し、従来の図書館にはないような本も置いています。あくまで本は脇役で、こどもたちの日常と好奇心に寄り添う存在でありたいなと考えています。

図書館流通センターの松田さん(左)と
電通の熊谷さん(右)。
時代の変化のなかで
図書館のあり方も変わり、
みんなが集まりくつろげる“体験の場”としての
役割が広がっていると松田さん
こどもたちの未来につながる
創造の拠点。
「アトリエ・バンライ-ITABASHI-」という
新しい居場所
山﨑 設計においてはSMBCさんと相談し、家具を可動式にしたり、ステージに使えるような段差など、こどもたちの好奇心や創造性が引き出せるよう、可変性を持たせた空間づくりにもこだわりました。こどもも大人もみんなが集まることができて、興味を刺激するような魅力的な空間になったと思います。ぜひ、多くの方に活用いただきたいですね。興味を刺激するといえば、実は書棚にもSMBCならではの工夫があるんですよね。
吉沢 そうなんです。当社が所有する「SMBCの森」がある神奈川県伊勢原市の間伐材を、書棚に加工して使っています。こどもたちが見て触れるなかで小さな気づきを得たり、森や環境について考えるようなきっかけになったら嬉しいです。
松田 森林から書棚を作ると聞いたときは、そのスケールの大きさに驚きました(笑)。そんな書棚に並べる本も、今後は地域に沿ってラインナップを変化させていく予定です。「アトリエ・バンライ-ITABASHI-」での本との出会いや体験が、こどもたちの思い出となり、何かのきっかけになることを願っています。それから、今回銀行ならではの仕組みとして採用いただいたのが、通帳型の読書記録手帳。読んだ本が“記帳”できるユニークなサービスなので、ぜひ利用してみてください。

神奈川県伊勢原市の間伐材。サステナビリティと
環境保全の取り組みを通し、
脱炭素社会の実現を目指している
熊谷 「アトリエ・バンライ-ITABASHI-」は、こどもがさまざまな興味や人に出会える、だからこそ大人も安心して送り出せる場所になっていくことを期待しています。「アトリエ」という名の通り、ここに通うこどもたちが「こんなことがしてみたい」と自主的に考え、創造をする拠点になったら素敵ですよね。
河村 ありがとうございます。私たちの空間づくりの根幹にあるのは、「誰もが安心してさまざまな体験ができるような、居心地の良い場所を提供したい」という想いです。今後「アトリエ・バンライ-ITABASHI-」が軌道に乗り、こどもたちが自分の好きや嫌い、やりたいことを見つける居場所となり、自立をしていく手助けができたら、こんなに幸せなことはありません。

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河村 優里 氏(かわむら ゆり)
株式会社三井住友フィナンシャルグループ
株式会社三井住友銀行
社会的価値創造推進部2016年三井住友銀行春日部支店入行後、コンサルティング業務部、従業員組合専従を経て2023年よりサステナビリティ企画部(2024年4月より社会的価値創造推進部に改組)で社会貢献に従事。
〈本件に関わる主な役割/アトリエ・バンライの企画立案〉 -
吉沢 聡美 氏(よしざわ さとみ)
株式会社三井住友銀行
管理部 開発グループ 部長代理 ファシリティマネジメントエキスパート新卒で組織設計事務所に就職。2020年三井住友銀行入行、ワークスペース改革を国内外で推進。その他、SDGs・再開発案件等を担当。
〈本件に関わる主な役割/施設に関する設計デザインの企画取りまとめ〉 -
山﨑 揚子 氏(やまざき ようこ)
株式会社イトーキ
ワークスタイルデザイン統括部 一級建築士大学/大学院にて建築を専攻後、2003年 イトーキ入社。大小の民間オフィスから、公共施設や官公庁、教育施設、医療施設まで幅広い『働く場』のデザインを経験。第19回、37回日経ニューオフィス賞全国賞等、オフィスデザイン賞受賞経験あり。
〈本件に関わる主な役割/内装、レイアウト設計〉 -
松田 広太 氏(まつだ こうた)
株式会社図書館流通センター
東京支社 東京23区営業部 次長2010年 図書館流通センターに入社後、都内図書館にて図書館スタッフとして勤務。業務責任者やエリアマネージャー、図書館長を務め、2021年より営業部に配属。
〈本件に関わる主な役割/本に関するディレクションを担当。本の選定・納品・配架の他、展示方法や運用方法を提案〉 -
熊谷 由紀 氏(くまがえ ゆき)
株式会社電通
CXクリエイティブセンター アートディレクター多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。2005年 電通入社。
広告マーケティング領域だけでなく、パッケージ/空間/顧客体験設計まで
幅広い領域のアートディレクションを担当する。
〈本件に関わる主な役割/ロゴ制作、デザインツールのアートディレクション〉