世界では、貧困や経済格差といった深刻な社会課題が存在している。こうした課題の解決に資する事業のための資金調達手段として注目されているのが「ソーシャルローン」※だ。SMBCグループは、国内外でのソーシャルローンの提供を通じ、貧困格差や住宅問題など、さまざまな社会課題の解決に取り組んでいる。
※ 貧困・格差の解消や教育支援、ジェンダー平等、医療へのアクセス向上、雇用創出といった社会課題の解決を目的とするプロジェクトへの融資。
今回は、中・低所得世帯や外国人等、住宅の確保に際して一定の配慮・支援を必要とする方々をメインターゲットとする賃貸住宅「ビレッジハウス」の管理・運営を行うビレッジハウス・マネジメント株式会社(以下ビレッジハウス・マネジメント)の代表取締役社長兼CEO 岩元 龍彦氏に事業内容についてお話を伺うとともに、ソーシャルローンを通じて同社の取組を支援している三井住友銀行国際法人営業部 山﨑とサステナブルソリューション部 勝田が、ソーシャルローンの取組における背景や今後の展望などを語った。
ソーシャルローンが解消を促す住宅格差
SMBCグループは、「社会的価値の創造」を経営の柱に掲げ、主体的に取り組むべき5つの重点課題のひとつとして「貧困・格差」を挙げている。そうした取組を加速させる金融手法が、ソーシャルローンだ。
勝田
一部の国々に集中した経済発展の裏返しで格差が拡大した結果、世界には日々を生きるのに必要な住居・水・電気といったライフラインさえ利用できない人たちがあふれています。公平な経済成長を促していくためには、資金を社会課題の解決に向けて還流させる必要があると考え、三井住友銀行では、国内外の格差の解消に取り組む企業に対してソーシャルローンを提供し、伴走しています。

SMBCグループのソーシャルファイナンス取組額は、初年度の2,000億円から年々増加し、2023年度には年間1.7兆円に到達。政府・自治体・法人など幅広い組織を対象に、2020年から2023年までに累計で2.8兆円もの融資を行ってきた。
勝田
ソーシャルファイナンスへの取組を進めるなかで、住宅の格差が広がる現代において、手ごろな価格で良質な賃貸住宅を提供しているビレッジハウス・マネジメントの事業に共感し、同社の『ビレッジハウス』に関する投資に対して、2021年11月から複数回ソーシャルローンを提供しています。
物価上昇が進み、住宅費の負担が家計を圧迫するなかで、誰もが安心して住むことのできる住居の提供は、現代社会における喫緊の課題だ。こうした課題の解決に向けて、中・低所得者を含む幅広い収入層が手ごろな価格で住むことのできる住宅を供給する取組は「アフォーダブルハウジング」と呼ばれる。
そのアフォーダブルハウジングの代表的な実践例が「ビレッジハウス」だ。同サービスは、国の制度廃止により民間に売り出された雇用促進住宅などの築古物件を、一括で取得した上でリノベーションし、敷金・礼金・更新料等を不要として手ごろな価格で幅広い層へ賃貸物件を提供している。
パイオニアとして国内で展開する
アフォーダブルハウジング事業
日本では、長年にわたり、公営住宅が生活基盤を支える重要なインフラとしてアフォーダブルハウジングの役割を担ってきた。
岩元氏
日本では、2005年をピークに公営住宅の供給数が減少傾向にあります。一方で、単身世帯、中・低所得者層、外国人労働者を中心に、入居に際してのハードルの低い住宅へのニーズが高まっており、需要と供給のバランスが取れていない状況です。
そこで、民間事業者である我々が、三井住友銀行から資金面等でのサポートを受けつつ、新築物件を建てるのではなく、築古物件を取得し、リノベーションの上で利活用することで、誰もが生活の質を保ち、手頃な家賃で安心して長く住み続けられる住宅としてアフォーダブルハウジングの提供を行っています。

2024年9月時点で、ビレッジハウス・マネジメントは、全国で1,063物件(2,942棟、107,948戸)を運営・管理している。同社が提供する賃貸物件の平均賃料は1ヵ月あたり4万円弱であり、民間集合住宅の家賃を大幅に下回る金額で提供している。
また、1,063物件の全てを、建替することなく利活用している点も注目すべきポイントだ。建築物を取り壊さずに長く活用することは、資源循環や廃棄物削減、さらにはCO2排出量削減の観点からも非常に重要な取組と言える。
岩元氏
当社では、中・低所得者に加え、高齢者や外国人労働者向けのアフォーダブルハウジング提供に注力しています。労働力不足の加速が予想されるなか、日本経済の成長や、地方の中小企業、農業法人、介護施設などの人手不足解消のためにも、外国人の移住の増加が見込まれます。こうした状況に対応するためにも、地方を含めた日本各地でアフォーダブルハウジングの拡充が必要だと感じています。
外国人労働者の受け入れに必要なのは
「住宅」だけではない
ビレッジハウスの入居率は、取得した当初は33%だったが、現在では81%まで上昇している。そして現在、入居者全体の2割を占めているのが外国人居住者だ。技能実習生や特定技能外国人などの外国人労働者を中心に、低価格な住宅へのニーズは非常に高い。一方、賃料への配慮だけでなく、多様なサポートの提供が必要となる。
岩元氏
ビレッジハウスの外国人居住者には、ベトナム、ブラジル、フィリピンといった国籍の方が多いのですが、『言語』に困る方が多くいます。そこで我々は、入居から退去まで、各居住者の母国語でサポートを行うコールセンターを設けました。また言語だけでなく、最近ではビレッジハウスに入居する外国人と日本人、そして近隣住民の方の交流イベントも開催しました。今後は、地域のコミュニティ形成に貢献できる活動も行っていきたいと考えています。


※交流イベントの様子
日本と外国では文化や習慣などあらゆる面で違いがある。そのため、ごみ出しなどの問題も発生しがちだが、コールセンターをはじめとしたサポート体制づくりや、地域のコミュニティ形成機会の創出などを通じて、事前の問題回避や交流の促進につながってきているという。
“郷に入っては郷に従え”という言葉があるように、地域の規範に従わないと摩擦が生じることもある。しかし、現代では、違いを受け入れ学ぶ姿勢も重要だ。
ビレッジハウス・マネジメントの取組は、住宅格差の改善に留まらず、多文化共生社会への道を切り開く可能性も秘めている。
お金と共にアイデアを循環させることで
社会課題を解決していく
前述の岩元氏の発言にあった外国人と日本人の交流イベントでは、ビレッジハウス・マネジメントを担当する三井住友銀行の山﨑が、楽しみながら金融リテラシーを学べるワークショップを企画・開催するなど、SMBCグループも一部運営に携わった。
山﨑
今回のイベント以外にも、この2年間でビレッジハウス・マネジメントに対し、事業展開で協働できる可能性のある企業を30社以上紹介してきました。我々は単に資金を融通するだけでなく、お客さまの事業を深く理解し、事業の成功やその先にある社会課題の解決を促進するため、さまざまな角度から支援ができないか、常に可能性を模索し提案しています。

勝田
三井住友銀行では、ソーシャルローンの取組に加え、2024年4月、個人・法人のお客さま向けに『ソーシャル預金』を開始しました。これは、お客さまの預金を、貧困・格差等の社会課題解決に取り組むファイナンスに充当するものです。今後も、資金の好循環を加速させていくことで、社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。
岩元氏
アフォーダブルハウジングは、住宅確保が困難な方々のセーフティネットとして機能しています。今後さらに取組を加速させるため、将来的にはREIT化を含めた上場なども視野に入れています。資本市場から新たな資金を調達し、物件の長期活用を推進するとともに、より多くの人々にアフォーダブルハウジングを提供することを目指していきます。
幅広い所得層や外国人、高齢者など、多様な背景を持つ人々が安心できる快適な住まいを提供するには、居住者のニーズに寄り添い、住みやすい環境を整えるための配慮やさまざまな課題に向き合う姿勢が必要だ。また、事業をともに推進する伴走者の存在も欠かせない。
三井住友銀行では、ソーシャルローンを契機に、住宅格差の解消と新しい地域社会の実現を目指す企業との重要なパートナーシップが築かれている。誰もが住みやすく、安心して暮らせる社会づくりに向けて、この取組が大きな一歩となるはずだ。
