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【FIN/SUM FINTECH SUMMIT 2022 レポート】金融プラットフォーマーになるのは誰だ ~DX時代のリーダーの条件~

登壇者: 川島克哉氏 (新生銀行 代表取締役社長) 二見通氏(アフラック生命保険 取締役専務執行役員 兼 CTO・CDIO) 飯田哲夫氏(アマゾン ウェブ サービス ジャパン 金融事業開発本部 本部長) 谷崎勝教氏(三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO) モデレーター 佐藤大和氏(日本経済新聞社 編集局 NIKKEI Financial 編集長)

新生銀行の参加で、SBIグループの役割はどう変化していくのか

佐藤本セッションのテーマは「金融プラットフォーマーになるのは誰だ~DX時代のリーダーの条件~」であり、今回はこのお題にふさわしい4人の方に集まっていただきました。

まずは、2021年SBIグループの傘下に入り、2ヶ月前に新生銀行の社長に就任された川島社長にうかがいます。SBIグループは元々、ネット証券やネット銀行で強い顧客基盤を持っています。その中でプラットフォーマーあるいはプラットフォームという観点で、とりわけ地方銀行との資本提携を推進していらっしゃいます。

その流れの中で、SBI傘下となった新生銀行は、地銀というより主要銀行だと思いますが、SBIグループの全体戦略の中で、どのような役割を果たしていくのでしょうか?

川島地域の皆様方との価値共創を通じ、どのように地方創生に貢献をしていくかがグループの全体戦略として非常に大きなテーマです。新生銀行がグループの主要な一員になったことで、地方創生拡大が最重要になると思っています。

その中でも、新生銀行グループの強みの一つがノンバンク事業です。この事業は、これまではSBIグループが提供できるサービスのパーツとしては欠けていた部分です。

特にノンバンク事業はビジネス領域として、数少ないまだ金利が残る市場です。 規模の大きい地銀であれば全て自前でできると思いますが、規模の小さい地銀は自前で行うのは難しい。そこで、私たちの持つノウハウを提供していくことで、充分なサポートができると思っています。

さらに最近の例で言いますと、例えば地域における再生可能エネルギーのプロジェクトファイナンス案件は、非常に金額感が大きくなっています。地域金融機関が単独で対応するのが難しい案件については、新生銀行グループが持つノウハウや知見を上手に使いながら、伴走出来ると思います。

SBIグループ全体としては、プラットフォーマーとしての役割が非常に大きくなり、提供メニューがフルラインナップになったことが、大きな変化だと思いますね。

金融だけではない、プラットフォームの覇権争いに勝つのはどこか

佐藤次に、SMBCグループの谷崎様におうかがいします。SMBCグループはメガバンクの中でも、DX(デジタルトランスフォーメーション)で先行していることに定評がありますが、巨大金融機関のDXを推進していく上で直面している課題や悩みはありますか。

谷崎課題は多くありますが、今回は2つに絞ってお話しします。

1つ目は「顧客接点」がまだ弱いことです。顧客ファーストでさまざまなサービスを提供していくためには、顧客との接点をさらに増やす必要があります。デジタルの世界は、点と点がバラバラにあるだけではなかなかビジネスになりにくい。だから面で押さえないといけないと思いますね。

その上で、面で押さえた顧客接点を質のあるものに変えていかないといけない。プラットフォーマーとしてやるべきことは未だ、数多く存在すると思っています。

今のアメリカのプラットフォーマーたちの仕事の仕方を見ると、バーティカルなレイヤーの上の方から攻めている。結果的にレイヤーの下のほうも顧客も獲得して、「ウィナー・テイク・オール(勝者総取り)」の仕組みを作り上げています。

一方で日本人はなんとなく、下のほうにあるインフラのレイヤーから上がっていこうという癖がある。でも、慣性の法則があるから上の顧客層に行くには相当な努力をしないといけないし、時間もかかる。私たちがすべきことは、いかに顧客接点において上の層を押さえていくかだと思いますし、その部分はまだまだ努力が必要だと感じています。

プラットフォームという観点だと、銀行業は元々、プラットフォームとしての役割を担っていました。昔は手書きで預金台帳をつけていたし、企業への貸付も台帳に書いていて、台帳を見れば情報が把握できていました。

ITの進化とともにオンラインという形で日本全国の店舗で預金の出し入れが出来るようになり、各金融機関との取引もデジタル上でできるようになった。これもある種のプラットフォームだと思うので、そういう意味では私たちは充分にその役目を果たしている気もします。でも、まだまだやるべきことはたくさんありますね。

デジタル化が進むと、さまざまな機能が組み込まれていきます。すると、「金融プラットフォーム」から、金融だけではないプラットフォームの覇権争いをする時代が来ます。

この争いに誰が勝つのか、私は非常に興味があります。例えばEコマースの世界から、アマゾンのように決済分野を抑えるプラットフォーマーが出てくると、私たちと全く違った顧客接点を持って戦いに挑んでくると思います。

2つ目は「日本に閉じこもっていていいのか」ということです。GDPが上がらない日本にいつまでも固執しているよりはASEANやアメリカといった、プラットフォーマーとして戦うために出ていくべき場所があると思っています。そのために私たちはさまざまな準備をしている段階です。

谷崎勝教氏(三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO)

DX成功の肝は、高速でトライアンドエラーを繰り返せるかどうか

佐藤アマゾンウェブサービスの飯田さまは、今回のスピーカーの中ではお立場が異なっていて、DXを推進する金融機関を支えるお立場でいらっしゃいますね。海外経験も長い飯田さんには、DXをめぐる「日本金融の現在地」についてうかがいます。シリコンバレーなどを抱えるアメリカに比べて日本が遅れているのは仕方がないと思いますが、ヨーロッパや中国、新興国と比べるとどうでしょうか? 

飯田よく「日本のDXが遅れていて、海外が進んでいる」と言われますが、必ずしも海外であればDXが成功しているとは言い切れないと思います。

一方で、デジタルの力を使ってトライアンドエラーを繰り返すスケールとスピードは、日本と海外では違うと感じますね。例えば、北米では新たなビジネス領域に短期間で参入し、一度撤退して、別の国で新たに参入するという動きが見られますし、欧州では規制が変わることによってチャレンジャーバンクが続々と立ち上がり、それにより新たなサービスも生まれるというエコシステムができあがっています。

高速のトライアンドエラーが繰り返されることでDXの実現度合いも洗練されていきますので、 日本でもこのスピードをいかに上げられるかがポイントになってくるでしょうね。

佐藤では、「社長製造業」というコンセプトのもと、伝統的な金融ビジネスにとどまらない、若手バンカーを抜擢したベンチャービジネスやデジタルビジネスを次々と立ち上げている、SMBCグループの谷崎様におうかがいします。いま話題に上ったトライアンドエラーも含め、成果を出している企業はありますか?

谷崎コロナ禍を通じ、日本のデータに対する危機意識が世の中に浸透したことも大きな追い風ではあると思いますが、2~3社は形になってきています。

例えばSMBCクラウドサインは、わずか1年半で黒字化を達成しています。

基本的に既存の銀行は「売上が前年度対比何%」という数字で表しますが、ベンチャーは成長率が1年で2倍、3倍、4倍にもなる。成長のスピード感も全然違うと思います。

「社長製造業」という言葉は元々、SMBCグループの企業カルチャーやマインドセットを変換するためのものでした。そのためにデジタル子会社を作ったのですが、今ではそれだけにとどまらず、社長からは「IPOを目指せ」と言われる状況まできています。

いまや数社がSMBCグループとして「企業価値への貢献」ができるところまできていて、非常に面白い時代になったと思いますね。

DX・金融デジタル時代に、現行の法制度や規制のままでいいのか

佐藤私が今、最も強い問題意識を持っているのは、DXや金融デジタル時代において新しいビジネスを生み出し、育んでいくためには、従来の法制度や規制では追いつかないのではないかという懸念です。そしてDXやデジタル化は社会課題を解決することが目的であるなかで、非常に重要なのが医療分野だと考えています。

アフラック生命保険はがん保険の最大手です。そういう意味では非常に重い責務を負っているのは明らかです。病院やヘルスケア業界との連携に際し、どのようなハードルを感じているのか。また、個人の健康情報管理や、カルテの電子化などの問題に対してどう向き合っていくべきかについて、アフラックの二見さんのご意見をうかがわせてください。

二見私たちもその部分には非常に大きな社会課題を感じていまして、当社だけでなく、他のプレイヤーさんと共に解決していきたいと思っています。

私たちのお客様、患者様の悩みの一つは、もし何か保険の事故、給付金が貰いたい時、場合によっては診断書が必要になることです。診断書をもらう申請のために病院に行き、また1週間後に診断書を取りに行った後、保険会社に提出する。数社が関わる場合には2種類、3種類の診断書を受け取る必要があります。

医療機関、保険会社、お客様をプラットフォームで結びつけることができれば、プラットフォーム上で保険の請求もできるし、病院から診断書を取り寄せてすぐに支払いもできる。そんな仕組みが出来ればいいと思いますね。

ただ、注意が必要なのは、保険業界のデータにはセンシティブなものを含む個人情報が数多く含まれていることです。やはりデータはお客様、患者様のものですから、お客様のご了解なしにデータ交換は出来ない。これをどうクリアするかが重要な課題ですね。

私たちはプラットフォームで結ぶ世界を作りたい。私たちだけではできませんので、皆さんと一緒に作りあげていきたいですね。

佐藤私の問題意識のある規制という点では、銀行は典型的な規制業種です。楽天は銀行を持てるけど、銀行はECができない。谷崎様は、規制の在るべき姿についてどのようにお考えですか?

谷崎確かに銀行は典型的な規制業種です。デジタルの世界はこれから金融に限らずさまざまなプレイヤーが参入してきます。その中で競い合うには、同じレベルの条件が確保されないといけない。

どの業界にもかかわらず、機能本位の規制の在り方が検討されていく時代になると思います。金融であろうと、eコマースであろうと、機能に基づいて適切なリスク管理とコンプライアンス、ガバナンスを遵守した上で、新しい競争の世界が生まれていくのではないでしょうか。

佐藤ありがとうございます。最後に、ある意味中立的な立場にいらっしゃるアマゾンの飯田さんにコメントをお願いします。飯田さんはよく、金融機関がDXを推進し変革していくためには、経営トップのリーダーシップが大切とおっしゃっています。飯田さんからみて、金融機関がDX時代の勝者になる条件とは、どのようなものでしょうか。

飯田デジタルのポテンシャルを含めて、経営トップが理解していることは非常に重要なことだと思います。しかしそれ以上に重要なこととして、まず一旦デジタルや金融機関としてご自身が持たれている資産を忘れ、顧客が何を求めているかについてもう一度フォーカスを当ててみることが大切だと思います。DXというと、DXがあたかも目的のようになってしまいがちですが、DXはあくまで手段です。お客様視点で再度考えて、そこにデジタルを組み合わせていくことが、DX時代の勝者になるための一番重要なポイントだと思います。

佐藤ありがとうございます。まさに金融デジタル化の潮流は不可逆的な流れです。さらに金融DXの推進は不可欠だと改めて感じました。ビジネスでの勝ち負けの話ではなく、それぞれの立場でデジタル対応をひたすら研ぎ澄ませ、顧客に高品質なサービスを提供していく。それが企業価値の向上にも繋がるし、日本経済をしなやかにしていくのではないかと感じました。本日は誠にありがとうございました。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

エコシステム
(Ecosystem)

類義語:

各社の製品の連携やつながりによって成り立つ全体の大きなシステムを形成するさまを「エコシステム」という。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。