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Japan is awakening – フィンテックを通じて世界と日本の架け橋をつくる。Japan Fintech Festival開催

日本のフィンテックの魅力を世界に発信し、フィンテックの更なる発展に向けたビジネス機会を創出するため、金融庁が2024年に初めて開催した「Japan Fintech Week 2024」。期間中は多彩なフィンテック関連イベントが開催され、国内外のフィンテック関係者が一堂に会しました。そのコアイベントの一つとして、2024年3月4日から3月8日まで東京で開催されたのが「Japan Fintech Festival(以下、JFF)」です。主催はElevandi Japan株式会社、SMBCグループはプラチナスポンサーとして協賛しました。

今回は、Elevandi Japanの共同創設者 鬼頭 武嗣氏、とピーテル・フランケン氏、三井住友フィナンシャルグループ デジタル戦略部の宮城 悟氏に、JFF開催にあたっての思いや当日の様子、今後の展望について伺います。

フィンテック領域における日本の影響力を高めるため、Japan Fintech Festivalを開催

JFF開催の経緯について教えてください。

ピーテルシンガポールでは毎年、世界最大級のフィンテックフェスティバル「Singapore Fintech Festival(以下、SFF)」が開催されています。このイベントは、シンガポールを「アジアのフィンテックハブ」として確立することを目的に、戦略的国家プロジェクトの一環として、政府からの支援を受けて2016年にスタートしました。

SFFは、回を重ねるごとに規模が拡大し、昨年は66,000人以上の参加者が世界中から集まるなど、巨大なフィンテックイベントへと成長しています。そのような成功を受け、国際的なフィンテック・コミュニティをさらに発展させるため、2021年にはシンガポール金融通貨庁から独立する形で非営利組織としてElevandiが設立されました。

Elevandi Japan株式会社 共同創設者
ピーテル・フランケン氏

鬼頭SFFの影響もあり、シンガポールではフィンテック企業が1,000社を超え、フィンテック領域への投資も過去8年間で200倍に増加するなど、めざましい成長を遂げています。

一方、日本のフィンテック関連企業の数はシンガポールの半分にも満たず、投資もさほど活発ではありません。日本のフィンテック業界に進化をもたらし、アジア全域をはじめグローバル市場で日本の影響力を高めるきっかけがつくれればと、2023年にJFFを初開催しました。日本でこのイベントを継続的に開催・運営するための組織として、2023年8月に設立したのがElevandi Japanです。

最終的な目標は、日本起点でフィンテック領域に大きなムーブメントをつくり、金融業界に変革をもたらすことです。そのためにJFFでは、スタートアップ、金融機関、当局(金融庁、日銀、デジタル庁や、各国中央銀行など)といった、異なるステークホルダーが集まる場所を提供し、ディスカッションやビジネスマッチングなど、組織や役割を超えたつながりを生み出すようなプログラムを実施しています。今回のJFFには2,300名が来場し、うち44%は海外からの来場者となっています。

Elevandi Japan株式会社 共同創設者
鬼頭 武嗣氏

スタートアップとともに、変わりつつある日本

JFFにおいて印象に残ったプログラムを教えてください。

ピーテルどのセッションも素晴らしく、1つに絞るのは難しいです。強いてあげるなら、インドの電子決済サービス会社ペイティーエム(Paytm)のCEOであるビジェイ・シェカール・シャルマ氏のセッション「Building & sustaining unicorns: Challenges, rewards and lessons(ユニコーン企業の育成と維持:挑戦、報酬、そして教訓)」は印象深かったです。彼は実体験にもとづいて、創業からユニコーンに至る過程で、スタートアップ創業者がどのように考えるのかを話しました。

また、「The untapped potential of women entrepreneurs in Japan(日本における女性起業家の可能性)」も印象的でした。女性活躍を進めていくうえで日本に必要なことがよくわかり、JFFでも、これからさらに活躍する女性にフォーカスを当てていければと思いましたね。

三井住友フィナンシャルグループ執行役専務 グループCDIOである磯和氏による基調講演「What matters most in 2024 in Japan/ASEAN?(2024年に日本/ASEANで最も重要なことは何か?)」も非常に興味深い内容でした。これまでの日本の金融市場は良くも悪くも堅実で、トラディショナルなイメージでしたが、そのような風潮が今まさに変化しようとしていることが大変よくわかりました。

三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO 磯和 啓雄氏によるJFFの基調講演「What matters most in 2024 in Japan/ASEAN?」の様子

宮城ありがとうございます。私もその場で磯和のスピーチを聴いており、海外からの来場者には正確に認識されていないような日本の現状を伝える内容だと思いました。

これまでの日本はピーテルさんがおっしゃる通り、変化が起こりにくい国だと認識されることが多く、実際もそのイメージに近かったと思います。ただ、今の日本では大きな変化が起こっています。スピーチでは、SMBCグループが手掛ける社内起業やドレスコードフリー(服装の自由化)などを例に取り大企業カルチャーの変化を示したほか、磯和が毎日のようにスタートアップ起業家と会う中で感じる変化、例えば極めて優秀な人材がスタートアップ業界に流入している実情について具体的に伝えていました。とくに最近のスタートアップは、「ボーングローバル」、即ち海外市場への進出を見越して起業するケースも多く、一昔前とは大きく変わっているのだと強調していました。

スピーチ後は、大勢の海外からの来場者が磯和を囲んでおり、そのような姿を見て日本が改めて「開国」した感覚を覚えました。

株式会社三井住友フィナンシャルグループ デジタル戦略部 上席推進役
宮城 悟氏

コミュニティの力で、日本がもう一度成長するためのきっかけ作りを

SMBCグループのJFFへの協賛には、どのような理由があるのでしょうか。

宮城SMBCグループは、2016年の初回からシンガポール拠点を主体にSFFに協賛しています。その理由は、SMBCグループにとってアジアが戦略的に非常に重要なマーケットの一つであり、なかでもシンガポールはその中心にあるからです。世界最大規模で開催されているフィンテックイベントで存在感を示すことで、アジア域内、ひいてはグローバルにビジネスを広げる土壌がつくれればと考えてきました。私自身、直近2年間SFFに参加しています。

そのような背景もあって2023年、JFF初開催のタイミングでぜひ一緒にやらせてくださいと鬼頭さんとピーテルさんにお願いをしました。日本とさまざまな国との間に交流を生み出し、イノベーションの種を創出することに貢献をしたいと思いましたし、日本の価値をフィンテックの領域で高めることは、我々SMBCグループのやるべきことだという気持ちもありました。

今回のJFFのプログラムの一つである「Rising FinTech」は、三井住友銀行本店で開催されていますね。このプログラムについて教えてください。

鬼頭「Rising FinTech」は、世界中の企業の方々が、日本の金融機関や企業とつながる、ネットワーキングをメインにしたイベントです。海外の方々が日本のビジネスパーソンと直接対話をする機会をつくり、ビジネスマッチングや投資などの機会を生み出す目的で企画しました。

その狙い通り、多くの国の方々にお集まりいただき、活発なコミュニケーションが生まれたと感じています。

宮城さまざまな国でフィンテックに携わる人たちが集い、意見交換や交流をする場づくりに貢献できたことは非常に嬉しく思っています。インドやフィリピンなど、まさに成長過程にある国で起こっていることには、日本よりはるかに進んでいて参考になることも多くあります。参加企業とともに、ビジネスを進める機会も今後生まれてくるでしょう。

また偶然ではありますが、私たちSMBCグループのロゴにある右肩上がりのマークは「ライジングマーク」と呼ばれており、「Rising」という言葉は私たちを象徴するものでもあります。日本およびフィンテックのエコシステムを伸ばし、私たち自身も成長していくという意味でも、深い部分で共感しながらElevandiの皆さんと協業ができている感覚があります。

鬼頭私たちは2023年に初めてJFFを実施した時から、「Rise Together」というビジョンを掲げています。最近でこそ日経平均はようやく過去最高を更新しましたが、日本はずっと「失われた30年」という停滞の中にありました。そんな時代に生きる中で、私はこのような停滞や閉塞感を打破して、日本をもう一度、世界の舞台に返り咲かせたいと思っています。日本は「日出ずる国」です。コミュニティの力でもう一度成長をして、日本を昇らせていく。JFFがそのためのきっかけ作りをできればと思っています。

「Japan is awaking」。日本を再び、眠らせないために

今後の展望を教えてください。

鬼頭来年のJFFは、さらに規模を拡大して開催する予定です。日本経済を大きくするためには、我々自身もプラットフォームとして成長を続けなければいけません。SFFが毎年のように規模を拡大したのと同じように、日本でも大規模なイベントへと成長させていくつもりです。

ピーテルさらに、ディープテック、クラウドコンピューティング、AIなどの最新技術をテーマにしたセッションを検討中です。金融領域は見えないところで多くの技術が使われており、日本でも多くの企業が新しい技術の開発に取り組んでいます。それらにスポットライトを当てていきたいと考えています。

また、今回のイベントで日本について多くの国々に知ってもらえたと思いますが、まだまだブラックボックスになっている部分も大きいです。海外から見えにくい部分を明らかにするため、セッションだけでなく、実際に現地を案内するツアーのようなアクティビティも企画してはどうかと考えています。

鬼頭地理的に近い、韓国や台湾といった国々との協力も増やしていければと思っています。また、学生のような若い世代の方々を巻き込む仕掛けもつくりたいです。

宮城SMBCグループとしても、引き続き何らかのかたちでイベントに貢献をし続けられればと思っています。今回のような取り組みは、1回開催したからといってすぐに具体的なリターンを得られるようなものではありません。日本のエコシステムそのものを成長させるため、各国とのつながりを育むことには、それなりの時間がかかるものです。

ただ、長期的に見れば大きなリターンが得られると思っています。我々金融機関とフィンテック企業の掛け合わせで新しいビジネスが生まれるかもしれませんし、新規事業を一緒に立ち上げるパートナーが見つかるかもしれません。つながりをもったスタートアップに出資することもあるでしょう。昨年我々が立ち上げたコーポレートベンチャーキャピタルSMBC Asia Rising Fund」は、まさにそのような投資と協業を狙いとしたものです。
いずれにしても視野を狭めず、長い目線でJFF・SFFのようなムーブメントに関わり続け、日本・アジア・世界経済の発展に貢献できればと思います。また、日本の大企業の皆さまにも、このような取り組みに加わってほしいですね。そうすることによって、もっと素晴らしい活動へと成長していくと思います。

先にもご紹介いただいた磯和のスピーチの中で「Japan is awakening」という言葉が使われていました。「失われた30年」を経て、まさに今、日本が目覚めつつあるタイミングだと感じています。日本がもう一度、眠りについてしまわないように、私たちSMBCグループも引き続き貢献を続けていきたいと思っています。

※撮影協力:FINOLAB(東京都千代田区大手町1-6-1 大手町ビル2F・4F)

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • Elevandi Japan株式会社 共同創設者

    鬼頭 武嗣氏

    東京大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。ボストン・コンサルティング・グループ、メリルリンチ日本証券、Fintechスタートアップのクラウドリアルティの創業・M&Aエグジットを経て、2023年8月にElevandi Japanを共同創業。2017年から6年間一般社団法人Fintech協会の代表理事副会長も務める。内閣府新技術等効果評価委員会委員、デジタル庁・経済産業省国際データガバナンス検討会委員、福岡県国際金融アドバイザー。

  • Elevandi Japan株式会社 共同創設者

    ピーテル・フランケン氏

    シティグループ、新生銀行、マネックスグループ、ユニオンデジタルバンクなど、30年以上にわたって金融サービス、経営管理、フィンテック、イノベーション、大規模なデジタル・トランスフォーメーションの分野に従事し、業界をリードする企業で経営幹部として活躍。その後、シンガポール金融管理局、SembCorpのアドバイザー、Elevandi Japanの共同創設者、Safecastの共同設立者、SIMBAS.ioの共同設立者、APIXの設立メンバーとして活躍。デルフト工科大学でコンピュータサイエンスの修士号を取得し、現在は慶應義塾大学の客員教授 兼 主任研究員、グリフィス大学アジア研究所(GAI)の非常勤研究員を務める。

  • 株式会社三井住友フィナンシャルグループ デジタル戦略部 上席推進役

    宮城 悟氏

    2006年三井住友銀行入行。中小企業営業、海外営業(中国上海)、大企業営業、グローバル人事戦略等を経て、2022年デジタル戦略部着任。新規事業開発にかかる戦略策定・組織運営や国内外のベンチャー投資業務に従事。ロンドンビジネススクール(MBA)修了。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

エコシステム
(Ecosystem)

類義語:

各社の製品の連携やつながりによって成り立つ全体の大きなシステムを形成するさまを「エコシステム」という。

フィンテック
(FinTech)

類義語:

金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語。銀行や証券、保険などの金融分野に、IT技術を組み合わせることで生まれた新しいサービスや事業領域などを指す。

ベンチャーキャピタル
(Venture Capital)

類義語:

未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンド。

AI
(artificial intelligence)

類義語:

  • 人工知能

コンピュータが人間の思考・判断を模倣するための技術と知識体系。