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創業9年で上場。プレイド倉橋CEOから学ぶ、急成長を支えた高度な意思決定

SMBCグループのオープンイノベーション拠点 hoops link tokyo。この場所で誕生したさまざまなオープンイノベーションを後押ししてきたのが、2018年2月より15回にわたり、事業家・スタートアップ経営者をお招きし、開催してきた「経営者道場」です。
2024年3月26日に行われた「第16回経営者道場」は、株式会社プレイドの創業者であり代表取締役CEOを務める倉橋健太氏をゲストに迎えて開催しました。

プレイドは2011年に創業し、サイトやアプリに来訪している人をリアルタイムに解析して良質なCX(顧客体験)を実現する「KARTE」を2015年にリリース。2019年にはGoogleからの資金調達を受け、2020年に東京証券取引所マザーズ(現 東証グロース)への上場を果たします。

今回は「プレイド社長が語る起業のススメ」をテーマに、三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIOの磯和啓雄を聞き手として、創業時のエピソードからKARTEが生まれた理由、資金調達のコツ、GINZA SIXにオフィスを移転した理由やIPO後の決意など、さまざまな角度からお話を伺いました。

「普通の人」でも大きな事業を作れる

磯和昨年の4月から三井住友銀行でスタートアップのファイナンスも担当することになり、今までに108社のスタートアップに伺い、社長と直接話をしてきました。スタートアップ経営者には東大を中退してハーバードに行くというような、超人もいます。そんな経歴を知ると、「そりゃ成功する」と思いますよね。そういう人もいる一方で、プレイドの倉橋さんは108社の中で最も「普通の人」という印象です。そんなある意味、「普通」の倉橋さんが起業したプレイドは、時価総額1兆円を目指せるところまで来ています。だからこそ、多くの人に「自分も起業できるのでは」と思ってもらえると思いますし、参考になるお話がたくさん聞けると思います。

倉橋とてもありがたいお言葉ですね、僕は普通界の1位を狙っていますから(笑)。本当に普通の人間ですが、普通でも頑張って仲間といっしょに進んでいけば大きな事業をつくれることを証明したいです。起業したのが2011年なので、今年で13年目になります。起業する前は6年半ほど楽天に在籍して、主に楽天市場のマーケティング関連業務に携わってきました。

左:株式会社プレイド 代表取締役CEO 倉橋 健太氏
右:三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO 磯和 啓雄氏

磯和起業直後のエピソードを教えてください。

倉橋起業したての頃、2011年〜12年にかけてこれまでの中で最もタフな時期でした。創業して1年目に、共同創業者の柴山(柴山 直樹 取締役 CPO)と出会い、そこからプレイドの歴史はスタートしました。彼は当時東京大学の研究室で機械学習などの研究をしていました。ある日、楽天の同期の知人から「合いそうな知り合いがいるから、一度会ってみない?」といわれて、実際に会ってみたら初見から幼なじみかと思うくらい波長が合ったんです。

当時の柴山は大学の研究環境に対して大きなフラストレーションを感じていました。その一方で、僕は自分がこれまでに携わってきたデータを活用する事業の技術的な裏側をほとんど知りませんでした。そこで彼と話すことで、技術的な面については大学での研究領域の方が圧倒的に進んでいることを知りました。お互いにないものを持っていたといいますか、この点は大きかったですね。

磯和独立後の事業内容は最初から決まっていたのですか?

倉橋独立当初から今に至るまで共通しているのは、人の頭の中にあるアイデアと、それを欲している人を有機的につなげるサービスがあればいいなという考えです。僕は楽天時代に顧客データの分析から施策の立案といった、Webマーケティングを中心に手がけていました。楽天という会社は顧客データをものすごく細かいレベルで分析して、膨大なコストをかけてユーザーのパーソナライズやセグメンテーションをやっていました。それはとても労力のかかることですが、それに見合うだけのパフォーマンスを発揮できます。しかし楽天以外の会社で同じようなことをやっている会社はほとんどなかったので、同様の事業をやろうと考えていろいろと模索していきました。

ユーザーをとにかく細かく捉えることができれば、マーケティングのあらゆる活動や、カスタマーサポート、事業企画、経営は確実に変わると思っています。当時ウェブサイト上のマーケティングツールがなかったので、まずはマーケティングに関するサービスの提供からスタートしています。

大切なのは、未来の夢を語り共感してもらうこと

磯和2014年の初の資金調達前は、どのような経営状態だったのでしょうか。

倉橋当時、新しく3名が入社してくれたのですが、彼らの最初の給料日の2営業日前に、残金が数万円しかないということがありました。いわゆるスタートアップあるあるではありますが、資金に関してはギリギリの状態の時が多くありましたね。

創業当初の様子

KARTEをリリースするタイミングはどのように決めたのですか?

倉橋早く出したい気持ちもありましたが、一旦出したら自分たちのペースではその後の開発ができなくなると思いました。また一歩間違えると、修復コストは大きくかかってきます。人もいないし、お金もなかったので、自信を持ってサービスを提供できる状態まで待とうと思いました。さらに、2014年に資金調達をした時のリリースに「ECのウェブ接客」を実現すると記載をしたところ、経営層の方たちからたくさんのお問い合わせを頂いたのです。この反響の大きさで、業界横断的にニーズはあると確信できました。だからこそしっかり準備をした上でリリースをしようと考えました。

資金調達に関しては、出資交渉の勝率が9割だそうですね。

倉橋1回目と2回目の調達時は売上がほぼ0円でした。ファイナンスの知識もないので、売上げはないですが「時価総額は50億です」といって交渉をしました(笑)。僕のような普通の人は、徹底的に考え抜いて大きな未来を語り、その夢に共感してもらえない限りは支援を受けられません。3回目となる2018年の調達時には、ちょうど北米でもSaaSが出てきたタイミングでもあり、そういった文脈も取り入れて交渉をした結果、多くの引受先から出資をしていただけることになりました。

倉橋さんが自分で「本当の経営者」になったと感じた瞬間はいつですか?

倉橋2015年にKARTEをリリースして、3年後には月間の売上が1億円ほどに達しました。そこでようやく、世の中から一定の価値があると評価されたのかなという自信が湧きました。これまでの経験を振り返ると、世の中はなるようにしかならない、と思っています。順当な進化を遂げるけれど、そのタイミングがいつなのかはわからない。僕は豊富な経験があるわけでもないので、どのような未来になるのかを必死にいろいろな情報から予測、思考して、意思決定をしていくだけです。

磯和倉橋さんを見ていると奇手妙手が一つもないのです。でも、GINZA SIXにあるプレイドのオフィスは、普通の社長が出てくる感じのオフィスじゃありません(笑)。なぜGINZA SIXにオフィスを構えたのですか?

倉橋2018年〜2019年にかけて弊社の社員数が100人ほどに増え、このまま順調に事業が進めば翌年も翌々年もさらなる拡大が見込めそうだったため、会社のアイデンティティーを固定化するタイミングになりそうだと考えました。GINZA SIXは商業施設の印象が強いけれど、オフィスビルの中では珍しいくらいに色がなくて無機質、かつ洗練されている空間でした。ここで会社のアイデンティティーを長く育むことができれば強い会社になると考え、他に比べて多少高かったのですが、将来への投資としてオフィスを移す決断をしました。

一旦成長を止め、会社の組織や仕組みなどを再構築

磯和その後、2019年にGoogleからの出資を受けるわけですが、どのような経緯があったのでしょうか?

倉橋KARTEのバックエンドにはGoogle Cloudを使っていて、その上にアプリケーションなどを構築しています。AWSやMicrosoft Azureなども使っていますが、リアルタイムの処理ではGoogleが強く、おそらく日本でもトップクラスにGoogle Cloudを使っている会社だと思います。Googleのビジネスが送客モデルなのに対して、僕らはユーザーが来たタイミングから解像度を上げていろいろな活用に転換するモデルです。Googleからすれば送り先のパフォーマンスが上がるということで相性が良いのです。

以前、Google Cloudのグローバルのトップが来日しているときに、僕は全然英語ができないのに「Googleから資金調達するにはどうすればいいんでしょうか?」と聞いたことがあります(笑)。1年後にはそれが現実となりました。

磯和2020年にはIPOを果たします。ここで気を抜いてしまう経営者もいるわけですが、倉橋さんにはぜんぜんそういった気配がないですよね。

倉橋成功や経済的なリターンへの興味が、2018年を機になくなったことが大きいですね。事業の可能性にすべてを懸けて、どこまでやれるのか。僕たちの未来に共感してくれた人のためにも、ブレている暇はまったくないと考えています。

これからの10年を見据えて、どのようなことをされているのでしょうか。

倉橋2022年の上期の決算のタイミングで、下期の成長を止めるという宣言をしました。組織づくりや仕組みづくりなど、過去に囚われず組み替えていかなければいけないものがこのままだと組み替えられなくなる。そういった危機感から一度成長を止めて、つくり直そうと決めたのです。今はその組み替え、つくり直しが良い状態になってきています。これが実現できれば次の難所も乗り越えられると思いますし、さらにその先の時価総額1兆円という、世の中にインパクトを与えられる会社を目指していきます。

経営で最も大切なのは「続けること」

最後に倉橋さんからメッセージをお願いします。

倉橋会社の代表が妥協をすると、組織の人間はその妥協以下の意思決定しかできなくなります。意思決定の上限を維持し続ける責任が代表にはあります。とにかく妥協をせず、どんな小さな決定でも同じ基準でやる。当然、妥協をしないと失敗も増えます。でも、失敗から学ぶこともあるし、僕は会社の人間にも失敗をしてほしいと思います。

特別な才能を持った人もそうでない人も、共通して大事なのは続けることです。起業家としてこれが最も違いを生むと僕は考えています。長く続けるための意思決定、ふるまい、覚悟、そういったものがあれば僕のような普通の人間でも大きな事業にチャレンジができると思います。

視聴者からは、「これまで最も辛かった時期とその乗り越え方」「マイルストーンごとにどのような人材を採用したのか」「意思決定において心がけている価値観」など多くの質問が寄せられました。hoops link tokyoでは、さまざまな人々が出会い、語らい、ともに挑戦するためのオープンイノベーションの場として、今後も事業家・スタートアップ経営者をお招きしたイベント「経営者道場」を開催してまいります。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 株式会社プレイド 代表取締役CEO

    倉橋 健太氏

    2011年10月に株式会社プレイドを創業。2015年、企業のカスタマーデータ活用を支援するクラウドソフトウェア「KARTE」を提供開始。顧客戦略またはDX戦略の推進基盤として、EC、金融、不動産、人材他、幅広い業界で導入されている。2020年12月東証マザーズに上場し、同年のIPO of the Yearを受賞。

  • 三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO

    磯和 啓雄氏

    1990年東京大学法学部卒。三井住友銀行に入行後、法人業務・法務・経営企画・人事などに従事した後リテールマーケティング部・IT戦略室(当時)を部長として立ち上げ、デビットカードの発行やインターネットバンキングアプリのUX向上などに従事。その後、トランザクション・ビジネス本部長としてBank Pay・ことらなどオンライン決済の商品・営業企画を指揮。2022年デジタルソリューション本部長、2023年より執行役専務 グループCDIOとしてSMBCグループのデジタル推進を牽引。

この記事でご紹介したサービス
オープンイノベーション
(Open Innovation)

類義語:

製品開発や技術改革、研究開発や組織改革などにおいて、自社以外の組織や機関などが持つ知識や技術を柔軟に取り込んで自前主義からの脱却し、市場機会の増加を図ること。

SaaS
(Software as a Service)

類義語:

Software as a Serviceの略。読み方は「サーズ」。ソフトウェアを利用者側に導入するのではなく、提供者側で稼働しているものをネットワーク経由でサービスとして利用することを指す。納期短縮、設備投資削減などの効果がある。

カスタマーエクスペリエンス
(Customer Experience)

類義語:

  • CX

ある商品やサービスの利用における顧客視点での体験のことで、「顧客体験」もしくは「顧客体験価値」と訳される。

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