推薦人:MARUZEN&ジュンク堂書店 札幌店スタッフ 鍛冶 美波さん
BOOKS 〜環境を考える本〜
私のおすすめ Eco Book
歩く
ヘンリー・ソロー 著 山口 晃 編訳 ポプラ社

また厳しい季節が訪れるのかと、鬱々としていたころにこの本を手に取った。
私の暮らす北海道の冬は、約半年間雪で覆われ、歩くこととは無縁に思える。
「私が森で暮らすことにしたのは、慎重に生きたいと願ったからである」。冒頭はソローの代表作である『森の生活』等の著作から抜粋された言葉で綴られる。
ヘンリー・ソローは1817年、マサチューセッツ州コンコード、人口2,000人ほどの村に生まれた。近くの川には堰ができ、多くの工場が建設されていった。鉄道が開通し、水運で支えられていた暮らしは陸運が主になる。つまり、他の多くの地域と同じような発展をしていったのだ。
そんな中、ソローは日々4〜5時間、距離にして20〜30キロメートル歩いていた。
「歩く」とはどのような行為なのだろうか。
荒野を、森を、湿地を。昼と夕方の間の時間、太陽の沈む方へ出発し、やがて暗闇の中を。
読み進むにつれて、歩くべき本当の理由に気づかされる。
これを書いている今は、新緑が輝き、歩くには絶好の季節のように思えるが、やがてまた冬が来ると、整然と区切られていた街は、雪のおかげで真っ白な荒野となる。
そんな冬こそ歩くには絶好の季節なのかもしれない。
新刊紹介
もっと知りたい川のはなし
末次 忠司 著 鹿島出版会

独自の視点で全国42カ所の河川を紹介。土木好き、地理好きの方にもおすすめ。
観察の記録六〇年 秘蔵写真が語る自然のふしぎ
矢島 稔 著 平凡社

著者は昆虫学者であり、「NHK子ども科学電話相談」の回答者。虫の世界から自然界を知ろう。
森ではたらく! 27人の27の仕事
古川 大輔 山崎 亮 編著 学芸出版社

林業だけではない、森にまつわる仕事は実に多彩でクリエイティブ。
温故知新 〜今こそ、古典を〜
後世への最大遺物 デンマルク国の話
内村 鑑三 著 岩波書店

「信仰と樹木とをもって国を救いし話」と副題された『デンマルク国の話』は、明治のキリスト者として著名な内村鑑三の明治44年(1911年)の講演を文章に起こしたものです。
この短い文章の中で、内村鑑三は、日本の国土の10分の1にしかすぎない小国デンマークが、世界でも屈指の豊かな国になった秘密を説き明かしていきます。その秘密は、ダルガスという名の父子によって始められた植林の努力にありました。植林により、荒野が沃野に変わった結果、農業の生産力が向上し、町が生まれ、人々のくらしが豊かになったのです。
内村鑑三は、デンマークの経験に学ぶべきは、「天然の無限的生産力」だと言います。そして、「富は有利化されたるエネルギー(力)であります。しかしてエネルギーは太陽の光線にもあります。海の波濤にもあります。吹く風にもあります。噴火する火山にもあります。もしこれを利用するを得ますればこれらはみなことごとく富源であります」と述べた上で、だからこそ、「外に拡がらんとするよりは内を開発すべきであります」と説くのです。
100年前の言葉ですが、戦慄するほどに予言的ではないでしょうか。
推薦人:株式会社日本総合研究所 マネジャー 井上 岳一