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気候変動対策を考える際の優先順位

 数カ月前の出来事であるというのに、北海道洞爺湖サミットは記憶の彼方にある。準備段階では、あれだけ大騒ぎしたはずなのに、終わってみれば「気候変動対策に対して世界が一致してアクションをとることの合意の難しさ」だけをはっきりさせたサミットだったということだろう。事前に発表された福田総理のビジョンも、サミット合意には必ずしも反映されず、2008年7月末に閣議決定された「低炭素社会づくり行動計画」ではさらに骨抜きになった。「やるせない」という気持ちは、まさにこのことだと感じる。

 ところで、2008年7月に環境省から「G8環境大臣会合等におけるカーボン・オフセットについて」という文書が発表されている。2008年5月に神戸市で開催されたG8環境大臣会合と2008年4月に千葉市で開催されたその準備会合の開催に伴う排出量を算定し、これを今後、韓国やインドのCDMクレジットの購入によりオフセットする予定だという。興味深いのは、算定された排出量466.4t-CO2のうち、344.3t-CO2が参加者の飛行機利用によるものだという点だ。これは実に、73.8%という割合である。環境省は、低公害車の利用や自然エネルギーの活用(グリーン電力証書の購入)、省エネルギー対策などにより削減努力を行ったと胸を張るが、皮肉なことに参加者の飛行機利用の割合の大きさを考えると、果たしてこの会議自体を開催する必要があったのか、参加者をより絞り込むことができなかったのかが、最大の気候変動対策としての工夫だったことが分かる。

 国内でも、環境省、経済産業省、東京都のそれぞれで排出量取引に向けた制度づくりをバラバラに進めている。各々に特徴的な効果あるという主張を否定はしないが、制度づくりのために3倍の人手と予算を投入し、会議や資料などの環境負荷を発生させているのはやはり腑に落ちない。気候変動対策を考える際の優先順位を見誤らないために、本質を考える力を、私たちは身につけなければならない。

(株式会社日本総合研究所 足達 英一郎)