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金融危機と気候変動対策

 米国の大手金融機関の破綻を引き金に世界的な金融危機が顕在化した。金融市場が安定するにはしばらく時間を要するという見方が支配的で、実物経済への悪影響も懸念されている。

 9月に公表された欧州27カ国の世論調査(3万170人対象)では「現在、世界で最も深刻な問題は?」(複数回答可)との問いに対し、「地球温暖化」と回答した人は62%で、68%が回答した「貧困と食料・飲料水難」についで2番目に高い比率だった。これに対し「世界的な経済低迷」を回答した人は24%にとどまっていた。

 しかし、これからは「気候変動対策どころではない」という声が当然出てくるだろう。それに先手を打つかたちで、10月14日にワルシャワで閉幕したCOP14(2008年末に開かれる第14回国連気候変動枠組条約締約国会議)のための非公式閣僚会合では、金融危機と気候変動問題がテーマになった。多くの先進国および途上国から、「気候変動は長期的な課題であり、現在の金融危機によって対策が遅れるようなことがあってはならない」との認識が示され、気候変動対策のモメンタム(勢い)を維持していくことについて一致したという。会合後の記者会見で、議長を務めたポーランドのマチェイ・ノヴィツキ環境大臣は、枠組条約事務局のイボ・デ・ブーア事務局長を伴って「金融危機が気候変動への戦いを停止させることはできないとの合意を得た」と報告した。

 フランスのシラク前大統領も金融危機に対して「我々は節度を欠き、急ぎ過ぎた。野放図な自由主義は時代遅れだ」と発言している。果たして、今回の金融危機を通じて、我々は過去を反省して「長期に世界を考える視座」を取り戻せるのか。それとも不況や失業を目の前にして、今まで以上に短視眼的な見方を強めるのか。人間がどこまで賢明なのかが、改めて試されようとしている。

(株式会社日本総合研究所 足達 英一郎)