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「グリーン・ニューディール」の光と影

 2009年1月、オバマ米大統領が就任して真っ先に議会に提出した「米国再生・再投資法案2009」には、エネルギー省管轄の予算として374億ドルが盛り込まれた。この内訳は、エネルギー新技術開発に20億ドル、断熱性向上支援策に62億ドル、省エネ補助策に35億ドル、州レベルへの助成金に34億ドル、次世代型電池の製造に10億ドル、送電網の近代化に45億ドル、次世代型電池に対する融資保証に10億ドル、その他新規技術に対する融資保証に80億ドル、炭素の回収・貯蔵技術開発に24億ドルなどとなっている。このほかに、連邦政府が60億ドルで自らの建物を省エネ化する、6億ドルで省エネ車両を購入もしくはリースする予算と、住宅・都市開発省管轄で低所得者がエネルギー関連装置を設置する場合の支援策に25億ドルの予算があり、まさに省エネと再生可能エネルギーのオンパレードで、この法案が「グリーン・ニューディール」と呼ばれる理由もよくわかる。

 環境保護庁からは有害物質スーパーファンドに8億ドル、地下タンクの漏洩対策ファンドに2億ドルが、農務省からは森林管理に6.5億ドル、自然保全地域の火災対策に8.5億ドルが盛り込まれているが、こうしたオーソドックスな環境保全対策はごく一部であり、「グリーン」といっても有効需要を創出し、お金を回していくという目的から見れば、エネルギー分野が中心になるのはやむを得ない。

 しかし、気がかりなのは、経済のエネルギー効率が高まり、化石燃料依存から脱却できたとしても、米国が貧富の格差を是正しないまま、一層の物質的豊かさや便利さを「ドリーム」という言葉で追求していく感覚が変わらなければ、本当の意味で「持続可能な社会」を実現できるのだろうかという点である。

 株式市場も、風力発電、太陽光発電、LED照明、家庭用燃料電池、リチウムイオン電池、次世代型自動車などの関連銘柄に提灯をつけているが、一方で、化学物質の使用を抑制したり、長寿命化を志向したり、製品の回収・再生に努力する企業を、マーケットで評価していこうという機運は吹き飛ばされてしまった観がある。

 経済不況が、都合のよい環境対策だけをクローズアップさせている側面はないだろうか。「グリーン・ニューディール」がブームのように語られる一方で、安易な楽観主義は常に戒められなければならない。

(株式会社日本総合研究所 足達 英一郎)