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「環境で成長する」とはどういうことか

 2009年12月に「新成長戦略(基本方針)」が閣議決定され、環境、健康、観光の3分野で100 兆円超の「新たな需要の創造」により雇用を生むというビジョンが示されて以降、果たして「環境で経済成長はできるのか」という素朴な疑問をたびたび受ける。確かに、再生可能エネルギーの導入によって電力料金が上昇し、炭素制約の少ない発展途上国に我が国の生産拠点がいっそう移転して国内の雇用機会が減少すれば、「経済成長にはマイナス」という連想になるのが自然だろう。

 現在、想定されている「環境で成長する」シナリオとは、仮に可処分所得の減少によって消費が一時的に減退したとしても、低炭素社会移行のための設備投資を官民で起こすことで国内の新たな生産活動を誘発し、所得、雇用を創出するという道筋があるというものである。確かに、ケインズ経済学に従えば、有効需要としての「投資」の存在意義はある。「穴を掘ってまた埋めるような公共事業でも、失業を放置して失業手当を払うよりいい」という論理にほかならない。しかし、官民挙げてソーラーパネルや風力発電所を日本中に設置し、建物の断熱化を進め、交通手段を次世代自動車に置き換えていけば、向こう10年間、経済が黙っていても成長してくれるというのは、明らかに楽観的すぎる。

 第一に政府支出によって行われる低炭素化投資は、無駄な公共事業の削減が前提でなければならない。第二に低炭素化投資が長期的にエネルギー支出の削減に貢献できるものでなければならない。第三に国内の低炭素化投資が量産効果やイノベーションを生み出し、ソーラーパネル、LED、次世代自動車などの海外売上げを拡大させていくものでなければならない。

 仮に、人々が一晩にして「環境配慮製品なら高くても買う」と変身するのでもない限り、「環境で成長する」ためには上記の条件が不可欠である。そうした条件は単一の省庁の思い付きで実現できるはずはなく、「百年の計」に近い総合政策として構想される必要がある。このことを改めて強調したい。

(株式会社日本総合研究所 足達 英一郎)