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自然を金銭換算する考え方の必然

 自然資本(natural capital)という考え方に、改めて関心が高まってきた。「未来にわたって価値のある商品やサービスのフローを生み出すストックとしての自然」という考え方で、具体的には、土壌、大気、水、植物相、動物相を指す。

 先日、行われた国連環境計画・金融イニシアチブの円卓会議でも「自然資本宣言」の採択に関する議論が行われた。宣言文は、金融機関が自然資本の価値を再認識するとともに、政府に対して経済的な資産として自然資本を維持・強化していくために必要な条件づくりを求める内容になっている。2012年に開催される「リオ+20」地球サミットに合わせて、世界の金融機関が採択する計画だ。

 こうした宣言が出される背景には、近年、化石燃料や鉱物資源と同様に、自然資本の劣化に対する懸念が高まり、その希少性が現実のものになってきていることがある。金融資本は、たとえば利子というかたちで経済価値を生み出す。これと同様に、自然資本は、たとえば食料というかたちで経済価値を生み出している。

 ある企業があって、自然資本を劣化させるような影響を与えているのだとしたら、それは企業価値の評価ではマイナスとなる。逆に自然資本を適切に維持、改善している企業があれば、プラスの企業価値評価を行う。こうした評価を、投融資や保険という金融活動の中に組み入れていくという構想である。

 もちろん、今後、自然資本とそれが生み出す経済価値を、どのように金銭換算するのか、その定式化への壮大な挑戦が金融機関を待ち構える。同時に、「自然を金銭換算する」ことへの抵抗感も出てこよう。しかし、現在の市場経済を前提とする限り、希少なものに値段がつくのは必然であり、逆に不当にタダと見なされているが故に浪費が発生しているともいえる。持続可能な社会と地球に向けた、金融機関が果たせる貢献の姿が「自然資本宣言」には凝縮されている。

(株式会社日本総合研究所 足達 英一郎)