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「あきらめたらそこで試合終了ですよ」という台詞

 オリンピック・パラリンピックを「責任あるイベント」として開催するということが近年、開催都市にとって常識となってきた。ここで「責任ある」というのは、施設整備や大会の運営に当たって、環境や社会に対する悪影響をできるだけ小さくするということである。「持続可能な」オリンピック・パラリンピックという表現が使われることもある。

 4月、ドイツ・ベルリンにおいて開催されていた気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の総会で、第5次評価報告書第3作業部会報告書(気候変動の緩和)が公表された。これで、3月に公表された第2作業部会報告書(影響・適応・脆弱性)、2013年9月に公表された第1作業部会報告書(自然科学的根拠)と併せ、7年ぶりに地球温暖化に関する最新の知見が取りまとめられたことになる。

 今回の第3作業部会報告書でショッキングなことは、「ほかのエネルギー源と比べて石炭の使用量が増加したことにより、世界のエネルギー供給が徐々に低炭素化していく長期にわたる傾向は逆転した」とされていることだろう。「2000年から2010年までの間、経済成長と人口増加はエネルギー強度の改善による排出削減を凌駕した」と、はっきり書かれているのを見ると、絶望感すら漂う。

 それでも、第3作業部会のエーデンホーファー共同議長は「将来的に、気温上昇を2℃以内に抑えるという目標を達成できる緩和策は数多くあります」と説いた。それは、あたかも「あきらめたらそこで試合終了ですよ」という台詞のように聞こえた。

 3月、第2作業部会で来日したパチャウリIPCC議長は、会議に先立って九州を訪れ、福岡県宗像市の中学生30人を前に気候変動のメカニズムについて解説した。認識と行動のギャップが、ますます大きくなっているということは認めざるを得ない。ただ、だからこそ、小さな行動でも光を当てていくことの意義はあるだろう。インターネットで公開されているレクチャーの映像を見て、あらためて、そのことを思った。

(株式会社日本総合研究所 足達 英一郎)