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気候変動への適応と忍耐力

 豪州の海水淡水化工場を訪れる機会を得た。豪州では1995年から2009年に至る期間、深刻な干ばつに直面したことが、こうした施設整備の背景にある。現在までに、6基の海水淡水化工場が各地で竣工している。逆浸透膜が納められたモジュールが見渡す限り並べられた光景は圧巻だった。

 2005年当時、たとえばシドニーでは、住民が住宅周辺の散水を許されるのは、水曜日と日曜日の午前10時以前と午後4時以降に限定され、手持ちホースかドリップ・システムしか認められなかったという。建物や自動車の水洗いは禁止で、違反者には220豪ドル(約2万円)の罰金が科せられたということだった。

 そうした状況を少しでも緩和すべく、巨額の費用を投じて建設された海水淡水化工場だが、足元では稼働率は半分以下。稼働を停止している工場もあるという。理由は簡単で、2010年になって降水量が一気に回復し、場所によっては台風で洪水の被害も発生する状況になっているからだ。

 運営会社の担当者は、「思いは複雑だが、今後、再び自分たちの施設が役に立つ時が来る。そのために施設を稼働し続けたい」と率直に話をしてくれた。気候変動とは、実に気まぐれな性格を有している。ときに、人間を翻弄することを楽しんでいるかのように見えることすらある。気候変動への適応には「長い目で見る」ことが必須なのだと、今回の訪問では教えられた。環境問題に向き合うには、未来の世代に向けた「想像力」とともに、気まぐれな変動への「忍耐力」もまた欠かせないのである。

(株式会社日本総合研究所 足達 英一郎)