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【World Fintech Festival 2021レポート】日本の金融DXの商機とアジアへの展望

2021年11月11・12日に、世界最大のフィンテックイベントであるWorld FinTech Festival(WFF)が開催されました。今回は2日間にわたって行われたセッションの中から、「日本が待ち望んでいたデジタルトランスフォーメーションとアジアへの展望」と題して、MPower Partners ゼネラル・パートナーの村上由美子氏をモデレーターに、SOMPOホールディングス株式会社 デジタル事業オーナー グループCDO 執行役専務である楢﨑浩一氏、シンガポール金融通貨庁でフィンテック最高責任者を務めるソプネンドゥ・モハンティ氏とともに、三井住友フィナンシャルグループ執行役専務 グループCDIO(チーフ・デジタル・イノべーション・オフィサー)を務める谷崎勝教が参加したパネルディスカッションの様子をレポートします。

登壇者:
楢﨑浩一氏(SOMPOホールディングス株式会社 デジタル事業オーナー グループCDO 執行役専務)
ソプネンドゥ・モハンティ氏(シンガポール金融通貨庁 フィンテック最高責任者)
谷崎勝教 (三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループ CDIO)
モデレーター:村上由美子氏(MPower Partners ゼネラル・パートナー)

日本がフィンテックで輝けるのは、Web3.0に移行しつつある「今」

村上今回は多様な背景を持つスピーカーにお集まりいただき、日本におけるデジタイゼーションの位置付け、日本のビジネス界における取り組みについて話を進めていきます。

モハンティ皆さまこんにちは。私はキャリアの中でも多くの年数を日本で過ごしてきました。その上で日本のDXへの取り組み、とりわけフィンテックについてはまだ潜在能力が発揮されていないと思います。日本がフィンテックで輝けるとしたら、それはWeb2.0からWeb3.0に移行しつつある今です。特に日本は、エンベディッドファイナンス(組み込み型金融)において強い基盤を持っています。他にもクラウドコンピューティングやAI、機械学習、IoTデバイスなどの強みを持っていますので、エンベディッドファイナンス、DeFi(Decentralized Finance/分散型金融)、グリーンファイナンスなど、さまざまな分野でグローバルなリーダーシップを発揮すべきです。

村上SMBCグループでデジタイゼーションを率いていらっしゃる谷崎さんには、取り組んでいるプロジェクトの内容や戦略についてお聞きしたいと思います。

谷崎中期的なビジネスプランの中で、グローバルソリューションプロバイダーになるという目標を掲げ、情報産業化、プラットフォーム化、ソリューションプロバイダー化という3つの方向性を打ち立てました。これらを実現していくため、そして将来の金融をより強化していくために、トランスフォーメーション・グロース・クオリティーという3つの基本的なポリシーを中期計画に盛り込んでいます。

日本がフィンテックで輝けるのは、Web3.0に移行しつつある「今」

さらに、SMBCグループの戦略に沿って4つの方向性を打ち立てました。1つ目はデジタルドメインの拡大です。金融のビジネスにデジタルを組み込み、さらに拡張していきます。モハンティ氏もおっしゃっているようにエンベデッドファイナンスを強めていくということです。2つ目はビジネスモデルを強化し、ユーザーインターフェースをより良くすることで、マネタイゼーションを拡大していきます。さらにユーザーエクスペリエンスをより魅力的にし、より一層データを活用していきます。3つ目は小売業と卸売業の統合です。プラットフォームを強化していきたいと思っています。そして4つ目はターゲット地域の拡大です。特に東南アジア地域に拡大し、最終的にはグローバルに拡大していこうと考えています。

今、注力しているのはエンベディッドファイナンスの分野です。SMBCグループでは、SNSやEコマース、フリーマーケット・アプリケーション・プロバイダーなど、多くの人がスマートフォン内で頻繁に利用するさまざまな決済手段を提供しています。エンベディッドファイナンスはグローバルでもトレンドとなっており、デジタライゼーションおよびサプライチェーンにおけるデジタル化の観点でも、特に私たちが注目しているものです。SMBCグループは、グローバルでさらに存在感を増していきたいと考えていますし、サプライチェーンファイナンスをプラットフォーマーおよび決算ソリューションプロバイダーと協力して拡大しようとしています。これは、今までの伝統的金融機関にはなかった取り組みであり、私たちのイノベーションの取り組みの成果だと考えています。

GAFAが勢いを増す今、日本人の「保守性」が欠点に

村上次にSOMPOホールディングスの楢﨑さんにお話を伺います。今後、データの扱い方が重要となってくると思いますが、御社はデータをどのように活用されているのでしょうか。

楢﨑私はシリコンバレーで14年過ごし、5つのスタートアップを率いたのち、SOMPOホールディングスでデジタル事業のオーナーをしています。そのような経歴を経て、私はデータとは石油や酸素のようなものだと考えています。つまり何かを燃やすために必要なものです。そして今、SOMPOには巨大なデータベースがあります。さらに従来の保険会社ではなく、予防的な役割も担う保険会社、総合的な会社になろうとしています。そのために必要なのはデータです。リアルデータの活用を促進していくため、SOMPOとの合弁会社として、パランティア・テクノロジーズ・ジャパンを立ち上げ、CEOを務めています。

村上今データについてのお話がありましたが、日本特有のデータに関する課題には何があると思われますか。

楢﨑GAFAやFANGAと言われる会社があります。最近、FacebookがMetaと社名を変えましたのでMANGAと呼びましょうか。Meta、Amazon、Netflix、Google、Appleですね。MANGAはデータの管理を徹底しており、Amazonは誰が何を買ったかを知っていますし、Netflixは誰がどんなビデオを好きか知っています。しかし、彼らが使っていないのは現実世界のデータです。これに関しては、loTデバイスを開発する企業があり、実際にデバイスを設置している日本にアドバンテージがあると考えています。

私たちの毎日の生活、行動はIoTのデバイスやセンサーが検知し、その情報を記録しています。そういったデータを使うのは今だと思っていますし、日本の経済や社会にとってメリットがあります。しかし、日本社会の欠点は大変保守的だということです。金塊はそこに眠っているのに、その上に座っている状態です。MANGAの人たちが前進し続けている今、失敗を恐れる、間違いが嫌いなどの日本人のメンタリティはあまりにも保守的ですね。

マインド・カルチャーを変えないと、金融機関は生き残れない

村上日本は変化を躊躇しがちだというお話がありましたが、日本だけでなくアメリカやシンガポールの状況もよくご存知のモハンティさんは、これに対してどうお考えでしょうか。

モハンティ変化はニーズによってもたらされるものです。そして文化にも影響を受けます。そういう意味で、シンガポールは既存の多くのインフラが非効率的ですから、変化に対する大きなニーズがあります。一方で、日本はもはや非常に効率的な社会ですから、ニーズ自体は強くありません。しかし日本は世界の経済やシステムと連携をしていく必要がありますので、変化は必要ですし、独自のアーキテクチャーやカルチャーを変えていく必要があります。一方で、私は日本の文化的な強みは適応力だと考えています。決して、日本は新しいことに適応できないわけではありません。準備はできていますし、まさに今、変化すべき時でもあります。

谷崎私たちは伝統的な金融機関ですが、変化しなければいけないと思っています。これまで金融機関はITを、コスト削減など自社のために使ってきました。しかしこれからは、非金融のプレーヤーのやり方も参考にしながら、より進化した新しいサービスを、テクノロジーを用いて顧客に提供していくべきです。必要あれば、私たちのマインドや、社内カルチャーを変えていく必要がある。そうしないと金融機関は生き残れないと思っています。新しい考え方や構造をもとに、SMBCグループは変化していく必要があると思っています。

ビジネスのスピード感に比べ、遅れを取る規制の問題

村上データやテクノロジーに関しては、ビジネスのスピード感に比べて、規制の面が追いついていないということもあると思います。谷崎さん、この点はどうお考えでしょうか?

谷崎SMBCグループでは、エンベディッドファイナンスの拡大やプラットフォーマーとの協力を強化し、SaaS型のサービスや中小企業向けのサービスも拡大しています。一方で金融機関は大変厳しい規制にさらされています。デジタル・ビジネスは新しい領域ということもあって、必ずしもルールがイコールフッティングになっていない部分もあります。公平な競争を加速させていくのであれば、レベルプレイングフィールドが必要であり、そうすることでイノベーションは加速できると考えています。

村上楢﨑さんはシリコンバレーの状況をよくご存知ですが、今の日本の規制の状況をどのように捉えていますか?

楢﨑金融のマーケットにおいて非常に厳しい規制があることは事実だと思いますが、それ自体はあまり心配していません。なぜなら、私たちはリスクを抱える機関だからです。これからはより、組み込み型のサービスに移行していくと思いますが、時がくれば規制が整ってくるはずです。一方で、私が懸念しているのは、日本のIPOの条件が簡単すぎるという点です。ビジネスモデルがまだ脆弱で、スケールも大きくない時点での上場が可能です。スタートアップであれば上場して資金を得ることができますが、それで終わりになってしまう場合も多い。一方で、プライベートエクイティのマーケットはリスクが高いにもかかわらず、まだ成熟していない。非上場でもデカコーンやユニコーンとして、エクイティやストックオプションを魅力的にすることもできます。これも規制の問題だと思います。

村上モハンティさんは、日本の規制をどのように変えていくべきだとお考えですか?

モハンティ多くのフィンテック・テクノロジー企業が、保険会社や銀行のデジタル化を支えていますが、B2B(企業間取引)のフィンテックということで、規制の対象になっていません。しかし海外でのリスクマネジメントなど規制上の義務はあります。こういった規制に対する対応もこれから強化していくべきだと思います。またスタートアップ企業が金融サービスを提供する際は、まず小さいサービスから始めます。これらに対して、アクティビティベースの規制をかけるのはどうかと思います。ビジネスの範囲が大きくなるにつれてリスクも大きくなりますので、それに比例した形で規制を大きくしていく。それによって、企業の成長を促すことができると思います。

優秀なデジタル・グローバル人材を日本に惹きつけるために

村上最後に、デジタルの世界において優秀な人材を日本に集めるにはどうしたらいいのでしょうか。

モハンティ日本は世界の優秀な人材をもっと誘致するべきですし、政府もそれを促し、サポートすべきです。そうしなければ成長はできないでしょう。世界の優秀な人材を集め、政府・産業界で協力していくことで成長が可能となるでしょう。また女性はもちろん、ダイバーシティの観点も重視すべきです。

楢﨑世界の優秀な人材を惹きつけることは、新しいことをするためにも重要です。SOMPOも新しい合弁会社として新しいスタートアップを作りましたが、伝統的企業であったとしても、そういった方法で新たな人材を集めるべきです。

谷崎テクノロジーの技術が長けている人材というだけでなく、テクノロジーの知識とともにビジネスを生み出しリードしていけるデジタルビジネス人材を世界中から招きたいと思っています。

村上今、日本ではデジタイゼーションに関して多くのうねりがあります。新しい政権が立ち上がり、ポテンシャルも大きく面白い状況です。本日の素晴らしいディスカッションとともに、興味深いアイデアの成果が生まれることを楽しみにしています。本日はありがとうございました。

今回のセッションでは、日本のフィンテック分野における強みから、日本市場ならではの規制の問題、そして最も重要とされるデジタル・グローバル人材を日本に惹きつけるために必要なことなど、多岐に渡るディスカッションが行われました。World FinTech Festivalでは上記の講演に加え、フィンテック・DX・スタートアップ・デジタル通貨等、世界各国から集った73人のスピーカーによる金融にまつわる多数のセッションが開催されました。イベント動画のアーカイブ配信は下記にてご確認いただけます。

11月11日(木)

日本語同時通訳付

オリジナル音声

11月12日(金)

日本語同時通訳付

オリジナル音声

フィンテック
(FinTech)

類義語:

金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語。銀行や証券、保険などの金融分野に、IT技術を組み合わせることで生まれた新しいサービスや事業領域などを指す。

Web3.0
()

類義語:

非中央集権のインターネット。これまで情報を独占してきた巨大企業に対し、デジタル技術を活用して分散管理することで情報の主権を民主的なものにしようとする、新しいインターネットのあり方を表す概念。読み方は「ウェブスリー」。

仮想通貨
(Digital Currency)

類義語:

  • 暗号資産,デジタル通貨

電子データのみでやりとりされる通貨であり、法定通貨のように国家による強制通用力(金銭債務の弁済手段として用いられる法的効力)を持たず、主にインターネット上での取引などに用いられる。

IoT
(Internet of Things)

類義語:

  • ICT

従来インターネットに接続されていなかった様々なモノ(センサー機器、駆動装置(アクチュエーター)、住宅・建物、車、家電製品、電子機器など)が、ネットワークを通じてサーバーやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換をし新たなビジネスモデルを創出する仕組み。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

DeFi
(Decentralized Finance)

類義語:

  • 分散型金融

ブロックチェーンを用いて、金融機関を介さずに無人で金融取引を行う仕組みのこと。読み方は「ディーファイ」。

SaaS
(Software as a Service)

類義語:

Software as a Serviceの略。読み方は「サーズ」。ソフトウェアを利用者側に導入するのではなく、提供者側で稼働しているものをネットワーク経由でサービスとして利用することを指す。納期短縮、設備投資削減などの効果がある。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。