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創業14年で東証一部上場、Sansan株式会社 CEO寺田氏に学ぶ「創業のリアル」

SMBCグループの、オープンイノベーション拠点 hoops link tokyo。この場所で誕生したさまざまなオープンイノベーションを後押ししてきたのが、2018年2月より12回にわたり、事業家・スタートアップ経営者をお招きし、開催してきた「経営者道場」です。
2021年12月9日に行われた「第13回経営者道場」は、Sansan株式会社の創業者であり代表取締役社長 / CEOを務める寺田親弘氏をゲストに迎え開催しました。2007年に創業し、クラウド名刺管理サービスなどを手掛けるSansan株式会社は、2019年6月に東証マザーズに上場し、2021年1月には東証一部への上場を果たしています。
今回は、「Sansanから学ぶ創業のリアル」をテーマに、創業期からの壁の突破法のほか、寺田氏が第二の創業として取り組む、高専設立についてのお話をうかがいました。

創業から15年。Sansanはビジネスのインフラを目指す

寺田Sansanは名刺管理というイメージが強いと思いますが、「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションを掲げ、人と人、企業と企業の出会いからイノベーションを起こしていく企業です。

2007年に創業し、クラウド名刺管理サービスの「Sansan」、名刺アプリ「Eight」を主に提供しています。また直近では、クラウド請求書受領サービス「Bill One」の提供も始めており、「働き方を変えるDX」というコンセプトのもと、さまざまなサービスを提供しています。

創業して15年経ったSansanは、資金調達を5回ほど行い、マザーズ上場、そして東証一部への鞍替えなど、さまざまなことを経験してきました。そして昨年より、「ビジネスインフラになる」というビジョンを掲げています。「これがないと仕事にならない」と言われるようなサービスを複数展開することによって、人と人、企業と企業、さまざまな出会いを後押ししていく。今日のテーマは「壁を乗り越える」というものですが、私たちは今、「ビジネスインフラになる」という壁を乗り越えようとしています。

経営とは「10センチでもいいから昨日より前に進む」こと

寺田会社経営をしていると、毎日いろんな壁にぶつかります。でも、壁を越える方法は何なのか、実は私も知りません。ただ振り返ってみると、これかな?と思うことはあります。

元メジャーリーガーのイチロー氏は「小さな事を積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道だと思っています」と語っています。非常に本質を突いた言葉だと思いますね。

私自身が心がけているのは「10センチでもいいから、昨日より前に進む」こと。壁の突破は山登りに似ていると思っていて、頂上に向かって10センチ進むのを毎日やっていくと景色が変わってくる。基本的には大きな目標に向かっていくのですが、10センチでも1センチでもいいという気持ちで前に進む事が、壁を超えるために重要だと思いますね。

Sansanも2007年の創業から多くの壁を乗り越えてきました。創業当初は「クラウド」という言葉もなかったし、インターネットでの名刺管理サービスもありませんでした。便利なサービスですが、なくても困るサービスでもありませんでした。だから、創業当初は鬼気迫るほど営業しました。今のようにリモートの環境ではありませんでしたが、1日8件は回っていましたね。

スキャナーとタッチパネルを常に持参して、ひたすらサービスの説明をしていました。その中から1社でも採用してくれればいいという思いで、本当に10センチでも前に進むという気持ちでがむしゃらにやっていました。最近は若手起業家から相談を受けることがよくあるのですが、総じて「もっと営業をしなさい」と思いますね。

Sansan創業メンバー

「正気の沙汰ではない」と反対されたTVCM制作

2013年にTVCMの放映を始めましたが、これも壁を突破すべく作ったものです。知名度も徐々に広がり、売り上げもあがる中でふと思ったのです。「このままだと、少しいい感じの中小企業ができる。こんなショボい感じでいいのだろうか?」と。

そこでTVCMを作ろうと考えました。今でこそ、BtoBの企業が多額のお金を調達し、CMを放映するのは当たり前になっていますが、当時は多くの人から「正気の沙汰ではない」と言われました。それでも、どう考えてもSansanのサービスはCMに向いていると思いました。そこで何人かの著名クリエイターにご相談に行ったのですが、当時一緒に行ってくれた広報によると、ひどい言われようだったようです。結局、タグボートという超一流のクリエイティブ集団にCMを作ってもらえることになったのですが、使える金額が1億円程度ならやめたほうがいいと言われました。そこで、シリーズAで5億の資金調達を行い、そのお金を全て注ぎ込んだのが最初のCMです。実際に、私が会社勤め時代に感じた「早く言ってよ~」という気持ちをそのまま、クリエイティブにしました。CM効果もあいまって、Sansanとして伸び続けることができたと思っています。

最初のCMの映像

私たちの創業からの歩みを表面的に話せば格好良く見えますが、そんな話ばかりではないです。毎日血の滲むような努力をしながら登っている。現在も山頂に着いたなんて気持ちは全くなくて、毎日前を向きながら登っている日々です。それでも、「10センチでも前に進む」ことが私にとっての壁を突破する方法だと感じていますし、これが積み重ねてきたSansanのリアルです。

第二の創業・高専作りのリアル

寺田最近、私が壁にぶち当たりながら10センチずつ進めているプロジェクトが「学校づくり」です。2023年4月に徳島県神山町に開校予定の私立高等専門学校「神山まるごと高専」(仮称・認可申請中)です。

私自身はビジネスが主戦場ですが、ビジネスだと必ずしも届かない社会課題の解決で、私ができる事はないかとずっと考えていました。行き着いたのが「学校の設立」と「起業家育成」でした。

高専のコンセプトは「テクノロジー×デザインで、人間の未来を作る学校」、ビジョンは「神山町からシリコンバレーを生み出す」。世間的に高専は馴染みがないかもしれませんが、日本において高専はモノづくり人材を輩出する素晴らしい教育機関だと思います。

ただ、現代においてモノづくりの意味が変わってきている中でアップデートが必要だと私自身は感じていました。現代的なモノづくりのアップデートは、つまるところテクノロジーとデザインだと思ったのです。

高専設立には「資金の壁」「教員確保の壁」「審査の壁」など多くの壁があります。学校づくりにはとにかく資金が必要です。もちろん私自身も資金を出しています。でも、全て自分で出すわけにもいきませんし、「お金には色がある」が私の持論ですので、仲間集めでお金を集めるという意味を込めて、この1年間はひたすら営業をしています。

Sansanの創業当初と同じく1日8件ほどのアポイントをとったと思います。必要な資金は二十数億円なので、なりふり構わずアポをとり、移動中の車の中でも電話やオンラインで営業しまくりました。

日立製作所の東原会長が徳島出身・阿南高専出身という話を聞き、秘書室に連絡をしてアポを取って30分だけ時間をもらい、死ぬほど熱いピッチをしたこともあります。東原会長の「君は誰だ?」から始まり、「怪しいものでありません。30分だけお願いします」とピッチをして、熱いラブレターを何回も送り、その後は食事に誘っていただいて、寄付を決めていただきました。

なりふり構わず営業した結果、25億円以上の資金を集め、文科省に申請しました。こうした状況に私は非常にワクワクしています。
会社経営も学校作りも、私ができるのはただ、「昨日より10センチ進む」事です。もうそれしかない。会社経営も学校作りも辛いです。なぜ一生懸命やれるのか、実は私もよくわりません。

でも、私は「世界を変えたい」と思って生きています。10センチでもずっと前に進んでいくと自分一人の出来事ではなくなるのです。

会社経営も学校づくりも、心が折れそうになるときもあります。でも、気づいたら周りに人がいる。周りの人も「ここに命を懸けている」と思うと頑張れる。これを繰り返していくと、いつか山頂に着くかもしれない。それが壁を越える唯一の方法だと思っています。

僕は学校づくりを第二の起業と捉えています。学校づくりと聞くと、社会的に大成した人が人生最後のフェーズでやる印象もありますが、自分でやると決めた時には「成長途上にいる自分がやる事に意味がある」と開き直ったのです。

学校づくりは、ぶち当たる壁が会社経営と全く違うので本当に毎日が大変で、筋肉痛になる感覚です。
学校づくりの筋肉痛を日々体感する中で、起業・創業は自身の成長に繋がると改めて思いました。先日読んだジム・コリンズの本に、「スティーブ・ジョブズの話を成功の物語と捉えるのか、成長の物語と捉えるのか。絶対的に後者である」と書かれていました。

つまり、「人々は多分、『成功した人を成功すべくして成功した』と思いがちですが、実際は成長しているから成功した。成長の物語でしかない」のです。成長の一歩を踏み出すのは人生を豊かにするキッカケになると思いますので、チャンスがあればどんどん挑戦をしてほしいですし、僕も挑戦を続けていきます。

プレゼンテーション終了後には、「事業作りに必要な視点」「新規事業の構想の仕方」「ビジョン・ミッションの変遷」など参加者から多くの質問が寄せられました。hoops link tokyoでは、さまざまな人々が出会い、語らい、ともに挑戦するためのオープンイノベーションの場として、今後も事業家・スタートアップ経営者をお呼びしたイベント「経営者道場」を開催してまいります。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • Sansan代表取締役/CEO

    寺田 親弘氏

    神山まるごと高専(仮称・認可申請中)理事長候補
    慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、三井物産株式会社へ入社。情報産業部門に配属された後、米国・シリコンバレーでベンチャー企業の日本向けビジネス展開支援に従事。帰国後は、社内ベンチャーとしてデータベースソフトウエアの輸入販売を行う部門を立ち上げ。その後、関連会社に出向し、経営企画・管理業務を担当。2007年、Sansan株式会社を創業。

この記事でご紹介したサービス
オープンイノベーション
(Open Innovation)

類義語:

製品開発や技術改革、研究開発や組織改革などにおいて、自社以外の組織や機関などが持つ知識や技術を柔軟に取り込んで自前主義からの脱却し、市場機会の増加を図ること。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。