DXへの取組
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お客さまと共にDXを加速させていく。SMBCグループ全従業員対象のデジタル変革プログラム「デジタルユニバーシティ」が目指すもの

2016年にSMBCグループのデジタルIT専門教育組織として発足した「デジタルユニバーシティ」。2020年にSMBCグループが、非金融分野への挑戦などを盛り込んだ「最高の信頼を通じて、お客さま・社会とともに発展するグローバルソリューションプロバイダー」という経営ビジョンを掲げDXの取り組みをさらに加速させたことを受け、2021年からはグループ5万人以上の全従業員に向けた「デジタル変革プログラム」をスタートさせています。

GAFAなどのデジタル企業がグローバルにおけるビジネスの覇権を握り、全ての企業にとってデジタルの活用が必須となっている今、全従業員を対象にしたデジタルユニバーシティのプログラムにより、従業員のマインドはどう変化しているのか。そしてそれをお客さまにどう還元していけるのか。

今回はデジタルユニバーシティの構築に携わっている三井住友銀行 システム統括部の普照伶(ふしょう さとし)氏と日本総合研究所 HRマネジメント部の藤野亮太氏に、SMBCグループが目指すDX教育の目的と未来について聞きました。

知識を詰め込むのではなく、デジタルを学ぶ意味から理解してもらう

デジタルユニバーシティが立ち上がった2016年は、DXやデジタルシフトという言葉は今ほど使われてない状況ですよね。当時の状況を教えてください。

藤野当時はまだ、DXやデジタルという言葉は世の中のトレンドになっていない時期で、デジタルユニバーシティも最初は「ITユニバーシティ」という名前で始まりました。SMBCグループでもインターネットバンキングの取引がどんどん増加するなど、ITを活用しないビジネスはほとんどない状況になっていました。そんな状況下ではビジネスを企画する人間もシステムを構築している日本総合研究所やパートナー企業の方と同じ目線で話ができないと、望みどおりのサービスを生み出すことができません。

そういった背景のもと、当時三井住友銀行 システム統括部と日本総合研究所が中心になり立ち上げたのがITユニバーシティでした。当初は商品・サービスの企画を通してシステムに関わる人を対象にしていましたが、その後、デジタルがビジネスのコア部分も担うようになってきたため、2019年にデジタルユニバーシティと名を変えて、DXについて本格的に学べるプログラムを提供するようになりました。

日本総合研究所 HRマネジメント部 藤野亮太氏

2021年からは、SMBCグループの全従業員向けに「デジタル変革プログラム」というプログラムを開始していますが、従来のプログラムからどのような点が変わったのでしょうか?

藤野ITユニバーシティ時代は例えば業務フロー図の描き方など、主に手法や知識にフォーカスした研修をしていましたが、デジタル変革プログラムでは「なぜデジタルを学ぶ必要があるのか?」というマインドにフォーカスすることを重視しています。マインドとは学習の土台に当たるので、そこがしっかりできていないとどれだけデジタルに関する知識を学んだとしても、実際のビジネスに活用することができないと考えています。また、システムを「作る人」「企画する人」だけではなく「使う人」も含めた、グループ内の全従業員5万人以上を対象にしたのもこのプログラムの特徴です。

デジタルユニバーシティでは「マインド」「リテラシー」「スキル」という段階ごとのプログラムが組まれていますが、具体的な内容について教えてください。

藤野まず「マインド」ですが、全従業員向けに計5時間ほどの動画プログラムで、最近のデジタル環境がどう変化しているのか、なぜデジタルを学ぶ必要があるのか、といったことを伝えてマインドを醸成しています。同じ部署で働く仲間とデジタルについて考える場としてワークショップも開催しています。
「リテラシー」については社用携帯を持っている一部の従業員はDigital Biotopeというグループ専用のスマホアプリでスキマ時間に学習することができる他、SMBCグループ全従業員が勉強会や動画で最新のデジタル知識に触れられる場を作っています。勉強会では外部の有識者の他、日本総合研究所内の「先端技術ラボ」のメンバーにも登壇してもらっています。ラボには学会で発表するようなメンバーもいて、そうした知見を共有してもらえるのはとてもありがたいです。

勉強会の参加者はどのくらいの人数でしょうか?

藤野1時間以上集中して行うものから、ラジオ放送のようにながら聴きで気軽に参加できるものまで形式も様々で、時間帯にもよりますが、50人から多いときは200人ぐらいの参加者がいます。

普照ラジオ形式のものですと、毎回100人ほどの参加者がいます。ブレインテックやNFTなど最新のテクノロジーについての話から、SMBCグループ内で新たに生まれたデジタル子会社の事業やサービスの紹介まで、内容は多岐に渡ります。これまで30回程度放送していますが、若い従業員から役員まで幅広くご参加いただいています。このように、あらゆる形でリテラシーを高めるためのアプローチをかけています。
最後の「スキル」に該当する実践的なコンテンツは、注力して拡充を進めていますが、面白いところだとNPO法人とコラボレーションして、親子でプログラミング的思考を学ぶワークショップなどがあり、好評を博しています。

デジタルに関する従業員の意識にはどのような変化がありましたか?

藤野最近ではデジタルに課題意識を感じるお客さまも増えていますし、そもそもビジネスモデルそのものがデジタル技術を前提に成り立っているスタートアップのお客さまも増えています。お客さまからデジタルに関する相談を受けることが増えていく中で、自分たちのビジネスやSMBCグループ内だけでDXを推進していくのではなく、お客さまと一緒にDXに取り組んでいかなければいけないという意識は高まっています。ITソリューションを担うグループ会社や、グループ内の専門部署に属する従業員だけが学ぶのではなくて、全ての従業員がしっかり学ばなければいけないと、従業員一人ひとりが感じているように思います。

気軽に書き込める社内SNSから生まれる新規事業

ちなみに、SMBCグループの社内SNSでは日々活発に従業員同士の意見交換がなされているそうですが、詳しく教えてください。

普照SMBCグループでは社内SNSを利用しており、デジタルユニバーシティのコミュニティには700人以上が参加して日々意見のやり取りをしています。役員も見ていまして、従業員が投稿したアイデアに「いいね」していたり、実際のビジネスにつながったりする動きもあります。

これまで、銀行を含む世の多くの企業では稟議書を書いてさまざまな案件を通していたと思いますが、面白いアイデアがあれば社内SNSに投稿して賛同者を増やし、フラットに判断してもらう。今までのSMBCグループにはなかった仕事の進め方が生まれたことは、とても面白いなと感じています。今後はこうした社内SNSから生まれるビジネスも増えてくるのではないでしょうか。

三井住友銀行 システム統括部 普照伶氏

藤野これまでは誰かが実現したいアイデアを持っていたとしても、頭の中で思っているだけだったり、飲み会で誰かに話して終わったりしていたと思います。それを社内SNSに発信すれば多くの人の目に留まり、共感する人が現れたら少しずつ輪が広がっていく。これは今までになかった形ですね。

一方通行の講義の場から、誰もが自分のナレッジを発信できる場へ

デジタルユニバーシティの取り組みが、2021年のIT賞(※)を受賞されました。どういった部分が評価されたのか教えてください。

(※)公益社団法人企業情報化協会(IT協会)が主宰する表彰制度。主に、優れたIT化推進の取り組みを行う企業・団体に対し授与している。

普照デジタルユニバーシティはSMBCグループの全従業員を対象にしています。それも100人とか1,000人の単位ではなく、グループ5万人以上が対象です。他に類を見ない規模での全従業員へのデジタル教育であることが一つの評価ポイントかと思います。その他、社内で単に実績を作るための勉強会ではなくて、従業員のその先にいるお客さまのことを真摯に考え取り組んできたスタンスも評価いただいたと考えています。

プログラムを受講した従業員からは、どのようなリアクションがありますか?

普照お客さまにもデジタルの勉強会を提供したいから、私たちをトレーニングして欲しい」という現場からの要望が届くようになりました。これは非常に嬉しいリアクションでしたね。そういった要望に応えるべく、昨年度は50以上の拠点向けに勉強会を開催しました。

藤野ITユニバーシティは運営が用意した有識者が、主に知識を教える場所でした。デジタルユニバーシティに変わって私が最近感じていることは、いろいろな部署でデジタルを活用した動きが同時多発で起こってきていて、ともすれば私たちよりも先に行っている方も数多くいるということです。今や、SMBCグループでは非金融のビジネスを展開するデジタル子会社も複数立ち上がっていますし、「自分たちも発信機会が欲しい」という依頼も増えてきています。将来的にはデジタルユニバーシティが「皆が学ぶ場」に留まらず「皆が自分のナレッジを発信するためのプラットフォーム」になればいいと思っています。

普照また、お客さまと意見交換させていただく中で気づいたのが、デジタル人材の育成・教育についての悩みを、多くの企業が持っているということです。これはまだ構想段階のお話ですが、そういったお客さまに対して私たちがパートナーとなり、一緒に成長していくこともできるのではないかと考えています。

社内向けのプログラムを外部に開放する可能性もあるということでしょうか?

普照将来的にはその可能性もあります。今年に入ってからは毎週のようにお客さまからデジタル人材育成や教育に関するご相談をいただいており、可能な限りそういったご意見は直接伺うようにしています。非金融の分野に関して数多くのご相談をいただいていることはとてもありがたく感じており、デジタルユニバーシティもSMBCグループが目指す、「お客さま・社会とともに発展するグローバルソリューションプロバイダー」に近づきたいと考えています。

では最後に今後の短期的な展望と、中長期的な展望を教えてください。

普照まず短期的な展望としては、より実践型の教育にシフトしていきたいです。SMBCグループの従業員は膨大な業務を処理する多忙な毎日を送っているので、すぐにでも使えるような実践的スキルを提供したいと考えています。今までの座学によるインプット中心の教育も継続しつつも、実践型のアウトプットを求める教育の割合を高めることが短期的な目標です。

中長期的な展望としては、SMBCグループとしてより良い社会を実現できるような貢献をすることです。今は社内向けの教育プログラムを提供することがメインとなっていますが、先ほど言及した外部へのコンテンツ開放のように、社内という枠を取り払って考えると、できることはまだまだあるのではないかと考えています。この記事を読んでくださった方も、私たちに興味をお持ちであれば是非コンタクトを取っていただきたいですし、社内外問わずにコミュニケーションをしていく中で、私たちができる形での貢献をして、より良い社会を実現したいという思いがあります。

藤野今までのデジタル教育はどうしても、ビジネスサイドの人がデジタル側に寄っていく構図が多い傾向にありました。けれども今後は、デジタル側の人間がビジネスサイドに寄っていく教育も必要になると考えていますので、そのための教育も充実させていきたいですね。中長期的には産学連携をより強化しながら、大学など外部にもデジタルユニバーシティを広げていきたいと考えています。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 三井住友銀行 システム統括部

    普照 伶氏

    2010年に三井住友銀行に入行。SMBCグループ各社のデジタル・IT戦略の企画立案や国際部門の大型システム担当などを経験し、現職に至る。現在はSMBCグループ各社のデジタル・IT教育を主導し、全従業員教育を実施。また社内に留まらずお客さま、社会への貢献を果たすべく、外部向け教育コンサルやセミナー登壇などの活動を行う。

  • 日本総合研究所 HRマネジメント部

    藤野 亮太氏

    2007年 ITエンジニアとして日本総合研究所へ入社。複数のシステム開発プロジェクトや三井住友銀行への出向を経て、2016年にITユニバーシティの立ち上げに参画。2019年10月より現職。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

NFT
(Non-Fungible Token)

類義語:

ブロックチェーン技術を使用した非代替性トークン。画像・動画・音声など、容易に複製可能なアイテムを一意なアイテムとして関連づけることが可能。