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【SMBCグループが見据える農業の未来 vol.1】なぜ、金融グループが農業領域に注力するのか。

農業従事者の高齢化や耕作放棄地の増加など、多くの課題を抱える農業。そこへ金融グループだからこそ果たせる役割とビジネスチャンスを見出し、積極的に参入してきたSMBCグループ。2016年には邦銀初となる農地所有適格法人「みらい共創ファーム秋田」を秋田県大潟村に設立し、多くの注目を集めました。本法人では、先端テクノロジーを用いたスマート農業の実装も進めています。

今回は三井住友銀行からサステナビリティ企画部 事業開発グループ 部長代理 小野寺友基氏、同グループ 部長代理 番匠峻史氏と、現在「みらい共創ファーム秋田」へ出向中の秋山峻亮氏、SMBCグループのシンクタンクであり、農業ビジネスの革新のための政策提言等を行う日本総合研究所の創発戦略センター エクスパート 三輪泰史氏、コンサルタント 多田理紗子氏の5名とともに、日本の農業の現状とビジネスとしての可能性、スマート農業の未来について明らかにしていきます。

儲かる農業から、持続可能な農業へ。SMBCグループが農業に取り組む理由

日本の農業が抱える課題と現状について教えてください。

三輪今、日本の農業は大きな転換点に差しかかっています。戦後から農業人口も産出額も減少し続け、反比例するように耕作放棄地や荒廃農地が増えてきました。最近になりようやく明るい話題が出始めてきて、輸出額が1兆円を超えたり、農業で成功するようなスター農家がどんどん出てきたりしています。日本の農業は儲からない産業から儲かる産業に転換しようとしている最中です。

しかし、農家の高齢化や肥料価格の高騰などの逆風に加え、最近は食料の安全保障についての課題も深刻です。海外からの食料や家畜の飼料、肥料の輸入が難しくなっている現状があり、戦後の日本の農業においても最大のピンチと呼べる状況です。私たちとしてはそういったピンチにおいても、前に進むための方法を農家の皆さんに示していきたいですね。

日本総合研究所 創発戦略センター エクスパート 三輪泰史氏

SMBCは農業に対して、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか? また、農業に着目した理由を教えてください。

番匠具体的な取り組みとして、一般的なご融資の他お客様の取り組み状況を評価する「SMBC食・農評価融資」等、金融機関としてのご支援を多数行っています。2016年8月には秋田県大潟村にメガバンクとしては初の農地所有適格法人「みらい共創ファーム秋田」を立ち上げ、継続的に出向者を派遣しています。本日参加の小野寺、番匠も出向経験者です。

三輪さんのご発言にある通り、農業は大きな変革の岐路に立っています。その変革を机上で待つのではなく、主体的に変革を進めていきたいとの想いが参入の背景です。積極的に現場を知り、どこに課題があるのかを自ら掴みに行き、農業の課題解決に取組んでいます。

三井住友銀行 サステナビリティ企画部 事業開発グループ 部長代理 番匠峻史氏

小野寺なぜSMBCグループが農業に取り組んでいるのかと、よくお客さまから聞かれることがあります。ベースの考えには、金融グループとして、成長産業化・市場創造をしていきたいという思いがあります。とりわけ農業分野はさまざまな課題が目の前にあり、それらに対し地域やお客さまと連携しながら、課題にアプローチし、日本の農業を持続可能なものにしていきたいと考えています。

三井住友銀行 サステナビリティ企画部 事業開発グループ 部長代理 小野寺友基氏

SMBCグループの農業への取り組みの中で、日本総研はどのような役割を担っているのでしょうか?

三輪私たちは「日本農業の再生請負人」になるべく、2008年から農業に特化したチームを立ち上げています。その年は、ちょうど日本の農業が保護産業から成長産業に切り替わる兆しが出始めた時期です。小規模な農家を補助金で守っていくだけではなくて、自立を目指す形で政策が立てられ、現場の方が動き始めたタイミングですね。私たちはシンクタンクとして政策提言・事業インキュベーション・コンサルティングという三つの柱で農業のV字回復を目指し活動しています。

政策については農林水産省とタッグを組んで、2008年には「農産物の流通改革」、2016年には「スマート農業」に関する新しいコンセプトを掲げ、具現化に向けての取り組みを進めてきました。2010年には農産物のブランド化を担うベンチャー企業を、2020年には「DONKEY」という小型農業ロボットの開発・販売を担うベンチャー企業を他社と共同で設立しました。「DONKEY」は、2016年に日本総研がコンセプトを打ち出した小型の自律多機能ロボットで、中小規模農家を主なユーザーとして想定しています。当時大型機械一辺倒になっていた農機市場に我々が投じた一石でした。政策のサポートだけでなく、自分たちがファーストペンギンとして行動していくことがモットーです。陰ながらではありますが、農家のポテンシャルを最大限に引き出すような活動を続けていく。それが日本総研の役割です。

スマート農業ではドローンやパワードスーツ*などを活用していますが、農業とは最先端のテクノロジーが集まる場所でもあるのでしょうか?

三輪そうですね、「最先端技術を試したいという企業や研究者は農村に来る」というのがトレンドになっています。例えばドローンの研究者や事業者は、まず農村でビジネスをやりたいと考えます。ロボットやパワードスーツ*も同様です。「みらい共創ファーム秋田」でも、実際にドローンを活用して農地の撮影を行い、その撮影データを農場の生産管理に活用しています。

農村は課題先進地域として日本の課題が最初に顕在化しますので、そこに研究開発のチャンス、その後のビジネスチャンスを見出して、国内外トップの研究者が集まってきています。ロボットの開発をしたいという理由で農村に移住する人も出てきています。イノベーションの拠点が農村という、長い農村の歴史の中でも特に注目度が高まっているタイミングだと思います。

*パワードスーツ:持ち上げ作業など腰等にかかる負担を軽減させる装着器具のこと。アシストスーツともいう。

「みらい共創ファーム秋田」が管理する水田

スマート農業を通じて移住者とベテラン農家の交流が促進

農村にそこまで注目が集まっているのですね。

三輪もう一つの面白い動きは、移住者が地域に溶け込むための起爆剤としてもスマート農業が注目されているということです。これまで農村に移住をして農業を始めた方は素人であり、教わる立場にありました。しかし、最近はスマート農業が主流になりつつあり、ドローンの操作方法やアプリの使い方については若い世代の方が長けているので、移住者がベテラン農家に頼られるような例も見られています。

そういったスマート農業の副次的な効果は、私たちの想像以上に多くの場面で役立っています。現場に行くとベテラン農家の方がスマートフォンの使い方を若い人に教えてもらう様子をよく見ます。それこそ孫のように可愛がっていることも多く、以前とは農村の雰囲気も変わってきたと感じます。新しい人が尊重される、歓迎される地域が増えてきました。

スマート農業を発端にして人間関係が変わるというのは、興味深い副次的な効果ですね。出向している秋山さんは、実際に暮らしてみてどのような印象をお持ちですか。

秋山農家の方同士は旧知の仲であることが多く、そこに新たに外部から来た組織が溶け込むのは簡単なことではありません。しかし、みらい共創ファーム秋田として、6年間以上現地で事業に取り組んできた中で、周囲との距離が少しずつ縮まっていること、また農業を取り巻く環境が少しずつ変化してきていることを感じています。

小野寺大潟村では、農家の皆さんと勉強会やスマート農業の大規模な実証実験を行ったこともあります。そうした取り組みを続ける中で、少しずつ地域からの信頼と協力を得ることができたからこそ、大規模な農業経営が実現できていると考えています。

SMBCグループが考える農業におけるサステナビリティとはどのようなものでしょうか?

番匠農家の高齢化、後継者不足等の「産業としての持続可能性」に加え、昨今は気候変動による自然災害等についても考えなければなりません。農業が依存している土壌や水などの自然資本、すなわち「環境としての持続可能性」が重要になりつつあります。グローバルな視点で見ると、温室効果ガス排出量の約25%は農業や林業、その他土地利用の産業から発生しているという調査結果もあります。

「産業としての持続可能性」と「環境としての持続可能性」。この両方を視野に入れることで、真にサステナビリティな農業に近づくものと考えています。

多田弊社では、農業に関わる人の暮らしという観点も重要視しています。近年、農業に関心のある若者などの地方への移住も増えつつありますが、周りに溶け込めなかったり、暮らしに不便さを感じたりして都市に戻るという例も多くあります。農作業自体はスマート化、DX化されてきていますが、農業に携わる方の暮らしの部分もカバーしていかないと、農業の持続性には結びついていきません。そういった背景から弊社では、農業生産だけではなく、暮らしを含めたDXという意味で、「農村DX」を提唱しているところです。

日本総合研究所 創発戦略センター コンサルタント 多田理紗子

農業の魅力を取り戻し、若年層が参入する産業へと変えていく

最後に、SMBCグループとして目指す農業の未来について教えてください。

小野寺農業に若い人がどんどん参入してくる環境を作りたいですね。今は高校や大学を卒業して「農業をやります」という人はごく少数です。農業に対する不安があるからでしょう。しかし、私たちが行動し、道筋を示していくことで、若い人たちが積極的に参加する産業にしていきたいです。

番匠私も同じで、農業を志す若い人が一人でも多く生まれる流れを作っていきたいですね。昨今は、地政学的な影響も加わり、肥料等の価格高騰も進んでいます。農業は国際情勢とも密接に絡んでいて一筋縄ではいかない難しさを感じています。その反面、例えばドローンや土壌分析を用いて肥料の散布量を減らす取り組みなど、テクノロジーの進化で解決出来る手段も増えてきました。 また、自ら販路開拓を行い経営改善に繋げた出向時代の経験からも、生産から販売までの食農バリューチェーンで捉えることが、結果として農業の持続可能性を高めることに繋がると思っています。

秋山今、実際に働いている身としても、農業者の高齢化は強く感じるところで、農業を志す若い人を増やすことが非常に重要であると実感しています。私たちの仕事を通して若い世代が新たに就農をしたいと思えるような、農業の魅力を発信することも重要なミッションだと考えています。

三井住友銀行 サステナビリティ企画部 事業開発グループ 秋山峻亮氏

多田農業というと農作物の生産・販売というイメージが強いと思いますが、それだけではなくて、さまざまな分野から農業に関われるような社会にしていきたいですね。ドローンを操縦できる方であれば、農家でなくても農薬散布のサポートができますし、エンジニアの方が農業の課題を解決するためにシステムを開発するという事例もあります。弊社はシンクタンクとして多くの企業と連携することが多いので、これまで農業外にいた方も農業に関わっていただくような流れを推進していきます。

三輪農業従事者の方が誇りを持って働けて、それに対して皆がリスペクトするような産業に、農業を戻したいですね。私たちの生活は農業が支えているにもかかわらず、食料はあって当然だとか、農業は儲からない斜陽産業だというレッテルを貼られてきました。しかし、国際情勢の変化や、SDGsなどの新しい概念に対する注目度が高まる中、多くの方が農業の価値、農家の素晴らしさに気づきつつあると思います。

農産物の価値を都市部の消費者に届けることによって、生産者は消費者を、消費者は生産者をリスペクトして感謝することができれば、農業のポテンシャルを十分に発揮できるようになるでしょう。環境と調和して持続的で社会にも貢献する産業として、農業は大きな柱になりうる可能性を持っています。これからも、本来の農業をあるべき場所に戻していくお手伝いをしていきます。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 株式会社三井住友フィナンシャルグループ サステナビリティ企画部
    兼 株式会社三井住友銀行 サステナビリティ企画部 事業開発グループ 部長代理

    小野寺 友基氏

    2009年に三井住友銀行へ入行。
    東京、名古屋での法人営業、新規事業開発を経て、2017年に初代出向者として(株)みらい共創ファーム秋田の事業立ち上げを担当。現在は、サステナビリティ関連投資や脱炭素関連事業への取組に従事。

  • 株式会社三井住友フィナンシャルグループ サステナビリティ企画部
    兼 株式会社三井住友銀行 サステナビリティ企画部 事業開発グループ 部長代理

    番匠 峻史氏

    2012年に三井住友銀行へ入行。
    浜松、東京での法人営業、新規事業開発を経て、2020年に(株)みらい共創ファーム秋田へ出向。現在は銀行から同社の事業運営に携わると共に、フード&アグリビジネス分野での事業開発や脱炭素関連事業への取組に従事。

  • 株式会社三井住友フィナンシャルグループ サステナビリティ企画部
    兼 株式会社三井住友銀行 サステナビリティ企画部 事業開発グループ 調査役

    秋山 峻亮氏

    2012年に三井住友銀行へ入行。長野での法人営業経験を経た後、プライベートバンキングビジネスをはじめとする企画業務等に従事。2022年1月より、(株)みらい共創ファーム秋田に出向し、経営企画業務を行う。

  • 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター エクスパート

    三輪 泰史氏

    2004年に日本総合研究所へ入社。
    農林水産省食料・農業・農村政策審議会委員、同省食料安全保障アドバイザリーボード委員、高知県IoP推進機構理事等を歴任。

  • 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター コンサルタント

    多田 理紗子氏

    2019年に日本総合研究所へ入社。
    農業・食分野を中心に、新規プロジェクトの企画設計・実行支援および調査・コンサルティングを行う。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。