DXへの取組
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【SMBCグループが見据える農業の未来 vol.2】経験・ノウハウはデジタルで継承。SMBCグループがDXで紡ぐ今後の農業

農業従事者の高齢化や耕作放棄地の増加など、多くの課題を抱える農業にビジネスチャンスと金融グループだからこそ果たせる役割を見出し、積極的に参入してきたSMBCグループ。2016年には三井住友銀行と三井住友ファイナンス&リースが、農業法人等と共同で邦銀初となる農業法人「みらい共創ファーム秋田」を秋田県大潟村に設立し、多くの注目を集めました。本法人では、先端テクノロジーを用いたスマート農業の実装も進めています。

今回は三井住友銀行からサステナビリティ企画部 事業開発グループ 部長代理 小野寺友基氏、同グループ 部長代理 番匠峻史氏、現在出向中の秋山峻亮氏の3名に、「みらい共創ファーム秋田」設立の経緯や取組等について聞きました。

農業の発展をただ待つのではなく、成長産業に変えるべく法人を設立

2016年にみらい共創ファーム秋田の立ち上げに至った背景を教えてください。

小野寺みらい共創ファーム秋田を設立した2016年には、すでに農家の高齢化が進んでいました。平均年齢は60代後半、毎年10万人以上の農業従事者が減り続け、農業=衰退産業と言われていたのです。
高齢化とともに離農が進んでいる状況は、裏を返せば新しく農業を始める人に農地が集まりやすく、大規模化も進みやすいということになります。規制緩和により、企業の参入も増加傾向にありました。大規模化や企業参入が増えれば、銀行に対する資金需要も大きくなる。私たちはそのときを机上で待つのではなく、自ら農業生産に取り組み、農業の課題や生産者の悩みを理解することで、農業界へ貢献し、若い世代が参入しやすい環境を作りたい。結果として農業を成長産業へと変えたいという思いから、立ち上げに至りました。

三井住友銀行 サステナビリティ企画部 事業開発グループ 部長代理 小野寺友基氏

秋山立ち上げ当初は、離農する農家の受け皿となって、コメの大規模生産をしていくことを計画していました。コメは日本の主食であり、市場規模も大きいと考えていたからです。しかし実際に現場に入ってみると、稲作以上に露地作物での離農が進んでいました。秋田県の周辺地域では、稲作は田植え機やコンバイン等機械化されていましたが、露地野菜は手作業が多く生産も難しい為、先に離農が進み、休耕地や耕作放棄地が多くありました。稲作だけが農業の課題ではないということに気が付き、タマネギという露地野菜の生産にも取り組んでいくことになりました。

現在の生産取り組みや、その成果について教えてください。

番匠現在はタマネギを20ヘクタール、コメを30ヘクタール、計50ヘクタールの農地で生産をしています。東京ドームが約5ヘクタールなので、その10倍と言えば多少イメージが膨らみますでしょうか。

ドローンでの空撮写真

番匠タマネギというと、北海道や九州、淡路島などが産地として有名ですが、産地リレーする中で供給が少なくなる時期があり、その時期がちょうど、東北で生産した場合の収穫・出荷時期にあたります。同時期は中国からの輸入が中心となりますが、今までは東北にタマネギの大規模生産地がなく、故に技術普及も進んでいませんでした。

私たちが掲げる持続可能な農業モデルのキーワードに、「少人数大規模経営」が挙げられます。タマネギは種を撒く作業から収穫まで全て機械化できるため、少人数での大規模生産が可能な作物です。そこで、東北に大規模なタマネギの産地を作るべく、まず耕作放棄地の開墾からスタートしました。最初は種が上手く発芽しないなど苦労の連続でしたが、各種改善を重ねたことにより、現在はプロ農家に負けない水準まで生産も安定してきています。

スマート農業の取組もされているとお伺いしました。

秋山2021年の4月から農林水産省の「スマート農業加速化実証プロジェクト*」に採択いただき、デジタルで生産技術を向上させる取り組みを加速させています。新規就農者が安定して生産できるようなサービス提供を目指すことが目的のプロジェクトで、具体的には農作物の収穫見込時期や収穫予定量を積算温度等から算出、病気のリスクを定量化して表示することで事前対策を図る、といったデジタル駆使の実証です。

番匠コメもタマネギもPDCAを年に一回しか回せないため、一つの生産物に対して複数の改善アプローチを同時に行う必要があるという観点においては、やはりデジタル技術が不可欠です。勘と経験に頼ってきた今までの農業から脱却し、デジタルへの切り替え、これを今まさに実践しています。

タブレット上で、デジタルデータに基づいた生産管理を実施

*スマート農業加速化実証プロジェクト
農林水産省が実施する、ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用した「スマート農業」を実証し、スマート農業の社会実装を加速させていく事業。スマート農業技術を実際に生産現場に導入し、技術実証を行うとともに、技術の導入による経営への効果を明らかにすることを目的としている。
令和元年度から開始し、これまで全国205地区(令和元年度69地区、令和2年度55地区、令和2年度補正24地区、令和3年度34地区、令和4年度23地区を採択)において実証を行う。

農業とは、多くのステークホルダーと協力して初めて成り立つ産業

現在取り組まれている具体的な施策と目標について教えてください。

秋山私は昨年の11月から秋田に来て農業に従事していますが、今年儲かるかどうかという短いスパンの話のみならず、中長期的な目線での実証にも積極的に取り組んでいます。
例えば水稲においては、「ちほみのり」という多収量品種の作物を「密苗」と呼ばれるコスト削減・省力を実現する技術を用いて栽培。高い品質を維持しながら、収益性と効率性を実現すべく取り組んでいます。また現在、ある企業様と共同で水田におけるメタン削減の実証も進めています。メタンは二酸化炭素の25倍の温室効果を持つガスであり、これが水田から大量に放出されています。コメの生産過程には、苗に酸素を供給し元気にするために一度水田の水を抜く「中干し」という工程がありますが、その期間を延長することで土中から出るメタンの量を削減できます。実証では、中干し期間を延長することで収穫量や品質にどのような影響が出るのかを衛星データや水田に設置したセンサーから測り、効果を検証。実用化が検討できれば、今度は取組を普及していきたいと考えています。

現在も秋田で農業に従事されている秋山さんに重ねてのご質問です。実際に農業の現場に飛び込んでの苦労や農業のやりがいはどんなものがありましたか?

秋山自然を相手にする農業ならではの難しさを強く感じています。事前に緻密な計画を策定しても、天候不順等で農作業の遅れや生育への影響等が発生します。そんな中で都度柔軟に対応し、工夫しながら取り組んでいく。簡単なことではありませんが、一方で無事に収穫を迎えた時の喜びもひとしおです。
また、自分一人では何もできないことを実感しています。取り組みをしていく上で、多くの関係者、ステークホルダーとの繋がりが欠かせません。その中で自分の思いを伝え、共有しながら、自分自身も汗を流して農作業に従事する。喜びや悲しみを皆さんと分かち合うことによって初めてその地域に認められ、受け入れてもらえると感じています。
デジタルに関する取り組みでも、同じ目線に立つことが大切です。周りの農家の方は数十年農業をやっているので、自分ならではの拘りや責任感もあり、良くも悪くも今までのやり方を変えることに抵抗感をお持ちの方が多いです。自らも手を動かしながら、もっとこうしたら改善できるのではないかということを言葉で説明していく。それを繰り返しながら新たなシステムやデジタルを導入しており、少しずつ変化を生みだしてきています。

番匠同感です。出向していた私が最初に取り組んだことの1つに、デジタルでの農作業記録導入があります。いつ、誰が、どこで、何をやっているのかを農作業を担う一人ひとりに記録してもらうことで、蓄積したデータを分析し、経営に活かす試みでした。最初は入力が全然続きませんでしたね。農作業は仕事ですが、私の説明不足もあり、それを記録することまでは仕事ではないと思われていた節があったかもしれません。取り組みの意義を丁寧に説明し、インナーサークルに入って理解してもらうように試みた結果、現在では、何をしているのかがタイムリーに把握できるようになりました。現場の皆さんに協力していただき、このような体制が構築できていることは非常にありがたく感じています。

三井住友銀行 サステナビリティ企画部 事業開発グループ 部長代理 番匠峻史氏

データを活用した農業モデルを確立し、東北をタマネギの一大産地に

みらい共創ファーム秋田が目指す形と、地域における役割について教えてください。

秋山実際に周りの農家でも、農家の高齢化が進む中、ケガや病気、農機の故障といったタイミングで農業を離れる人が多いと耳にします。若い世代の参入がないと立ち行かなくなると感じています。

東北をタマネギの一大産地化にすることを目指した「東北タマネギ研究開発プラットフォーム」の設立にも、発起人としてみらい共創ファーム秋田が関わっています。国の技術機関や総合商社などとタッグ組みながら、タマネギの一大産地化を目指すにはどのようなスキームが必要なのか。多くの企業様にも参画いただき、議論を重ね、戦略を考えていきます。

三井住友銀行 サステナビリティ企画部 事業開発グループ 秋山峻亮氏

小野寺地域の皆様との連携ももちろんですが、農業に参入しているお客さまや参入を検討しようとしている企業の皆様とも様々な連携を進めていきたいと考えています。ぜひみらい共創ファーム秋田の取組みを知っていただき、私たちが持っている農地やこれまでの経験も活用していただき、事業共創ができたら嬉しいです。

番匠地域への貢献という点では、農業の経営モデルを確立することです。農業を一から始めようとしても、なかなか最初は上手くいかないケースが多いと思います。しかし私たちがデジタル化されたモデルを作り、使ってもらうことができれば、最初から70点を取れるようになるかもしれない。ベースとしてデジタルを活用してもらい、その上に培ってきた経験があれば、より農業は発展していくでしょう。先ほどお話しした農水省の「スマート農業加速化実証プロジェクト」は、まさにそのための一歩です。

センサーを設置し、生産管理をデータ化

では最後に、この記事を読んで農業に興味を持った方へのメッセージをお願いします。

小野寺農業は本当に難しいものです。自分で生産をして販売もして、さらには経営の視点も持つ必要がある。農作物は工場で作る機械と違い、気温や天候の影響を大きく受けますし、その時々によって生育状況も異なります。しかしそういった難しさの反面、大きなやりがいもあるのが農業です。持続可能な農業の実現に向け、大きな風穴を開けるような取り組みをぜひ一緒に実現させていただきたいと思っていますので、よろしくお願いします。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 株式会社三井住友フィナンシャルグループ サステナビリティ企画部
    兼 株式会社三井住友銀行 サステナビリティ企画部 事業開発グループ 部長代理

    小野寺 友基氏

    2009年に三井住友銀行へ入行。
    東京、名古屋での法人営業、新規事業開発を経て、2017年に初代出向者として(株)みらい共創ファーム秋田の事業立ち上げを担当。
    現在は、サステナビリティ関連投資や脱炭素関連事業への取組に従事。

  • 株式会社三井住友フィナンシャルグループ サステナビリティ企画部
    兼 株式会社三井住友銀行 サステナビリティ企画部 事業開発グループ 部長代理

    番匠 峻史氏

    2012年に三井住友銀行へ入行。
    浜松、東京での法人営業、新規事業開発を経て、2020年に (株)みらい共創ファーム秋田へ出向。
    現在は銀行から同社の事業運営に携わると共に、フード&アグリビジネス分野での事業開発や脱炭素関連事業への取組に従事。

  • 株式会社三井住友フィナンシャルグループ サステナビリティ企画部
    兼 株式会社三井住友銀行 サステナビリティ企画部 事業開発グループ 調査役

    秋山 峻亮氏

    2012年に三井住友銀行へ入行。
    長野での法人営業経験を経た後、プライベートバンキングビジネスをはじめとする企画業務等に従事。
    2022年1月より、(株)みらい共創ファーム秋田に出向し、経営企画業務を行う。