DXへの取組
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「ゼロ事務」の実現で、大企業向けのサービスを中小・ベンチャー企業へ。三井住友銀行アセットファイナンス営業部がデジタルサービスを続々と生み出せる理由

国内初の「でんさいWEB買取サービス『GRATIA(グラティア)』」や、ポートフォリオ型ファクタリング(保証)のオンラインサービス『Amulet(アミュレット)』などの開発・提供を担う三井住友銀行アセットファイナンス営業部。

今まで人の手を介して行っていた取引にデジタルを取り入れることで、今まで大企業にしか提供できていなかったサービスを中小・ベンチャーにも広げることを可能にしています。

なぜ、アセットファイナンス営業部はデジタルを活用した法人向けデジタルソリューションを続々と生み出すことができるのか。また今後の展望とは。三井住友銀行 アセットファイナンス営業部 部長 石原 久稔氏、副部長 川島 智氏、部長代理 中武 信佑氏、同 加川 悠貴氏に話を聞きました。

デジタルの活用で人手が必要な商品を「ゼロ事務」化

まず、アセットファイナンス営業部について教えてください。

石原我々の業務は銀行の中でも少し特殊で、法人同士の商取引の間で発生した債権の買い取りや保証などに関わる業務を行っています。

川島具体的にはお客さまの商取引に着目して、関連したアセット(資産)を活用したファイナンス(事業のための資金調達)やリスクヘッジ、財務指標の改善などのソリューションを提供しています。商品としては、お客さまが保有している売掛債権をウィズアウトリコース(買戻条件無し)で買い取ることで資金調達手段を提供する「債権流動化」、売掛債権の支払を保証する「ポートフォリオ型ファクタリング(保証)」や、「サプライヤーファイナンス」といったものを取り扱っています。

中武サプライヤーファイナンスは、大企業の信用力の高さを生かして、取引先のお客さまに対してファイナンスを行うものです。商取引上、仕入れをする際は掛け払いでさまざまな売掛債権が発生します。それらの債権をファクタリング会社等で買い取り、資金を前倒しでお支払いするのがサプライヤーファイナンスです。

石原債権の買取や保証に関しては、当行にもリスクがありますので、契約やコンプライアンスにまつわることを逐次確認する必要があります。確認すべきことが千差万別だからこそ、これまでは企業ごとのオーダーメイドになっていました。

一方で、デジタルを活用して対象となる間口を広げようとした場合、あるお客さまに提供した商品が他のお客さまにも提供できるという「再現性」がないといけません。でんさい流動化に関連する商品は、デジタルになじみやすいことに加え、再現性が高く、標準化できる可能性がありました。そこで開発を開始したのが、でんさいWEB買取サービス『GRATIA』とポートフォリオ型ファクタリング(保証)をweb上で受付可能とした『Amulet』です。

GRATIAは、これまで大手企業対象にオーダーメイドで行っていた「でんさい買取」の期中取引の一連の流れをデジタルで完結させたものです。デジタルを活用することでコストと業務に関わる時間を大幅に低減でき、これまでアプローチできていなかった中小企業のお客さまにも、新たな資金調達の方法として提供できる商品となりました。GRATIAならではのメリットに、例えば赤字が続いているベンチャー企業であっても、信用力の高い企業の債権を持っていれば、買取を依頼することで、資金調達が可能となるという点があります。

この商品の一番の特徴は「ゼロ事務」だと思っています。お客さまがWEB上で操作し、でんさいの買取を申し込まれ、審査を経てお返しをする工程を、人手を介さず完全に自動で行っています。法人向けのファイナンス業務で、こうした自動化が達成できたのは画期的だと考えていますし、これができたからこそ中小企業向けにも提供できるツールになり得たのだと思っています。

開発決定からリリースまで1年間。短期間で実現できた秘訣

国内初の「でんさいWEB買取」のサービスリリースをなぜ実現できたのか。また開発決定から1年という短期間でサービスの提供が開始できた理由について教えてください。

加川当行は、新規デジタル事業の投資決定を行う場として、毎月「CDIOミーティング」という会議があります。この会議が開催される前までは、あるアイデアがあったとしても絶対にリスクが無いような状態にまで企画を固めないと発表がしづらい状況がありました。けれども、CDIOミーティングでは、「発想とやりたい理由」をきちんと突き詰めて考えておけば、話を聞いてもらえる機会があります。このような機会があることも商品開発が具現化した理由だと思います。

石原短期間でリリースできた理由として、でんさい買取は、既に大手企業向けに人手を介したサービスを提供しており、部内で事務手続きの一つひとつの工程を完全に理解していたことが挙げられます。システム開発では要件定義に工数と時間がかかります。しかし、要件はすでに自分達の頭の中にありましたから、すぐにデジタル化のロジックに落とし込むことができました。加えて要件定義の経験があるメンバーも多数いたことにも恵まれました。

開発を担当した日本総合研究所も我々の商品に理解がありました。要件定義だけでなく、その後の詳細設計やUAT(User Acceptance Testing:ユーザー受け入れテスト)も初めてではありませんでした。こうしたことが短期間での開発につながったと考えています。

川島開発ではどうしても問題が発生します。どうしたら問題を解決できるのかを常に考え、メンバーで同じベクトルを持ちながら「諦めない」という意識を強く持つようにしています。また、問題の解決に向けて必要なリソースは惜しみなく提供しようという意識で接しています。日本総合研究所のメンバーとも「同じボートに乗っている」という気持ちでこの案件に携われたことも、大きかったと思います。

中武協業していく際に、「相手はどうやりたいのか」ということも常に理解するように心がけていましたね。理解した上で、自分たちがやりたいこととの落とし所を見出すようにしていました。

大切にしているのは、デジタル化ではなく「顧客第一主義」

アセットファイナンス営業部が大事にしているマインドセットを教えてください。

石原2つあります。1つ目は、再現性はないけれどもオーダーメイドとして非常に付加価値の高い商品を提供していくこと。2つ目はそれらに何らかの工夫を加えて、提供できるお客さまを広げていくこと。こうした思考は部全体に浸透していると思います。当部は商品開発部隊です。開発した金融商品で、お客さまの課題解決を目指しています。付加価値向上のためには、常に専門性を磨くことを意識しています。

チーム運営で心がけている点について教えてください。

石原専門性を重視しているため、フラットな組織運営を心がけています。GRATIAの開発も、中堅の若手管理職をプロジェクトチーム(以下PT)のリーダーに任せました。

PTが上げてくる案件に関しては、否認するようなことはほとんどありませんが、一番大切な顧客第一主義、お客さま目線については重視しています。デジタルを使って誰に商品やサービスを届けたいのか、デジタルという手段が目的にかなっているのか。デジタルは手段であって目的ではありません。手段の目的化は避けたいですね。

川島当部は商品ごとに担当グループが別れていますが、PTはグループ横断で取り組んでいます。その方がさまざまな商品の知見を活用できるからです。グループ横断にすることでPTの活動が部全体に伝播しやすくなり、デジタル化を含めたPTの知見を他の商品に活かせる可能性も高まります。また、PTに任せたことで、デジタル感度が高い若手社員が中心となりオーナーシップをもって活躍してくれています。

意見やアイデアを話しやすいといったカルチャーがあるのでしょうか。

加川そうですね。当部は階層に関係なくコミュニケーションが取れていると思います。プロジェクトで壁に直面したときも、解決方法を部長の石原や副部長の川島を筆頭に上司や同僚に気軽に相談できましたし、急な質問にも気軽に答えて頂けて、教えていただいた経験や知見をもとに進めることができました。縦・横の情報共有もできているのではないでしょうか。部長以上の役職者が持つ縦の情報もタイムリーに共有してもらえています。

風通しがよく、イノベーションが生まれやすいチームなのですね。

石原ありがとうございます。当行にはファイナンシャルソリューション本部という部門があります。そこでは年に1度、優れた商品や取組が表彰されますが、一昨年はAmuletがベストイノベーション賞に選ばれています。

今後の展望についてお聞かせください。

中武本当のプロフェッショナルであり続けたいと思っていますね。知識があることだけがプロフェッショナルではありません。持っている技術やノウハウを、デジタルやサステナビリティなど、新たなキーワードと掛け合わせ、世の中にないものを生み出していく。そういったことを大切にしていきたいと考えています。

石原大きく2つを考えています。1つ目はアセットファイナンスの領域での既存商品の推進と、SMBCグループ各社がもつ商品との掛けあわせによる価値創造です。

担当する商品のGRATIAとAmuletをさらに推進することはもちろんですが、これらの商品だけでは限界があります。SMBCグループにはアセットファイナンスの領域でビジネスをしているグループ会社があります。こうしたグループ会社の商品と我々の商品を組み合わせた価値を作って行きたいですね。

オーダーメイドの分野では、グループ会社の商品と我々の商品を組み合わせることで、新しい商品やサービスができつつあります。バリューチェーンの中でビジネスをしているグループ会社の商品のデジタル化をサポートし、商品を組み合わせてデジタル上に実装することを考えています。

2つ目は、デジタルだからこそできる商品を作ること。既存の商品をシンプルにWEB上に実装した商品は、GRATIAとAmuletで実現できました。しかし、今後はデジタルだからこそできる商品を開発したいと考えています。難易度が上がり時間も必要だと思いますが、チームの経験値が上がっていますので、この領域に踏み込んでいきたいですね。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 株式会社三井住友銀行 アセットファイナンス営業部 部長

    石原 久稔氏

    1990年同志社大学工学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行。
    支店勤務を経て1997年から14年間債権流動化業務に従事。
    主に電機大手や総合商社向けの財務ソリューション営業と商品開発を担当。
    2011年から3年間セディナ(現SMBCファイナンスサービス)に出向。
    2017年信託部長、2020年4月より現職。

  • アセットファイナンス営業部 副部長

    川島 智氏

    1998年に大学卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)へ入行。
    東京での法人営業を経て、2002年より一貫して債権流動化・証券化やサプライヤーファイナンス等のアセットファイナンスに関連する業務に従事。

  • アセットファイナンス営業部 営業推進第二グループ 部長代理

    中武 信佑氏

    2014年に三井住友銀行へ入行。
    法人営業を経て2017年にアセットファイナンス営業部に着任。
    着任後はサプライヤーファイナンスの営業や企画、商品開発に従事。

  • アセットファイナンス営業部 業務企画グループ 部長代理

    加川 悠貴氏

    2013年大学卒業後に三井住友銀行へ入行。
    大阪での中小企業向けの法人営業、リスク管理部門での業務を経て、2018年よりアセットファイナンス営業部。
    債権流動化の営業を経て、現在は業務企画グループにてポートフォリオ型ファクタリングの企画業務に従事。