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【Willbox×SMBCベンチャーキャピタル】旧態依然とした国際物流業界をDXで変革する

アナログな業務フローが根強く残り、多重下請け構造が常態化している国際物流の世界。そんな構造的な問題をDXで解決するべく生まれたのが、国際物流プラットフォームGihoです。創業から3年ほどで、既に約160の物流事業者の情報をデータベース化し、最適な荷主企業と物流事業者のマッチングを可能にしています。

Gihoの登場により、旧態依然とした業界の構造はどのように変わるのでしょうか。今回はGihoを開発したWillboxの代表取締役 神 一誠氏と、シリーズAラウンドでのリード投資家となったSMBCベンチャーキャピタル 投資営業第一部長を務める中野 哲治氏にお話を伺い、物流業界の今後を紐解きます。

従来は1週間を要した見積の作成も、Gihoであれば最短10秒

御社の提供するGihoの概要を教えてください。

Willboxは「国際物流をより最適に、よりスマートに。」というミッションをもとに立ち上げた会社です。Gihoは国際物流のプラットフォームであり、主な荷主である工業製品メーカーと物流事業者をマッチングさせます。我々が扱うのは500キロを超える工作機械がメインで、それら大型貨物を海外に輸送するお手伝いをしています。

Gihoの導入により、どのような課題が解決されるのでしょうか?

物流業界には「時間」と「お金」と「安全」という課題があります。荷主企業の「時間」の課題として、見積を取るだけで最短で1日、2日、長いと1週間以上の時間を要しますが、Gihoであれば最短10秒。どんなに遅くても24時間以内には見積が出て発注まで可能です。「お金」の課題についてですが、この業界は情報の非対称性が強く輸送費はほぼ言い値の世界です。物流事業者が「500万」といえばそれが輸送費になってしまいますが、Gihoを経由することで適正な見積価格を算出することができ、結果としてコロナ禍において平均15%のプライスダウンの実現に至りました。

一方の物流事業者も同じ課題を抱えています。「時間」の面でいえば、1日の6割を見積書作成に費やしても8割が失注するという効率の悪さが常態化しています。また「お金」についても多重下請け構造の業界なので、末端の物流事業者になればなるほど薄利多売のビジネスになっています。物流事業者がGihoを利用することで、高収益かつ高単価、自分たちの得意とする貨物の案件が自動的に舞い込んできます。

見積に1週間以上を要するというのは、どのような理由からでしょうか?

物流工程に関わるプレイヤーの多さが主な原因です。運送の領域、倉庫の領域、梱包の領域から複数社に相見積を取るだけで多大な時間を要します。実際に貨物を発送した後でも、さまざまな場所で伝言ゲームによる齟齬が発生して確認に時間を取られるケースも多く、発注の前後どちらにおいても時間がかかってしまう課題がありました。

物流業界は標準化、平準化が遅れている業界です。梱包費一つを見ても「梱包費」「輸出梱包費」「木枠梱包費」などの名称があり、どこまでの費用が含まれているかは各社によってバラバラな状況です。そこで我々は物流業界になかった「データベース」の構築をもう一つのミッションとして掲げています。

旅行業界や不動産業界はデジタル化が進んでいるので、旅行サイトを見ればホテルの空室状況が分かりますよね。これはデータベースがあるから可能な仕組みです。不動産業界であれば事業者だけが閲覧できる不動産情報のサービスがありますし、これもデータベースのおかげです。一方で、物流業界ではどの事業者がどのような設備とハードを所有していて、具体的な料金やスケジュールはどうなっているのか、一切共有されていません。そこで我々は各社を訪問して、一社あたり200~500項目をヒアリングしてデータベースの構築を進めています。

例えば、フォークリフトの先端には爪と呼ばれるL字型のパーツがありますが、この長さを測ることでどのサイズの貨物まで運べるかが分かりますし、天井のクレーンの有無によっても吊り上げることが可能な貨物の種類が変わってきます。個々の事業者が得意とする貨物の種類を見極め、業界のデータベースを構築しています。すでに現状、160社ほどの物流事業者にご協力いただいています。

不測の事態でも、スムーズなマッチングを実現する160社の物流データベース

Gihoを国内の物流ではなく、国際物流に特化させた理由を教えてください。

私の実家は川崎港の近くにある、国際物流の梱包を手がける会社です。祖父が創業した会社で台湾にも事業所があり、私はそこの現場で働く中で日本の工業製品の評価の高さを、身をもって実感いたしました。優れた工業製品が世界中に輸出されれば、それだけ我々の手元にも利益が返ってくる。そのためのお手伝いをしたいと考え、国際物流の領域での創業を決めました。

Gihoという名称は、台湾で出会ったベテラン職人の名前が由来です。彼は巨大な工業製品を見ただけで「あの機械の幅は3.2メートルだな」と即座に寸法が割り出せる人で、誤差もわずか1、2センチという正確さでした。さらに、その機械に必要な梱包資材を会社に残っている資材と照らし合わせ、「これだけ足りないから、これだけ仕入れる必要がある。今の仕入れ値は○○だ」といったところまで一瞬で計算できてしまうのです。運送をお願いする事業者のトラックの台数も頭の中で計算できるので、瞬時に寸分の狂いもなく見積を出して、その場で受注をしてしまう。彼の知見をシステム化すれば物流の世界はよくなるだろうと考えました。

国際物流における梱包というプロセスの重要性について教えてください。

国際物流の世界ではコンテナの規格が決められていますが、中身はオーダーメイドの木箱になっています。この木箱の設計が早い段階でできないと、必要なコンテナ数が導き出せません。Willboxは梱包の重要性に着目して立ち上げたスタートアップです。

物流の世界では基本的に生産スケジュールよりも、物流スケジュールが優先されます。つまり、物流の都合に合わせてものづくりをする必要があるということです。けれども、半導体の不足や原料価格の高騰などのイレギュラーな要因で生産スケジュールが遅れることは多々あります。そういった不測の事態でもGihoをご利用いただければ、最適な物流事業者をマッチングさせることができます。

それを可能にしたのが160社の物流事業者のデータベースということですね。

そうですね。どの物流事業者のスケジュールに空きがあるのか、どんな貨物の輸送を得意としているのかを押さえているので、安定した物流とコストダウンを図れるGihoは多くのお客さまにご好評いただいています。

中野例えば、複数台の5トントラックが急遽必要になったときに手配できなかったとすると、貨物を1日、2日倉庫に置いておくだけで損害になってしまいます。巨大な貨物なので、稼働率が一気に下がってしまうためです。Gihoではそのようなことはなく、自分たちが必要なタイミングで最適な物流事業者を手配できる。これは荷主企業にとって大変価値のあることです。

Gihoのイメージを飛行機にたとえると、通常飛行機に乗るときは予約をしてフライトスケジュールに合わせて空港に行きますよね。でも、思い立ったときに空港に行って好きな時間に飛行機に乗れたらより便利になるでしょう。寝坊して飛行機を乗り過ごしても、次の便に問題なく乗れるようなイメージです。物流の世界をもっとフレキシブルに変えることがGihoの目的です。

業界全体を巻き込んで、物流の最適化を図る

御社は多数の船会社とのコネクションもあるそうですが、具体的に教えてください。

弊社は現在、多数の船会社様と直接連携して「703の航路、913のルート」(※2023年2月時点)をカバーしています。大手のフォワーダー(※1)と呼ばれる事業者でも数十の航路ですので、この数字がいかに大きいかお分かりいただけるかと思います。私たちはなにも既存の構造をディスラプト(破壊)してしまおうと思っているわけではなく、物流事業者もフォワーダーの皆さまもネットワーク化しているので、業界全体を巻き込んで物流の最適化を図っていきたいと考えています。

(※1)自らは輸送手段を持たないが、荷主と直接契約をして貨物輸送を行う事業者。

破壊的なイノベーションを狙っているのではなく、国際物流に関わるプレイヤーたちの利益になる仕組みを構築しているということですね。

おっしゃるとおりです。先ほどお伝えした160社の中には大手のフォワーダーさまも含まれています。これまでは物流業界のデータベースがなかったので、どこの物流事業者に空きがあるか分かりませんでした。物流業界の既存のビジネスモデルでは、各社が提携している会社の情報しか持ってないので、本当は隣の隣に空いているトラック会社があるかもしれないのに、それができなかったんです。

我々が目指しているのは業界の中での個別最適ではなく、全体を巻き込んだ全体最適の物流を提供することです。末端の物流事業者さまから、売上トップ10に入る複数の大手フォワーダーさままでご協力をいただいているので、いつでも最適な物流事業者同士をマッチングさせることが可能です。

「梱包」のプロセスを押さえていることがWillboxの強み

神さんと中野さんの出会いについて教えてください。

中野ちょうどコロナ禍が始まったころに、知人から神さんを紹介してもらいました。オンラインのミーティングで初めて顔合わせをしましたが、国際物流という領域に対してのインプットが膨大で、話の粒度が高くて深い。これがファーストインプレッションでした。

当時の神さんは、Gihoを立ち上げたはいいもののコロナ禍の影響で売上がほぼない状態でした。国際物流の世界で荷主と物流事業者をマッチングさせるサービスを、業界内の人間が生み出したことは素晴らしいですが、これだけではまだ投資をする理由としては弱いです。

Willboxの強みは「梱包」にフォーカスしていることです。梱包、つまり箱のサイズが決まらないと、貨物を運ぶトラックも、保管する倉庫もコンテナも決まりません。梱包のプロセスがシステム化されると、製品の情報を荷主が登録した瞬間に最適な物流事業者がマッチングされる。ここを握っていることが非常に魅力的でした。これはまさに、物流業界のインサイダーだった神さんが強い想いを持って創業したからこそ実現できたのだと思います。

物流業界には排他的な一面もありますが私は業界のインサイダーですので、協力体制にある160ほどの物流事業者のうち、100社ほどはスタート時からお付き合いがあります。最初は地道にテレアポから営業を始めました。興味を持っていただいた相手先に伺うと「○○さんの三代目か」なんて話題から始まり、結果として上手く話がまとまるなんてこともありました。

親の七光を使ったといえばそうかもしれませんが、やはり私自身が現場を経験していた点も大きかったと思います。現場では教科書を読んだだけでは身につかない学びもあるので、そういった点について言及すると相手方からの信頼は大きく向上します。そういう面では、物流業界に生まれたバックグラウンドが役に立ったと感じています。

我々がやっているのは、物流サービスではなくデータビジネス

中野さんに社外取締役をお願いした理由を教えてください。

昨年の10月にSMBCベンチャーキャピタルさまをリード投資家として、シリーズAラウンドで総額約7億円の資金調達を実施しました。中野さんは早い段階でリード投資家になることを明言してくださっていました。

最初の投資をお願いする際も実際の現場に来ていただきましたが、中野さんは最前線でずっと質問をしてくれた上で、帰りの車の中で「絶対に投資したいです」とおっしゃってくださり、実際そのとおりに投資いただきました。そんな中野さんには今後とも社外取締役としてサポートいただきたく思っています。

SMBCベンチャーキャピタルの投資を受けて、実現したいことはありますか?

銀行系のベンチャーキャピタルということで、将来的には物流業界のお金まわりをサポートしたり、貿易金融を手がけたりすることも視野に入れています。取引をするA社とB社が信用状を発行し、銀行を介してスムーズなお金のやり取りを行うにはSMBCグループのご協力が不可欠ですから、長い目でみたお付き合いができればと思います。

今後、国際物流の世界を変革するにあたって、短期的な展望と長期的な展望を教えてください。

直近の目標としては、我々がお付き合いしているお客さまたちの課題をしっかりと解消することです。現時点でGihoは大手機械系メーカーさま、総合商社さまを中心に100社ほどのお客さまに導入いただいています。まさに日本の国力を支えるような大企業ですので、その課題を解決して業界の発展に寄与していきます。

長期的な展望としては「国際物流をより最適に、よりスマートに。」というミッションを実現することで、業界に大きなインパクトを与えられると考えています。我々がやっているのは、どこかをディスラプトして自分たちだけがNo.1になればいい、といったビジネスではありません。目指しているのは旧態依然とした業界の構造を変えて、全員がハッピーになれるビジネスです。我々がやっているのは物流サービスではなくデータビジネスだと考えています。物流に必要なデータを集めて荷主企業にも物流事業者にも還元をして、確実で格安な物流を提供していきます。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • Willbox株式会社 代表取締役

    神 一誠氏

    Willbox代表取締役社長。
    1989年、神奈川県出身。
    大学卒業後、ディップ、マイナビで法人営業に従事。
    その後、家業で創業56年の総合物流会社に入社。
    物流の現場作業、営業、経営企画、台湾駐在を経て2019年より現職。

  • SMBCベンチャーキャピタル 株式会社 投資営業第一部長

    中野 哲治氏

    2008年三井住友銀行入行。
    以来、8年半に渡り中小~大企業への法人営業に従事、数百万円の小口融資から最大数百億円のLBOローンまでを主担当として実行。
    2016年10月よりSMBCベンチャーキャピタルにて勤務。
    Willbox株式会社 社外取締役。
    投資スコープは、PreシリーズA~シリーズAの産業DXが中心。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

ベンチャーキャピタル
(Venture Capital)

類義語:

未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンド。