米国フィンテック最新事情。ブロックチェーンおよびRBFスタートアップ動向を追う

AIやブロックチェーンなど、最新テクノロジーを活用した金融サービスであるフィンテック。特にシリコンバレーを中心としたアメリカでは、常に新しい動きが起きています。証券・金融システムに関するシステムソリューションサービスを提供する日興システムソリューションズは、サンフランシスコ駐在員事務所を構え、最新動向をウォッチし続けています。
今回は日興システムソリューションズ サンフランシスコ駐在員事務所の所長である萩原吉太郎氏に、2022年にアメリカのフィンテック領域で特に話題を集めたブロックチェーンに関連するスタートアップの動向と、昨今スタートアップの資金調達方法として期待が高まるRBF(レベニュー・ベースド・ファイナンス)について解説いただきました。
注目を集めるブロックチェーン関連スタートアップとは
アメリカのフィンテック領域はどのような状況にあるのか、教えてください。
昨今、米国株式市場は長い調整局面に入っており、多くのフィンテックスタートアップが資金調達計画の見直しを迫られています。例えば米国デジタルバンク最大手のChime(チャイム)は、2022年前半に予定していた上場を延期しています。また、BNPL(*1)サービス大手のKlarna(クラーナ)は、2021年資金調達時の456億ドルという巨大な評価額から、2022年には評価額が約80%減の67億ドルとなっています。多くのスタートアップが、株式市場調整の影響を大きく受けているといえます。
なかでも注目度が高い暗号資産領域においては、ステーブルコインの「テラUSD」が急落したり、暗号資産レンディング(貸し付け)企業であるCelsius(セルシウス)が破産申請をしたりしました。直近では暗号資産取引所大手のFTXが破綻するなど、今後に影響を与える大きな出来事が続きました。
一方で、フィンテックスタートアップに対するVC(ベンチャーキャピタル)の投資が急減したかというと、そうとも言い切れません。2021年からは大きく減少していますが、コロナ禍でフィンテックへの関心が高まった2020年とほぼ同じ水準となっています。通常、VCの投資期間は10年から15年といわれており、目先の株価にはあまり影響されません。2021年のように強気一辺倒ではありませんが、 VCは有望なスタートアップには引き続き投資しており、今こそ優良スタートアップへ投資すべきと考えているようにも見えます。なかでも、ブロックチェーン領域への投資は引き続き高水準を保っています。そう考えると、今後、ブロックチェーン領域のスタートアップが大きく伸びる可能性があるといえるでしょう。
(*1)Buy Now Pay Laterの略で、後払いサービスのこと。
ブロックチェーン関連スタートアップへの投資が拡大しているとのことですが、その中でもどのような企業が注目を集めているのでしょうか。
特に金融という視点で見た場合ですが、大きく3つの領域のスタートアップが注目されています。
その1つが、機関投資家の代理人として、有価証券の保管・管理等を行う業務、カストディサービスを、暗号資産の領域において行うスタートアップです。この領域で今成長している企業にはFireblocks(ファイヤーブロックス)があります。この企業は2021年12月にシリーズEで5億5000万ドルの大型資金調達を行っています。
暗号資産を安全に確保するためには、様々な技術が必要ですが、その1つにプライベートキーの管理があります。通常は取引所に暗号資産をすべて預けるので、取引所に任せます。しかしお客さまのお金を預かって保全する機関投資家たちは、お客さま資産の安全性を考え、しっかりと管理してくれる会社に任せたいと考えます。そのため、Fireblocksをはじめとする、機関投資家向けに暗号資産の保管・取引などのプラットフォームサービスを提供するスタートアップが伸びているのです。
最近では、世界最大手のカストディアンであるThe Bank of New York Mellon Corporation(バンク・オブ・ニューヨーク・メロン)が、暗号資産に対応したカストディサービスをはじめるにあたり、Fireblocksを採用しています。多くの金融機関がこのようなサービスに注目しており、既に暗号資産に対するカストディサービスを提供しているスタートアップとの協業に関心を高めています。この領域は今後、一層期待できると感じています。
2つ目がWeb3ウォレットです。これはDeFiなど分散型金融でお金をやり取りするときや、NFT(Non-Fungible Token偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ)を使うときに必要になるものです。
Web3ウォレットは特にNFTが盛り上がった時期にユーザーが増加しました。Web3ウォレットとしてもっとも有名な、Consensys(コンセンシス)が提供するMetaMask(メタマスク)はアクティブユーザー数が3,000万を超えたといいます。例えばRobinhood(ロビンフッド)やChime(チャイム)といった大手のフィンテックスタートアップのユーザー数が1,000~2,000万であることを考えると、利用者はかなり多いことがわかります。今後、MetaMaskを中心としたサービスや商品の開発が進む可能性もあるでしょう。
一方、暗号資産大手もこの領域に力を入れています。Coinbase(コインベース)、 Binance(バイナンス)は買収などによりWeb3ウォレットを既に提供しており、Robinhood(ロビンフッド)も既にβ版をリリースしています。
Robinhood(ロビンフッド)は、もともとモバイル証券の大手ですが、最近は株式市場の低迷により収益が伸び悩む状況となりつつあります。一方で仮想通貨、暗号資産のビジネスは比重として高くなっているため、彼らとしては、この暗号資産ビジネスでなんとか大きいシェアを取りたいとの思いがあるのでしょう。
3つ目がペイメント(支払い)の領域です。暗号資産のステーブルコインを使ってペイメントを行う、あるいは送金を行うアプリを開発するスタートアップが登場しています。
このようなスタートアップの中には、アフリカなど金融サービスが未成熟な地域をターゲットにしているところも増えています。たとえば、アフリカの人が出稼ぎにヨーロッパやアメリカに行き、その稼ぎをブロックチェーンで送金する、という形で利用されているようです。アフリカは人口が非常に多いので、そこで成功したスタートアップが世界進出をしていくことも、長い視点で見るとあり得るでしょう。
スタートアップの新たな資金調達方法として期待が高まるRBF
次に、新たなスタートアップの資金調達方法として期待が高まっているRBF(レベニュー・ベースド・ファイナンス)について教えてください。
RBF(レベニュー・ベースド・ファイナンス)とは、将来想定される売り上げに基づいて、企業が資金を調達できる手法です。売り上げの確度が高いことが条件ですが、貸し手は過剰なリスクを想定する必要がなく、借り手は合理的な条件で資金調達できるというメリットがあります。
今まで企業の資金調達といえば、新株発行または銀行融資が中心でした。しかしこれらは時間がかかったり、前者は株式価値の希薄化、後者は個人保証が求められたりと、企業にとって難しい点もありました。
しかし既に売上が立っている、もしくは将来的に売上が立つ予定がある、という企業もあります。そういった確実性の高い売上を元にしてお金を前借りできるようにするのがRBFです。スタートアップはマーケティングや新規採用、固定資産の購入など、すぐに必要なものも多く、資金を柔軟に調達したいというニーズがあるので、RBFはそれに対して迅速に対応できるという強みもあります。
RBFはSaaSスタートアップと相性が良いといわれています。SaaSスタートアップは基本的にはサブスクリプションベースでユーザーにサービスを提供するところが多く、将来の売上予測がつきやすいのです。貸す側からしても、かなりの確率で回収可能なため、低リスクでお金を貸すことができます。
現在SaaSサービスは非常に拡大しているため、RBFは新しい資金調達の手法として選択肢として定着していく可能性があります。
2021年より、RBFを手がけるスタートアップは躍進しており、資金調達は前年比から7倍以上となっています。このような状況からも、RBFを手掛けるスタートアップは拡大期にあるといえるでしょう。
RBFを手掛けるスタートアップの特徴に、与信判断やリスク管理を行う際にデータに基づいた分析を行うという点があります。貸出先の企業の会計システムやサブスクリプションの管理システムなどと連携して、彼らの情報をほとんどリアルタイムで把握できるスタートアップも存在します。それによってより正確な与信判断、リスク管理できることが強みであり、今までの貸付と違う点です。
RBFスタートアップは、大きく分けてバランスシート型と、マーケットプレイス型の2つに分類されます。バランスシート型はRBFを手掛けているスタートアップ企業が、自社の判断でお金を貸す方法です。一方でマーケットプレイス型は借り手と貸し手をマッチングし、途中で手数料をもらう方法です。バランスシート型で注目を集めている企業にはCapchase(キャップチェイス)、Clearco(クリアコ)などがあり、マーケットプレイス型ではPIPE(パイプ)という企業が伸びを見せています。
RBFを手掛けるスタートアップは高度な予信判断を売りにしていますが、専門的にデータ分析ができる人が集まった会社なのでしょうか?
私はそう思います。PIPE、Capchase、Clearcoのような企業は、金融スタートアップというよりもテックスタートアップに近いと考えています。
今の株式市場は変動が激しく、スタートアップの評価額は急速に悪化しており、新株発行による資金調達はこれまで以上の株式希薄化を招くことも考えられます。そういった意味でも、RBFが資金調達の新たな選択肢として定着する可能性があると考えています。
コロナ禍や国際情勢および経済が混乱している状況下において、スタートアップにとっては冬の時代だと考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、ライドシェアやフードデリバリーのサービスを提供するUber(ウーバー)や、モバイル決済企業であるSquare(スクエア)はリーマンショック後の混乱期に誕生しています。そういった意味では、常にアメリカのフィンテックスタートアップの動向に注目していく必要があるでしょう。
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日興システムソリューションズ株式会社 サンフランシスコ駐在員事務所 所長
萩原 吉太郎氏
1991年 日興證券(現 SMBC日興証券)に入社し、日興システムセンター(現 日興システムソリューションズ)に出向。
情報系システムの開発部署を経て、2002年より4年間、米国サンフランシスコ駐在員事務所にて金融テクノロジーの調査を担当。
帰国後は、トレーディングシステムやリスク管理システムの企画に約10年間携わり、現在は再び米国サンフランシスコ駐在員事務所にてフィンテックを中心としたテクノロジーやビジネスの調査に従事。
2018年1月より現職。
シリーズ:先端技術ラボ寄稿記事