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【先端トピック解説】Society5.0とは?

SMBCグループのITソリューション・シンクタンク機能を担う日本総合研究所では「先端技術ラボ」を設立し、先端情報技術の社会実装へ向けた研究・開発にも力を入れている。今回はいよいよ実現に向けて取り組みが加速する「Society5.0」について解説する。

(1)「Society5.0」とは

Society5.0は『目指すべき未来社会の姿』として日本政府が掲げる社会像であり『サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。』(*1)とされている。『狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱』(*1)された。「第5期科学技術基本計画」(2016年~2020年)の段階は、新たに打ち出されたコンセプトへの理解を広めていく段階であったとも言える。
続く「第6期科学技術・イノベーション基本計画 」(2021年~2025年)では、Society5.0について『国内外の情勢変化を踏まえて具体化させていく必要がある』(*2)とされ、いよいよ具体的な実現に踏み込んでゆく形で継承されている。また『Society5.0の未来社会像を、「持続可能性と強靱性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」と表現』(*2)されてもおり、具体的な予算規模としては『5年間で約30兆円の政府研究開発投資を確保し、これを呼び水として官民合わせて約120兆円の研究開発投資を行っていく』(*2)とされている。

(2)「Society5.0」の実現に必要な要素

「Society5.0」の実現に向けて重要と考えられるトピックを3つに分けて紹介する。

  • ①人間中心設計(Human-centered Design; HCD)とイシュードリブン(Issue-Driven)
    『経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)』と定義されていることからも、政策・制度、サービスやプロダクトなどを人間中心に設計(デザイン)していくことが求められる。「人間中心設計(HCD)」は主にインタラクティブな(双方向性のある)コンピュータシステムを使いやすく設計する際に有力なアプローチとして、現在広くスマホアプリの設計などにも活用されているが、このアプローチを様々な設計に応用していくことが重要ではないか。SMBCにおいてもこうした人間(お客さま)を中心としたデザインの取り組みには早くから力を入れており、約6年の取り組みをまとめた書籍も昨年(2022年)出版している(インプレス社「銀行とデザイン -デザインを企業文化に浸透させるために-」)。社会全体の設計(デザイン)を考える際には、様々な価値観や能力を持ったあらゆる個人の「well-being」を意識すること(ユニバーサルデザイン)が商用サービス以上に重要である。 合わせて重要となるのが「イシュードリブン(Issue-Driven)」の考え方だ。「人間中心設計(HCD)」の根本には技術や経済性を中心に設計してしまうことへの反省もあった。こうした反省も踏まえ「何が社会にとって本当に解決すべき課題(イシュー)なのか」といった議論からスタートし、そのために最適な制度設計や技術を採用していくという「イシュードリブン」の考え方が重要である。
  • ②サイバーフィジカルシステム (Cyber-Physical System; CPS)
    ①では主に、正しく目的を見据えていくための要素について紹介した。次に、実現に用いる手段については『サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより』とある。こうしたシステムのことを「サイバーフィジカルシステム(CPS)」といい、次のような概念である。 『CPSとは、実世界(フィジカル空間)にある多様なデータをセンサーネットワーク等で収集し、サイバー空間で大規模データ処理技術等を駆使して分析/知識化を行い、そこで創出した情報/価値によって、産業の活性化や社会問題の解決を図っていくもの 』(*3) 具体的な要素技術としては、フィジカル世界のデータを収集するためのIoT、収集したデータを用いた数理最適化、機械学習による予測、シミュレーションといった分野がある。他に最近では、よりサイバー側の機能を重要視した概念として「サイバーファースト(Cyber First)」が提唱されている。また「モノ」そのものではなく「モノ」とソフトウェアが一体となって提供されるサービスや機能こそが本質的に重要であるといった考え方から「IoS(Internet of Services)」「IoF(Internet of Functions)」といった概念も注目されている。
  • ③システムズエンジニアリング (Systems Engineering)
    最後に、このように複雑な要素が関連し合うシステムの全体を首尾よく設計するために有効な手法である「システムズエンジニアリング」を紹介する。解決すべき社会課題やビジネス課題のほとんどは、要素技術を1つ2つ導入すれば解決するような単純な構造をしていない。制度、都市・地域の社会インフラ等から、具体的なサービスデザインや構築する情報システム(ソフトウェア)の構成等まで、抽象度の異なる多数の階層と関連する様々な領域で平仄の取れたアーキテクチャ(構造)を関係者で共通認識とする必要がある。こうした課題に対しては「システムズエンジニアリング」が用いられてきた。「システムズエンジニアリング」とは『システムを成功させるための複数の専⾨分野にまたがるアプローチと⼿段』(*4)とされる(「システムズエンジニアリング」の定義、理解、実践を進める国際⾮営利団体INCOSEの⽇本⽀部であるJCOSEの定義)。元々は宇宙・航空分野を中⼼に発展してきたもので、欧⽶では⼀般的な製品やシステムへの適用が進んでいる。国内でも2020年にIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)内にDADC(Digital Architecture Design Center)が設置され、デジタル庁や経産省(デジタル市場基盤整備会議)等と共に、社会や産業構造のアーキテクチャ設計や「システムズエンジニアリング」の普及を牽引している。「Society5.0」へ向けた取組においては、この取組を各所が適切に検討するための思考の枠組として「Society5.0レファレンスアーキテクチャ」が「システムズエンジニアリング」を用いて策定されている[図1]。
    (より詳しい解説については、右記のレポート等をご参照頂きたい。日本総合研究所「システムズエンジニアリングの概説と動向」)
[図1] Society5.0レファレンスアーキテクチャ
(出典:『「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期 ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」におけるアーキテクチャ構築及び実証研究』(国土交通省)より図の部分のみ加工せず抜粋。同省ルールに従って転載及び出典を記載。)

(3)「Society5.0」の実現へ向けて ~「先行的な実現の場」としての「スマートシティ」~

内閣府に拠れば『Society5.0の先行的な実現の場=スマートシティ』(*1)とされており、前述した「Society5.0レファレンスアーキテクチャ」をベースに、スマートシティのあるべき姿に照らして具体化された「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」も策定されている[図2]。

[図2] スマートシティリファレンスアーキテクチャ
(出典:「スマートシティレファレンスアーキテクチャホワイトペーパー」(内閣府)より図の部分のみ加工せず抜粋。同府ルールに従って転載及び出典を記載。)

三井住友フィナンシャルグループにおいても昨年(2022年)5月「スマートシティ社会実装コンソーシアム」を日本電気株式会社と共に発起人となって設立した(*5)。当コンソーシアムの特徴は、実証段階に留まってしまうことも多いスマートシティの取組の課題を乗り越え「社会実装」を実現することを全面に打ち出していることと言える。Society5.0で標榜されている『一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会』(*2)を見据え、まずはこうした取組を通じてスマートシティの着実な「社会実装」を実現していく。

出典

(*1)内閣府「Society 5.0
(*2)内閣府「第6期科学技術・イノベーション基本計画
(*3)JEITA; (一社)電子情報技術産業協会「CPSとは
(*4)JCOSE「SEとは
(*5)三井住友銀行プレスリリース『スマートシティの普及展開・実装加速に向けた「スマートシティ社会実装コンソーシアム」を設立

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 日本総合研究所 先端技術ラボ ブロックチェーンスペシャリスト
    兼 三井住友銀行 デジタル戦略部

    市原 紘平氏

    2018年より三井住友銀行でブロックチェーン関連の調査及び案件支援業務等に従事。
    国立情報学研究所、近畿大学、株式会社chaintopeとの4者共同研究の推進などにより、ブロックチェーンに関する技術、法制に関する知見を深める。
    社会課題解決型の新規事業創出へ向け、システムズエンジニアリングやCPSの調査・研究にも取り組む。
    Udacity Blockchain Developer Nanodegree Program修了。
    日本VR学会認定 上級VR技術者(第S-2014-43号)。

    [Publication]
    日本総研レポート:「セキュリティトークンの概説と動向」「システムズエンジニアリングの概説と動向
    「NFTに関する技術的な理解と価値観について」(情報処理学会研究報告, Vol.2022-EIP-96, No.22, 2022.)
    「証券へのブロックチェーン技術適用に関する検討 ~日本の法制度下での社債を事例に~」(電子情報通信学会技術研究報告, vol.120, no.380, pp.7--14, 2021.)
    (問合せ先:101360-advanced_tech@ml.jri.co.jp (日本総合研究所 先端技術ラボ))

IoT
(Internet of Things)

類義語:

  • ICT

従来インターネットに接続されていなかった様々なモノ(センサー機器、駆動装置(アクチュエーター)、住宅・建物、車、家電製品、電子機器など)が、ネットワークを通じてサーバーやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換をし新たなビジネスモデルを創出する仕組み。