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【先端トピック解説】Web3.0① ~Web3.0の出処~

SMBCグループのITソリューション・シンクタンク機能を担う日本総合研究所では「先端技術ラボ」を設立し、先端情報技術の社会実装へ向けた研究・開発にも力を入れている。今回は政府等からも注目が集まる「Web3.0」について解説する。第1回ではまず「Web3.0」という言葉の出処を振り返る。

連載:Web3.0

  1. 【先端トピック解説】Web3.0① ~Web3.0の出処~
  2. 【先端トピック解説】Web3.0② ~Web3.0の展望~

(1) 最初の「Web3.0」

現在広く使われている意味での「Web3.0」あるいは「Web3」の意味は、世界で最も使用されているパブリック型ブロックチェーンであるEthereumの開発を支援するEthereum財団が提唱している内容を主とすると考えられる。なお「Web3.0」の読みについては英語そのままの「ウェブスリーポイントゼロ」の他、「ウェブサンテンゼロ」、更には「Web3」と同様に「ウェブスリー」と読む場合などがある。本稿では引用箇所を除き「Web3.0」と「Web3」の違いを意識せず「Web3.0」を用いる。

「Web3.0」という言葉については、これより前に現在とは全く別の意味で使用されたことがあった。参考としてそちらの意味での「Web3.0」についても紹介すると、まず提唱者はWWW(ワールドワイドウェブ)やHTMLの考案者・開発者として知られるティム・バーナーズ=リー卿である。提唱時期は2000年代中頃で、XMLやRDFといった技術仕様を用いて、コンピュータがWeb上の情報の意味をより高度に理解できるようにすることが目指された。これをセマンティックウェブ(semantic web)といい、当時のWebが獲得していたインタラクティブ性(双方向性)やソーシャルメディアによる個人の情報発信などの性質を「Web2.0」とし、その先に目指すべきものとして提唱されていた。[1]

(2) 今日の「Web3.0」の背景にある思想

その後2014年4月に、Ethereumの共同創設者として知られるギャビン・ウッド博士が投稿した内容[2]が今日の「Web3.0」の意味に繋がっていく。以下投稿の内容を一部紹介する。

ギャビン・ウッド博士の投稿 "ĐApps: What Web 3.0 Looks Like"[2] の内容 (原文より筆者にて抜粋及び要約・仮訳)

  • 未来に向かうにつれて、ゼロトラスト対話システム(a zero-trust interaction system)の必要性が高まっている。
  • インターネット上の任意のエンティティに自分の情報を委ねることには危険が伴う。
  • Web3.0、もしくはポストスノーデンウェブ ("post-Snowden" web)と呼ばれる可能性のあるものは、既にWebで使われているものの再考でもあるが、関係者間の相互作用のモデルは根本的に異なる。
  • 公開されていると思われる情報は公開し、合意されたと思われる情報はコンセンサス台帳に載せるが、個人情報であると思われる情報を明らかにすることはない。
  • 通信は常に暗号化されたチャネルを介して行われ、エンドポイントとして匿名のIDのみが使用される。
  • 政府や組織は合理的に信頼できないため、(こうした)事前の想定(our prior assumptions)(に基づいた対処)を数学的に強制するようにシステムを設計する。
表1 「ポストスノーデンウェブ」(Web3.0)を構成するとされる4つのコンポーネント
コンポーネント 概要
静的コンテンツの公開
(static content publication)
分散化・暗号化された静的情報公開システム
動的メッセージ
(dynamic messages)
暗号化されたP2Pのメッセージングシステム
トラストレストランザクション
(コンセンサスエンジン)
  • コンセンサスエンジンは、全ての信頼できる情報の公開と変更に使用される。
  • これは、完全に一般化されたグローバルトランザクション処理システムを通じて実現される。その最初の例はイーサリアムである。
  • 従来のWeb(The traditional web)は基本的にコンセンサスに対応するものではなく、代わりにICANN、Verisign、Facebookなどの当局の中央集権型の信頼に頼っている。
統合されたUI
(integrated user-interface)
他の要素を統合する「ブラウザ」とUI

上記内容が投稿された2014年は、2013年6月のエドワード・スノーデン氏によるNSA(アメリカ国家安全保障局)の国際的監視網(PRISM)についての告発直後だったこともあり、国家による検閲などへの強い抵抗の姿勢が見て取れ、「Web3.0」を「ポストスノーデンウェブ」と言い換えてさえいる。また、当時既に個人情報を大規模に収集・保持していた巨大IT企業を念頭に、強権を持った組織や政府に個人情報を委ねることの危険性を指摘している。そして「Web3.0」(「ポストスノーデンウェブ」)を実現する要素の中核として、トラストレストランザクション、つまり「(第三者への)信頼を要さない取引」とそれを実現するためのコンセンサスエンジンを挙げ、その最初の例がEthereumであるとしている。(なお、Etherのトークンセールが行われたのはこの投稿の約2ヶ月後の2014年6月である。)

(3) Ethereum財団の提唱する「Web3.0」

現在広く知られる「Web3.0」の意味に最も近いと思われるEthereum財団が提唱している内容を以下に示す。

表2 Ethereum財団が示すWebの変遷 [3]
言葉 概略 時期 解説
Web1.0
  • 読み取り
1990年~2004年
  • 個人が簡単に情報発信できる場やサービスが無く、発信主体は限られた組織等で、大多数の一般の人にとっては専ら提供される情報を受け取るのみである状況(読み取り専用)。
Web2.0
  • 読み取り
  • 書き込み
2004年~現在
  • ソーシャルメディア企業が登場し、個人も発信(書き込み)ができるようになった状況。
  • ただし、情報はソーシャルメディアのプラットフォームを運営する企業のもとにあり、企業の意思次第で消去されることもあり得る。
Web3.0
  • 読み取り
  • 書き込み
  • 所有
2014年~
(ギャビン・ウッド博士などが提唱)
  • 特定の企業に依存しない形で情報を公開し、変更の権限を個人に(秘密鍵として)持たせることで、情報を個人が「所有」しているかのようになる状態。
  • (なお、法的な意味合いでの所有は有体物を対象とするため「保有」などとした方が違和感が少ないが、本稿では財団の原文に合わせた表記を一部でする。)


表3 Ethereum財団が示す『Web3の主要なアイディア』 [3]
原則 説明
Web3は非中央集権型 インターネットの大部分を中央集権的な組織が管理・所有するのではなく、その所有権はデベロッパーとユーザーの間で分散されます。
Web3はパーミッションレス 誰もがWeb3に参加する平等なアクセス権を持っており、誰も除外されることはありません。
Web3にはネイティブの支払いが搭載 銀行や支払い処理者の時代遅れのインフラストラクチャに頼るのではなく、暗号通貨を使ってオンラインで送金します。
Web3はトラストレス 信頼できるサードパーティーに頼る必要はなく、インセンティブと経済メカニズムを使用して動作します。


非中央集権型、パーミッションレス、トラストレスについてはギャビン・ウッド博士の投稿で確認した通りであるが、ここで新たに『Web3にはネイティブの支払いが搭載』という文言が出てきている。これだけを見るとやや唐突感があるが、これは「Web3.0」のインフラ(ネットワークを構成するノードや各ノードが保持する情報が記録されたブロックチェーンなど)を維持するために、その運用者に報酬としてトークンを付与する仕組みがブロックチェーンのプロトコルにあること、またそのトークンを送り合うことができることを指している。非中央集権型、パーミッションレス、トラストレスといった性質を達成するための1つの方式として、ビットコイン以来このトークン(コイン)報酬付与の仕組みがブロックチェーンや「Web3.0」の世界では採用されてきた。つまり基本的に「Web3.0」にはネイティブトークン(このようにパブリック型ブロックチェーンの記録の維持のためにプロトコルに組み込まれているトークンのこと。暗号資産。)の存在が不可欠と言うことができる。

一方で、多くのブロックチェーンではプログラムすることでネイティブトークンとは別に様々な機能を持たせたトークンを発行することができる(=「スマートコントラクト」等を利用したトークン)。元々のギャビン・ウッド博士が提唱した「強権を持った特定の主体に信頼を置くこと無く運用されるWeb」といった意味での「Web3.0」に必要なのはネイティブトークンのみであり、「スマートコントラクト」等で実装されるその他のトークンは本来関係ない。しかし昨今の実情として「Web3.0」関連の事業検討が行われる際は「どのような機能を持たせたトークンを発行するか」といったことが検討上の大きなポイントとなっている。

本稿では「Web3.0」という言葉の出処を辿り、その背景にある思想を確認した上で事業検討上のポイントとしてトークン設計が挙げられることを述べた。第2回では「Web3.0」を巡る様々な意見を紹介するとともに、事業検討上のポイントについても深く考察する。

出典
[1] The New York Times Company. “A 'more revolutionary' Web”. The New York Times. 2006-05-23.(accessed 2023-02-17)
[2] Gavin Wood. “ĐApps: What Web 3.0 Looks Like”. gavwood.com. 2014-04-17.(accessed 2023-02-17)
[3] Ethereum Foundation. “Web3 入門”. Ethereum.org. 2023-02-10. (accessed 2023-02-17)

連載:Web3.0

  1. 【先端トピック解説】Web3.0① ~Web3.0の出処~
  2. 【先端トピック解説】Web3.0② ~Web3.0の展望~
PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 日本総合研究所 先端技術ラボ ブロックチェーンスペシャリスト
    兼 三井住友銀行 デジタル戦略部

    市原 紘平氏

    2018年より三井住友銀行でブロックチェーン関連の調査及び案件支援業務等に従事。国立情報学研究所、近畿大学、株式会社chaintopeとの4者共同研究の推進などにより、ブロックチェーンに関する技術、法制に関する知見を深める。社会課題解決型の新規事業創出へ向け、システムズエンジニアリングやCPSの調査・研究にも取り組む。Udacity Blockchain Developer Nanodegree Program修了。日本VR学会認定 上級VR技術者(第S-2014-43号)。
    [Publication]
    日本総研レポート:「セキュリティトークンの概説と動向」「システムズエンジニアリングの概説と動向
    「Society5.0におけるサービス・エコシステムについての考察」(サービス学会 第11回国内大会 講演論文集, 2023.)
    「NFTに関する技術的な理解と価値観について」(情報処理学会研究報告, Vol.2022-EIP-96, No.22, 2022.)
    「証券へのブロックチェーン技術適用に関する検討 ~日本の法制度下での社債を事例に~」(電子情報通信学会技術研究報告, vol.120, no.380, pp.7--14, 2021.)
    (問合せ先:101360-advanced_tech@ml.jri.co.jp (日本総合研究所 先端技術ラボ))

Web3.0
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類義語:

非中央集権のインターネット。これまで情報を独占してきた巨大企業に対し、デジタル技術を活用して分散管理することで情報の主権を民主的なものにしようとする、新しいインターネットのあり方を表す概念。読み方は「ウェブスリー」。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

ブロックチェーン
(Blockchain)

類義語:

  • 分散型台帳

情報を記録するデータベース技術の一種で、ブロックと呼ばれる単位でデータを管理し、それを鎖(チェーン)のように連結してデータを保管する技術を指す。同じデータを複数の場所に分散して管理するため、分散型台帳とも呼ばれる。

仮想通貨
(Digital Currency)

類義語:

  • 暗号資産,デジタル通貨

電子データのみでやりとりされる通貨であり、法定通貨のように国家による強制通用力(金銭債務の弁済手段として用いられる法的効力)を持たず、主にインターネット上での取引などに用いられる。

トークン
(Token)

類義語:

直訳すると「しるし」「象徴」という意味で、仮想通貨におけるデジタルコイン/キャッシュレス決済における認証デバイスのこと。