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【先端トピック解説】Web3.0② ~Web3.0の展望~

SMBCグループのITソリューション・シンクタンク機能を担う日本総合研究所では「先端技術ラボ」を設立し、先端情報技術の社会実装へ向けた研究・開発にも力を入れている。今回は政府等からも注目が集まる「Web3.0」について解説する。第2回では第1回で確認した「Web3.0」という言葉の出処を元に考察を深める。

連載:Web3.0

  1. 【先端トピック解説】Web3.0① ~Web3.0の出処~
  2. 【先端トピック解説】Web3.0② ~Web3.0の展望~
表1 Webの変遷のイメージ
Web1.0 Web2.0 Web3.0
イメージ
代表的なサービスや特徴 静的なウェブサイト SNS
  • ブロックチェーンへの情報の保存
  • 秘密鍵による更新権限管理
主な提供主体・形態
  • 研究所や大学から始まり、徐々に企業へ普及。
  • 情報発信主体は一部に限られた。
  • ほとんどの企業や団体がWebサイトを持ち、個人も情報発信できる。
  • 少数のITプラットフォーマーに依存しているとの指摘がある。
  • 情報の保存先が誰もがアクセスできるブロックチェーンとなり、更新権限となる秘密鍵は自身で管理する。
  • これにより従来のITプラットフォーマーに依存しないとされる。

(1) 「Web3.0」のポイントの整理

次に第1回の内容も踏まえ「Web3.0」のポイントを以下の通り3点整理する。

(1)-① 政府や巨大企業など強権を持った主体に個人情報を委ねることに対する危機意識という背景

第1回で確認した通り、現在の「Web3.0」の背景には政府や巨大企業など強権を持った主体に個人情報を委ねることに対する危機意識という思想がある。こうした背景から、特定の企業に依存しない形で情報を公開し、変更の権限を個人に(秘密鍵として)持たせることで、情報を個人が「所有」(保有)しているかのようになる状態を目指すのが「Web3.0」の特徴の1つである。また、非中央集権型、パーミッションレス、トラストレスといった性質を達成しつつ、Web上で記録を維持していくための1つの方式としてネイティブトークン(暗号資産)報酬付与の仕組みブロックチェーンや「Web3.0」の世界では採用されている。

(1)-② トークンとエコシステムの設計の重要性

元々の「Web3.0」の思想の実現に必要なネイティブトークン報酬付与の仕組みとは直接関係ないが、昨今の実情として「Web3.0」関連の事業検討が行われる際は「どのような機能を持たせたトークンを発行するか」といったことが検討上の大きなポイントとなっている。また、発行したトークンがどのように流通するかというエコシステムの検討も併せて重要になる。これは、前項のような単に企業が個人情報を握る状況を変えるということのみでは企業にとって事業戦略が描けないことにも起因すると考えられる。

(1)-③ 記録の維持主体とサービス運営主体の分離

第1回で取り上げていない点だが、パブリック型ブロックチェーンをサービスに組み込むと、ブロックチェーンに記録した情報の維持主体は不特定多数のブロックチェーンノード運用者全体となり、自社で完結したものではなくなる。これによって自社のサービス終了後もブロックチェーン上の記録は残る一方、記録を完全に自社でコントロールできるわけではなくなるといった違いが生じる。プライベート型やコンソーシアム型の場合はブロックチェーンノードの運用者は特定の少数(または1社)のため左記のような違いは生じないが、ブロックチェーンを用いる意味が少なくなる。(プライベート型はタイムスタンプ技術と変わらず意味がないとの意見[1]もある。)

(2) 「Web3.0」を巡る様々な見解

続いて現在の「Web3.0」についてのいくつかの見解について紹介する。

(2)-① VCの投資先に過ぎないという指摘

Twitterの創業者として知られるジャック・ドーシー氏はTwitterの投稿にて、『あなた(一般の人々)は"web3"を所有していない。VC(ベンチャーキャピタル)とその出資者が所有している。彼らのインセンティブからは決して逃れられない。それは究極的には違うラベルの貼られた中央集権のエンティティである。(後略)』[2]と発信した。ドーシー氏の指摘するように、非中央集権を掲げるWeb3分野の企業も、VCから出資を受けているとすれば高収益企業を目指さなければならず、既存の中央集権的企業にとって変わろうとするだけの新たな中央集権的企業となる可能性があることは否定できないとの意見もある。

(2)-② 「Society5.0」への貢献可能性

経済産業省は「Web3.0事業環境整備の考え方」[1]という資料の中で『ブロックチェーン技術のSociety5.0への貢献可能性』について問題提起している(なおSociety5.0については当サイトのこちらの記事で紹介している)。資料では可能性として、①グローバルなデータ共有基盤、②トラストを確保したデータの流通が挙げられている。

(3) 「Web3.0」ビジネス検討上のポイント

最後に筆者の見解として「Web3.0」ビジネスを検討していく上でのポイントとして考えられるものを記載する。

(3)-① サービス全体のデザイン

「Web3.0」関連の事業検討では、「トークンを使って何をするか」という点から議論が始まることも多い。しかしまずは、サービス開発の基本的なプロセスを経ることが重要ではないか。具体的には、お客様にどのような需要や課題があるか・自社としてどのような価値を提供したいか、市場規模はどの程度と考えられるか、それに対しどのような解決策・実現策が考えられるか、候補の実現策は顧客に満足を与えられそうか、といった検討である。

(3)-② トークンとエコシステムの設計

前項を経た上で、顧客とのコミュニティ形成やトークンの流通などが必要と考えられる場合は「Web3.0」的なビジネスを検討する余地が多いと考えられる。「情報を所有(保有)する(Ownership)」という新しい感覚は、ユーザのコミュニティへの帰属感を高める。この場合も単に従来同様の会員ポイントのようなものに留まってしまってはブロックチェーンやトークンを使う意味がない。トークンに持たせる機能の設計や、トークンホルダ間でのトークン流通が活発になるエコシステムの設計などをしっかりと検討する必要がある。(コミュニティ形成に関する文化人類学(社会人類学)的知見を求めるなど、従来の戦略論の中核を超えたアプローチが有効な可能性もある)

(3)-③ インフラサービスの利用

前項で「しっかりと検討する必要がある」としたものの、実際は「Web3.0」の領域は急速に下火になるような単なるブームも含め、動きが目まぐるしい(金融緩和が続いたこれまでの環境では特にその傾向は強かった)。このため検討を経て実際にサービス構築や提供を開始した後も、業界の動きに合わせ素早く方針を変化させていくことが必要になる。また技術についても従来の情報システムとは異なる専門的な部分がある上、進化のスピードも早い。このためサービス実現のためのシステム構築においては、できる限り「Web3.0」の専門的なシステムインフラを提供する企業のサービスを利用し、先に挙げたような特有の課題を回避することが望ましい。

出典
[1] 経済産業省. “Web3.0事業環境整備の考え方”. 経済産業省. 2022-12-16.(accessed 2023-03-27)
[2] Jack Dorsey. “You don’t own “web3.””. Twitter. 2021-12-21.(accessed 2023-03-27)

連載:Web3.0

  1. 【先端トピック解説】Web3.0① ~Web3.0の出処~
  2. 【先端トピック解説】Web3.0② ~Web3.0の展望~
PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 日本総合研究所 先端技術ラボ ブロックチェーンスペシャリスト
    兼 三井住友銀行 デジタル戦略部

    市原 紘平氏

    2018年より三井住友銀行でブロックチェーン関連の調査及び案件支援業務等に従事。国立情報学研究所、近畿大学、株式会社chaintopeとの4者共同研究の推進などにより、ブロックチェーンに関する技術、法制に関する知見を深める。社会課題解決型の新規事業創出へ向け、システムズエンジニアリングやCPSの調査・研究にも取り組む。Udacity Blockchain Developer Nanodegree Program修了。日本VR学会認定 上級VR技術者(第S-2014-43号)。
    [Publication]
    日本総研レポート:「セキュリティトークンの概説と動向」「システムズエンジニアリングの概説と動向
    「Society5.0におけるサービス・エコシステムについての考察」(サービス学会 第11回国内大会 講演論文集, 2023.)
    「NFTに関する技術的な理解と価値観について」(情報処理学会研究報告, Vol.2022-EIP-96, No.22, 2022.)
    「証券へのブロックチェーン技術適用に関する検討 ~日本の法制度下での社債を事例に~」(電子情報通信学会技術研究報告, vol.120, no.380, pp.7--14, 2021.)
    (問合せ先:101360-advanced_tech@ml.jri.co.jp (日本総合研究所 先端技術ラボ))

Web3.0
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類義語:

非中央集権のインターネット。これまで情報を独占してきた巨大企業に対し、デジタル技術を活用して分散管理することで情報の主権を民主的なものにしようとする、新しいインターネットのあり方を表す概念。読み方は「ウェブスリー」。

仮想通貨
(Digital Currency)

類義語:

  • 暗号資産,デジタル通貨

電子データのみでやりとりされる通貨であり、法定通貨のように国家による強制通用力(金銭債務の弁済手段として用いられる法的効力)を持たず、主にインターネット上での取引などに用いられる。

ベンチャーキャピタル
(Venture Capital)

類義語:

未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンド。

トークン
(Token)

類義語:

直訳すると「しるし」「象徴」という意味で、仮想通貨におけるデジタルコイン/キャッシュレス決済における認証デバイスのこと。

エコシステム
(Ecosystem)

類義語:

各社の製品の連携やつながりによって成り立つ全体の大きなシステムを形成するさまを「エコシステム」という。

ブロックチェーン
(Blockchain)

類義語:

  • 分散型台帳

情報を記録するデータベース技術の一種で、ブロックと呼ばれる単位でデータを管理し、それを鎖(チェーン)のように連結してデータを保管する技術を指す。同じデータを複数の場所に分散して管理するため、分散型台帳とも呼ばれる。