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あらゆるものを巻き込み“クロスする”世界へ。産官学金を巻き込むプラットフォーム「未来X(mirai cross)」がもたらす共創とは

2015年に始まったSMBCグループによるアクセラレーションプログラムをリニューアルして2021年に生まれた「未来X(mirai cross)」。スタートアップ・事業会社・ベンチャーキャピタル(以下「VC」という)・公的機関などの多様なプレイヤーが参画して新規事業を創出するエコシステムプラットフォームとして、様々な活動を行っています。
「これからの銀行に求められるのは、あらゆるものを巻き込み“クロス”していくこと、『金融』ではなく、全てを融通していく『全融』ですね」と語るのは、「未来X(mirai cross)」の運営メンバーである三井住友銀行 成長事業開発部の木原 梓氏。日本全体の大企業とスタートアップの協働・共創を推進して、どのような未来を描くのか。その展望にフォーカスします。

融資だけに終わらない、あらゆる手立てを融通する銀行の役割

2021年より産官学金の成長企業エコシステムプラットフォーム「未来X(mirai cross)」を実施していますが、誕生の経緯について教えてください。

「未来X(mirai cross)」の前身は2015年から始まっているのですが、当時は大学発のスタートアップや創業はしてないけれど高い技術力を持った団体の発掘・サポートを主目的に運営されており、大企業とスタートアップの協業、スタートアップのバリューアップのサポート等には踏み込まれていませんでした。

5年半前、私が頭取ピッチコンテストの優勝案件であるスタートアップ出向プログラム「DECCHI」の1人目としてスタートアップへ出向した際に、行内の様々な部署も回ったのですがスタートアップのサービスを試してもらうことすら出来ず、サポートしてもらえることも限られていました。本当に大変なのはスタートアップが事業を生み出して社会を変えていく過程であることを、身をもって実感しました。

本来、銀行の持つポテンシャルを考えると、資金に限らず、成長に必要なあらゆるモノのサポートを行い、様々な取組をクロスすることが出来るはずだ。そこで、今までの取組を大きくアップデートする「未来X(mirai cross)」を企画し、立ち上げメンバーとして奔走してきました。

「未来X(mirai cross)」では三井住友銀行、SMBC日興証券、SMBCベンチャーキャピタル、みらいワークスの4社が中心となり、「アクセラレーションプログラム」「大企業とスタートアップの協業サポートプログラム」「セミナーやイベントの開催」の3本柱で活動しています。我々の取り組みに賛同いただいた、事業会社や、VC、地方公共団体、有識者の皆様方等、様々なスタートアップエコシステムプレーヤーのお力をお借りして運営しています。

銀行が「未来X(mirai cross)」を運営することの強みを教えてください。

銀行の強みは融資のみならず、多くの企業とつなげることで新しい事業を生み出せる点にあると考えています。銀行は業界や業種を問わず幅広いお客様との取引があるので、そこは他の企業には真似のできない強みであり、この強みが、そのまま「未来X(mirai cross)」の強みになっています。

例えば、我々の事業会社パートナーには化学業界、旅行業界、不動産業界、保険業界と多種多様な企業様が名を連ねています。「未来X(mirai cross)」では、この多彩なネットワークから、事業会社パートナーとスタートアップの協業や資本業務提携が続々と誕生しています。

また、全国にある拠点網を活用して、地域をクロスすることにも力を入れています。
2023年8月に「未来X(mirai cross)」の京都版ともいえる「KyotoX」というイベントを開催しました。京都府、京都市と連携して5社のスタートアップが京都の金融機関に対してピッチを行うイベントで、地場の中堅・中小企業とスタートアップを結びつけることを目的としたものです。すでに同様のイベントは神戸でも開催しましたし、関西圏を結び付ける取組も予定しています。

大企業とスタートアップをクロスする存在に

2021年8月からスタートした「未来X(mirai cross)」ですが、この2年間での協業の成果について教えてください。

象徴的な例だと事業会社パートナーの新日本空調様とスタートアップのイームズロボティクス様の資本業務提携です(2022年12月)。業界で大きなシェアを占める企業でもスタートアップとの連携はなかなかハードルが高く、新日本空調様はこれまでスタートアップとの協業や資本提携をしたことがありませんでした。「未来X(mirai cross)」で、新日本空調様の協業ニーズを捉えたサポートを行ったことで、その高い壁を乗り越えて協働が生まれたことは大きな成果だと考えています。

同じく我々の事業会社パートナーである三井住友海上様とスタートアップのアーバンエックステクノロジーズ様の協業では、道路点検をサポートする「ドラレコ・ロードマネージャー」というサービスをリリースしました(2021年12月)。これは企業の車両にドライブレコーダーを設置してAIにより道路の点検を行うことで、それまで人間が目視で行っていた点検作業の効率化を図るものです。

その他にも、資本業務提携・サービスリリース等の事例も出てきており、少しずつ取組の成果が花開いてきています。

大企業とスタートアップでは企業文化が大きく異なると思うのですが、協業をするに当たってそのギャップはどうやって埋めるのでしょうか?

いろいろ必要な要素があるかと思います。単に、大企業とスタートアップをお引き合わせするだけでは、協業はなかなか進みません。SMBCグループ側でも、スタートアップ側・大企業側のニーズを各々深掘りして双方のニーズを相互に深く理解した上でのご提案を行ったり、スタートアップにも具体的な協業提案をしていただいたりすることで、そのギャップを埋める取組をしています。

また、共同運営しているみらいワークス社が運営している人材サービスの活用も行っています。事業会社とスタートアップの橋渡し役を担っていただくべく、みらいワークス社の人材プラットフォームから専門知識を持つ人材を見つけ出し「専任コンシェルジュ」として協業実現に向けた各種サポートを行ってもらいます。専門知識を持つ人間を介在させることで、両者の協業イメージが具体的になり、コミュニケーションもスムーズにすることができます。

「未来X(mirai cross)」では、現在20社ほどの事業会社パートナーの皆様に参加頂いていますが、今年度は特にスタートアップと連携したい企業同士がお互いの事業について等を意見交換できる場づくりにも力を入れています。大企業同士での協業もここから起きればと楽しみにしています。

7月31日に行われた2023年度のキックオフイベントの内容を教えてください。

事業会社パートナーによるリバースピッチを開催しました。通常のピッチイベントではスタートアップがプレゼンをしますが、今回は事業会社がどのようなスタートアップと、どのような協業をしたいのかについてプレゼンを行いました。イベントは盛況で、交流会ではスタートアップ・事業会社の双方が具体的な協業に向けて、活発に意見交換をされていました。スタートアップの皆様からは、効率的に事業会社・SMBCの関連各部へのコネクションをつくれる点も好評でした。

有名VCとの強いパイプを活かした独自のプログラム

アクセラレーションプログラム「未来X(mirai cross)」では、どのような取組をしているのでしょうか。

全国のシード・アーリーのスタートアップの皆様にご応募を頂き、研修・メンタリングを経て、VCや事業会社に対してピッチを行うプログラムを実施しています。
申込をされるスタートアップの業種は様々で、技術系とIT系がそれぞれ3割ほどを占めているのですが、バイオ系やヘルスケア系も多いですね。

今年のアクセラレーションプログラムでは、ディー・エヌ・エーの南場智子様による「尊き挑戦者たちへ」というテーマの初回研修を行いました。南場様が創業したVCのデライト・ベンチャーズにも我々は出資しているので、その縁で実現したものです。

当日は、南場様よりディー・エヌ・エーの歴史を振り返りながら、決断や意思決定の軸、今抱いている夢、苦手分野にどう取り組んでいった等、様々なお話をして頂きました。起業家からの質問に対し、壇上から降りて、その一つ一つに丁寧にご回答頂きました。

この他にも、資本政策・マーケティング等、様々な分野の研修を開催中です。今年度もピッチにどのような企業の皆様が残られるか楽しみですね。

「協業」や「オープンイノベーション」が一般化し、挑戦が「当たり前」になる世界に向けて

SMBCグループの中ではどのような連携をされているのでしょうか。

これまでの銀行は黒子に徹してきましたが、これからは我々自身が事業を創造し続けながら、挑戦する人たちにも、あらゆるものを融通することが求められると考えています。

そこで、スタートアップに関わる部署・新規事業に携わっている部署に1つ1つその必要性を説明して仲間に加わってもらっています。メンバーに横串を刺す動きを行ったことで、各部署同士も顔が見える関係性となってきました。

実際、アクセラレーションプログラムの研修に行員が自発的に参加をしたり、スタートアップとの協業検討をはじめたりと、SMBCのグループ内にも「挑戦」のエネルギーが伝わってきているな、という肌感を得ています。

では、「未来X(mirai cross)」の今後の展望を教えてください。

まずは「未来X(mirai cross)」の中で、事業会社とスタートアップの新しい事業をどんどん生み出していきたいです。

「協業」や「オープンイノベーション」と聞くと大企業だけのものというイメージがあるかもしれませんが、本来はそのようなことはなく日本企業全体で取り組むべきものだと考えています。この取組を広げていきながら、我々が橋渡し役となり、あらゆる全てのモノを融通する「全融」の役割を担っていきたいと思っています。

「協業」や「オープンイノベーション」が一般化していけば、5年後、10年後には人材が流動化して雇用関係にも変化が起き、挑戦をすることが当たり前になるでしょう。様々な取組をクロス出来る銀行の強みを生かして、社会に「挑戦」のエネルギーを循環させていきたいですね。

より多くの人が挑戦しやすい土台をつくることで日本の閉塞感を打破するきっかけになるでしょうし、大企業とスタートアップが事業を生み出していく仕組みを量産すれば、そこからGAFAのような企業が誕生するかもしれません。
そんな先の未来を今自分が仕込んでいる、なんて思うとワクワクしてきますね。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 三井住友銀行 成長事業開発部

    木原 梓氏

    大阪大学 理学部卒業後、2012年三井住友銀行へ入行。大阪(天王寺)での法人営業、神戸での自治体営業に従事後、2018年4月スタートアップへ出向を機に上京(頭取ピッチコンテスト初年度優勝案件スタートアップ出向プログラム「DECCHI」1人目)。成長事業開発部へ帰任後、デジタルを活用した新規事業推進、スタートアップの行内データベース構築、社内外の広報等、各施策の立案・推進に奔走。スタートアップエコシステムプラットフォーム「未来X(mirai cross)」の立ち上げメンバー。1歳の娘と遊ぶのが癒し。「今日は残りの人生の最初の日」がモットー。

この記事でご紹介したサービス
プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

ベンチャーキャピタル
(Venture Capital)

類義語:

未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンド。

エコシステム
(Ecosystem)

類義語:

各社の製品の連携やつながりによって成り立つ全体の大きなシステムを形成するさまを「エコシステム」という。

オープンイノベーション
(Open Innovation)

類義語:

製品開発や技術改革、研究開発や組織改革などにおいて、自社以外の組織や機関などが持つ知識や技術を柔軟に取り込んで自前主義からの脱却し、市場機会の増加を図ること。

GAFA
(Google・Apple・Facebook・Amazon)

類義語:

Google / Apple / Facebook / Amazon。米国の大手IT企業4社の略称。