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神戸から世界に羽ばたくスタートアップを。起業プラザひょうご・hoops link kobeの目指す未来

2020年9月に三井住友銀行 神戸本部ビル内に誕生した「起業プラザひょうご・hoops link kobe」。兵庫県とSMBCグループとの協業により生まれた同施設はスタートアップ企業をサポートする拠点で、スタートアップ・大学・民間企業・自治体などあらゆるプレイヤーが集まりイノベーションを生み出す場所でもあります。

2023年11月に開催された3周年イベントでは、気鋭のスタートアップ12社によるピッチが行われ、総勢130名が参加しました。

起業プラザひょうご・hoops link kobeが誕生した経緯から目指す未来まで、三井住友銀行 公共・金融法人部 部長の河上 哲也氏とNPO法人コミュニティリンク 代表理事の中西 雅幸氏に伺います。

スタートアップ支援およびオープンイノベーション拠点として誕生

起業プラザひょうご・hoops link kobe誕生の経緯を教えてください。

中西2017年に、兵庫県の未来を担う若い世代がチャレンジできる場所として「起業プラザひょうご」が誕生しました。「起業プラザひょうご・hoops link kobe」の前身に当たります。起業プラザひょうごは兵庫県の施設であり、私たちコミュニティリンクは委託事業者として当初から運営を担っています。

NPO法人コミュニティリンク 代表理事/CEO
中西 雅幸氏

当時は別の場所にあり、ビルの再開発の関係で3年限定の施設としてスタートしましたが、起業家の利用が順調に伸び全国的にも同様の起業支援施設が増えてきたので、廃止にストップがかかりました。そして2020年にリニューアルオープンすることとなり、三井住友銀行さんと協業することになりました。行政がこれだけの規模の施設を運営するのは先進的で、多くの取材や視察の依頼が来ました。

河上このビルは現在「三井住友銀行 神戸本部ビル」という名称ですが、当時は本部の機能が東京と大阪に集約されていく中で、より地元の兵庫県や神戸市に貢献できる施設にしていこうという気運が高まっていました。ちょうどスタートアップ企業が注目されてきた時代で、東京にオープンイノベーション拠点としてのhoops link tokyoが開業したこともあり、兵庫県、神戸市と話し合いの場を設けて起業プラザひょうごが移転するタイミングでご一緒することになり、スタートアップ支援およびオープンイノベーション拠点として起業プラザひょうご・hoops link kobeが誕生しました。

公民連携で運営する施設として、大手企業および経済界から注目

起業プラザひょうご・hoops link kobeが生まれたことで、他の自治体から何か反応はありましたか?

中西2017年のスタート当初、行政施設ということもあって、行政機関の視察は多くありましたが、こちらに移転してからは大手企業をはじめとする地元経済界からの視察が増えましたね。移転前は行政主導であったことや、運営している私たちの法人も社歴が浅く、地元経済界との繋がりが強くありませんでした。今回、三井住友銀行と協業することになって大企業からの視察が一気に増えました。

河上メガバンクと自治体ががっちり手を握り、公民連携で施設を運営している事例は珍しかったので、神戸や大阪、京都の企業や経済団体からも視察に来ていただきました。これだけの規模の施設が銀行の店舗の中にある点も特徴ですね。

株式会社三井住友銀行 公共・金融法人部 部長 地域連携推進(神戸) 担当部長
河上 哲也氏

中西起業プラザひょうご・hoops link kobeは単なる作業場としてのコワーキングスペースではなく、企業と自治体がスタートアップを巻き込んで一緒に事業を起こしていく拠点としての機能を持っています。地元の企業や銀行も巻き込んでいくスタイルはとても先進的だと思います。

投資家の参加も目立った3周年イベント

11月13日に開催された3周年イベントについて教えてください。

中西実は1周年のイベントを開催できなかったので、3周年の記念イベントはぜひやろうという運びになりました。当日は130名ほどの方に参加していただき、起業プラザひょうご・hoops link kobeと関わりのあるスタートアップ12社によるピッチを実施しました。
スタートアップだけでなく行政と金融機関、さらにエンジェル投資家やベンチャーキャピタルの方にも多くご参加いただきました。

河上関西全般にいえることですが、ベンチャーキャピタルなどのリスクマネー(※)を供給してくれる機関が東京に比べて非常に少ないです。昨年はSMBCグループも神戸大学をサポートし、待望の地元VCによるファンドとして神戸大学ファンドが立ち上がりました。3周年イベントは、関西に不足しているリスクマネーを供給してくれる人たちに興味を持ってもらえたのが嬉しかったですね。

(※)高いリターンを得るために回収不能になるリスクを負う投資資金のこと。ここではベンチャーキャピタルなどが、ベンチャー企業に対し、回収不能になるリスクを背負って出資する資金のことを指す。

「地域のマップ」「行動科学×AI」「新しい葬儀の形」など、独自の視点が光る事業

3周年イベントでピッチを行ったスタートアップにはどのような企業があるのか、一例を教えてください。

河上「ためま」というスタートアップは、あらゆる世代をターゲットにした地域を知るための掲示板「ためまっぷ」を運営しています。兵庫県の三田市は子育て支援などの地域互助の重要なツールとして同社のサービスを活用していて、名刺に「ためまっぷ」のロゴマークを記載しています。

中西技術的に面白いのは、行動科学を取り入れたAIを開発しているGodotですね。例えば、健康診断に行かない人を健診に行かせるようにする場合、従来のようにハガキだけで催促してもほとんど効果はありません。電話をかけるのか、スマートフォンのSMSに送るのか、もしくは夜でも健診が受けられる会場を案内するのか。AIのロジックで個々人に最適な方法を案内することができます。

実際、大阪で一割未満の受診だった大腸がん検診にGodotのAIを導入することで、受診率を劇的に改善させた実績があります。

最近は加入者が運動をすることで保険料が安くなるなどのインセンティブが得られる健康増進型の保険が増えていますが、日々の運動や血圧の測定を推奨させるGodotのAIはこういった商品とも好相性です。すでに複数の大手保険会社との協業が進んでいます。

中西at FORESTというスタートアップは循環葬®︎という新しい埋葬を提案しています。お墓の無縁化が社会問題となっており、死生観や宗教観も多様化していますがそこに対するソリューションがない。そこに目をつけたat FORESTは、普段の生活で行きつけの山をつくり、そこに骨を埋める新たなエンディング「循環葬®︎RETURN TO NATURE」を提案しています。

年に1回、お盆の時期にだけお墓に行くというこれまでのスタイルとは異なり、自分が骨を埋める山に普段から森林浴で足を運び、ライフスタイルの中に組み込んでいく点が斬新ですね。地方では放置林などの問題もあるので、里山を整備する狙いもあります。

また、お墓についての悩みを抱えている方も多くいらっしゃるでしょう。そういった問題も循環葬は解決できる可能性があります。

スタートアップと地元企業の協業を強化

今後も周年イベントは開催する予定でしょうか?

中西3周年イベントで成果を残せたかと思いますので、今後はより新しいスタートアップが参加できるよう工夫して開催したいですね。今回はつながりのあるスタートアップに参加してもらいましたが、次回以降は私たちと協業関係にある事業会社やベンチャーキャピタル等の支援機関からひょうご神戸のエコシステムに関わっていきたいスタートアップを紹介いただくなど、コミュニティを広げるような施策を考えています。

河上兵庫県と神戸市の事業会社も徐々にスタートアップに興味を持ってくれて、オープンイノベーションや協業も数年前と比べると増加傾向にあります。とはいってもまだまだそこまで踏み出せていない企業も数多くいるので、よりスタートアップと事業会社の協業を進めていきたいですね。

起業プラザひょうご・hoops link kobeの今後の展望について教えてください。

中西おかげさまで起業プラザひょうご・hoops link kobeはひょうご神戸スタートアップ・エコシステムの中で重要な拠点になっています。けれども、地元企業へのアプローチはまだ不足していると感じます。スタートアップ界隈だけで盛り上がって終わることは避けたいので、地元企業とスタートアップの協業によりいっそう力を入れていきます。

さらに神戸は東京に比べるとコンパクトなので、何かやりたい人が積極的に発信してくれると行政も銀行もスタートアップも含め、同調してくれる人たちが多数集まります。積極的に応援する体制が整っているので、新しいことを始めたい人はぜひ神戸で始めてほしいですね。海と山も近いし、満員電車もない。生活はとても快適ですよ。

河上この場所だけを盛り上げて終わるのではなく、兵庫と神戸のエコシステム全体を盛り上げることが目標です。私たちのエコシステムは参加メンバー全員の顔が見え、関係性がはっきりしている点が特徴です。数年前からは大学との連携を進め、神戸大学・神戸市と三井住友銀行でスタートアップ・エコシステム形成促進に関する協定を締結しています。兵庫県は大学の数も多いので、大学発のスタートアップをもっと生み出していきます。

そしてイグジットも大きな目標です。去年は一社が我々の元からIPO(新規上場)を果たしましたが、今後はよりその数を増やしていきます。IPOを果たせばいろいろなノウハウが蓄積されるので、後続のスタートアップにも伝播できるでしょう。まずは我々が支援するスタートアップの先頭集団のIPOを狙い、より厚みのあるエコシステムを形成します。最終的には兵庫県、神戸市から世界に羽ばたくスタートアップを生み出すことが目標です。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 株式会社三井住友銀行 公共・金融法人部 部長
    地域連携推進(神戸) 担当部長

    河上 哲也氏

  • NPO法人コミュニティリンク 代表理事/CEO

    中西 雅幸氏

ベンチャーキャピタル
(Venture Capital)

類義語:

未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンド。

エコシステム
(Ecosystem)

類義語:

各社の製品の連携やつながりによって成り立つ全体の大きなシステムを形成するさまを「エコシステム」という。

オープンイノベーション
(Open Innovation)

類義語:

製品開発や技術改革、研究開発や組織改革などにおいて、自社以外の組織や機関などが持つ知識や技術を柔軟に取り込んで自前主義からの脱却し、市場機会の増加を図ること。