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【Luup×SMBCベンチャーキャピタル】短距離移動のインフラ構築で、日本の「移動」を変えていく

高齢化や人口減少が進む日本で、多くの街が抱える人の移動という課題。そんな社会問題の解決を目指し、誰もがいつでもどこでも自由に移動できる次世代インフラづくりに挑戦をしているのがLuup社です。創業5年で対応エリアを8都市に拡大しており、今後は、法改正の後押しもあって、さらに多くの地域へと拡大する見込みです。

Luupの登場で、日本の「移動」はどう変わるのでしょうか。今回はLuup社の代表取締役社長兼CEO 岡井 大輝氏と、サービス開始前から支援を続けているSMBCベンチャーキャピタル 竹内 基紘氏にお話を伺い、「移動」にまつわるイノベーションに迫ります。

目指すのは、短距離移動インフラ構築の先にある「街づくり」

Luup社が提供するサービスの概要を教えてください。

岡井「街じゅうを『駅前化』するインフラをつくる」というミッションを掲げており、電動アシスト自転車や電動キックボードなどの短距離移動用モビリティを、誰もが利用できるサービスを提供しています。通常であれば駅から離れた場所まで移動するのに15分以上歩かなければならないところを、我々のサービスを利用すると数分で目的地に到達できるようになります。

株式会社Luup 代表取締役社長兼CEO
岡井 大輝氏

現在のサービス提供エリアを教えてください。

岡井現在、東京、大阪、京都、横浜、名古屋、神戸、広島、宇都宮の8エリアでサービスを提供しており、ポート(モビリティの乗り降りができる場所)の数は6,000まで増えています(2023年1月時点)。2023年7月に法律が改正され、Luupで提供する電動キックボード(特定小型原動機付自転車)が16歳以上であれば運転免許なしで利用できるようになったため、今後ますますサービス提供エリアを拡大していく見込みです。

現在日本にはいくつかのシェアサイクルサービスがあります。それらのサービスとの違いはどこなのでしょうか?

岡井最終目標が「街づくり」であることが一番大きな違いだと考えています。
我々は鉄道やバス、タクシーなどの既存交通手段と競合関係にはありません。むしろ協業先であり、一緒に街の発展に貢献する仲間だととらえています。Luupの役割は既存の交通機関を利用した後の人々が、目的地へ向かう10分程度の移動をサポートすることです。そのようなコンセプトにもとづいて、サービス設計をおこなっています。
たとえば、ポートの高密度設置です。東京の場合、地域にもよりますがポートからポートまでの距離は徒歩約2分圏内であることがほとんどです。ユーザーにとって乗り降りに最適な場所に、ポートが配置されています。

高密度なポート設置を実現させるため、モビリティ自体の小型化にも力を入れています。実はLuupは、シェアモビリティサービスの提供会社としては珍しく、車体の開発も社外のパートナーメーカーと共におこなっています。一般的なものよりも小さい車体を開発しており、狭い場所にも駐車スペースを確保できるようにしています。
サービスの仕様自体にも工夫が詰まっていて、「目的地ポートをあらかじめ予約しなければ利用できない」こともその一つです。ユーザーからすると、目的地近くまで行っても駐車するスペースがなければ意味がありません。そのような事態を防ぐために、あらかじめ目的地に一番近いポートに駐車スペースを確保しておくシステムにしています。

スマホ1台で誰でも利用可能。ハード・ソフト双方を重視したサービス開発

Luup社が現在の事業を始めた経緯についてお教えください。

岡井我々の場合、サービス内容より先に「まだ世の中にはない新しいサービスをつくる」という方向性を定めていました。既存サービスがひしめき合っている市場に参入するより、誰もできないことに挑戦をして、お客さまへ「我々のサービスがないと困る」という価値提供がしたいと思ったのです。

急激な人口減少が見込まれている日本で50〜100年後も必要とされる「我々にしかできないこと」を見つけるため、筋のよさそうなサービスを一つずつ試していきました。
現在のサービスを思いついたのは、スマホから介護士を呼べる「訪問介護サービス」づくりに取り組んでいるときでした。そのサービス自体は断念してしまったものの、日本の人の移動という課題の深刻さに気づくきっかけになりました。たとえば、誰かの家に介護士を派遣する場合、公共交通機関が整備されていない場所へ向かうには車が必要です。ただ、車を利用するには駐車場代がかかり、それだけサービスの価格も上がってしまいます。
車やバイクのシェアならいいのかというと、そうでもありません。そもそも日本は鉄道中心の社会で、欧米や東南アジアのように車やバイクでの移動を前提として都市がつくられていません。ゆえに、道幅が狭く目的地の近くにたどり着けないことも多いのです。鉄道やバスが非常に発達している代わりに、オンデマンド性の高い移動手段が少ないという課題を目の当たりにし、まずはそこから解決すべきだと感じました。

モビリティサービスを検討するため、業界分析を進めた結果、必要な要素は大きく4つあるとわかりました。車両や道などのハードウェア、サービス管理やデータ連携に必要なソフトウェア、最適な交通網を構築するための移動データ、各自治体や政府とのアライアンス、です。
同時に、4つすべての要素をバランスよく取り入れている会社は少ないと気がつきました。自動車メーカーはハードウェアには強くても、ソフトウェアの販売にはそこまで力を入れていません。逆に、ソフトウェアに強いライドシェアサービスの場合、国や地元企業とのコミュニケーションやアライアンス構築に弱い傾向にあります。既存企業と同じビジネスモデルではなく、4つの要素すべてを兼ね備えた新しいサービス構築こそ、我々にしかできないことだと思いました。
そのような観点から生まれたのが、Luupが今取り組んでいる「短距離移動インフラの構築」だったのです。

初対面で成功を確信。銀行系VCに出資を決断させた「社長の突破力」

Luup社とSMBCベンチャーキャピタルとの出会いについて教えてください。

竹内新型コロナウイルス感染症が流行する前の2019年11月ごろに、共通の知り合いからご紹介いただいたことがきっかけでした。当時岡井さんは、銀行からの出資を入れた方がいいのかと、悩まれていたタイミングだったと思います。

SMBCベンチャーキャピタル株式会社 投資営業第四部 副部長
竹内 基紘氏

岡井おっしゃる通りです。当時はまだVCの種類に詳しくなく、初期フェーズでどのような投資家を入れると、事業のスケールにつながるのか頭を悩ませていました。これから先、銀行との取引が必要になることを考えると、銀行系のVCとお付き合いを始めたいと考えていました。ただ、サービスが本格的に始まっていないなかで、評価をしてもらえるのかは不安でしたね。
「小型のモビリティを街中に分散して配備し、スマホ一台で誰でも利用できるようにする」というサービスコンセプト自体の新規性が高く、本当にうまくいくのか判断材料が少ない状況でした。そのうえ、当時電動キックボードの使用は法的にルール整備の議論中で、その結果も読めない状況でした。

リスクの大きい状況のなか、出資の判断を下したプロセスについて教えてください。

竹内初めてお会いしたときから「岡井さんは事業を成功させるに違いない」と直感的に感じました。おっしゃる通り、サービス自体はまだまだこれからという状況でしたが、将来の日本になくてはならないサービスだと感じましたし、岡井さんの事業推進力にも可能性を感じたのです。
世界中でマイクロモビリティ市場は拡大傾向にあり、日本でも遅かれ早かれ大きな市場が生まれるだろうと予想できました。そうなったとき市場をリードするのは、様々な障壁を乗り越えられる、突破力のある経営者です。
岡井さんは、当時から電動キックボードに対するルール整備が行われない可能性を考慮し、電動アシスト自転車と併用するデュアル・トラック構想を持っていました。初めてお会いしてから数カ月後に再会したときには、すでに電動アシスト自転車の試作機を持っていて、そのスピード感に驚きました。短期間で構想をかたちにする開発力や、メンバーを巻き込む経営手腕に可能性を感じ、これほど推進力があれば、私に限らず多くの方が応援し、世論もいい方向に変えていけるのではと感じました。

そして、仮に電動キックボードに対するルール整備が行われなくても、電動アシスト自転車があるのでマイクロモビリティシェアリングの会社として新しい市場をつくる可能性は十分にある、と社内を説得していました。最終的には、私以外にもLuupの考えに共感をする人が社内に増え、会社として出資の判断を下したというのが経緯です。

岡井銀行系のVCは審査が厳しく、それだけ出資のタイミングが後になるイメージでした。リスクを避け、なるべく上場の確率が高い企業へ出資をする印象だったからです。ただ、SMBCベンチャーキャピタルさんの場合、厳しい審査もあったうえで、我々が必要なタイミングでの出資を決めていただきました。収益が予想通り出るのかわからない、法改正もどうなるかわからないという状況で、あらゆるリスクを一緒に議論してもらえたおかげで、事業の見通しがより一層はっきりしたと感じています。

なぜ、SMBCベンチャーキャピタルは、早いラウンドでの出資を決断できたのでしょうか。

竹内出資の判断基準として、私のような担当者の意思を尊重する文化が影響していると思います。もちろん、どれほどのリスクを許容するか会社としての基準はありますが、それだけで出資が決まることはありません。創業以来、SMBCベンチャーキャピタルもまた試行錯誤を繰り返してきました。その結果、実際に出資予定先企業と密に話をしている担当者を信頼することの重要性に気づき、各担当者を通して見える経営者の思いや覚悟に期待して、早いラウンドでも会社として出資の意思決定を行うことができたのだと思います。

出資決定後に迎えた転換点。大手企業との連携が進み、事業成長が急拡大

SMBCベンチャーキャピタルからの出資を受け、現在に至るまでにどのような事業成長を実現させたのか教えてください。

岡井SMBCグループという、社会的信頼の大きなVCから出資いただけたことで、電鉄企業などをはじめ、大手企業との連携が進むようになったと感じています。
出資いただいたタイミングは、Luupからするとまさに転換点でした。電動アシスト自転車の配備がスタートし、多くの方に乗っていただけました。そのおかげで、小型モビリティを大量に高密度で配備することが価値につながるという事業モデルの検証が進みました。また、電動モビリティの安全性やコストの検証も進み、サービスのかたちがはっきりしてきたのです。そのような転換点に、SMBCベンチャーキャピタルから出資を受けられたことで、事業拡大のスピードが早まったと考えています。

三井住友銀行の店舗へポートの導入が進んだことで、更なるお問い合わせ増加にも。

今後の展望についてお教えください。

岡井大きく4つあります。

1つ目は、供給体制の構築です。2023年7月に改正道路交通法が施行されてから、ありがたいことに、導入希望の自治体や企業、不動産オーナーから多くご連絡をいただいています。我々のサービスは利用者が増えると、それだけ認知度も高まり、問い合わせ数がさらに増えるという構造にあります。これからも、問い合わせ数が指数関数的に増えていくことが予想されますので、それに応えられる供給体制の構築に力を入れたいです。
2つ目は、これまで展開できなかった地方へのエリア拡大です。政府と取り組んでいた安全性の検証が一段落したことで、地方都市や観光地、離島のような、今まさに大きな人の移動という課題を抱えている地域でもサービスの展開ができるようになりました。地方への展開を積極的におこない、日本中にサービスを届けたいです。
3つ目は、モビリティの種類を増やすことです。現在は、電動アシスト自転車と電動キックボードの2種類しかありません。将来的には、より安定性の高いモビリティを提供し、高齢者や体の不自由な方でも安心して利用できるサービスにしたいと考えています。
4つ目は、街づくりにまで関与する事業の開始です。これまでは、モビリティ事業の拡大フェーズでしたが、それでは我々の目指す事業としては不十分です。これまで移動がなかった場所に人が訪れるようになった先に、人々が豊かに暮らせるための街づくりの後押しを始められればと思っています。そのためにも、我々が蓄積している移動データを電鉄・バスや不動産会社などの他企業と連携し、街づくりのための協業体制を構築していきたいです。

これからも、「街じゅうを『駅前化』するインフラをつくる」というミッションの実現に向けて、SMBCグループをはじめ、周りの方々の力を借りながら、事業成長を実現させていきます。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 株式会社Luup 代表取締役社長兼CEO

    岡井 大輝氏

    東京大学農学部卒業後、戦略系コンサルティングファームにて上場企業のPMI、PEファンドのビジネスDDを主に担当。その後、株式会社Luupを創業し、代表取締役社長兼CEOを務める。2019年5月には国内の主要電動キックボード事業者を中心に、新たなマイクロモビリティ技術の社会実装促進を目的とする「マイクロモビリティ推進協議会」を設立し、会長に就任。

  • SMBCベンチャーキャピタル株式会社 投資営業第四部 副部長

    竹内 基紘氏

    2009年大和SMBCキャピタル入社、2010年の会社分割後はSMBCベンチャーキャピタルに所属。一貫してベンチャー投資に従事し、累計50社超に総額40億円超を投資。投資先上場実績は、ウェルスナビ、ChatWork、エクサウィザーズ、プレイド、コラボス、KIYOラーニング、ログリー、セーフィー、フィックスターズ。