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移転不可能なトークンを用いて、社内コミュニティを活性化。SMBCグループ×HashPortの実証実験を振り返る

2023年4月からSMBCグループとHashPortグループが共同で実施した「ソウルバウンドトークンを用いた社内コミュニティ形成に関する実証実験」。この実証実験では移転不可能なNFTであるソウルバウンドトークン(以下SBT)を用いて、SMBCグループの社内コミュニティの形成についてさまざまな角度から実験を行いました。終了後の8月にhoops link tokyoで開催されたトークイベントは、HashPortグループから堀井氏、日本総合研究所 先端技術ラボ兼 三井住友銀行 デジタル戦略部の市原氏、三井住友銀行 決済企画部から沼田氏の3名が登壇して、実証実験の振り返りと今後のWeb3のトレンドについてそれぞれの立場から意見が飛び交う内容となりました。当日の様子をレポートします。

イーサリアム創業者が提唱するWeb3のトレンド

司会本日は、ブロックチェーンを含めたWeb3のトレンドや今後の展望について、早速トークセッションを進めてまいります。まずはHashPortグループの堀井さんからお願いします。

堀井我々はSBTをはじめとするWeb3コンサルティングを得意とする会社で、今回の実証実験はSBT保有者間でしか送付できないトークンを用いたコミュニティ施策をテーマに行いました。背景として、従来可視化されていない社員間の感謝といった行動を、ブロックチェーン上のトークン送付で可視化することで、社内コミュニティ活性化につなげることを目指しました。具体的には、SBT保有者はSMBCグループの社内チャットツール内で形成されるコミュニティに参加し、テーマ別のチャンネルにてコミュニティに貢献する発言・行動をしたメンバーに感謝の証としてSBT保有者間でのみ送付可能なファンジブルトークン「ミドりぽ」を送付できるようにいたしました。

市原日本総合研究所の先端技術ラボから三井住友銀行 デジタル戦略部に出向している市原です。私は2016年に入社して、2018年からブロックチェーン関連の業務に従事しています。先端技術ラボはAIやブロックチェーンについての研究を進め、レポートや論文を発表している部署です。デジタル戦略部では、HashPortさんと協業して主に技術面の支援などを行っています。

沼田三井住友銀行 決済企画部の沼田です。決済企画部はトランザクションビジネスの中長期的な戦略や、当行の決済インフラ戦略の企画立案を行い、案件推進をリードすることをミッションにしています。これまでも「ことら送金」や「BankPay」といった日本の新たな決済インフラを構築したり、デジタルマーケティングをはじめとする法人顧客向けの新たなビジネスモデルを企画したりしてきました。今回の実証実験には、決済企画部のメンバーとしてではなく、年代や組織を横断して化学反応を起こしたい行員の1人として参加しています。

司会まずは堀井さんに伺います。先日HashPortグループが2025年の大阪万博で、デジタルウォレットのサービスを提供することが話題になりました。堀井さんから見た、最近のWeb3業界のトレンドについて教えてください。

堀井現在、Web3の市場規模は右肩上がりで2027年には今の20倍近く、2.4兆円まで国内市場が伸びていくと予想されています。そんな中、イーサリアム創業者のヴィタリック・ブテリン氏が提唱している三つのトレンドがあります。まずはプライバシーについて。Web3のIDは現実世界の個人情報と密につながることはなく、Web3の世界に閉じている概念です。そこでいかにプライバシーを守り、アイデンティティを形成していくのか。この点が重要ということです。

出典1:https://jinanbo11.com/news/kearney-web3-20230422/#index_id3
出典2:https://vitalik.eth.limo/general/2023/06/09/three_transitions.html

二つめが「L2 ※1」と呼ばれるレイヤーの問題です。ブロックチェーンではトランザクションが増えると動作が遅くなる欠点があります。規模が小さいサービスだとそれだけで正常に機能しない場合もあります。現状はユーザーが高い手数料を払いサービスを利用していますが、上手く手数料を減らしつつ、なるべく大きな容量でサービスを提供できるようなL2の領域に注目が集まっています。

(※1)ブロックチェーンの基本層(レイヤー1)とは別に存在する層で、トランザクション処理の効率化を図る技術。

三つめが「スマートコントラクトウォレット」です。Web3に欠かせない秘密鍵 ※2ですが、これは管理がとても大変なんですね。この秘密鍵の管理が不要になる新しいウォレットがトレンドとして注目されています。

(※2)暗号資産の所有者であることを証明するデータ。暗号資産を送金する場合などに使われ、暗証番号やパスワードなどに例えられる。

Hashport トークンアーキテクト部 シニアコンサルタント
堀井 泰佑氏

金融が果たすリアル世界とバーチャル世界の橋渡し

司会市原さんに伺いたいのですが、今後のWeb3はどういった分野で普及して、そこに金融はどのような形で絡んでいくとお考えですか?

市原企業と顧客とのエンゲージメントを高めるために、NFTやブロックチェーンが使われるようになると予想しています。少し前までは企業間の情報のやり取りを効率化するためにブロックチェーンが使われていましたが、個人的にはあまりしっくりこないと感じていました。

ブロックチェーンの思想は「個人が自分で情報を管理し、保有する」ところにあります。この「オーナーシップ感」はコミュニティへの帰属意識を高めるために有効です。企業と顧客が直接つながるコミュニティが増えてくると、この帰属意識こそが重要になるでしょう。トークンの配布や交換を介したコミュニティの活性化、エンゲージメントの向上につなげることができると考えています。

その上で金融の果たせる役割が、リアル世界とバーチャル世界の橋渡しです。ブロックチェーンではいくらでもアカウントをつくれるので、身元を確認する必要が出てきます。そこで多くの企業や個人と取引をしている銀行が身元を担保することで、安全性が確保されるでしょう。

日本総合研究所 先端技術ラボ ブロックチェーンスペシャリスト 兼 三井住友銀行 デジタル戦略部
市原 紘平氏

トークンを使い「感謝の流れ」を可視化

司会沼田さんに伺います。今回の実証実験に参加しての感想を教えてください。

沼田まず今回の実証実験では、SBTがコミュニティの活性化にどう寄与するかを検証しました。具体的な施策の概要をお伝えすると、実験に参加するSMBCグループの従業員宛に、HashPortグループの提供するブロックチェーン、Palette Chain上で、社員であることを証明するSBTと、実験参加者の間で流通する“ミドりぽ”と呼称するファンジブルトークンを配布します。そして、実験参加者は、SMBCグループの社内チャットツール内で形成されるコミュニティに参加してもらいます。また、コミュニティ内では、テーマ別にトークルームを形成し、コミュニティに貢献する発言・行動をしたメンバーに感謝の証としてミドりぽを送付できるようにするというものです。実験終了時にミドりぽを一定数以上保有していた参加者には、特典を付与しました。

結果として、短期間の間にかなり高密度で活発なコミュニケーションが行われており、部署と年代を横断した柔らかなイノベーションを起こせたと思っています。その理由を自分なりに分析して五つの要因を導き出しました。まず一つめが「感謝を互いに示せる構造」です。これは感謝の意を伝えるための「ミドりぽ」というFT(ファンジブルトークン、代替可能なトークン)を用意したことで感謝の流れが可視化されるようになり、参加者のモチベーション向上に寄与しました。二つめが「なんでも相談窓口の存在」です。困ったときに、誰かに相談できる窓口があるのは非常に重要です。

残りが「形式・マナーより、本質・リスペクト」「すぐにポジティブな反応をする」「すぐ採用」の三つです。形式的な儀礼を取り払い、意見そのものにリスペクトをして話す風土だったり、人の意見にはまず「いいね」をして、その上で改善点があればつなげていったりすることが大切です。そして、なにかアイデアが出てきたらすぐにピックアップして形にしていく。これらがイノベーションの要因だと考えています。

熱意のある人たちの貢献を可視化して、評価につなげる

市原今回の実証実験では沼田さんが発案した「SBT保有者間で流通するFTを使い、他者からの評価を見える化するアイデア」が大きく盛り上がりました。このアイデアを思いついたきっかけを教えてください。

沼田日々、いろいろな人たちの意見を聞いて集めたペインポイントから着想を得ました。要は、日々現場で感じるモヤモヤから生まれたアイデアですね。よく耳にするのが「質問や相談に対して多忙のため対応できない」といった悩みです。親身に相談に乗れば乗るほど担当者が割を食う現状を変えたいと思いました。

そこで、「人の役に立ちたい」という熱意のある人の行動を可視化すれば現状を変えられるのではないかと考え、今回のアイデアが生まれました。「FTの力で見えない価値貢献を見える化する」をコンセプトに、与えられた業務をすることでしか評価されない構造を変えて、部署間での連携を促進しようという狙いがあります。

三井住友銀行 決済企画部
沼田 真人氏

司会実証実験参加者のアンケートを見ますと「今回の実証実験が熱意にあふれた職員との交流になり、刺激をもらえました」「三井住友銀行で働くモチベーションの向上に繋がった」という声をいただいておりまして、ここから社内の新規事業へのモチベーションの強化にもつながるのではないかという示唆も得られました。堀井さんから見て、このようなトークンの使い方には可能性を感じますか?

堀井可視化された感謝のリレーションは、間接的な人事評価や対外的な人材アピールにも活用できると考えています。ブロックチェーンは情報の追跡ができるので、「部署Aから部署Bに多くのリレーションが流れている」といった詳細な情報も読み取れます。感謝のリレーションを可視化することで、社内だけでなくいろいろな分野に応用できる可能性があります。

司会最後に皆さんから今回のトークセッションについて一言ずついただければと思います。

沼田今回の実証実験でブロックチェーンの多様な可能性と、クロスボーダーの取り組みによるイノベーションの可能性を感じることができました。今後はブロックチェーンが得意とするスキームや活用できるビジネスの可能性に目を向けながら、継続的にイノベーションを起こしていきたいですね。

堀井今後のWeb3サービスを考えていく上で、多くの示唆を得られました。皆さまと一緒にWeb3のサービスを検討していく上で、SBTやFTだけでなくそれ以外の多様な分野、テクノロジーをどのように絡めていくか引き続き検討を重ねてまいります。

市原私は2018年からブロックチェーンの事業に携わっていますが、まさに今が一番盛り上がっているタイミングだという肌感覚があります。三井住友銀行内でこれだけ大きな実証実験が実施できたことは大きな意義がありますし、研究をしている身としても多くの学びと発見がありました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • Hashport トークンアーキテクト部 シニアコンサルタント

    堀井 泰佑氏

    大学在学中よりブロックチェーン領域に興味を持ち、大手暗号資産取引所のエンジニア・コンサルタント職の採用業務を経験後、デロイトトーマツサイバー合同会社へ入社。大手自動車会社のセキュリティ業務に従事した後、HashPortに参画。

  • 日本総合研究所 先端技術ラボ ブロックチェーンスペシャリスト
    兼 三井住友銀行 デジタル戦略部

    市原 紘平氏

    2018年より三井住友銀行でブロックチェーン関連の調査及び案件支援業務等に従事。国立情報学研究所、近畿大学、株式会社chaintopeとの4者共同研究の推進などにより、ブロックチェーンに関する技術、法制に関する知見を深める。社会課題解決型の新規事業創出へ向け、システムズエンジニアリングやCPSの調査・研究にも取り組む。Udacity Blockchain Developer Nanodegree Program修了。日本VR学会認定 上級VR技術者(第S-2014-43号)。
    [Publication]
    日本総合研究所レポート:「セキュリティトークンの概説と動向」「システムズエンジニアリングの概説と動向」
    「Society5.0におけるサービス・エコシステムについての考察」(サービス学会 第11回国内大会 講演論文集,2023.)
    「証券へのブロックチェーン技術適用に関する検討~日本の法制度下での社債を事例に~」(電子情報通信学会技術研究報告,vol.120,no.380,pp.7--14,2021.)
    (問合せ先:101360-advanced_tech@ml.jri.co.jp(日本総合研究所 先端技術ラボ))

  • 三井住友銀行 決済企画部

    沼田 真人氏

    2019年大学卒業後に三井住友銀行へ入行。
    支店勤務、法人営業、外国為替のバック業務を経て、2023年より決済企画部に着任。現在は法人向けの決済ビジネスを専門領域とした企画業務に従事。
    社内SNSを活用して、有志勉強会や若手懇親会、パネルディスカッションを企画するなど、有志での取組も行っている。

この記事でご紹介したサービス
Web3.0
()

類義語:

非中央集権のインターネット。これまで情報を独占してきた巨大企業に対し、デジタル技術を活用して分散管理することで情報の主権を民主的なものにしようとする、新しいインターネットのあり方を表す概念。読み方は「ウェブスリー」。

SBT
(Soulbound Token)

類義語:

  • ソウルバウンドトークン

「譲渡不可のNFT」のこと。通常、NFTは自由に売買することが可能である一方で、ソウルバウンドトークン(SBT)は譲渡不可であり、個人の存在証明への活用等が期待されている。

NFT
(Non-Fungible Token)

類義語:

ブロックチェーン技術を使用した非代替性トークン。画像・動画・音声など、容易に複製可能なアイテムを一意なアイテムとして関連づけることが可能。

仮想通貨
(Digital Currency)

類義語:

  • 暗号資産,デジタル通貨

電子データのみでやりとりされる通貨であり、法定通貨のように国家による強制通用力(金銭債務の弁済手段として用いられる法的効力)を持たず、主にインターネット上での取引などに用いられる。

ブロックチェーン
(Blockchain)

類義語:

  • 分散型台帳

情報を記録するデータベース技術の一種で、ブロックと呼ばれる単位でデータを管理し、それを鎖(チェーン)のように連結してデータを保管する技術を指す。同じデータを複数の場所に分散して管理するため、分散型台帳とも呼ばれる。