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スタートアップ対象に、インパクト投資を開始。企業の社会的価値創造を支援

今、世界的に注目が集まっている「インパクト投資」。インパクト投資とは、財務的リターンと並行して、世の中にある社会的課題に対して、社会的および環境的にポジティブなインパクト ※1を同時に生み出すための投資行動 ※2を指します。気候変動や貧困、ジェンダーなどの社会・環境課題が深刻化するなか、課題解決への有効なアプローチとして注目されています。試算によると、世界のインパクト投資残高は1.16兆ドル ※3、日本のインパクト投資残高も11.5兆円と1年間で約1.97倍に拡大しています。※4

※1 事業や活動の結果として生じた、社会的・環境的な変化や効果
※2 引用:GSG 国内諮問委員会ウェブサイト
※3 引用:Global Impact Investment Network「GIINsight: Sizing the Impact Investing Market 2022」
※4 引用:GSG 国内諮問委員会「日本におけるインパクト投資の現状と課題 2023年度調査」

三井住友銀行とSMBCベンチャーキャピタルは、2024年4月より、スタートアップを対象としたインパクト投資を開始。中期経営計画で掲げるスタートアップ向け投融資1,350億円(2023〜2025年度)の実現を加速させる施策のひとつとして位置付けています。

SMBCグループは今後、インパクト投資においてどのような取り組みを行なっていくのでしょうか。三井住友フィナンシャルグループ 執行役員 グループCSuO 髙梨 雅之氏および三井住友フィナンシャルグループ 社会的価値創造推進部 事業企画グループ 谷津 もゑり氏の両名にお話を伺います。

連載:インパクト投資

  1. スタートアップ対象に、インパクト投資を開始。企業の社会的価値創造を支援
  2. SMBCグループが行う、インパクト投資の狙いとその先の未来『SMBCベンチャーキャピタル インパクト投資機能ローンチ記念 Kick Off イベント』

インパクト投資およびインパクト創出支援を開始

SMBCグループがインパクト投資に取り組み始めた目的を教えてください。

髙梨SMBCグループでは今中期経営計画「Plan for Fulfilled Growth」における基本方針として「社会的価値の創造」および「経済的価値の追求」を掲げています。この社会的価値の創造と経済的価値の追求に両輪で取り組めるのが、インパクト投資だと考えています。

インパクト投資は、従来の投資活動で行われている財務的な収益を追求しつつ、社会的および環境的にポジティブなインパクトも追求していくものです。SMBCグループとして、インパクト投資に注力していくことは、未来において非常に重要な意味を持つと考えています。

三井住友フィナンシャルグループ 執行役員 グループCSuO
髙梨 雅之氏

メガバンクであるSMBCグループが取り組む意義は何でしょうか?

谷津インパクト投資に取り組む金融機関は日本ではまだ珍しく、投資機能として実装されたのはメガバンクグループのベンチャーキャピタルでは初めてとなります。我々が先陣を切って取り組むことで、「インパクト投資を世の中の当たり前にする」ことに貢献ができると考えています。

そもそも、日本で「インパクト投資」という概念が知られるようになったのは最近のことです。2023年に、政府から「経済財政運営と改革の基本方針 2023」が発表され、そのなかで「インパクト投資の促進等を通じ社会的起業家(インパクトスタートアップ)への支援を強化する」と明記されました。また、2024年3月には、金融庁から「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」が公表されています。

しかし、正しい理解はまだ進んでおらず、金融機関や投資ファンドでさえ「特殊な投資」「通常の投資と比べてリターンが少ない投資」と偏った見方をしているところも多いです。インパクト投資の正しい認識を広め、社会全体の投資行動をアップデートすることが我々の目標です。

そのためには、我々が率先してインパクト投資の事例をつくり、その情報をどんどん公開していく必要があると思っています。インパクト投資自体に興味はあるものの、実際に何をやればいいのかわからない、誰に聞けばいいのかもわからないという方に向けて、具体的な事例をお届けしていきます。インパクト投資を身近に感じてもらうための「スピーカー」のような役割を果たし、参入するハードルを下げられればと考えています。このような活動そのものが「社会的価値の創造」にもつながっていくと考えるため、SMBCグループが担うべき役割だと感じています。

三井住友フィナンシャルグループ 社会的価値創造推進部 事業企画グループ
谷津 もゑり氏

SMBCグループのアセットを活用し、非資金的支援も提供

SMBCグループはインパクト投資を推進していく立場として、どのようなことに取り組んでいくのでしょうか。

谷津資金的支援はもちろんのこと、非資金的支援も行なっていきます。資金的支援とはインパクト投資そのものの活動を指します。SMBCグループの重点課題(マテリアリティ)である、「環境」、「DE&I・人権」、「貧困・格差」、「少子高齢化」、「日本の再成長」の解決につながる商品・サービスを提供する企業に対し、SMBCベンチャーキャピタルを通じて資金面でサポートしていきます。

一方、非資金的支援とは具体的に4つの施策を検討しています。

1つ目は、交流イベントの開催です。直近では、4月26日に「SMBCベンチャーキャピタルインパクト投資機能ローンチ記念Kick Off イベント」を開催し、投資家やスタートアップの方々などにご参加いただきました。イベントでは、インパクト投資に関する説明とともに、実際に社会的価値の創造を体現する事業を営む経営者の方々にご登壇いただき、インパクト創出の事例・課題についてお伝え頂きました。今後も、最新の情報を紹介していくとともに、こうした交流の機会を設けることで、協業や提携などのつながりを創出できる場づくりに取り組んでまいります。

2つ目は、インパクト投資や評価に関する相談拠点の整備です。東京都渋谷区にあるオープンイノベーション拠点「hoops link tokyo」に、私を含めた社会的価値創造推進部のメンバーが毎週水曜日に常駐する体制をつくりました。「インパクトって何?」「インパクトスタートアップと評価されるにはどうすればいいの?」「ロジックモデルはどうやって作ればいい?」など、誰に聞けばいいのかわからない疑問を、気軽に聞ける場所を提供し、インパクトに関する相談はSMBCグループに、という素地を作っていきます。

3つ目が、インパクト投資を通して資金調達をすることに関心のあるスタートアップに向けたインパクト経営ワークショップの開催です。まずはSMBCグループが独自に提供するバリューアップに資するツールである「X Innovation Sheet」と、インパクトを評価するために用いられる「ロジックモデル」の両方を作成するワークショップです。

経営者からすると社会的インパクトの追求は、社会貢献のイメージが強く、収益性の低い印象を持っていると思います。しかし、自社の社会的インパクトに目を向けることは、経営課題の棚卸しをすることと同義です。我々が設計するプログラムでは、単に社会的価値について考えてもらうのではなく、既存事業の収益性アップにもつながる内容にできればと思っています。

4つ目は、SMBCグループが有望なインパクト投資候補企業に対して、スタートアップの個社支援を行う、インパクト評価支援です。多くのスタートアップは人員に余裕がなく、インパクト投資やインパクト評価の取組みをゼロから始めるのは難しいのが実情です。そこで、SMBCグループ社内でメンバーを募集し、事前研修を行った上で、インパクト投資を真剣に検討しているスタートアップに対して、インパクト投資の伴走支援を行います。評価の指標となるロジックモデルを作成など、インパクト評価に必要な体制構築を無償で支援します。

こうした様々な取り組みを通して、SMBCグループだけでなく、社会全体でよりよい未来を作っていきたいと考えております。

非資金的支援の全体像

「インパクト投資」という言葉が、不要な世界を実現する

今後の展望を教えてください。

谷津SMBCグループはまだ、インパクト投資機能を実装したばかりです。引き続き、資金的支援と非資金的支援の両軸でインパクト投資の普遍化に貢献できればと思っています。

そして「インパクト投資」という言葉自体がいらなくなる世界づくりに貢献したいと思っています。「コンプライアンス」「ガバナンス」といった言葉も、提唱され始めた当初は、受け入れられない人が多かったように思います。しかし今や、社会全体に広く浸透し、当たり前の考え方になっており、あえてその必要性に触れる企業は少なくなっています。「インパクト投資」も同じように、企業が社会的価値創造に取り組むことは当たり前で、投資判断でインパクトが見られることも当然である、という世界の実現が理想です。

SMBCグループがインパクト投資をリードすることにより、次世代に受け継ぎたくなる、そんな社会づくりに貢献していきます。

髙梨社会はどんどん複雑化・多様化してきており、環境、人権、貧困・格差等、世界が直面する社会課題は拡大・深刻化の一途を辿っています。そんな状況において、大手金融機関として、包括的なインパクトを与えることで、環境・社会課題の解決を支援していきたいと考えています。そんな思いのもと、2023年3月にはインパクト志向を持つ金融機関のイニシアティブである「インパクト志向金融宣言」に署名、一般社団法人インパクトスタートアップ協会に賛同会員として加入するなど、インパクトに関する取り組みを進めてまいりました。

今後、SMBCグループはインパクト創出に向けた取り組みを一層進めていきます。社会的インパクトの創出に努め、経済的成長に加えて、その礎である人々が持続的に豊かになる社会の実現を目指してまいります。

連載:インパクト投資

  1. スタートアップ対象に、インパクト投資を開始。企業の社会的価値創造を支援
  2. SMBCグループが行う、インパクト投資の狙いとその先の未来『SMBCベンチャーキャピタル インパクト投資機能ローンチ記念 Kick Off イベント』
PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 三井住友フィナンシャルグループ 執行役員 グループCSuO

    髙梨 雅之氏

    1993年に住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、企画部にて当社初の統合報告書(2016年発行)の作成を主導したほか、三井住友銀行欧州営業第五部共同部長として欧亜中東地域におけるサステナブルファイナンスを推進。2022年4月よりサステナビリティ企画部長、2023年4月より現職。当社グループ全体のサステナビリティ戦略を統括。

  • 三井住友フィナンシャルグループ 社会的価値創造推進部 事業企画グループ

    谷津 もゑり氏

    2020年に三井住友銀行入行。新宿西口法人営業第三部、サステナビリティ企画部を経て2024年4月より現職。インパクト投資・評価、および重点課題である「貧困・格差」における社会的価値創造の事業開発業務に従事。

コンプライアンス
(compliance)

類義語:

  • 法令遵守

「法令遵守」のことを指す。企業や個人が法令や社会的ルールを守ることに加え、企業倫理や社会規範などに従い、公正・公平に業務を行うこと。

ベンチャーキャピタル
(Venture Capital)

類義語:

未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンド。

オープンイノベーション
(Open Innovation)

類義語:

製品開発や技術改革、研究開発や組織改革などにおいて、自社以外の組織や機関などが持つ知識や技術を柔軟に取り込んで自前主義からの脱却し、市場機会の増加を図ること。

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