SMBCグループが行う、インパクト投資の狙いとその先の未来『SMBCベンチャーキャピタル インパクト投資機能ローンチ記念 Kick Off イベント』
SMBCグループは2024年4月より、財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的および環境的インパクト※1を同時に生み出すための投資行動※2である「インパクト投資」を開始しました。今後は、投資活動と合わせて、インパクト投資に関心のあるスタートアップに向けたワークショップの開催やインパクト評価支援※3といった非資金的支援にも力を入れ、企業の社会的価値創造の支援を強化していきます。
4月26日に「SMBCベンチャーキャピタル インパクト投資機能ローンチ記念 Kick Off イベント」を開催しました。今回は、当日のイベントの様子について、それぞれの登壇企業の発表内容と併せてお届けします。
※1 事業や活動の結果として生じた、社会的・環境的な変化や効果
※2 引用:GSG 国内諮問委員会ウェブサイト
※3 引用:有望なインパクト投資候補企業に対して、事前研修を受けたSMBCグループメンバーが個社支援を行うこと
連載:インパクト投資
- スタートアップ対象に、インパクト投資を開始。企業の社会的価値創造を支援
- SMBCグループが行う、インパクト投資の狙いとその先の未来『SMBCベンチャーキャピタル インパクト投資機能ローンチ記念 Kick Off イベント』
社会課題先進国である日本において、ビジネスによる課題解決を支援
最初に、三井住友フィナンシャルグループ 執行役員 グループCSuO 髙梨 雅之氏から、SMBCグループがインパクト投資を開始した背景について説明がありました。
髙梨SMBCグループがインパクト投資をスタートした背景には、銀行を中心とした金融グループとして社会の発展に寄与したいという思いがあります。
日本は社会課題先進国と呼ばれるほど多くの課題を抱えており、経済の停滞が続いていました。そこでSMBCグループは、2023年4月からの中期経営計画に「社会的価値の創造」を新しい柱の一つとして加え、その実現に向けて全社一丸となって取り組んでいます。
とはいえ、CSR活動のみを追いかけるわけではありません。ビジネスを通じた社会課題解決のあり方を模索しており、「インパクト投資」は「社会的価値の創造」を切り口に新たなビジネスの創出に貢献できると考えています。ようやく、本日キックオフイベントが開催できて、非常に嬉しく思っております。
SMBCグループのアセットを活用した、非資金的支援の全体像
次に、三井住友フィナンシャルグループ 社会的価値創造推進部 事業企画グループ 谷津 もゑり氏から、SMBCグループのインパクト投資について、具体的な取り組み内容の説明がありました。
谷津SMBCグループでは、通常の投資活動に加え、インパクト投資および評価の普及に向けた啓発や、投資候補先となるスタートアップの育成などの非資金的支援にも取り組む予定です。
スタートアップのインパクト投資への適応度に応じて4つの施策を設けており、その1つ目が、本日開催しているような交流イベントの開催です。その他、インパクト投資に関心のあるスタートアップに向けた「インパクト投資や評価に関する相談拠点の整備」、「インパクト経営ワークショップの開催」、さらに「インパクト評価支援」を考えています。
個人的には、「インパクト投資」という言葉自体がいらなくなる世界づくりに貢献したいと思っています。企業が社会的価値創造に取り組むことは当たり前で、投資判断で社会に対するインパクトが見られることも当然である、という世界の実現に貢献したいです。
多様な社会課題解決に取り組む、インパクトスタートアップ5社事例
続いて、実際にビジネスの枠組みで社会課題解決に取り組む、インパクトスタートアップを5社お招きし、それぞれの事業内容についてご紹介いただきました。
1社目は株式会社ユカリアです。ユカリア社は、「変革を通じて、医療・介護のあるべき姿を実現する」をミッションに掲げ、病院の経営支援・運営支援事業を展開しています。
現在日本では、社会保障費が年々増加するなか半数以上の病院は赤字経営であり、今後ますます病院を取り巻く経営環境は悪化すると予想されています。これらの背景に、非効率な現場重視の経営、変革しないカルチャー、不十分な医療・介護DXなど、複雑に積み重なった課題があります。
ユカリア社は、経営改善、人事、病院の建替え支援など全方位でのサポートを長期的に提供し、業界全体の変革に挑んでいます。最終的には病院だけでなく、そこで働く方々や患者とその家族までもが幸せになれる社会を目指します。
2社目は株式会社villioです。villio社は、「意志ある個人をエンパワーメントすることで、世の中に新しい価値を作る」をビジョンに掲げ、マネジメントの質を改善して従業員のウェルビーイングを向上させる、人材育成DXプラットフォーム「Talent Amp」を提供しています。
昨今、リモートワークや人的資本の情報開示といった社会ルールの変化により、社員同士の対話の重要性が増しています。一方で、組織内の1on1は属人化し、人材マネジメントにおける管理職のスキルやノウハウが組織に蓄積されていないといった問題が深刻化しています。
villio社は「対話の音声自動書き起こし・解析機能」「生成AIを活用した内省支援」「組織全体マネジメント分析・レポート機能」など、複数機能が揃ったTalent Ampを提供し、マネジメントによる1on1の対話の質向上をサポートしています。人材育成を中心に従業員のウェルビーイングを高める「エンプロイーエクスペリエンスプラットフォーム」を目指します。
3社目は株式会社アレスグッドです。アレスグッド社は、「人類の価値観を解放させ、つなげる」をビジョンに掲げ、Z世代版採用プラットフォーム「BaseMe」を提供しています。求職者はBaseMeを使うことで、自分のビジョンや価値観を発信でき、大事にする価値観や興味のあるテーマで企業を探すことが可能になります。
現在、価値観の多様化が進み、自身に合った仕事が見つからないと感じる求職者が増えており、とくにZ世代では、その傾向が顕著です。AI時代といわれる現代において、コモディティ化するスキルのみならず、価値観を軸に仕事が探せる場所として誕生したのがBaseMeです。
BaseMeによって、求人を行う企業側も自社の価値観にマッチする人材に直接アプローチが可能となり、優秀な人材の母集団形成に有効です。今後も、サービスを通じた価値観データの集約を通して、人々の価値観を解放し、人と人、人と仕事が出会えるプラットフォームづくりに、グローバルでチャレンジしていきます。
4社目はサグリ株式会社です。サグリ社は、衛星データとAI技術を活用して食糧危機や気候変動といった課題の解決に取り組んでいます。AIによる農地区画化技術と衛星データをベースに、行政の農地調査、農業現場での営農支援、農業の脱炭素化を通じた民間企業向け事業など、多様な分析サービスを提供しています。
「農地の見える化で、価値を創造する」をミッションに掲げており、日本の農業が抱える高齢化問題や非効率な業務体制などの課題解決を目指しています。メインプロダクトの一つである「サグリ」では、AIによる土壌解析により、農家の方々が作物の生育状況を地図上で一気に把握できるようになります。さらに、土壌解析データをもとにした適正な施肥計画にも活用可能です。
今後は、ビジョンである「人類と地球の共存を実現する」の達成に向け、農業領域におけるプラットフォーマーとして、さらなるサービスの拡大を検討していきます。
5社目は株式会社ヘラルボニーです。ヘラルボニー社は、「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、知的障がいのある方のアートライセンスを集め、さまざまなプロダクトづくりをおこなっています。
現在は日本全国の52施設、241名の作家と契約をしており、大手を含めた幅広い業界の企業と協業を進めています。とくに最近は、海外展開に力を入れており、国際的なアートプライズ「HERALBONY Art Prize 2024」の立ち上げや、海外においても認知を拡大させるべくロゴのアップデートなどにも取り組んでいます。
今後も、海外展開に注力予定で、フランスを中心とした福祉施設への訪問および作家との契約をはじめ、スタートアップキャンパス「Station F」への入居、世界最大級のブランドグループであるLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン社の傘下ブランドや地元企業へのアプローチなど、複数の施策に同時に取り組む予定です。
SMBCグループは重点課題(マテリアリティ)に沿った投資活動に注力
続いて、SMBCベンチャーキャピタル株式会社 投資調査部長 大沼 祐太郎氏よりインパクト投資の市場と、重点課題(マテリアリティ)に沿ったSMBCグループのインパクト投資について解説がありました。
大沼世界各国における社会環題に対する関心は年々高まっており、それに伴ってインパクト投資市場も拡大傾向にあります。その市場規模は世界で1.16兆ドル※3、日本では11.5兆円にまで拡大し、とくに日本は1年間で1.97倍と急角度で成長をしています。※4
そこで、SMBCグループでも2024年4月にインパクト投資を開始しました。5つの重点課題(マテリアリティ)である「環境」、「DE&I・人権」、「貧困・格差」、「少子高齢化」、「日本の再成長」の解決につながる商品・サービスを提供するスタートアップを投資対象としています。持続可能な社会の実現を目指し、社会的価値の創造に向けたSMBCグループ全体での取り組みを、さらに加速させていければと考えています。
※3 引用:Global Impact Investing Network「GIINsight: Sizing the Impact Investing Market 2022」
※4 引用:GSG 国内諮問委員会「日本におけるインパクト投資の現状と課題 2023年度調査」
トークセッション:インパクト投資のこれまでとこれから
イベント後半では、社会変革推進財団(SIIF)にて、インパクト投資を始めとする事業全般を統括する、常務理事の工藤 七子氏にご登壇いただき、これまでのインパクト投資の流れや、これから予測される未来について、お話を伺いました。聞き手は、三井住友フィナンシャルグループ 社会的価値創造推進部 事業企画グループ 部長代理 花岡 隼人氏が務めます。
花岡先ほど、日本でのインパクト投資の市場規模が急成長しているというお話がありました。日本国内で市場規模が拡大したターニングポイントはどこにあったのでしょうか?
工藤大きく2つあると思っています。1つ目は、2015年に世界最大の機関投資家でもある年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が「国連責任投資原則」に署名をしたことです。本原則は、「長期的な投資収益の拡大には、投資先及び市場全体の持続的成長が必要」という考え方を提唱しています。
もともとインパクト投資は、開発援助の文脈から注目をされていた投資手法でしたが、同署名をきっかけに、一気にメインストリームのお金が流れ込むようになりました。業界にとっては衝撃的なできごとで、日本にもインパクト投資の波が生まれたととらえています。
2つ目は、2020年の金融庁・GSG国内諮問委員会共催「インパクト投資に関する勉強会」です。本勉強会を通じて、金融機関を中心にインパクト投資の概念が広がり、2021年にはインパクト志向の投融資の実践を進めていくことが盛り込まれた「インパクト志向金融宣言」が発表されました。2024年4月現在では総署名機関は78社にまで拡大し、分科会活動を通して活発な議論がなされています。
花岡これからのインパクト投資に求められることは何でしょうか?
工藤システムチェンジとも呼べる、大きな変化を起こすことです。
これまでの10年は、いわば可視化のフェーズでした。インパクトスタートアップの取り組みや社会的価値を可視化するメソッドが高度化されたことは大きな前進でした。
一方、真に社会課題解決を目指すのであれば、構造自体をひっくり返すようなシステムチェンジが必要です。たとえば、海洋汚染の場合、海洋プラスチックを効率よく回収する技術開発も重要ですが、いくら圧倒的な技術が生まれても、社会課題解決までに至るのは難しいでしょう。課題の根本解決を目指すのであれば、排出されている海洋プラスチックを対処することだけでなく、さらにその上流で、プラスチックを出さない仕組みを検討する必要があるからです。
場合によっては大企業のサプライチェーンをつくりかえることにも取り組まなければなりません。そう考えると、これからのインパクト投資は、スタートアップへの投資だけでなく、大企業に対する投資も必要かもしれません。すでに顕在化している課題を解決しにいくことだけに目を向けるのではなく、構造自体を変えるための取り組みが、社会課題解決においては重要なのです。
おそらく、これから10年のインパクト投資は、一つの会社や投資行ったVCのみで完結するのではなく、多くのステークホルダーと組みながら進めていくことになるのかなと考えています。
花岡SMBCグループに期待することはありますか?
工藤SMBCグループは非常に重要なポジションに位置していると考えています。海洋プラスチックの例で言えば、圧倒的な技術力をもつスタートアップに投資ができ、なおかつ、大手メーカーに行動変容を促すこともできるポジションにいます。ぜひ、グループ全体で保有するマルチアセットを最大限活用し、同じ社会課題でも、メガバンクグループだからこそできるアプローチに取り組んでいただけるとよいのではないでしょうか。
トークセッション終了後
インパクト投資に関心のあるスタートアップおよび投資家、そしてSMBCグループのメンバーを交えた交流会が行われ、活発な議論が交わされました。
連載:インパクト投資
- スタートアップ対象に、インパクト投資を開始。企業の社会的価値創造を支援
- SMBCグループが行う、インパクト投資の狙いとその先の未来『SMBCベンチャーキャピタル インパクト投資機能ローンチ記念 Kick Off イベント』
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社会変革推進財団(SIIF) 常務理事
工藤 七子氏
千葉県出身。2005年東京都立大学卒業後、三井物産に入社。09年に退社し国際公務員を目指して米クラーク大学大学院国際開発学部に留学。インパクト投資ファンドでのインターンを経て、11年修了、帰国。日本財団に入職し、17年、同財団内で一般財団法人 社会変革推進財団を立ち上げ、常務理事に就任。
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株式会社三井住友フィナンシャルグループ 執行役員 グループCSuO
髙梨 雅之氏
1993年に住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、企画部にて当社初の統合報告書(2016年発行)の作成を主導したほか、三井住友銀行欧州営業第五部共同部長として欧亜中東地域におけるサステナブルファイナンスを推進。2022年4月よりサステナビリティ企画部長、2023年4月より現職。当社グループ全体のサステナビリティ戦略を統括。
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株式会社三井住友フィナンシャルグループ 社会的価値創造推進部 事業企画グループ
谷津 もゑり氏
2020年に三井住友銀行入行。新宿西口法人営業第三部、サステナビリティ企画部を経て2024年4月より現職。インパクト投資・評価、および重点課題である「貧困・格差」における社会的価値創造の事業開発業務に従事。
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SMBCベンチャーキャピタル株式会社 投資調査部長
大沼 祐太郎氏
2007年に三井住友銀行入行。2010年にSMBC日興証券株式会社へ出向、投資銀行業務に従事。2019年に三井住友銀行に復籍、本店営業第二部にて大企業取引を推進。2022年4月よりSMBCベンチャーキャピタルに所属し、2024年4月より現職。