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日本を代表するベンチャーキャピタリスト、GMO VenturePartners 村松竜氏に聞く、インド市場のポテンシャルと最新フィンテック事情・後編

インド市場のポテンシャルと最新フィンテック事情・前編では、インドの最新動向や、日本企業がインド・アジアで事業展開するためのヒントについて、日本を代表するベンチャーキャピタリスト GMO VenturePartners 取締役 村松 竜氏に伺いました。

後編では、三井住友銀行 デジタル戦略部長を務め、アジアを中心とした外国企業へ投資をするコーポレート・ベンチャー・キャピタルを管轄する松永 圭司氏が、サプライチェーン・ファイナンス(※)の盛り上がりとSMBCグループも出資を決定したインド・アメリカ間の貿易金融プロバイダー最大手のDrip Capitalについて、村松氏と語り合います。

※サプライチェーンファイナンス:
企業間の商取引をベースとしたファイナンス。サプライヤーの早期資金化ニーズに対応する売掛債権の買取(ファクタリング)や、バイヤーの持つ買掛債務の支払い繰り延べ(リバースファクタリング)等がある。

連載:インド市場のポテンシャルと最新フィンテック事情

  1. 日本を代表するベンチャーキャピタリスト、GMO VenturePartners 村松竜氏に聞く、インド市場のポテンシャルと最新フィンテック事情・前編
  2. 日本を代表するベンチャーキャピタリスト、GMO VenturePartners 村松竜氏に聞く、インド市場のポテンシャルと最新フィンテック事情・後編

インド発、急成長中のフィンテック・スタートアップ Drip Capital

松永前編では、インドでビジネスをおこなう際インド国内のフィンテックサービスを利用することも重要だという話が出ました。お金やものの流れといった日々の取引データを蓄積することによって、信用履歴(クレジットヒストリー)に繋がり、取引にかかっていた時間を大幅に短縮できうるという話でした。

インド国内のフィンテック企業のなかでも、とくに最近急成長しており注目されているスタートアップ企業が、インド・アメリカ間の貿易金融プロバイダーの最大手であるDrip Capitalです。同社は、100か国以上で9,000以上の売り手や買い手と提携しており、国際貿易取引で60億ドル以上の資金を供給しています。GMO VenturePartnersさまが初期から出資をしているほか、GMOペイメントゲートウェイさまやSMBCもコーポレートベンチャーキャピタルを通じた出資を決めております。あらためて、村松さんとDrip Capitalの出会いについて教えてください。

村松最初のご縁は、2016年ごろにアメリカで開催されたビジネスピッチまでさかのぼります。2名の米Wharton School出身のインドの方が、当初はPOファイナンス(Purchase Order Finance)(※)事業をアメリカで始めようとしていました。GMO VenturePartnersとしては、ちょうどアメリカのサプライチェーン・ファイナンスに注目をしていたことと、創業者に魅力を感じ、投資を決めました。

※売り手企業、買い手企業、金融機関をオンラインで繋ぎ、受発注書を電子記録債権化することで、受発注時点からの融資を可能とするサービスのこと。

結果的にPOファイナンスはうまく立ち上がりませんでした。その後、創業者のうちの一人がインドに帰国することになり、もう一人はアメリカに残ったことで、実は今日のインド・アメリカ間の貿易を支援するDrip Capitalになる最大の要因となりました。当時、インドの多くの貿易事業者が資金繰りに困っており、解消できる金融サービスも見当たらない状況でした。そこでインドに帰国した創業者の一人が、たまたま顧客との対談を通じてこの巨大なクレジットギャップ(巨額の資金需要に対して、供給とのギャップが大きいこと)に目をつけ、「インドとアメリカ間の貿易に、POファイナンスのような枠組みを当てはめたら良いのではないか」と考えました。そこから、それぞれインド側の売り手企業、アメリカ側の買い手企業を獲得して実現したのが、現在の主力サービスであるDrip Capitalでした。

GMO VenturePartners 取締役・ファウンディングパートナー
村松 竜氏

Dripは、たった2分の申し込みで、2日以内に融資可能額を承認・担保なしで、供給者に資金を提供するサービスです。大手企業が中小サプライヤーから商品を購入する際、銀行与信を消費せず、ノンリコース(※)で売掛金を買い取る「売掛ファイナンス」の仕組みが基本になっています。

※特定の事業や資産から生じるキャッシュフローのみを返済原資とするローンのこと。

Drip Capitalは2年間かけてサービスを作り上げ、見事に市場に受け入れられて急激に成長しました。実は2年で諦めてしまう創業者は結構多く、米国の著名アクセラレーターであるY Combinatorに支援された創業者の3分の2程度が、この2年のうちに事業を止めてしまう傾向にあります。その中でもDrip Capitalは粘り強く長く事業を続け、3年目にSeries Aの資金調達を果たしたことは非常に高く評価しています。

また、コロナ後に「資金調達の冬」が訪れた際に、彼らは一気にコストを抑えて黒字化を果たしました。ほかのフィンテック企業を見ても、コストカットを通じてすぐに利益を出すことはなかなか出来ないことです。今回我々がDrip Capitalに投資したのも「黒字になっている」ことが大きく、機敏に時代へ適応する能力が極めて高いと感じます。

GMO VenturePartnersでは、「正解があるんじゃない、正解にするんだ」という言葉を掲げており、社内でもよく使います。Drip Capitalはまさにその言葉を体現するように、柔軟性を持ちつつ粘り強く事業を続けた結果、大成功した企業です。

SMBCが、Drip Capitalに出資を決めた3つの理由

松永SMBCもコーポレートベンチャーキャピタルを通じて2024年9月にDrip Capitalに出資をしましたが、その理由は、大きく3つあります。

まず1つ目は、もともと我々自身が、3,4年ほど前からインドを含むアジアで法人のお客様向けにサプライチェーンマネジメントのデジタル化を支援するサービス開発に携わっており、この分野の潜在的な顧客ニーズやビジネス機会を理解していたことや、サプライチェーンファイナンス関連のプラットフォーマーやフィンテック事業者を多方面で調査していたことです。

多数のサプライヤーやディストリビューター(※)との商取引や決済・ファイナンス、クロスボーダー取引による通貨の管理や貿易事務等大量の情報が行き交うサプライチェーン管理の分野が、銀行が法人向けのデジタルソリューション開発を行うにあたり、最もデジタル化による付加価値が発揮しやすい領域のひとつだと着目し、日本及びアジアを跨いで、取り組んできました。

※サプライヤー(製品の部品や原材料を供給・納入する企業)が提供する製品を、適切な小売業者や代理店に届ける中間業者のこと。

実際に、SMBCが提供するデジタル付加価値サービスの一つとして、Cash Conversion Cycle(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)(※1)や通貨毎の為替ポジション、売掛債権の回収状況等を可視化するダッシュボードの提供や、経理業務の自動化ソリューション、フルデジタルのサプライチェーンファイナンスエンジン(※2)を開発するとともに、コンサルティング機能として、お客様のサプライチェーン管理のワークフローやデータ構造の整理を支援するワークショップの運営等も行っています。

※1:仕入債務を支払ったのちに売上債権を回収するまでの所要日数を示す財務指標のこと。
※2:サプライヤーからの融資申し込みから着金までのプロセスを、200件/日まで30分以内にデジタルで完結。

特にアジア地域においては、高金利環境の中、サプライヤー等の中小企業が低金利で資金調達できる金融サービスのニーズが高いこと、また、地域全体の高い経済成長を背景に、業務拡大を推し進める中で、慢性的な人材不足となっていること等を背景に、大企業や中堅・中小企業、日系・非日系企業を問わず、より利便性の高いデジタルツールやプラットフォーマーを積極的に活用していこうとする意識が強いと感じました。

2つ目は、インドにポテンシャルを感じていたことです。

とくにインドは、他の国々と比べて政府が推し進めるデジタル公共基盤が整っていることや、アジアでも特に高い経済成長率や人口増加率から、圧倒的にフィンテック領域のプレーヤーが多く、ポテンシャルの高さを感じていました。
2023年から始めたコーポレートベンチャーキャピタル事業を通じて市場を調査するにつれ、インドのスタートアップの勢いを改めて実感していたこともあります。

Drip Capitalの提供サービスは今のところインド・アメリカ間の貿易がメインですが、今後は日本をはじめ、インド以外のアジア諸国間の貿易コリドー(※)へ展開できる、将来性の高いサービスだと感じました。

※物資やサービスの流通が円滑に行われるように特定の地域や国を結ぶ貿易ルート、経済回廊のこと。

3つ目は、これまでキャピタリストとして数々の実績を残してこられた村松さんからのご紹介だったことです。

村松さんから、Drip Capitalの事業がインド国内でどのような位置づけにあり、チームメンバーや事業モデルがどのような価値を発揮しているのか、今後の成長見込みや評価等を丁寧に説明いただいたことが、投資を判断する一つの要素になりました。我々としては、インドといったスタートアップ投資の経験が少ない国への投資は慎重にならざるをえませんが、デューデリジェンス(※)を入念に行ったうえで、当地でのスタートアップ投資で高いパフォーマンスを出されている村松さんの後押しがあるなら、積極的に投資を検討するべきではないかという流れになりました。

※投資を行うにあたって、投資対象となる企業や投資先の価値、リスク等を調査すること。

従来から携わってきた企業のお客様のサプライチェーンデジタル化の支援に向けた取り組み、インド経済の成長とフィンテックスタートアップの勢い、そして経験あるベンチャーキャピタリストからの紹介、こういった要素が合致したことからDrip Capitalへの投資を判断しました。

株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部長
松永 圭司氏

今こそ、日本企業が海外スタートアップに投資をする絶好のチャンス

松永これからのインドやフィンテック市場の盛り上がりを踏まえると、日本企業が取り組むべきことは何か、お考えがあれば教えてください。

村松大前提として、日本には現在、膨大なお金があるので、外国の有力な会社にどんどん投資をすべきです。その際、従来のように「このサービスを日本にもってこられるか」というインバウンド(外から内)の発想で検討を進めることも重要ですが、逆にアウトバンド(内から外)の発想として「経済成長中の国で、どのビジネスを自分たちの事業ポートフォリオに取り入れていくか」という意識が重要だと思っています。

また、フィンテック企業への投資に関しては今、絶好のチャンスが訪れています。これまで、世界中で次々とフィンテックスタートアップが立ち上がりましたが、主な資金提供者は各国のベンチャーキャピタルでした。しかしコロナ後は、急成長スタートアップの多くが安定成長へのシフトを求められるようになり、ベンチャーキャピタルの投資対象から外れつつあります。誰が引き継ぐのかと考えると、日本の事業会社にとって大きなチャンスだと思うのです。フィンテック企業に投資をするということは、その国の金流に入り込むということでもあり、その国での事業展開のチャンスが望めます。

ポイントは、各スタートアップが、すでにある程度の段階まで成長している点です。急成長時は先行きが読めないところもあり、投資判断をしにくいですが、安定成長を続ける企業に対しては、投資もしやすいと思います。この状態は、あと2〜3年続くのではないでしょうか。もしかすると、もう一度急成長フェーズが戻ってくる可能性もあり、今のうちに事業会社が投資をしておくことは大きく有利になるはずです。

松永SMBCグループは中期経営計画(2023~2025)のなかで、重点課題の一つに「日本の再成長」を掲げています。今の日本は、高齢化が進み、経済成長率も鈍化しており、テクノロジーの分野でも欧米やアジアの国々に対して劣勢になりつつある状況です。

そのような状況のなか、社会的基盤ともいえる商業銀行として、経済成長が著しい国々で何が起こっているのか、どういったプレーヤーが技術を活用して事業を伸ばしているのかを把握し、日本の企業のお客様に伝えていけると考えています。そういった情報の非対称性を埋め合わせることが、日本の再成長の一助になるはずです。

同時に、我々自身も変わらなければならないと考えています。シンガポール拠点で海外の勢いを目の当たりにし、現在はグループのデジタル戦略を担う立場として、今回のDrip Capitalを含むさまざまなスタートアップと関わるなかで、銀行自体のカルチャーやビジネスモデル、業務モデルを見直し、さらなるDXを実現させたいと考えています。日本の再成長につながる取り組みを、仕掛け続ける存在であり続けたいと思います。

連載:インド市場のポテンシャルと最新フィンテック事情

  1. 日本を代表するベンチャーキャピタリスト、GMO VenturePartners 村松竜氏に聞く、インド市場のポテンシャルと最新フィンテック事情・前編
  2. 日本を代表するベンチャーキャピタリスト、GMO VenturePartners 村松竜氏に聞く、インド市場のポテンシャルと最新フィンテック事情・後編
PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • GMO VenturePartners 取締役・ファウンディングパートナー

    村松 竜氏

    早稲田大学政経学部卒業後、JAFCO入社、現GMOインターネットグループ株式会社を担当。米国シリコンバレーの現地法人に駐在。GMOインターネットグループ上場後、1999年カード決済処理サービスの株式会社ペイメント・ワンを設立、代表取締役就任。株式会社カードコマースサービスと経営統合し、GMOペイメントゲートウェイ株式会社に社名変更し2005年にマザーズ上場、その後東証一部上場。取締役副社長を現任。2005年GMO VenturePartners株式会社を設立、ジェネラルパートナーに就任。2012年よりシンガポール駐在。

  • 株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部長

    松永 圭司氏

    1998年三井住友銀行入行。国内外のホールセールバンキングビジネス企画、経営企画等を経て、2021年にシンガポール拠点のAsia Innovation Centre室長に就任し、APAC地域でデジタルを活用した顧客の事業創出や社内インフラの刷新に取り組む。2024年よりデジタル戦略部長を現任し、SMBCグループのデジタル領域の戦略企画・管理業務、コーポレートベンチャーキャピタルの運営を管轄。東京大学卒業、カーネギーメロン大学(MBA)修了。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。

アクセラレーター
(accelerator)

類義語:

英語で「加速させるもの」を意味する言葉で、スタートアップ企業や起業家をサポートし、事業成長を支援する事業者のこと。

フィンテック
(FinTech)

類義語:

金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語。銀行や証券、保険などの金融分野に、IT技術を組み合わせることで生まれた新しいサービスや事業領域などを指す。

ベンチャーキャピタル
(Venture Capital)

類義語:

未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンド。