【社内スタートアップ】成長加速に「外部知見」をフル活用。デジタル子会社「アドバイザリーボード」始動
新規事業創出や社内ベンチャーの立上げに挑戦を続けるSMBCグループ。金融の枠を超え、グローバルソリューションプロバイダーへと変革を目指す中で、誕生したデジタル子会社はすでに10社に広がりました。しかし、グループのアセットを活用できる恵まれた環境にある一方で、SMBCグループではスタートアップ経営の実践的知見が不足しており、デジタル子会社に対して適時適切なアドバイスや支援を十分に行えていないという課題もありました。
その解決策として、子会社の経営管理を担うデジタル戦略部が立ち上げた取組が、「アドバイザリーボード」です。これは、スタートアップに知見のある外部人材をボードメンバーに迎え、経営や成長戦略に関する実践的なアドバイスを受けられる仕組みです。
今回は、ボードメンバーのフォースタートアップス 代表取締役社長 志水雄一郎氏とenechain取締役CFO藪内悠貴氏、そして立ち上げに携わったデジタル戦略部井上貞央氏に、取組の意義と可能性を伺いました。
成長の壁を破る「外部知見」。アドバイザリーボード設立の背景と役割
アドバイザリーボードが発足した経緯を教えてください。
SMBC 井上故太田社長から始まった「社長製造業」という方針のもと、デジタル子会社を次々と立ち上げてきました。中にはIPOを視野に指数関数的に成長する会社もあれば、計画通りに上手く進まない会社もあります。デジタル子会社は、グループ各社との連携により、設立から2~3年は良い成長曲線を描きやすい一方で、その後は自社独自の販路開拓などの難しさから頭打ちになりやすい側面があります。
加えて、グループ内にはスタートアップ経営の実務経験を持つ人材が少なく、親会社や株主として重要局面でアドバイスができていないのではないかという課題がありました。そこで、スタートアップに精通されている外部人材を招聘し、実践的な助言を受ける「アドバイザリーボード」を立ち上げました。
井上 貞央氏
アドバイザリーボードでは、具体的にどのようなテーマが議論されているのでしょうか。
SMBC 井上大きく二つのカテゴリーがあります。ひとつは、デジタル子会社の経営管理をするデジタル戦略部に対し、社内スタートアップ経営の高度化を図っていくためのアドバイスをいただいています。もうひとつは、各デジタル子会社が抱える日々の事業・経営上の悩みについて、個別に意見を伺っています。
アドバイザリーボードへの参画を決めた理由についてお聞かせください。
enechain藪内SMBCグループは、変革に積極的で、社内スタートアップに真剣に取り組まれていると以前から感じていました。アドバイザリーボードという取組に関しても、成長させるために外部知見もどんどん取り入れるという姿勢が、非常に新しく、かつ面白いと感じています。
藪内 悠貴氏
フォースタートアップス 志水私自身、上場会社の一事業をMBOした際、その資金を三井住友銀行さまからお借りしました。当時はプロパーローンしかなかったにも関わらず、そのような機会をいただけたことは本当にありがたかったです。それ以外にも、私たちフォースタートアップスがSMBCグループさま向けにデータベースを提供していたり、逆にファンドのアンカーインベスターとなっていただいたり、さらに2020年からはスタートアップの成長を加速していくための業務提携を行うなど、多方面で関わりがあります。
グループ内には、たとえ役員であっても上場企業を一から作り上げた経験を持つ人はいません。新規事業をカーブアウトして会社分割させてMBOし、最短でIPOした経験がある私だからこそ、わかることがたくさんありますし、経験談や助言が役立つと考えています。
今回の参画は、スタートアップ・エコシステム全体にとっても有益な取組になると考えています。
志水 雄一郎氏
社長の覚悟と資本戦略が成功を分ける
社内スタートアップをグロースさせるためのポイントはどんな点でしょうか。
フォースタートアップス 志水グループ内のスタートアップである以上、一定の統制はあるでしょう。その中でいかに独立性を確保できるかが重要です。成長と同時に、自社単体でのガバナンス体制をいかに早く整えるか。その実現を担う「社長」の役割は極めて大きいと考えています。
enechain藪内私もカーライルというプライベートエクイティファンドで、カーブアウト案件を手掛け、投資から5年という時間軸でイグジットを実現してきました。子会社を単独の会社として成長させるには、「ヒト・モノ・カネ」という資本をどう提供し、そのための「仕組み」をどう構築するかが重要です。事業そのものにフォーカスできるように、SMBCグループの資本を活かしていく、成功しようというマインドセットを持つ経営者を任命する、そして株主であるグループと子会社の間で、期待とそれに応えようとする信頼関係をどう構築していくかが重要だと思います。
アドバイザリーボードはどのような役割を担えるとお考えですか?
フォースタートアップス 志水日本では大企業至上主義がまだ強いですが、グローバルはすでにイノベーション至上主義です。大企業発のスタートアップは、世界のトレンドとは逆行するかもしれませんが、逆に「日本だからできる」という挑戦であり、もしかしたら世界に対してインパクトを与える事例になるかもしれません。SMBCグループのアセットをどう活用し、超成長企業を生み出すか。そのための戦略支援やインセンティブ設計を大胆に行うことが大切です。
また、最近は「場所を作ること」から「高さを作ること」へと議論が変わってきています。現状のアドバイザリーボードはイグジットする会社をどうするかという議論ですが、「生み出した会社をどう高く飛ばせるか」の議論が出てくるとさらに強くなり、このアドバイザリーボードがそのきっかけになると思っています。
enechain藪内スタートアップにおけるリスク&リターンは、銀行員として普段扱っているものとは全く別物です。それを捨てて、転籍するようなケースも出てくると、より面白いコミットメントや流れができるでしょうね。
フォースタートアップス 志水そうかもしれません。目の前で成功者を見て「私もそうなりたい」「この人について行きたい」と思って動く人が出てくると、流れも変わってくるはずです。
SMBC 井上SMBCリーガルX社代表の三嶋のように「必ず上場する」と言い切る人は、これまで行内にいませんでした。三嶋にしろ、SMBC Wevoxの社長である杉本にしろ、強いリーダーシップを持つ方と取り組むことで、自分自身もワクワクしますし、その成長ストーリーに一緒に関わりたいという気持ちが出てきます。
「社会を変える」志を支え、大企業スタートアップの成功モデルを構築
スタートアップ経営やスタートアップ支援を行う立場として、今回のアドバイザリーボードで心がけていることがあればお教えください。
フォースタートアップス 志水私はこれまで、経営者として株主やステークホルダーと交渉してきましたが、その経験を活かし、アドバイザリーボードではSMBCグループのCSO(最高戦略責任者)という仮想のポジションに自分を置いて考えるようにしています。
子会社がSMBCグループの一員として続けるか、IPOしていくかはそれぞれの判断があるでしょう。でも、どちらの選択においても戦略やポジションの明確化を大事にしてほしいということをまずはお伝えしています。そしてもうひとつ、代表取締役として「どういう会社にしたいのか」を尋ねるようにしています。
enechain藪内最終的には、上に立つ人物の覚悟がどこまで決まっているかが重要です。いきなり腹をくくれというのは難しいかもしれませんが、一般的なスタートアップの経営者はそう心づもりしてから創業しています。いかに早く「自分ごと」として覚悟を決めるかが、会社の拡大とスピード感を左右する一番大きなファクターです。覚悟のある経営者にしか人は集まらないのです。
従業員やパートナー、お客さまを直接抱えている環境に置かれると、自然とそうなるはずですが、そこで覚悟が決まらないのであれば、その経営者にスタートアップビジネスを任せない方が良いかもしれません。人のマインドセットや覚悟なしに、ビジネスはスケールしません。
フォースタートアップス 志水世界的に見ると、トップ層の大学の卒業生は、半分が起業します。SMBCグループのデジタル子会社は、アントレプレナーというよりはイントレプレナー(社内起業家)ですが、それが悪いわけではありません。自分で起業するのか、今持っているインフラと仲間をいかに維持向上させていくかなどさまざまな選択肢の中から、どう正解に持っていくかが経営だと思います。
今のお客さま、仲間、市場、タイミングなどを考えたときに、「日本を代表するチームにするぞ」と選択する人がいるなら、新たな経営者ストーリーになるはず。社長製造業として、子会社をどうするかよりも、社長をどう生み出していくかという議論を重ねたいです。
SMBC 井上志水さま、藪内さまのようなご意見は、SMBCグループの中だけでは出てこなかったものであることは間違いありません。だからこそ気付きが多いですし、厳しいコメントをいただくことで、成長可能性を高めていけると実感しています。実際、子会社であるBPORTUSの田中社長も「実績のある方からの意見は大変参考になり、貪欲に吸収したい気持ちになった」と申しておりました。
アドバイザリーボードに関し、どのような未来像を描いていますか?
SMBC井上デジタル戦略部はSMBCグループのカルチャー変革をリードしてきましたが、そこからさらに突き抜け、デジタル子会社の社長らの「日本を変える」「社会を変える」という高い志を実現させる最強のパートナーになりたいと考えています。大企業内スタートアップで成功しているケースはまだ多くありません。まずはSMBCグループの中で成功モデルを作ることで、日本や世界で突き抜けた存在になり、お客さまに圧倒的な価値を提供できるのではと考えています。
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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フォースタートアップス株式会社 代表取締役社長
志水 雄一郎氏
株式会社インテリジェンス(現 パーソルキャリア株式会社)、株式会社セントメディア(現 株式会社ウィルオブ・ワーク)2社にて新規事業立ち上げを経て、2016年に株式会社ネットジンザイバンク(現 フォースタートアップス株式会社)を創業、代表取締役社長に就任。2014年、2015年にビズリーチ主催「Japan Headhunter Awards」にて「Headhunter of The Year」2年連続受賞、2016年に国内初殿堂入りHeadhunter認定。新経済連盟 幹事、関西経済同友会 副委員長、日本経済団体連合会 委員、経済同友会 委員、日本ベンチャーキャピタル協会 委員を歴任。著書に『スタートアップで働く』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
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株式会社enechain 取締役CFO
藪内 悠貴氏
JPモルガン証券株式会社で多様な業界におけるM&Aや資金調達のアドバイザリーに従事後、カーライル・グループ (バイアウト)にて新規投資先候補の投資評価・実行、投資先企業の企業価値向上施策から上場含むエグジットまで関与。その後、株式会社Paidyに2018年に入社後、取締役CFOとしてデット・エクイティ含む数百億円規模のバランスシートの構築などを主導し、2021年にPayPalグループへの参画を実現。2022年8月にenechainにCFOとして入社。
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株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部 上席部長代理
井上 貞央氏
2010年に三井住友銀行へ入行。中堅企業への法人営業後、約10年間に渡り、主に、危機管理・規律維持・業法・情報管理等の総務・コンプライアンス関連業務を担当。2022年4月にデジタル戦略部に着任。2025年4月より、同部内でガバナンスチームを立上げ、同部で所管するデジタル子会社に関する親会社・株主としての役割や牽制機能を担うと共に、各社の経営体制の強化・支援を実施。
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