取り組み
2026.01.22更新

デザイン思考を浸透させ、変わり続ける銀行へ。インハウスデザイナーたちの実践

デザインの力で「最も選ばれる金融グループ」を創る──そのミッションに挑んでいるのは、三井住友銀行 リテールIT戦略部 戦略企画グループに所属するインハウスデザイナーたち。多様なバックグラウンドを持つメンバーが、銀行員の枠にとらわれない「デザイン思考」によってSMBCグループの新たな価値を生み出しています。

シリーズ第2弾となる今回は、デザインを企業文化と組織に根づかせるために実施した「デザインシステム」、「社内ポータル」、「部内研修」という3つの事例に着目。どのような施策を行い、それによって変化は生まれたのか、リテールIT戦略部のデザイナーである野田智美氏、森中暖乃氏、満島弘氏に伺いました。

銀行内にデザイン思考を広げ、根付かせるために

まずは、それぞれの経歴と現在担当されている業務内容を教えてください。

野田私は数社のデザインファームを経た後、ネット証券会社に常駐し、UI/UXデザイナーとして、デザインシステムの構築やサービスの体験設計をしてきました。2023年に三井住友銀行に入行し、現在は、Oliveのブランド戦略定義や、新型店舗「ストア」の空間コンセプト設計や体験の改善を様々な部署と連携して担当しています。また、リテールIT戦略部で運営している「私のアプリとダイレクト」というオウンドメディアのリニューアルに向けたコンセプト設計にも携わっています。

株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 戦略企画グループ
野田 智美氏

森中前職では常駐派遣のデザイナーとして、医薬品関係企業など、さまざまな業種の企業で、Webサイトの改善やイントラサイトの構築などUXデザインに携わってきました。2024年に三井住友銀行に入行し、社内ポータルや社内イントラサイト、営業現場のデジタルツールなどを担当しています。

株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 戦略企画グループ
森中 暖乃氏

満島私はPR会社からキャリアをスタートし、企業サイト、大規模イベントのWeb設計に従事。情報設計の重要性を痛感し、仕事の傍ら大学で人間中心デザインを学びました。その後、業務委託やフリーランスでは長期的な視点でプロジェクトに関われないが、事業会社のインハウスデザイナーならそれができると考え、2022年に三井住友銀行に入行しました。現在はUXデザイナー・リサーチャーとして社内システムの改善や社内研修、ファンミーティングの開催、店舗に関する印刷物などを担当しています。

株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 戦略企画グループ
満島 弘氏

デザインを組織内に浸透させるための取り組みとして実施した「デザインシステム」「社内ポータル」「部内研修」について、それぞれ教えてください。まずは「デザインシステム」からお願いします。

野田三井住友銀行は、2021年にグッドデザイン賞を受賞しています。三井住友銀行アプリをはじめ、ホームページ、SMBCダイレクト(インターネットバンキング)、SMBCタブレット(対面サービスで利用する端末)など、すべてが一体となって提供する顧客体験「いつだってすぐそばに、SMBC」が評価されたのですが、その「統一された体験構築」を支えているのがデザインシステムです。

デザインシステム導入前は、媒体やプラットフォームごとにガイドラインや制作ルールがばらばらで、お客さまに一貫した体験の提供ができていませんでした。

自社のデザインシステムを構築したことで、情報提供するホームページ、取引を行うアプリ・インターネットバンキング、そして行員が利用するタブレットに統一感が生まれ、一貫した顧客体験をスピード感をもって提供できるようになりました。現在も、各プロジェクトでのフィードバックや社内からの要望をもとに、少しずつアップデートを重ねています。

個人のお客さま向け総合金融サービス「Olive(オリーブ)」に関する情報を集約したポータルサイトでは、どのような改善を行ったのでしょうか?

森中改善前のサイトでは、関連部署や情報が多いことから、どこに必要な情報があるかわかりづらく、結果的に照会が増えてしまうという問題が発生していました。そこでサイト全体の情報構造を整理することで、必要な情報にすぐアクセスできるよう改善を進めました。

「部内研修」についても教えてください。

満島リテールIT戦略部では年に複数回、社内向けの研修を実施しています。「デザイン思考とは何か」といった基本的な考え方や、顧客起点でサービスを設計するためのリサーチ手法を伝えています。

「デザイン」という言葉からビジュアル的なデザインを想像する人が多いのですが、デザイン思考とは、ユーザーの視点に立って、課題の本質を捉えて解決策を創り出すためのアプローチのことです。デザイン思考に触れることで「業務に役立った」「デザイン思考が理解できた」という声をいただきます。

特に、ITシステム企画を所管する当部向けの研修を2024年度から始めた背景には、ITシステム開発における上流工程の重要性が増していること、そして、「体験価値」を意識しないとサービスの差別化が難しくなっているという課題があります。

私たちデザインチームは十数名程度の小さな組織なので、私たちだけで「デザイン思考」を進めることには限界があります。そこで、部内研修がより効果を発揮します。デザイナー以外の企画担当者らがデザイン思考を学ぶことによって、より組織にデザイン思考が根付くきっかけになればと思っています。

リアルの温度をデジタルでつなぐ。心地よい体験を、すべての人へ

リアル/デジタル双方のタッチポイントがある今、SMBCグループにおけるデザインの役割をどう捉えていますか。

野田私は前職でのデザイン対象がデジタルサービスでしたので、今はリアルな店舗やお客さまとの接点も含めて、デジタルと対面両方の体験を設計できることに面白さを感じています。

デジタルには、時間や場所の制約を超え、前後の体験をつなぐ力があります。その流れの中で、リアルな場は人の感情を最も大きく動かし、深い体験を生み出します。デジタルで始まり、リアルで深まる。その連続を丁寧にデザインしていきたいと考えています。

現在のデザインシステムはデジタル中心ですが、店舗での広告物やポスターなどリアルな接点にも拡張できるはずです。お客さまはアプリだけを使っているわけでも、店舗だけを利用しているわけでもありません。銀行に触れていただく体験を包括的に設計できるのがデザインの強みです。

満島リアルとデジタルの双方を考えるのは、デザインにおいて欠かせません。

デザインの出発点は、お客さまを知ることにあります。インタビューや行動観察、お客さまに実際のプロダクトを試しに使ってもらうことで、潜在的なニーズを可視化し、それをもとにサービスを設計していく。まさにデザイナーが先陣を切って取り組むべき領域ですが、部内研修では実際にデザインリサーチも行っていますので、デザイナーでなくても、デジタルとリアルを繋げていけると思います。

森中金融は誰にとっても生活に欠かせない存在です。その中で、デザインが担う役割は、金融体験を「心地よく」していくことだと思います。「もっと良くできるのでは?」という改善を積み重ね、付加価値を高め、お客さまの心に残るサービスにしていく。それがひいては企業の価値向上につながると思っています。

私は当行従業員が利用者である行内システムの開発に携わることが多いのですが、行内業務における「面倒や負担」を解消し、「この会社の業務が心地よい」と思える環境を創ることも、デザインの大きな役割だと感じています。

リアルでもデジタルでも、社外のお客さまにも、社内の従業員にも、SMBCグループの良さを感じてもらえるデザインを心がけています。

デザイン思考で変わり続ける銀行へ

今後の展望について教えてください。

野田デジタルのみならず、リアルの領域まで拡大し、横断したデザインシステムを構築できれば、対面チャネルのプロトタイピングやユーザーテストもスピーディにできるかもしれないし、リアル/デジタルを横断したコンセプトや体験設計の精度を高められる可能性があると思います。

森中お客さまも行員も、金融に関わるすべての人の幸せを作りたいです。デザインは課題を解くための手段の一つだと思っており、その役割がうまくはまった結果として「会社が変革している」「デザインのおかげで良くなった」と感じてもらえれば嬉しいです。

満島研修を受けた人が自らリサーチを行い、新しい案件を形にしたという声もいただきました。「行内にもっと広めてほしい」という要望もあり、今後は他部署にも広げていければいいなと考えています。

また、お客さまの意見をもとにサービスの改善を行い、その内容をお伝えする「私のアプリとダイレクト」というサービスでは、ファンコミュニティの形成にも取り組んでいます。「金融機関にファンなんているのだろうか」と思っていたのですが、実際にファンミーティングを開くと、熱い思いを持つ方々が集まってくださったんです。

野田そうなんです。応援してくださる理由を尋ねると、「Oliveがきっかけでファンになった」「伝統ある銀行が一生懸命変わろうとしている姿に惹かれた」などさまざまな声をいただきました。銀行員が悪戦苦闘しながら変わっていく姿を見せることも大切なのかもしれません。

森中入行前は私自身、金融は堅い業界で変化が少ないという印象を持っていたのですが、三井住友銀行の取り組みを知り「こんなに変わっていけるんだ」という可能性と魅力を感じて、入行を決めました。同じ思いを持つ仲間が増えていってほしいです。

デザインチームとしては、現在はリテール事業の預金・決済領域を中心に活動していますが、今後は更に活動領域を広げていけたらと思っています。クライアントワーク、事業会社、スタートアップなど多様な環境でデザインに携わってきたメンバーが集まっており、これからさらに面白い展開が生まれていくと思います。


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • 株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 戦略企画グループ

    野田 智美氏

    大学卒業後、デザインファームにてデジタルプロダクトの情報設計、UI/UXデザイン、デザインシステムの構築に従事。
    2023年3月三井住友銀行に入行。

  • 株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 戦略企画グループ

    森中 暖乃氏

    大学卒業後、Webマーケティング企業にてUXデザイナーとして常駐勤務。Webサイトや社内システムの改善に従事。2024年8月三井住友銀行に入行。

  • 株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 戦略企画グループ

    満島 弘氏

    大学卒業後、グラフィックやUI/UXデザインに従事。
    2022年5月三井住友銀行に入行。

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デザインシステム

類義語:

デザインシステムとは、サービスやプロダクトに関するすべてのデザインに対し、一貫性を持たせて提供するための考え方や仕組みのことで、デザインの共通コンポーネント(構成要素)のルールを定めたもの。

UI/UX
(User Interface/User Experience)

類義語:

UIとはユーザーインターフェイスのことで、Webサービスやアプリケーションなどにおいてユーザーの目にふれるすべてのものを指し、UXとはユーザーエクスペリエンスのことで、ユーザーが商品やサービスを通じて得られる体験のこと。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

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