取り組み
2026.01.29更新

生活者の行動が変わった。公民連携×業界横断で挑んだ「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト」の成果

2025年夏、2府2県、1つの政令指定都市と15の民間企業が連携し、生活者の脱炭素への行動変容を促す協創型実証実験「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト」が実施されました。その立ち上げに関わったのが、大阪府環境農林水産部、小売業であるスギホールディングス(以下、スギHD)、メーカーの三幸製菓、そして全体をとりまとめた日本総合研究所(以下、JRI)です。

「やらされている感」を生まずに生活者が自然と行動変容する仕掛けや、蓄積されたデータから見えた効果について、立ち上げ当初から携わってきた5名にお話を伺いました。

楽しく学んで「行動が変わる」。脱炭素社会へ向けた新しい仕掛け

みんなで減CO2プロジェクトを立ち上げた背景を教えてください。

JRI 佐々木メーカーは環境配慮商品を作っても、どうしても価格が高くなる。小売業は売上を優先せざるを得ず割高なものは店頭に置けない。生活者は選びたくても店頭にない。結果、環境配慮商品が売れない。三者の課題が噛み合わず、脱炭素社会の実現が進まない状況でした。

それぞれの言い分は正しくても、そのままでは前に進めません。生活者の意識と行動が変われば、売り手や作り手も自然と前に進みたいと思うはず。そこで、生活者の行動変容を後押しし、みんなで世の中を変えていくための企画を立ち上げました。

株式会社日本総合研究所 創発戦略センター
グリーン・マーケティング・ラボ ラボ長 チーフスペシャリスト
佐々木 努氏

JRI 前田一般的な販促と異なるのは、環境についての学びを購買の動機に結び付ける「教育啓発×販促購買」の仕組みであること。学校での学び→家庭での会話→お店での探索→商品の購買、と学習と販促をセットで設計しています。教育啓発では、エコラベル・CFP(カーボンフットプリント ※1)について学べる学習キット&コンテストの「エコラベルハンター2025」と、CO2を排出する要因を探る探究プログラム「CO2モンスター」、コンソーシアム(※2)参画企業による出前授業を軸に据えています。

※1:製品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでの全工程(ライフサイクル)で排出される温室効果ガス(GHG)の総量を、CO2排出量に換算して「見える化」し、表示する仕組み
※:2チャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム。「脱炭素の取り組みに触れて認知を広げ、学びを通して楽しみ、興味をもって自分ゴト化する機会を用意し、生活者と共に脱炭素社会の実現に挑戦する」という趣旨のもと有志企業により設立されたコンソーシアム

エコラベルハンターの企画は発見したエコラベルをウェブサイトから応募する形を取ることで自動的にデータが取得できる仕組みとし、子どもが夏休みの宿題としてやっていることが、実は小売店の現地調査になっているという仕掛けです。消費者自身がやらされている感なく、一参加者として新しい成果を出していく活動を目指しました。

株式会社日本総合研究所 創発戦略センター
グリーン・マーケティング・ラボ チームリーダー インキュベーションプロデューサー
前田 もと子氏

プロジェクトのネーミングもユニークですよね。

JRI 佐々木「減らすCO2」をそのまま読んだらゲンコツになるな、と犬の散歩中に思いつきまして。

JRI 前田子どもはゲンコツという言葉は知っていても意味を知らないので、「CO2を減らす=ゲンコツ」という新しいイメージを定着させやすい。逆に大人には「やっつけるぞ」的な従来のイメージが定着しているので、双方に有効なネーミングだと考えました。

キャラクターも私たちがつくったものです。ある日、佐々木が「カーボンニュートラル」を「カーボンニャートラル」と打ち間違えたので、ニャーと言えば猫だよね、とサッとイラストを描いたら反応が良くて。その原画を少しだけデザイナーに整えてもらい、メインキャラクターの「ニャートラル」が誕生しました。その後、相棒の「ギャートラル」、教え役として「ゲンコツさん」が生まれました。

🄫 The Japan Research Institute, Limited.

公民連携×業界横断。単独では進まない脱炭素を協創で動かす

JRI 佐々木「安いから買う」ではなく、学ぼうとする子どもたちをサポートしたいという親の動機を刺激し、子から親に伝播する形で環境配慮商品そのものの価値を認め“選択的購入”に至れば、その行動は長続きするはず。でも企業や自治体単体でそれを実現するのは困難です。そこで、公民連携、業界横断でコンソーシアムを組成することで解決を図りました。今日お越しいただいているお三方は、私たちの活動を最初に立ち上げたタイミングでご賛同いただいた方々で、“心の友”と勝手に思っています。

JRI 前田施策が形になる前、それこそ妄想に近い状態から「一緒にやろう」とおっしゃってくださった、とても心強い応援団です。

大阪府 和田大阪府では2050年カーボンニュートラルを2019年に表明し、目標達成に向けた計画の1つ目の柱として、あらゆる主体の意識改革・行動喚起を位置付けていましたが、家庭向けには啓発以外になかなか決め手がない状態でした。そんな折にお声がけいただき、脱炭素を呼びかけるような啓発から脱炭素行動へと一歩踏み出せるのではと思いました。

大阪府 環境農林水産部 脱炭素・エネルギー政策課 気候変動緩和・適応策推進グループ 課長補佐
和田 峻輔氏

スギHD 杉山私は当初から商品を軸にした脱炭素を掲げていた点に賛同しました。Scope3(※3)をどう下げるか、必死に情報収集をしていたときにお話をいただいたんです。お客さま起点のエシカル消費ならScope3を実現できるが、そのためには教育・啓発や、環境配慮商品の開発が欠かせない。そんな自分の考えとプロジェクトの方向性が一致している上に、自社だけでは難しい取り組みをコンソーシアムとしてまとめていただけたので、まさに渡りに船という感じでした。

※3:企業の事業活動に関連するサプライチェーン全体(原材料調達から製品廃棄まで)で発生する、自社以外の「間接的な」温室効果ガス排出量

スギホールディングス株式会社 コーポレートブランディング部 部長(薬剤師)
杉山 憲司氏

三幸製菓 秦野弊社も当時、二つの課題を抱えていました。まずは環境課題への取り組み方。2023年に初めて中期経営計画を書面化したものの、環境課題への具体策や伝え方が思い浮かびませんでした。もうひとつは米菓業界の主要購買層が高齢化していること。将来のお客さまでもある子どもたちに、教育活動を通じてアプローチできるのであればぜひ参画したいと考えました。また、自治体や小売企業を含むこの規模感のプロジェクトなら、一気に全国的に広められるのではという期待もありました。

三幸製菓株式会社 取締役 経営本部長
秦野 勝義氏

行動変容がデータで示された、確かな手応え

プロジェクトに関わられてみて、いかがでしたか?

大阪府 和田消費者への啓発や、情報発信できる場を準備するのが自治体としての役割と考え、今年度は、グランフロント大阪でのエコラベルハンターと連動したイベントや大阪・関西万博でのシンポジウム等を実施しました。また、環境部局と教育部局が連携し、府内全ての小学校に「みんなで減CO2プロジェクト」の取り組みへの参加を呼びかけました。さまざまな情報が届く教育現場では取捨選択が大変ですが、大阪府からの情報発信ということで興味・関心を持っていただいていると聞いています。

スギHD 杉山電気代や物流改革と違い、環境施策は社内調整に苦慮することも往々にしてあります。そんなときは「行政との連携による対応」といった大義名分があると、より進めやすい状況になります。

三幸製菓 秦野私たちは主力商品「雪の宿」を使い、CO2削減のために表面にミルククリームをかけず「ただの宿」にしたほうがよいか、それともおいしく食べたいかといった問いかけから、子どもたちに楽しくCFPや脱炭素について考えてもらう出前授業を行いました。また、皆さんの施策を参考に、「製造工場への太陽光発電導入によるCO2削減効果」といった環境要素を、弊社工場で受け入れている小学校の社会科見学に取り入れたところ、先生方からもご好評いただけております。自社だけでは気付けなかった事柄を施策にまで落とし込めるようになったのは、非常に意義のあることでした。

スギHD 杉山弊社は年間のべ数億人の“来店者”と、約1400万DL・年間アクティブユーザー数950万人の“スギ薬局アプリ”という二つのリソースで協力しました。生活者コミュニケーションとデータ取得を、店舗に負荷を加えない方策で実現できたと自負しています。

JRI 佐々木啓発の結果、本当に行動変容につながったかがわからなければ本質的な意味をなさないと考え、アンケートやアプリ、POSデータからビッグデータ解析を行いました。それが実現したのも、生活者の購買行動に最も近い場所にいるスギHDさまの参画あってこそ。分析の結果、エコラベル・CFPを見て買うようになった親子が約7倍に増加、「エコラベルがついているから買った」という人も二十数%いて、明らかな行動変容が見られました。

大阪府 和田従来の成果指標は「何人に啓発したか」といったところでしたが、購買データから行動変容の効果測定ができるのは画期的でした。

JRI 佐々木また、生活者を環境・脱炭素への意識と行動でセグメント分けすると、各層でキャンペーンへの反応が違うことも明らかになりました。とはいえ、「安いから買う」という層ももちろんたくさんいます。全てのセグメントに有効な策を見つけるのは難しいでしょうから、今後はターゲットを絞り、何が有効かを仮説検証する必要がありそうです。

エシカル消費を当たり前に。社会的な広がりへ

本プロジェクトの結果を受けて、今後取り組んでみたいことはありますか?

三幸製菓 秦野データを導き出すこと自体に皆さんが楽しんで取り組まれ、“答え合わせ”を聞くのが非常に楽しかったです。実は、お客さまがここまでエコラベルに反応するとは思っていませんでした。弊社の商品は全て表面にJANコードが入っているのですが、以前はデザイン的に購買意欲を削ぐものと言われていました。でも試してみたら購買率が下がることもなかったですし、小売店さまからの採用率が上がった商品もありました。同様に、今後はエコラベルも表に表示したほうがいいのかもしれませんね。

JRI 佐々木エコラベルが複数付いている商品は、子どもから見ればピカピカの良い商品。わざわざそれを探して見つけてきます。コミュニケーションの取り方次第で、値引きやポイントだけではない価値を打ち出せる良い例ではないでしょうか。

スギHD 杉山環境教育と購買の関係がデータによって可視化されたのは素晴らしいことです。キャンペーンは2万人が参加(情報閲覧者は約900万人)しましたが、反応分析からは通常のメイン顧客層より少し高い年齢層の50代女性が最も反応していました。これが何を示唆するのか追跡調査する必要がありますし、ゆくゆくはデプス調査もしていきたいと考えています。

大阪府 和田「どうすればもっと取り組みを進めることができるか」といった観点での分析は今後の課題ですね。プロジェクト参加者は“やる意志”がある層ですが、それ以外の層も巻き込まなければ社会的な広がりにはなりません。エコラベル・CFPのマークを使った神経衰弱といったカジュアルな取り組みも取り入れながら、環境に優しい商品が価値のあるものと認識していただけるよう浸透させていきたいです。

JRI 佐々木環境やエシカル消費の領域では「みんなにわかって欲しい」という気持ちが先行して、ターゲットを絞らない「みんな向け」のコミュニケーションを取り続けてきたように感じます。本プロジェクトによって定量データによる答え合わせができたのですから、「この層にはこういう届け方をする」といった知見に従った伝え方をしていきたいです。この二~三十年の間でカロリー表示を見て商品を選ぶことは一般的になりましたが、環境配慮表示もそれと同じくらい当たり前に商品選びの際の指標となるよう、エシカル消費が普及するとよいですね。


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • 大阪府 環境農林水産部 脱炭素・エネルギー政策課
    気候変動緩和・適応策推進グループ 課長補佐

    和田 峻輔氏

    大学卒業後、2006年に環境を専門とする技術系職員として、大阪府に入庁。以降、約20年にわたり、気候変動対策や大気環境対策など環境分野における計画策定や事業推進に従事。現在は、カーボンフットプリントを活用した脱炭素消費への行動変容をめざした「おおさかカーボンフットプリントプロジェクト」の推進に取り組む。

  • スギホールディングス株式会社
    コーポレートブランディング部 部長(薬剤師)

    杉山 憲司氏

    調剤併設型ドラッグストアであるスギ薬局に入社後、薬剤師として勤務。店長、採用、調剤事業のエリア責任者を担当。コールセンター責任者を兼務しつつ、2021年からサステナビリティ経営推進組織を立ち上げ、現在はコーポレートブランディング全般を担当。

  • 三幸製菓株式会社 取締役 経営本部長

    秦野 勝義氏

    大学卒業後、三幸製菓へ入社。営業職に15年従事したのち、コーポレート部門へ異動し現職にいたる。「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト」の考え・取り組みに会社として賛同し参画を決め、メーカーの視点から携わる。

  • 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター
    グリーン・マーケティング・ラボ ラボ長 チーフスペシャリスト

    佐々木 努氏

    大学院修了後、日本総研に入社。以降、20年にわたり環境・エネルギー分野の事業戦略・事業開発支援のコンサルティングに携わる。2023年に「グリーン・マーケティング・ラボ」を立ち上げ、生活者の脱炭素行動変容を促す活動をリード。

  • 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター
    グリーン・マーケティング・ラボ チームリーダー インキュベーションプロデューサー

    前田 もと子氏

    大学卒業後、システム会社勤務を経て、日本総研に入社。消費者調査やマーケティング、新規事業開発に関するコンサルティングに従事。「グリーン・マーケティング・ラボ」には立ち上げから主力メンバーとして関わり、生活者起点での活動に取り組む。

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カーボンニュートラル
(Carbon Neutral)

類義語:

  • 脱炭素

温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること。「全体としてゼロに」とは、「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことで、現実には温室効果ガスの排出量をゼロに抑えることは難しいため、排出した分については同じ量を吸収または除去する。

POS
(Point of Sale)

類義語:

  • 販売時点情報管理

物品販売の売上実績を商品が販売された時点で「いつ・どの商品が・どんな価格で・いくつ売れたか」単品単位で記録し、集計するシステム。読み方は「ポス」。

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