衰退する茶業に21歳で参入。「物を売らずに、物語を売る」岩本涼の新規事業論|Podcast『共創前線』
長年にわたって価格低迷が続き、若い担い手も減少していた日本茶市場。そこに21歳の学生が飛び込んだのは2018年でした。世界的な抹茶ブームが訪れる前のことです。
Podcast番組『共創前線 ~イノベーション・カタリストたちの作戦会議~』。今回のゲストは、茶道裏千家準教授であり、TeaRoom代表取締役CEOの岩本涼氏。衰退産業である茶の市場に自ら参入し、文化と産業の両面から新たな可能性を切り拓いています。三井住友銀行 デジタル戦略部の本間悠暉氏、番組パーソナリティの片桐千晶氏が聞き手となり、起業の原点から「物語を売る」というビジネス哲学まで、4回にわたって深く語っていただきました。気になるエピソードは、ぜひPodcastでお聴きください。
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#13 21歳で茶業に飛び込んだ起業家の「価値を届ける」事業論
#14 茶業界の未来を変える「産業を大きくする」という事業視点
#15 「物語」で人を動かす新規事業の価値づくり
#16 業界を超えて仲間を巻き込む新規事業のつくり方
衰退期にある茶業への参入を、リスクだとは考えていなかった
片桐岩本さんが茶道に出会ったきっかけを教えてください。
岩本幼少期に、テレビで茶道を見て興味を持ち、自分で志望して茶道裏千家に入門しました。当時は不登校気味で、学校では評価基準が限られていますが、茶室では「目の前の方々にどれだけ心を込めてお茶を出せるか」という、誰でも取り組める評価軸があり、多様な評価があっていいはずだという感覚を幼いながらに感じていました。学校に行く前、塾に行く前など、さまざまなシーンでお茶室に行きました。逃げ場でもあったし、居場所でもあったんです。
片桐大学時代にTeaRoomを創業されるわけですが、お茶で起業しようと思ったのはなぜですか?
岩本茶道は、お茶会を開くとなると一服のお茶を点てるために、炭を1カ月前から洗い、天日干しをして準備をしていきます。それこそ一服の茶にかける思いを考えれば、100万円、1000万円の価値がついてもおかしくないと思っていたんです。しかし、お茶の原料単価は約45~50年にわたって下がり続けていました。「すぐに手を打たなければ茶畑も茶道家も終焉を迎える」という危機感がありました。同時に、価値と価格のギャップがある。そこに対して、何かしら行動を起こせるのではないかと思ったんです。
本間ビジネス的な観点でいえば、衰退期にある産業への参入はなかなか勇気が必要だったのではないでしょうか。
岩本リスクがあることだとは考えていませんでした。茶道という世界が存在する以上、お茶をただの消耗品とは見ていない人が、世界のどこかに必ずいる。しかも価格が底値なのだから、その価値が分かる方々に届けるだけで商売は成り立つ。自分は人生をかけてその価値を体感してきましたから、あとはそれをどう実装するかだけが論点でした。
片桐伝統的な世界に外から飛び込むのは、相当な苦労があったのでは?
岩本大変でした。伝統的な業界は新規参入が少ないため、参入した人は目立つ。「あいつらは何をするんだろう」と、周りに分からないままにしておくと、不安をあおってしまうんです。不安の正体は「相手を知らないこと」。だから全国を行脚し、会って一人ひとりに志を伝えることを徹底しました。
弊社は静岡の山奥の工場を承継しているのですが、当時工場を管理していた組合長は「どこの出かわからないプレーヤー」に売ることへの葛藤があったはずです。それでも対話を重ねて承継に至り、我々がお茶を高い価値をつける取り組みを続けていくと、2~3年目に農家の皆さんから「このようにお茶が求めてもらえるなら、もう一回畑を開墾しようか」と持ちかけてくださったんです。45~50年間、お茶の単価は下がり続け、落胆を繰り返してきた方々です。それでも若手に工場を託し、支えてみたことで、少しでも希望の兆しを感じていただけたのではないかと思います。それが、次の世代への伝承につながったのかな、と。
産業を強くするために。追うべきは自社の利益ではなく、業界全体に与える経済効果
片桐TeaRoomのビジネスについて教えてください。
岩本「おいしいお茶をつくること」という製造販売の柱と、「おいしいお茶をおいしく飲める体験や空間をつくること」という文化の柱と、「おいしいお茶をおいしく飲み続けられる社会・世界をつくっていくこと」という共創の柱があります。3つ目を実現するために、企業さまとの協業を行っています。
片桐生産販売から社会づくりまで、お茶にまつわるトータルをやられているんですね。
岩本単にお茶をつくって販売するだけでは、お茶の価値は届きません。それぞれのプレーヤーがお茶の価値を増幅していく、そんなバリューチェーンが重要なんです。
一方でペットボトル茶の普及なくして、日常的にお茶を飲む生活は残らなかったかもしれません。日常の行為からお茶という存在が認知され、どこかのタイミングで文化やウェルネスなどさまざまな領域に対してお茶との接点を用意してあげる。そうすると、ラグジュアリーツーリズムに生かしたい、ホテルに茶室を設けたいなどのさまざまな話が出てきます。そうした一つひとつの話を、我々は共創につなげていくわけです。
我々がいうカスタマージャーニーというのは、世界中の人々に、どうしたらお茶という概念を取り入れてもらえるのか、ということを考えて、あらゆるタッチポイントで事業を展開していくモデルなんです。
片桐経営で最も大切にしていることは何でしょうか。
岩本自社の利益だけでなく、業界全体に与える経済効果を見ることですね。衰退している産業で唯一生き残ったとしても、TAM(Total Addressable Market)はもう狭くなっていますから。その先に残った世界は、ディストピアだと思っています。産業が強くならない限り、私たちの価値は届かない。だから「経済規模」ではなく「経済効果」を指標として追っています。自社がいくら売り上げたかではなく、自分たちが動かした経済が何億円になったか。周辺業界に価値が染み出し、そこから新たな資本が流入して、またイノベーションが起きる――このサイクルをつくることが、長期的に自社の利益にもなっていきます。
例えば、中国産と日本産の抹茶はプロダクトとしては競合です。でも、抹茶の需要を広げるという観点では、パートナーになる。産業規模を上げるためには、競合と見なされている相手とも、共通の大きな目標のために動く必要がある。これが、私たちの理念「対立のない優しい世界」であり、事業における実践です。
機能で差がつかない時代に、「物を売らずに、物語を売る」
片桐商品を茶の湯の文化と掛け合わせて価値を届ける上で、大切にしていることは何ですか。
岩本「物を売らずに、思想・物語を売る」ということに注力しています。商品の機能的な付加価値は、もう限定的だと思うんです。どれだけ機能に差をつけても、競合商品も同じようなものを出してくる。だからこそ、その商品が私たちやお客さまにとってどういう存在なのか、世の中に何を届けられるのか、そこにどんな物語があるのかを伝えることが大事です。
お茶であれば、まず「私たちにとって、お茶とは何なのか」という思想の部分を、多くの方に伝えるようにしています。
片桐では、その物語はどのように構築するのでしょうか。
岩本基本的には、その土地の「風土条件」から探ります。文化は、人と風土がつくるものだと考えているからです。その風土の中で人々がどのように生き、何を生み出してきたのかを大事にしています。
例えば鹿児島には桜島をはじめ多くの火山があり、その長い火山活動によって、県内には火山灰を母材とする土壌が広く形成されています。お茶は比較的酸性の土壌を好むので、こうした鹿児島ならではの土地も、お茶づくりを支えてきた環境の一つです。
単に「鹿児島茶は日本一です」と語るのではなく、火山とともに生きてきた土地で、その風土を生かしながらお茶がつくられてきたことまで伝える。その背景を知ってから鹿児島のお茶を飲むと、味わいの向こうにある土地の風景まで、また違ったニュアンスを感じるのではないでしょうか。
基本的にすべての産品は、プロダクトだけ、機能だけを取り出せばコモディティです。その裏側にある物語や思想をどう届けていくか。生産できる規模が限られている日本だからこそ、どれだけ質や付加価値を高めていけるかという意味でも、とても重要な視点だと思っています。
本間銀行でもプロダクトだけでは差異を出しにくい中で、担当者の付加価値が差異を生んだ経験があります。物語や無形の価値をつけるという発想、すごく共感しました。
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ここまでは、岩本氏が自らの事業に「物語」をどう宿らせ、価値へと変えてきたのかを聞いてきました。Podcast本編では、その物語を他者とともにどう広げていくのか、「共創」の考え方を掘り下げます。
TeaRoomがこれまで共創してきた企業は450~500社。岩本氏は、他社と「協業している」「共創している」という感覚ではなく、「すでに、あなたは物語の一員だよね」という感覚だと話します。まず「どの景色を残したいのか」を描き、その実現に必要な人や企業を仲間として捉えていく――。企業や自治体を巻き込みながら、茶業の枠を超えて共創を広げてきた岩本氏ならではの考え方を、ぜひPodcastでお聴きください。
#13 21歳で茶業に飛び込んだ起業家の「価値を届ける」事業論
#14 茶業界の未来を変える「産業を大きくする」という事業視点
#15 「物語」で人を動かす新規事業の価値づくり
#16 業界を超えて仲間を巻き込む新規事業のつくり方
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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株式会社TeaRoom 代表取締役CEO
岩本 涼氏
1997年千葉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2018年、「対立のない優しい世界を目指して」を理念に、文化と産業を架橋すべく株式会社TeaRoomを創業。幼少期から茶道裏千家に入門し、茶道家としても活動し、茶の湯や日本文化の価値や思想に根ざした取り組みも行なっている。また、静岡県本山地域の茶畑と製茶工場を承継し、2020年に農地所有適格法人「THE CRAFT FARM」を設立、一次産業に参入。兼任する主な役職は、抹茶の国際団体「一般社団法人International Matcha Association」代表理事、株式会社中川政七商店社外取締役。三谷産業株式会社(東証スタンダード 8285)社外取締役、公益財団法人世界緑茶協会理事、静岡県文化政策審議会委員など。
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フリーアナウンサー
片桐 千晶氏
山形県寒河江市出身。2005年、秋田テレビ入社。2011年フリーに転身。2013年1月からTBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ!」のアシスタントを6年間務め、ラジオを中心に出演番組多数。
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株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部
本間 悠暉氏
2018年、株式会社三井住友銀行に入行。中堅・中小企業を中心に法人営業を担当した後、2023年よりデジタル戦略部にて、新規事業の開発や自社開発プロダクトのマーケティングおよび事務企画を経験。現在は同部にて、Podcast「共創前線」やオウンドメディア「DX-link」等の情報発信の企画運営に従事。
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