「究極の分散投資」に量子技術由来の先端技術で挑む。SMBCグループが開発した新たな株式指数
リスクを抑えながら、より高いリターンを目指す――。資産運用において、長年追い求められてきたこのテーマに、SMBCグループが新たなアプローチで挑んでいます。
三井住友銀行が東芝と共同開発したのは、量子技術由来の先端技術を活用した新しい株式指数。従来のコンピューターでは、現実的な時間で解くことが困難だった大規模な組み合わせ最適化問題を解くことで、新たな分散投資の可能性を切り開こうとしています。
目指すのは、単なる技術実証ではありません。金融機関自らが新しい投資の選択肢をつくり出し、「資産運用立国」の実現にも貢献することです。今回の株式指数は、どのような発想から生まれ、金融の未来をどう変えていくのでしょうか。
三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 市場事業部門長 永田有広氏、三井住友銀行 市場テクノロジー部 R&Dグループ グループ長 中山純氏に話を聞きました。
なぜ「究極の分散投資」は実現できなかったのか
まず、今回開発された株式指数について教えてください。
中山今回、三井住友銀行と東芝で共同開発した株式指数は、東芝の量子技術由来の最適化計算機「シミュレーテッド分岐マシン」を活用して開発しました。
特徴は、値動きの相関が低い銘柄のみでポートフォリオを構築することです。これまで、量子技術由来の先端技術を金融市場に応用した例は多くありませんでした。今回の取り組みは、その先進的な事例の一つになると考えています。
現在はすでに、日本株と米国株を対象とした指数の算出を開始しており、今後は運用会社と連携しながら、この指数に連動するインデックスファンドやETF(上場投資信託)の商品化を進めていく予定です。
博士(経営)金融戦略・経営財務Ph.D.
中山 純氏
今回の取り組みの背景には、どのような課題意識があったのでしょうか。
永田投資の世界には昔から変わらないテーマがあります。それは、「リスクを抑えながら、リターンを高めること」です。約70年前に提唱された現代ポートフォリオ理論では、「資産を分散させることでリスクを抑える」という考え方が示され、現在でも資産運用の基本となっています。
ただ、分散投資を究極まで追求しようとすると、膨大な計算が必要になります。組み合わせがあまりにも多く、これまでは現実的な時間で計算することが困難でした。
今回、東芝と組み、この技術を活用することで、その長年の課題に一つの答えを示せる可能性が見えてきました。もちろん「これが唯一の正解」と言うつもりはありませんが、リスクを抑えながらリターンを目指す分散投資の新しい形として広がってほしいと考えています。
三井住友銀行 専務執行役員 市場営業部門
永田 有広氏
「計算できる」だけでは足りない。投資商品にするための設計思想
今回のプロジェクトでは、三井住友銀行と東芝に加え、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(以下、S&P DJI)も参画しています。技術面では、どのような点が新しいのでしょうか。
中山今回の指数は三井住友銀行と東芝で共同開発しましたが、日次の算出と公表はS&P DJIが担っています。私は以前、東芝に在籍し、今回の量子技術を研究するチームと共同で研究に取り組んでいました。2023年には、東芝の量子技術由来の計算技術を使った株式ポートフォリオ構築に関する論文も共同で執筆しています。今回の指数開発は、そうした研究の延長線上にあります。
例えば500銘柄の中から100銘柄を選ぶだけでも、組み合わせは天文学的な数になります。こうした問題は、従来のコンピューターの仕組みでは現実的な時間で計算することが困難でしたが、シミュレーテッド分岐マシンを活用することで、現実的な時間内に解くことが可能になりました。
ただ、計算できるだけでは投資商品にはなりません。実際のファンドとして運用するには、売買の頻度や銘柄の流動性、指数との連動性まで考慮する必要があります。今回の指数では、そうした実運用まで見据えた設計を行っていることも大きな特徴です。
今回の指数は、投資家にとってどのような選択肢になるのでしょうか。
永田株式投資は、長期的な資産形成において欠かせない選択肢の一つです。一方で、株式市場は日々大きく変動します。ITバブルや金融危機、コロナ禍など、過去を振り返っても、株価が急激に下落する局面は何度もありました。
長期的には世界経済の成長に伴って株式市場の成長も期待できますが、途中には調整局面があります。そのため投資家は、「いつ買うべきか」「今は高すぎないか」と悩むことになります。
今回の指数は、相場のタイミングを見極めて安く買い、高く売ることを狙うものではありません。相関の低い銘柄を組み合わせることで市場の大きな波をできるだけ小さくしながら、長期的な成長を取りにいくことを目指しています。相場のタイミングに過度に左右されない運用を目指していることが、この指数の大きな特徴だと考えています。
金融機関とテクノロジー企業が連携することには、どのような意義がありますか。
永田マーケットのプロフェッショナルと最先端技術を組み合わせることは、これまでなかなか実現しにくかったと思います。だからこそ、日本からこうした新しい取り組みを発信できたことには大きな意味があると考えています。
個人にもプロにも。ポートフォリオの「土台」になる指数へ
新NISAの普及や「資産運用立国」の実現に向けた動きを背景に、個人の資産形成への関心が高まっています。今回の指数は、どのような投資家に届けたいと考えていますか。
永田まずはこれから資産形成を始める個人の方に届けたいと考えています。現在は「投資をしなければならない」と焦りを感じている方も少なくありません。周囲で投資がうまくいったという話を耳にする機会も増え、若い世代には給与の大きな割合を投資に回す方もいます。ただ、十分な知識がないまま大きなリスクを取るのではなく、できるだけリスクを抑えながら、長期的な資産形成につなげることが重要です。
今回の指数は、そうした個人の方にとって、新たな資産形成の選択肢の一つになり得ると考えています。
また、この指数をポートフォリオの「コア」として活用し、リスク許容度に応じて債券などの異なる資産と組み合わせることで、リスクの度合いに応じた商品をつくるといった展開も考えられます。
機関投資家にとってはどうでしょうか。
永田機関投資家にとっても、メリットのある選択肢になり得ると考えています。多くのアナリストや運用担当者が個別企業を分析して銘柄を選定するのは重要な運用方法ですが、一方で、人の分析とは異なる観点から、機械的に相関の低い銘柄を組み合わせることも、リスク分散につながります。
今回の指数を基幹ポートフォリオの一部に組み入れ、そのうえで各投資家が得意とするアクティブ運用を重ねていく。そうした使い方も考えられます。
今後の商品化に向けたスケジュールを教えてください。
永田現在、運用会社と具体的な検討を進めています。できる限り早く、可能であれば2026年度中にもスタートしたいと考えています。指数を発表した後の反応も良く、早期の商品化への期待を感じています。
先端技術で金融市場の変革をリードする
今回の指数開発を一つのスタートとして、SMBCグループでは今後、DXや先端技術を市場事業にどのように活用していくのでしょうか。
永田現在、私たちは生成AIを情報収集やポートフォリオの検討など、さまざまな業務に活用しています。
一方で、生成AIにとどまらず、今回のような量子技術由来の先端技術を金融に応用する取り組みも進めています。こうした先端技術を積極的に取り入れながら、金融の変革を私たちが中心となってリードしていきたいと考えています。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
中山今回の取り組みは、日本株と米国株を対象とした指数の発表で終わりではありません。現在は、全世界株を対象とした指数の開発も進めています。
最終的には、年金資産を運用するような機関投資家にも活用いただけるような指数へと育て、日本の先端技術を生かした新しい資産運用の形として、より多くの方に届けていきたいと考えています。
永田世界情勢や金融市場の変化が激しくなり、不確実性はこれまで以上に大きくなっています。そうした中で、「よく分からないから避ける」のではなく、その不確実性とどう向き合うか。その答えを、私たちは積極的に示していきたいと考えています。
これまで市場で培ってきた知見に、新しいテクノロジーを掛け合わせることで、より良い投資の選択肢を提供していく。それがSMBCグループの役割だと思っています。
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 市場事業部門長
三井住友銀行 専務執行役員 市場営業部門永田 有広氏
1993年住友銀行(現三井住友銀行)入行。大阪大学大学院経済学研究科を修了後、市場部門にて経験を重ね、市場運用部長を経て、2021年4月から執行役員。2024年4月から常務執行役員・市場営業部門副責任役員。2025年4月より現職。
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三井住友銀行 市場テクノロジー部 R&Dグループ グループ長
博士(経営)金融戦略・経営財務Ph.D.中山 純氏
2023年三井住友銀行入行。野村アセットマネジメント、東芝研究開発センターを経て2026年4月より現職。クオンツ投資戦略開発・運用、量子技術の金融応用に一貫して従事。
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