「見えない頑張り」を評価する。VポイントとOliveを生かした、人的資本経営の新たな仕組み
「社員の頑張りを、もっと正当に評価したい」
少子化による市場縮小を見据え、持ち株会社体制へ移行し、新たな事業への挑戦を進めていたマジオネットHD。事業の多角化や組織改革を進める中で、松本義弘社長が向き合っていたのは、売上や利益だけでは測れない社員一人ひとりの挑戦や貢献をどう評価し、その一歩を後押しする文化をどう根付かせるかという課題でした。
その課題に対し、マジオネットHDとSMBCグループがともに形にしたのが、社内独自ポイントとVポイント、銀行口座と決済機能が一体となった「Olive」を掛け合わせた新たな仕組みです。
「評価したい行動に応じて社内独自ポイントを付与し、Vポイントに交換。そして、Oliveで受け取り、活用する。」というポイントの発行から利用まで、一気通貫してサービス提供ができる仕組みをつくり上げました。
これらはどのような経緯を経て実現したのでしょうか。マジオネットHD 代表取締役社長 松本義弘氏のほか、プロジェクトに携わった三井住友銀行 トランザクションバンキング営業部(当時:HRアドバイザリー部) 柳本ジェイ洋太氏、同行 新宿法人営業第二部 齋藤江里子氏、同行 法人戦略部 鵜澤雄一郎氏、Vポイントマーケティング コンサルティング本部 髙島康彰氏の5人に話を聞きました。
数字では測れない「頑張り」を、どう評価するか
今回の取り組みを始めた背景について教えてください。
マジオネットHD 松本当社は自動車学校から始まった会社ですが、少子化によって市場は縮小しています。創業者の代から「自動車学校業だけではなく、新しい事業へ挑戦していく会社にならなければならない」という考えがあり、私もその思いを受け継いできました。
事業の多角化を進める中で、会社にとってもメリットがあり、社員にとってもやりがいが生まれる組織のあり方を模索していました。
松本 義弘氏
組織づくりという観点では、どのような課題を感じていましたか。
マジオネットHD 松本売上や利益は数字で評価できます。でも、会社には、数字では測れない頑張りがたくさんあります。そのような「見えない頑張り」をきちんと拾い上げ、評価できる会社にしたいと思っていました。
その相談を受けたのが齋藤さんだったそうですね。
SMBC 齋藤はい。私が法人営業の担当としてマジオネットHDさまを担当していました。持ち株会社化に向けてさまざまな取り組みを進める中で、松本社長から「人的資本経営について情報提供をしてほしい」とご相談いただいたことが、このプロジェクトの始まりです。そこで、法人顧客の人事・人材領域の課題解決を担当する本部スタッフの柳本につなぎ、一緒に検討を始めました。
齋藤 江里子氏
VポイントとOliveを軸に動き出した、共創プロジェクト
そこから、どのように話が進んでいったのでしょうか。
マジオネットHD 松本社員のモチベーションや人的資本経営について話をしていたところ、「Vポイントを使ってこんなことができるかもしれませんね」と盛り上がり、何度かの議論を経て、構想の大枠が固まりました。
SMBCグループ側では、以前から構想を検討していたのですか。
SMBC 柳本人的資本経営への関心が高まる中で、「インセンティブを活用して社員のエンゲージメントを高められないか」という相談が増えていました。これに対し、SMBCグループとして新たな課題解決手法が考えられないかと以前から検討していました。
インセンティブとしてのポイント制度導入というと簡単に聞こえるかもしれませんが、私たちが目指したのはただ単に「ポイント制度を導入しましょう」という話ではありません。組織文化をどうつくるか。会社が評価したい行動をどう可視化するか。そのための仕組みを一緒に考えようというところからスタートしました。
現金でインセンティブを渡しても、給与の一部として受け取られ、会社の思いは伝わりにくい。少額であっても、Vポイントという形にすることで、「会社からの感謝」をより実感いただけるのではないかと考えました。仮に、そのVポイントをOliveで受け取っていただければ、社員の皆さんの日常生活にもつながっていきます。福利厚生としても、法人のお客さまのお役に立てるのではないかと考えました。
トランザクション・ビジネス本部 トランザクションバンキング営業部 営業推進グループ
(当時:プライベート・アドバイザリー本部 HRアドバイザリー部 ソリューショングループ)
バイスプレジデント 柳本 ジェイ洋太氏
構想を実現するため、SMBCグループ内ではどのような連携が必要になったのでしょうか。
SMBC 鵜澤今回の仕組みは、三井住友銀行だけでなく三井住友カードやVポイントマーケティング、そして報酬制度の設計・導入支援を手掛ける南青山アドバイザリーグループにも協力をしていただく必要がありました。関係者が多岐にわたることから、案件を進めていく際のコミュニケーションロスを防ぐべく、複数の部署やグループ会社をつなぐ調整役として、プロジェクトマネジャー(PM)のような立場で関わらせていただきました。
鵜澤 雄一郎氏
Vポイントマーケティング 髙島TポイントとVポイントの統合により誕生した新生Vポイントは、SMBCグループとの連携を通じて、これまで以上に活用の幅が広がるサービスとして期待されています。今回の案件に参加することは、Vポイントの新たな価値創造に挑戦する取り組みになると考え、南青山アドバイザリーグループが提供するプラットフォーム内に蓄積された独自ポイントをシームレスにVポイントへ交換できるよう、API連携などシステム面を担当しました。
髙島 康彰氏
「何を評価する会社か」を明確にする
完成した制度を、社内ではどのように説明されたのでしょうか。
マジオネットHD 松本社員には、「日本でも珍しい成果報酬型の福利厚生を始めます」と説明しました。
ここでいう「成果」は、売上や利益だけではありません。リスキリングに挑戦した人、新しい提案をした人、誰かをサポートした人、会社を良くするために行動した人。賃金規定・人事考課だけでは表現しきれない、さまざまな頑張りをできるだけ公平感のある形でポイントとして評価する仕組みです。
評価項目はどのようにつくっていったのでしょうか。
マジオネットHD 松本各グループ会社の責任者を通じて社員にもヒアリングし、「どのような行動を評価してほしいか」を集めました。経営側が評価したい行動だけを一方的に決めるのではなく、社員がどのような頑張りを認めてほしいのかを、できるだけ制度に反映しようと考えました。
柳本さんは、この仕組みの本質をどのように捉えていますか。
SMBC 柳本私は、会社が求める人物像や企業理念を社員の日々の習慣に落とし込み浸透させる仕組みだと思っています。
人的資本経営という言葉は広く知られるようになりましたが、「理念をどう社員の行動へ落とし込むか」は、多くの企業が悩んでいるテーマです。会社が「何を評価するのか」を決めること自体が、企業文化をつくることにつながる。そこに、この仕組みの本質的な価値があると考えています。
導入後、どのような変化を感じていますか。
マジオネットHD 松本当社は以前から、「日本一『ありがとう』が飛び交う会社を目指そう」と言い続けてきました。ただ、言葉だけでは、なかなか行動として定着してきませんでした。今回、この仕組みを導入したことにより、誰かに何かをしてもらったとき、言葉だけでなく、目に見える形でも感謝を伝えたい。それができるようになりました。現在では、月に約3000件の「ありがとう」が飛び交うようになっています。
髙島さんは、利用状況をご覧になっていて、どのような印象を持たれましたか。
Vポイントマーケティング 髙島Vポイントは、普段の買い物など日常生活の中で自然に使えるサービスです。だからこそ、「評価された」「感謝された」という体験が、会社の中だけで終わらず、生活の中にもつながっていきます。企業の評価と社員の日常生活を緩やかにつなげられることは、Vポイントならではの価値だと感じています。
人的資本経営に伴走する、銀行の新たな役割
今後、この制度をどのように育てていきたいですか。
マジオネットHD 松本現在の評価項目が完成形だとは思っていません。社員の声を聞きながら、基準を増やしたり、必要に応じて見直したりしていきます。社員が「会社のためにもう一歩頑張ってみよう」と思えるきっかけをつくり、その積み重ねを会社の文化にしていきたいと思っています。
今回の仕組みは、ほかの企業にも広がる可能性がありそうですね。
SMBC 鵜澤今回のテーマはエンゲージメントでしたが、仕組み自体は、さまざまな経営課題に応用できると考えています。例えば健康経営であれば、健康診断の受診や運動など、健康づくりにつながる行動を評価する報酬制度をつくることができます。また、M&A後の統合、いわゆるPMIでは、新しい企業理念や文化を浸透させることが重要になります。そのような場面でも、会社が大切にしたい行動を明確にし、社員の行動につなげる仕組みとして活用できる可能性があります。
最後に、SMBCグループとして今後どのような価値を提供していきたいと考えていますか。
SMBC 齋藤営業として、お客さまから人的資本経営という新しいテーマをご相談いただき、それをグループ内の専門部署につないで一つの形にできたことは、とても印象に残っています。
私一人では実現できませんでしたが、それぞれの専門性を持つメンバーと一緒に取り組めたことで、お客さまのご期待に応えられたのではないかと思っています。
SMBC 柳本今回の取り組みは、一つの事例ではありますが、「これが正解」というものではありません。企業ごとに目指す組織の姿も、評価したい行動も異なります。だからこそ、私たちは制度をそのまま提供するのではなく、「どのような会社をつくりたいのか」という議論からご一緒し、それぞれの企業に合った仕組みづくりに伴走していきたいと考えています。
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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マジオネットHD株式会社
代表取締役社長松本 義弘氏
2003年に株式会社マジオネット(現マジオネットHD株式会社)へ入社。
以降、同社にて経営管理業務に従事。2022年4月より代表取締役社長。 -
株式会社三井住友銀行
トランザクション・ビジネス本部 トランザクションバンキング営業部 営業推進グループ
(当時:プライベート・アドバイザリー本部 HRアドバイザリー部 ソリューショングループ) バイスプレジデント柳本 ジェイ洋太氏
2008年入行。法人営業部を11年経験し、HRアドバイザリー部に異動。以降、SMBCの人材紹介業の立ち上げ・企業の人的資本経営のサポート業務に従事。2026年4月からトランザクションバンキング営業部に異動し、給与を切り口とした法人顧客が抱えるトランザクションに関する経営課題解決を行う。
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株式会社三井住友銀行
新宿法人営業第二部 アナリスト齋藤 江里子氏
2022年入行。法人営業担当として、企業の成長支援や資金調達、事業承継・M&Aなど幅広い金融ソリューションの提案に取り組む。現在は新宿エリアを中心とし地域に根差した営業活動に従事。
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株式会社三井住友銀行
法人戦略部 グループソリューション推進室 オリジネーショングループ アソシエイト鵜澤 雄一郎氏
大手証券会社を経て、2016年に三井住友銀行へ入行。以降、個人営業・法人営業に携わり、2024年より現職。
法人戦略部では、三井住友カードの兼職者として、決済ソリューションやVポイント関連ソリューションの営業推進に携わる。2026年からは、企画業務に従事。グループ会社及び本店各部との連携を推進。 -
Vポイントマーケティング株式会社
コンサルティング本部 アカウント第4部 第2グループ髙島 康彰氏
通信会社の採用担当、CCCコミュニケーションズの人事を経て、2010年より共通ポイントであるTポイント(現Vポイント)のSMB向けサービス運営企画、提携先開発、提携先コンサルティング、データマーケティング営業等に従事。
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