仕事も家事も「すべて60点」。その苦悩から生まれた三菱地所発の家事代行「30min.」|Podcast『共創前線』
時短勤務で仕事を思うように進められない。家に帰っても、最低限の夕食を作るだけで精いっぱい。2度の産休・育休を経験した三菱地所の中村瞳氏は、当時の自分を「すべてが60点だった」と振り返ります。その経験から、社内の新規事業提案制度に応募。最低2~3時間が当たり前だった家事代行業界の常識を覆し、最短30分から利用できる巡回型ハウスキーピングサービス「30min.(サーティーミニッツ)」を立ちあげました。
街づくりを本業とする三菱地所で、なぜ家事代行の新規事業が生まれたのでしょうか。同社にとって史上初となる実証実験からスタートし、社内を巻き込みながら事業化までこぎつけた道のりを、番組パーソナリティの片桐千晶氏と、自身も二児の母として働く三井住友銀行 デジタル戦略部の古川千里氏が伺いました。
本記事では、全4回の放送内容のうち、事業化までの道のりを抜粋してご紹介します。その他のエピソードはぜひPodcastでお聴きください。
YouTubeで各回を視聴する場合はこちら
#17 60点の毎日から生まれた、30分単位の家事代行
#18 大企業ならではの悲喜こもごも。顔が見える形で、価値観の相違を克服
#19 「超見切り発車」からの学び
#20 家事代行が描く未来、そして新規事業への想い
2度の育休で気づいた、家事代行が広まらない理由
片桐「30min.」はどのようなサービスなのでしょうか。
中村一般的な家事代行は最低利用時間が2~3時間で、時間単価は3,000~4,000円ほどです。でも実際に頼むとなると、交通費なども含めて結局1万数千円かかってしまう。掃除を頼むだけでそれくらいかかると、なんとなく手が止まってしまうんですよね。家事代行=一部のお金に余裕がある方が使う、いわゆる、お手伝いさんみたいなイメージが強かった。そこで、利用するハードルを下げたいと考え、始めたのが最短30分、30分単位で使える家事代行サービス「30min.」です。
片桐30分単位での家事代行サービスにたどり着いたきっかけは。
中村1回目の育休からの復帰後は、とてもじゃないけど回らなくて。戻ってから1~2年は「自分はなんてダメな人間なんだ」と思いながら過ごしていました。2人目の育休を取った時に、1人でさえつらかったのだから、2人になったら自分のメンタルが持たないだろうと。それで家事代行サービスを使ってみたら、「こんなに便利なサービスがあったんだ」と本当に救われたんです。
それでママ友にも勧めてみたのですが、みんな「ハードルが高い」という。みんな家事の課題は抱えているのに、なぜ普及してないんだろう?という疑問が、30min.のサービスを思いつくきっかけでした。
片桐育児と仕事を両立する上で、何が一番つらかったのでしょうか。
中村全部が中途半端になることです。時短勤務でフレックスもなかったので16時前後には帰らなければいけない。仕事は全然追いつかないし、家に帰れば子どもが家をぐちゃぐちゃにしてイライラするし、最低限のご飯しか作れない。なんというか、すべてが60点みたいな感じが負担でした。
古川すごくわかります。ただ、同じような課題を感じても、それを事業にしようと考える人ばかりではありません。中村さんが事業にしようと思ったのはなぜですか。
中村新規事業提案制度があることは入社した時から知っていて、いつか応募したいなという気持ちがありました。ただ、アイデアがあるわけではなかった。でも、困っている人がいて、自分にも実体験があるけれど、仕組みとして成立していないこの課題を解決したら事業になるんじゃないか、社会を変えることができるかもしれないと思ったんです。
片桐30分という単位は、最初からあったアイデアですか。
中村いえ、最初はお友達同士で家事代行をシェアするイメージでした。3時間来てもらったら、1時間ずつ隣の家、また隣の家とリレーしていく。でも、利用者自身が近隣で一緒に利用する人を集めるのは大変です。それなら事業者側で巡回先を確保して、お客さんは申し込むだけの形にしたほうがハードルが下がるのではと発想を変えました。
片桐実際に30分単位のサービスを形にするまでには、さまざまな試行錯誤があったのでしょうか。
中村はい。社内の子どものいる女性社員に話を聞き、このようなサービスがあったら利用したいか、率直な意見を聞きました。30分の場合、掃除できるのは基本的に1カ所です。そのため「短すぎて効果を実感できなさそう」という意見がある一方で、「困っている部分だけ頼めれば助かる」という意見もあり、評価は分かれました。そこで、まずは実際にサービスを提供してみることにしました。
片桐実際に30分利用した方の反応はいかがでしたか。
中村興味深かったのは、時間が浮いたことよりも、心理的な負荷が下がったという声が多かったことです。「家事をやらなきゃ」という気持ちがなくなったと。そこから、入り口のハードルと継続利用のハードルを分けて考え、「30min.」は入り口のハードルを下げるコンセプトで押していこうという形になりました。
大企業における新規事業ならではの、強みと制約
片桐正式に事業化するまでは、どんな流れだったんですか。
中村社内のビジネスコンテストに応募し、約半年間の審査を経て、最終審査に選ばれました。そこから会社の予算を使ったPoC(実証実験)を繰り返す期間が約1年半ありました。応募から正式事業化までは約2年です。
片桐実証実験は、どのように進められましたか。
中村事業開発を専門にしている方に相談しながら進めました。まずはお客さんの声を集めることが必要だとのことで、社内の会員組織にオンラインインタビューをお願いすることから始めました。その後、当社の社宅でハウスキーパーさんに巡回してもらったんです。ハウスキーパーさんも、一人ひとりスカウトしていきました。
私自身もハウスキーパーとして利用者のお宅を掃除し、利用後には、事務局からのアンケートという形で感想を聞くなど、実際にサービスを提供しながら、お客さまの反応や運営上の課題を確かめていきました。
古川社宅を使えるのもそうですが、インタビューなど一次情報を集めやすいのは、大企業ならではかもしれませんね。
中村強みといえば、会社の看板がもつ力も実感しました。「三菱地所の中村です」と言うと、インタビューや提携の依頼も好意的に受けてもらえることが多かった。会社の名前が信頼感を与えてくれるのは、非常に役立ちました。
片桐逆に、大企業だからこその大変さは。
中村社内のルールですね。5万円のものを買うにも決裁が必要ですし、発注先の審査も必要です。「新規事業はスピード感が大事だから無視していいよ」とはならないので、必要な手続きはものすごいスピードで進めていましたね。
「情緒」だけでは伝わらない。数字と「顔が見える」一次情報で経営陣を動かす
片桐事業化にあたって、大変だったことは。
中村概念的に理解してもらえないことです。事業化を判断するのは役員クラスの方々ですが、そもそも共働きを経験したことがない人も多い。「うちの奥さんはキッチンに立つのが大好きでね」と言われて、全くかみ合わないな、と感じたこともありました。
片桐そこをどうやって理解してもらったんですか。
中村情緒的な説明では理解してもらえないと痛感して、数字を集めるしかないと思ったんです。PoCで申込率や獲得単価などの数字を集め、どの数字について理由を尋ねられても、その背景まで説明できるようにしました。
さらに、困っている同年代や、これから出産を控える後輩たちの声を集めて、資料に実名や企業名、顔写真を載せさせてもらったんです。ビフォーアフターの写真とあわせて見せると、「あそこの夫婦は共働きで子どもがいて、平日はこんな状態で家を出て、こういう家に帰っていくんだな」と、実感を持って理解してもらえるようになりました。
古川利用者の顔が見えることで、共感も高まったのかもしれませんね。大企業の新規事業は、どうしても本業と比較される難しさがあります。この番組でも繰り返し出てきたテーマですが、やはり数字は重要なのだと改めて感じました。ただ数字を並べるだけでなく、現場の一次情報を集め、その数字が生まれた理由まで説明できるからこそ、説得力が増すのだろうと思いました。
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ここまでは、事業化にこぎつけるまでを紹介しました。Podcast本編では、事業化後の苦悩と「見切り発車」からの学び、そして事業が描く未来について伺っています。中村さんが家事代行の普及で目指しているものとは何なのでしょうか。ぜひPodcast本編にてお楽しみください。
#17 60点の毎日から生まれた、30分単位の家事代行
#18 大企業ならではの悲喜こもごも。顔が見える形で、価値観の相違を克服
#19 「超見切り発車」からの学び
#20 家事代行が描く未来、そして新規事業への想い
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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三菱地所株式会社 30min.事業代表
中村 瞳氏
2005年に新卒で三菱地所に入社。産育休を経て、仕事・育児家事の両立への悩みから、家事をサポートするサービスを社会インフラ化したいという想いに至り、2019年に新規事業提案制度下で30分から使える家事代行サービス「30min.」を提案、2021年ローンチ。
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フリーアナウンサー
片桐 千晶氏
山形県寒河江市出身。2005年、秋田テレビ入社。2011年フリーに転身。2013年1月からTBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ!」のアシスタントを6年間務め、ラジオを中心に出演番組多数。
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株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部
古川 千里氏
2024年9月にキャリア採用で三井住友銀行に入行。それ以前は約10年間、デジタルマーケティングやネットメディア業界で経験を積む。金融業界は未経験ながら、SMBCグループのデジタル発信に関心を持ち、デジタル戦略部に参画。現在は「HOOPSLINK」の事務局も担当している。
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