グレード制とストックオプションで挑戦を支える。SMBCグループがデジタル子会社に託す成長戦略
非金融領域へと事業を広げる中で、多様な取り組みを担うデジタル子会社を複数有するようになったSMBCグループ。その挑戦を次の成長へとつなげていくために、いま人と制度の設計を見直そうとしています。
各社の目指す姿や成長段階を内外で明確にする新社内制度「グレード制」と、挑戦に報いる「ストックオプション」は、そのための新たな基盤です。
どのような狙いで制度を始めるのか。SMBCグループ デジタルソリューション本部長の白石 直樹氏、デジタル戦略部の齊田 淳一氏、人事部副部長の北山 剛氏、SMBCサイバーフロント社長の青木 泰憲氏に伺いました。
新規ビジネスを生み出し、成長を描くための「新しい武器」
グレード制とストックオプションの導入を決定した背景を教えてください。
白石デジタル子会社が生まれ始めた2016年頃は、マイナス金利の時代で、銀行にとっては厳しい環境でした。当時、太田純社長が掲げた「カラを、破ろう。」というメッセージには、二つの意味があったと受け止めています。
一つは、銀行の業績が悪化していく中で、非金融領域から金融分野への参入が進み、いわゆる「銀行不要論」さえ、語られるようになったことです。そうした状況を受け、金融機関自身も、非金融領域に踏み出し、事業を作っていこうという流れが生まれました。もう一つは、そうした環境下で従業員の士気をどう維持・向上させるかという点です。
こうした背景のもとで生まれたデジタル子会社ですが、金利環境が変わり、本業の業績も回復する中で、新規ビジネスに対するリソースや資源配分の考え方を整理する必要が生じてきました。
その中で、最も重要な資源は「人」です。時代背景が変わる中で、新規ビジネスを継続的に生み出していくためには、人への投資を後押しする新しい「武器」が必要でした。
白石 直樹氏
制度設計でこだわった点を教えてください。
齊田グレード制については、IPOを目指すのか、子会社としてグループ内での発展を目指していくのか、各社と対話を重ねながら、それぞれの会社が「目指すべき姿」を明確に定めました。さらに、「目指すべき姿」と事業フェーズに応じた我々の支援のあり方も整理しています。
まずは、定めた目標に向かって邁進してもらう。株主の立場として持つ期待も、共有できたと考えています。
また、ストックオプションについては、「SMBCグループとして、デジタル子会社がストックオプションを発行できる基準や範囲」を明確に示し、子会社による発行検討をしやすくしました。
一方で、ストックオプションは、本来、個社の状況に応じて柔軟に設計することが望ましいものです。その点を踏まえ、一定の基準を示しつつも、個別の事情を議論できる余地を残しています。
齊田 淳一氏
人事と事業をつなぐ。制度を「共創」した意味
今回の新制度は、人事部とデジタル戦略部が共創した点が特徴的だと伺っています。
北山三井住友銀行では、2026年1月に、四半世紀ぶりに銀行全体の人事制度の刷新を行いました。これまでの人事制度は幅広い業務領域で通用する汎用的な能力を重視し、また同一の尺度で評価や処遇を決定する内部公平性を意識した枠組みでした。しかし、ビジネスのウイングが銀行から金融、そして非金融の領域まで広がる中で、制度が追いつかなくなってきたという課題がありました。そこで今回、制度の根幹部分から見直しを行う決断をしました。
従来であれば、人事部としては、今回の新制度も「自らの枠組みにない」という理由でなかなか導入に踏み切れなかったのだろうと思います。しかし今回、デジタル戦略部に声をかけていただき、大きな改革の流れの中で、ビジネスを強くするために、どのような人材に来てもらい、どのような形で処遇・報酬の枠組みを設計するのが適切なのか。デジタル戦略部の知見も踏まえ、議論を重ねながら共創できた点がポイントです。
北山 剛氏
白石これまでもストックオプションを付与した例はありましたが、個別対応に留まっていました。その場合、人が変わると継続されない、外から見て分かりにくいといった課題がありました。
多様な人材を受け入れていくためには、制度そのものが持続可能であることを示す必要があります。人事部との共創によって、その点を担保できたと思います。
悩んだ点や議論が分かれた点はありましたか。
北山これまでは時間をかけて慎重に検討することが多かったのですが、「一歩踏み出すなら大きく踏み出さないと、経路依存性の罠が働き結局何も変わらない」と感じていました。今回は打ち合わせを重ね、銀行全体の新人事制度の方向性とも合致したものであったため、比較的スムーズに進んだと感じています。
齊田SMBCグループのデジタル子会社として、どのような形のストックオプションが適切なのか、その設計には苦労しました。
会社の飛躍を目指すためにはどういう形がいいのか、議論を重ね、スタートアップに知見のある外部の方のご意見も参考にしながら、採用マーケットにおいても十分魅力的といえる内容になったと思っています。
当事者から見た、新制度のリアルな効き目
デジタル子会社の当事者として、今回の新制度についてどうお考えですか。
青木ビジネスが軌道に乗ったタイミングで、ストックオプションを検討する必要があると考えていました。ただ、個別にストックオプションを付与された先輩方からは、関係各所への準備や調整の負担が非常に大きかったと聞いています。だからこそ今回、一定の整理がなされ、制度化されたことは、非常に良かったと思っています。
グレード制とストックオプションは、デジタル子会社にとっていくつかの大きなメリットがあります。
まずグレード制です。会社を立ち上げると、いろいろな方々に「会社を大きくしろ」と期待感を込めて言われるのですが、その指標は、売り上げなのか、従業員数なのか、必ずしも明確ではありませんでした。グレード制によって一定の定義がなされ、マイルストーンが明確になったことで、株主側とデジタル子会社側の目線を揃えやすくなりました。
次にストックオプションです。私個人というより、サイバーフロントという会社そのものに付与される制度と認識しており、これは会社にとって大きな武器になるだろうと思っています。使い方の裁量も一定程度委ねられている仕組みのため、IPOの実現に向けて、従業員の士気を高めるところにも活用できたらなと思っています。
青木 泰憲氏
SMBCサイバーフロントは、立ち上げ当初からIPOを目指していたのでしょうか。
青木IPOを目指す意識は、立ち上げ当初から強く持っていました。ただ一方で、本当に実現できるのかという不安があったのも事実です。今回、制度として整理されたことで、IPOがより現実的な選択肢として見えるようになりました。
現在、中期計画を策定しているところですが、アーリーからミドル、ミドルからレイターへ進むための要件が明確になったことで、次に何をすべきかを逆算しやすくなっています。
さらに、制度を活用しながら、IPOを実現するための道筋を作っている実感があります。例えば、外部調達が要件に含まれるフェーズでは、その経験を持つ人材が不可欠になります。そうした人材に参画してもらうための現実的な手段として、ストックオプションを活用できるようになりました。
IPOを目指す企業だけではなく、グループ内での発展を展望していく「ストラテジックビジネス」もありますよね。
白石そうですね。現在のデジタル子会社は、立ち上げ段階から明確にIPOを目指しているケースもあれば必ずしもそこまで決め切れていないケースもあります。
そうした場合に、グループとのシナジーが大きく、SMBCグループに所属している方がスケールできるのであれば、株主としてもストラテジックビジネスとして成長してほしいという思いがあります。一方で、優秀な人材に挑戦して貰うためには、自己実現としてIPOを目指したいという考え方も尊重されるべきだとも考えています。
ただ、東証の上場基準が厳格化する中で、売上の半分以上をグループ内に依存している場合、上場という選択肢が難しくなっているのも事実です。その意味では、今回のグレード制を通じて、「自分たちの会社はどの方向を目指すのか」を、より明確にすることが出来たと考えています。
加えて、自己実現の道は必ずしもIPOだけでなく、ストラテジックビジネスに取り組む人たちに対しても、何らかの夢があればと良いと思っています。そのためのインセンティブも設ける必要があると感じており、そのあり方については現在検討を進めています。
新規ビジネスには挑戦したいけど、一から過大なリスクを取りたくない、そういった人がSMBCグループの中で新しいビジネスに挑戦できる、そういったミドルリスク・ミドルリターン的な枠組みを作ることで、従来銀行に就職するような安定志向的な人ばかりでなく、リスクを取ることができるような人材も取り込んでいくことで、組織としてのレジリエンスが強くなると良いと思っています。
新規事業への挑戦を、自然な選択肢に
制度を通じて、SMBCグループで新規事業に挑戦する意味は変わりましたか。
齊田SMBCグループで、新規事業開発がキャリアパスの一つとして認識される状態をつくっていきたいと考えています。
今回の制度設計にあたっては、さまざまな企業に話を聞きましたが、実は、新規事業に関する制度はあっても、人事部と十分に連携できていない企業が非常に多いようです。人事制度と新規事業を接続し、挑戦に報いる仕組みを一定整えた点は、新規事業開発をキャリアパスのひとつとしていくために、大きな進展であると考えています。
白石金融機関の事業そのものにも変化が現れています。かつては「銀行不要論」もありましたが、今では、むしろフィンテックの皆さんと我々銀行が一緒になって、一般事業の中に金融を機能として埋め込んでいくといったビジネスを創り始めています。こうした事業は、既存の事業の延長線上で考えるのは難しい。だからこそ、常に最先端のテクノロジーを取り入れながら、新規事業にチャレンジしていくことが大事になります。
フィンテックの方々からしても、自力でやるよりも「三井住友銀行と組むとやりやすい」と感じていただけるのであれば、それは大きな意味を持ちます。今回の新制度は、フィンテック企業の皆さまに対して「ぜひ一緒に挑戦していきましょう」というメッセージでもあります。
デジタル子会社がたくさん生まれてきたことで、銀行員のマインドも変わってきていますか。
北山若手や中堅のメンバーを中心に、希望するキャリアにアグレッシブに挑戦していく意識は高まっています。挑戦はSMBCグループが従前から持つ強みですが、スタートアップなどの領域にも関心を持つメンバーが増えているのは、前向きな変化だと考えています。
キャリアの選択肢が広がり、目指すキャリアに向けて現業を頑張り、キャリアを自ら切り拓いていく。拡張する各ビジネス領域のどこかでプロフェッショナルとなるべく、自分を磨き続けていく流れを、デジタル領域だけでなく、伝統的な銀行業務にも広げていきたい。最終的には、そうした動きがカルチャーの変革にも繋がっていくはずです。
青木法人営業部員や若手行員と一緒に仕事をする中で、「デジタル子会社の社長になるにはどうしたらいいのか」「将来、社長を目指している」といった声を聞くことがあります。挑戦したい人たちが着実に増えている実感があります。
制度自体は始まったばかりですが、私たち自身がスタートアップとしての姿勢を持ち続け、挑戦を重ねていくことが重要だと考えています。その積み重ねが、制度の意義を実際の成果として示していくことにつながるはずです。
金融の役割が変わる時代に、SMBCグループが挑戦する理由
今回の制度設計を通じて、どのような価値を日本経済およびSMBCグループに提供していきたいですか。
白石今回の制度設計を通じて目指しているのは、単にSMBCグループの新規ビジネスを伸ばすことだけではありません。そもそも、私たち金融機関のビジネスは一種の社会インフラであり、その国の経済が成長すれば、金融機関そのものも成長できるというものです。その意味で、本業に加えて、パートナリングしている企業と一体となって、最新のテクノロジーを活用しながら我々が提供している新しいビジネスは、各企業の業務やビジネスのあり方を変え、お客さまのビジネスの拡大に繋がり、そこに銀行の更なる価値提供の機会が訪れます。
こうした取り組みを通じて、お客様の成長、すなわち日本経済の成長の結果として本業・新規問わず銀行のビジネス全体の拡大につながり、金融や銀行の付加価値を高めていくことになります。金融支援と新規ビジネスのどちらがきっかけになるかは分かりませんが、お客さまと我々との間でそうした循環が回り始めること自体に、大きな意味があると思っています。
そして、こうしたダイナミズムは、銀行という組織だからこそ生み出せるものでもあります。既存の枠組みだけでは実現が難しいサービスを、外部の技術やパートナーと組みながら形にしていける点も、その一つです。だからこそ、人事部を含めたグループ全体で制度として支え、個別の取り組みで終わらせないことが重要です。新規事業に挑戦する人材が集まり、その挑戦が次の価値を生む――その循環を、持続可能な仕組みとして根付かせていきたいと考えています。
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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株式会社三井住友銀行 執行役員 デジタルソリューション本部長
白石 直樹氏
ホールセール事業部門の企画や営業部署等を経て、2020年より法人デジタルソリューション部長。2021年より三井住友フィナンシャルグループ 執行役員 デジタル戦略部長、2024年より現任の執行役員 デジタルソリューション本部長。SMBCグループのDX(デジタルトランスフォーメーション)や新規デジタル関連事業開発を推進する。
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株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部 部長代理
齊田 淳一氏
中堅企業への法人営業を担当した後、海外拠点を中心としたコンプライアンス・ガバナンスに従事。2020年より、株式会社SMBCキャピタル・パートナーズの立ち上げ・経営管理業務を担当し、会社立上げ、各種ルール・制度作りを経験。2025年4月より、デジタル戦略部に着任し、デジタル子会社に関する親会社・株主としての役割や牽制機能を担うと共に、各社の経営体制の強化・支援に対応中。
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株式会社三井住友銀行 人事部 副部長
北山 剛氏
国内外での法人営業や人事を含む本部でキャリアを積み、2019年より人材戦略グループ長として異動・評価・人材育成などの人事運用業務に従事、2023年より人事制度改定のプロジェクトリーダーと人事部研修所の副所長を兼任。2024年より現職。
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SMBC サイバーフロント株式会社 代表取締役社長
青木 泰憲氏
法人営業を経て、システム障害の未然防止・発生時の影響極小化に従事。2019年より米国カーネギーメロン大学へ留学し、サイバーセキュリティの修士号を取得。帰国後、SMBCグループのサイバーセキュリティの戦略立案・プロジェクトを牽引。2025年2月、SMBCサイバーフロント(株)代表取締役に就任し、中堅・中小企業を中心に幅広な企業のセキュリティ対策の高度化を支援。
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