取り組み
2025.07.24更新

金融×DXの未来は“人”にあり。SMBCグループが実践する現場主導の育成と採用

「DX or Die」──デジタル化を進めなければ淘汰される。SMBCグループは、そうした強い危機感のもと、2017年からいち早くDX推進に取り組み、育成・採用を通じて変革の基盤を築いてきました。

その中核を担うのが、銀行の心臓部である勘定系システムを所管し、グループ全体のIT戦略を支えるシステム統括部です。

なぜSMBCグループはDXを急ぐのか。そして、変革を支える「人づくり」と「採用」はどのように進められているのか。システム統括部グループ長の伊石 芳郎氏、上席部長代理の御園 亮介氏にお話を聞きました。

DXへの危機感から始まった全従業員教育

なぜSMBCグループはDX推進を積極的に行っているのでしょうか。人材の育成に力を入れている理由についても教えてください。

伊石DX推進を打ち出したのは2017年~2019年の中期経営計画からです。当時は世の中一般的にITやデジタルの推進が言われ始めていた時期で、我々もその流れに乗り、変革をしてお客さまに価値を提供し続けなければいけない。そうしなければ、衰退してしまう──。そんな「DX or Die」という危機感がありました。

株式会社三井住友銀行 システム統括部グループ長
伊石 芳郎氏

ここ20年ほど、システムへの投資は一貫して増え続けていますが、お金をかければシステムができあがるかというと、そういうわけにはいきません。やはり、そこに人がいなければいけませんから、人材を増強する必要があります。そのために、人材の育成と、採用の2軸で施策に注力しています。

具体的にはどのように人材を育成しているのでしょうか。全従業員に向けて実施した取組を教えてください。

伊石2020年~2022年の中期経営計画で、全従業員教育としてDX推進を実施する方針を明確に打ち出しました。それまでは、システムやデジタル関連の部署の人間だけでも良かったかもしれませんが、世の中全体がDX推進の流れに乗っているとなると、我々のお客さまも当然ITやデジタル化をする。そうなると、我々のフロント(営業)も、ITリテラシーやデジタルマインドを向上させる必要があります。

SMBCグループ 中期経営計画より抜粋

具体的には、ITデジタル教育を進める「デジタルユニバーシティ」という組織にて「デジタル変革プログラム」という5時間ほどのe-ラーニング講座を作成し、全従業員の80%がそのプログラムを受講することを目標としました。

デジタル変革プログラム資料より抜粋

御園「デジタル変革プログラム」は、具体的なソリューションを示すというよりも、「これからの時代はデジタルが大事」というマインドの醸成を意識した内容になっています。つまり、世の中の変化に我々も対応していかないと、お客さまに対してベストなソリューションを提案できない。だから、デジタルのことを学ぶべきなのだと気づいてもらうわけです。

受講率を上げるために、社内SNSを活用して広報をしたり、各部や営業店に出向いてワークショップを開催したりと草の根運動を行いました。また、社内インフラで、最先端のデジタル技術紹介やシステムの開発秘話などを紹介するラジオ放送をランチタイムに気軽に聴ける形で配信しました。その結果、受講率は目標を上回る90%を達成しました。

当時はコロナ禍ということもあり、デジタルの重要性や必要性を身をもって体感したことも追い風になったと思います。

株式会社三井住友銀行 システム統括部上席部長代理
御園 亮介氏

伊石引き続きデジタルユニバーシティによる研修の提供は続けていきますし、SMBCグループ全体の新人研修の中でも「デジタルマインド醸成」というプログラムを組み込むなどして、底上げを図っていく予定です。

案件企画人材を1000人に。実践型の育成プログラムも始動

2023~2025年の中期経営計画の中では「案件企画人材の増強」を掲げられていますね。

伊石はい。システムへの投資を増やしたとしても、実際に要件定義をしたりシステム案件を推進したりする、いわゆる「案件企画人材」が不足している現状があります。

そこで、2023年~2025年の3カ年は、今グループで700人ほどいる案件企画人材を300人ほど増強して、1000人規模にすることを目標にしています。研修を通じて、目下270人ほどが新たにスキルを身につけており、この目標も達成が見えてきています。

具体的にはどのような研修をしているのですか。

伊石案件企画人材については、実際に自分たちが日々の業務で困っていることをテーマとして、それをシステムやITの力でどう変えられるかを考えてもらいます。社内で要件定義のルールやフローが定められていますから、それにきちんと沿った形で試行錯誤していただきます。研修はいろいろな部署から参加してもらっていますので、そこでの気づきがあったり、つながりが生まれたりしていると聞いています。

また、一歩踏み込んだプロジェクトを推進する力を強化する研修も同時並行で行っています。やはり銀行はステークホルダーが多く、プロジェクトを進めると言っても、課題や乗り越えるべき壁が多かったり、各方面との調整が必要だったりするので、システム企画案件を最後まで完遂できる人材の育成も急務です。各部から推薦してもらった方に参加してもらい、架空のプロジェクトを例に、いかに課題解決するべきかを学ぶ2日間の研修を行っています。こちらはまだ銀行だけの取組ですが、今後、グループ内にも広げていけたらと思っています。

全従業員を対象にした教育を経て、案件企画人材など専門性を持つ人材を育てる施策をとったことで生まれたメリットはありましたか。

伊石全体的にITやシステムに対する興味や関心が高まってきたという実感があります。また、自ら手を挙げてシステム統括部への異動を希望する人も増えており、これは我々の草の根運動や専門的な研修の効果ではないかと思っています。

御園研修を通じて、徐々に案件企画ができるようになったり、やりたいことの言語化ができるようになったりするのが見てとれるので、練度は高まっていると感じますし、開発部門と業務部門の間での認識齟齬を未然に防げるようになってきていると思います。

IT・デジタル専門コースの新卒・キャリア採用も本格化

採用について伺います。新卒採用では「IT・デジタルコース」という名称で専門コースとして採用を始められましたが、その狙いを教えてください。

伊石「IT・デジタルコース」の採用は2年前に始まり、今年の4月にその1期生が入行しました。初めからITやデジタルに関する業務をやりたいという思いで入行してもらえれば、希望とのミスマッチも少なくなると考え、このようなコースを設置しました。

ちなみに「IT・デジタルコース」は、金融の中でもITデジタル領域で活躍したい人を募集しているので、特に専門性は求めていません。だからこそ、文系・理系の偏りもなく応募をいただいています。一方、「データサイエンティスト」や「サイバーセキュリティ」については、大学でそれらを専門としてきたことを条件としていますので、やや特色が変わります。

御園同じく2年前から「IT・デジタルコース」を意識したインターンを開始し、昨年は合わせて250名ほどのインターン生を受け入れました。250名の募集に対し、1,000名程の応募を頂き、金融×IT分野への関心度の高さを感じました。

当初オンラインで開催したインターンでしたが、昨年はオフラインで3日間×5日程で行いました。今年度も中身の拡充を図りつつ、優秀な学生に集まっていただけるよう展開していきます。

キャリア採用についてはいかがでしょうか。

伊石これから強化していくべき領域です。これまでは新卒採用や社内の人材育成で対応していくことができていましたが、やはり圧倒的に案件企画人材が足りておらず、どうしても外部のコンサルティング会社の力に頼らざるを得ない状況になっています。このままの体制では、我々の会社にノウハウが蓄積されません。新卒採用や人材育成にも注力をしていますが、即戦力となるまでのリードタイムがあるので、キャリア採用も強化していきたいです。

IT人材は各業界が求めていると思いますが、銀行は装置産業と言われることもあるほどに、システムなくしてサービスを安定的に供給することはできません。社会インフラの一翼を担うという意味で、やりがいがあると思います。また、銀行のほかにも、証券やカード、リースなど、グループ内での活躍の機会もありますし、開発部隊である日本総合研究所との交流もあるので、幅広いキャリアパスを描けることも魅力です。

現場主導の育成と採用こそが、SMBCグループ流

システム関連部署が育成や採用に携わること自体が珍しいと思うのですが、システム統括部が主体となる理由を改めて教えてください。

伊石採用面でお話しすると、やはり一緒に働く仲間を探しているわけですから、現場が1番どういう人が欲しいのかを分かっています。現場の人間が採用に関わることで、ミスマッチが起きづらく、より良い人材を採用できるメリットがあります。

就活生やキャリアで応募してくださる方から見ても、自分がどんな働き方をするのかイメージできないと、その会社に入りたいとは思わないはずです。人事部に任せきりではなく、我々自身が志望者の方々と会って、生の声や経験をお伝えすることで、志望者側もより解像度が高まった状態で入社していただけると思います。

また、それは育成面でも同じことです。何に困っているのか、どういうニーズがあるのか、1番分かっているのは、システム統括部や、我々が見ている各ユーザー部ですから、我々が研修を作るメリットは大きいと感じます。

御園大変ではありますが、どこかに既にある研修を持ってくるのではなく、自分たちに合った研修を作る。これぞSMBCグループの1つの文化だと思っていますし、これからも継続していくべきものだとも思います。

「誰と働くか」が、仕事を特別なものにする

今後の展望を教えてください。

伊石これまでお話ししてきた通り、採用と育成を続けていきます。

新卒採用においては、コース別採用を引き続き実施していきます。加えて、既に入行したメンバーにヒアリングを行いつつ、入行後に行われるコース別の新人研修を高度化していきたいと思っています。

また、キャリア採用を強化していきたいです。実際にキャリア採用された方の中には、もともとコンサル会社で働いていて、システム統括部に転職し、実績を積んで管理職になられた方や、SIerを何社か経験後、システム統括部にて当時の経験を活かし、開発側との連携を推進されている方などがいますが、なかなか我々の仕事の魅力を十分にお伝えしきれていないという実感があります。どういう方々が我々の会社にマッチするのか、業界内での我々の立ち位置はどこにあるのかといったことを改めて分析した上で、採用に力を入れていきます。

最後に、ご自身の経験も踏まえて、「人材」や大きなプロジェクトを一緒に成し遂げた同志への思い、そして下の世代へのメッセージをお聞かせください

伊石仕事で何を成し遂げたかと同じくらい、「誰と働いたか」も大切だと思っています。定年後に「あのときは大変だったね(笑)」と語り合える仲間がいること──それが、仕事の醍醐味ではないでしょうか。

御園私たちは今、未来に向けた種まきをしている最中です。採用や育成の取組が、銀行からグループ全体へと広がっていくことを願っています。これからも、金融×ITの最前線を支える存在として、価値を生み出していきたいと思います。


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • 株式会社三井住友銀行 システム統括部グループ長

    伊石 芳郎氏

    2005年に株式会社三井住友銀行入行。法人営業業務に従事した後、システム統括部にて、IT関連の予算管理・戦略策定・リソースマネジメントなどを経験。その後、グループの決算・経理業務改革プロジェクトへの参画を経て、現職。現在は主に、IT・デジタル人材の採用・育成を行うグループのマネジメントを担当している。

  • 株式会社三井住友銀行 システム統括部上席部長代理

    御園 亮介氏

    2008年に株式会社三井住友銀行入行。法人営業業務に従事した後、IT業務推進部(現システム統括部)にて、大型システム案件のPO、PMOなどを経験。その後、従業員組合(専従)、システム投資予算管理業務(システム統括部)、三井住友カード(出向)を経て、現職。現在は主にIT・デジタル人材の採用・育成を担当している。

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