量子コンピュータ
類義語:
- 量子コンピューティング
量子力学を用いた次世代のコンピュータ。従来のコンピュータと比べて、大規模かつスピーディーな情報処理を行えるとされ、さまざまな業界での活用が期待されている。
量子コンピュータとは?仕組みやメリット、導入手順などを解説
量子コンピュータとは、量子力学を用いた次世代のコンピュータです。従来のコンピュータと比べて、大規模かつスピーディーな情報処理を行えるとされ、さまざまな業界での活用が期待されています。
本記事では、量子コンピュータの概要や仕組み、種類などを詳しく解説します。企業が量子コンピュータを導入する際のメリットや注意点、手順も紹介しているため、将来的な導入を模索している方はぜひ参考にしてみてください。
量子コンピュータとは
量子コンピュータとは、原子レベルの事象を探求する量子力学にもとづいて開発された次世代のコンピュータです。
従来のコンピュータは、量子コンピュータに対して「古典コンピュータ」と呼ばれています。いずれも量子ビットと呼ばれるデータの最小単位を扱いますが、古典コンピュータは「0」または「1」のいずれかを扱うのに対し、量子コンピュータはビットが重ね合った状態でも計算を行えるのが特徴です。
「0」と「1」を組み合わせることで、古典コンピュータでは処理できなかった計算も並列して解けるようになるため、さまざまな産業のイノベーションにつながると考えられています。
量子コンピュータの仕組み
量子コンピュータは、以下のような量子ビットの性質を活用し、仕組みが成り立っています。
| 性質 | 概要 |
| 重ね合わせ | 「0」と「1」の状態を同時に示しているように見えること |
| 量子もつれ | 他の量子ビットと相関を持つこと |
| 量子干渉 | 結果を増幅させたり、打ち消したりすること |
| 量子トンネル効果 | 粒子が古典力学には突破できない障壁を通過できること |
上述した重ね合わせは、「0」と「1」いずれかではなく、複数の状態を同時に表現することで並列処理を可能にする現象です。
量子もつれは、複数の量子ビットがかかわりあう性質であり、一方の量子ビットの作用がもう一方にも作用することから、通信や暗号化などへの活用も期待されています。
量子干渉は、粒子の波動性によって生まれた波の山が重なり合うことで、互いに強めあったり弱めあったりする現象です。量子コンピュータでは、計算を行う際に適切な回答に導くために、量子干渉の特性が活用されています。
量子トンネル効果とは、粒子が一定の確率でエネルギー障壁を通り抜ける現象です。古典力学においては壁にボールを投げたときに、ボールのエネルギーが壁のエネルギーを超えていなければすり抜けることはできません。量子力学では、粒子が波のように振る舞うことで壁をすり抜ける場合があり、量子コンピュータにおいて最適な計算結果を見つけ出すために量子トンネル効果が用いられています。
量子コンピュータの種類
量子コンピュータは、以下の2種類に大きく分けられます。
- 量子ゲート方式
- 量子アニーリング方式
量子コンピュータの運用は実機とシミュレータのいずれかで行いますが、まずは基本的な方式として上記2つのの特徴を把握し、量子コンピュータへの理解を深めましょう。
量子ゲート方式
量子ゲート方式とは、古典コンピュータで採用されている論理ゲートを量子で再現した「量子ゲート」を用いた量子コンピュータです。
量子ゲートとは、量子の計算に特化した電子回路で、量子コンピュータの重ね合わせを用いた並列計算の実現に欠かせません。量子アニーリング方式に比べて汎用的な方式と考えられており、本格的に実用化されれば、さまざまな分野での応用が期待されています。
また、量子ゲート方式には、超伝導方式や中性原子方式、光方式などの種類があります。
量子アニーリング方式
量子アニーリング方式とは、組み合わせ最適化問題を応用した量子コンピュータの方式です。組み合わせ最適化問題とは、定められた指標をさまざまな条件下で最大または最小にする問題を指します。
量子アニーリング方式では、さまざまな選択肢から物理的なエネルギーがもっとも低くなるように計算を行うのが特徴です。日々の生活やビジネスで最適化を図りたい場面は多くあり、身近なシーンでの活用が模索されています。
量子コンピュータを企業に導入する3つのメリット
企業が量子コンピュータを導入すると、以下のようなメリットを期待できます。
- 高い計算能力によって高度な分析が可能になる
- 消費電力が抑えられコストを削減できる
- さまざまな分野でのシミュレーションを実行しやすくなる
メリットを理解したうえで、自社への導入を検討してみましょう。
高い計算能力によって高度な分析が可能になる
量子コンピュータは、量子ビットの重ね合わせや量子もつれなどを応用することで、さまざまな計算を並列で処理できるため、企業における分析への活用が期待されています。
企業に蓄積された膨大なデータを迅速に処理することで、これまでは見つけられなかった示唆を得られるでしょう。分析結果を元に、ビジネス上のリスクを最小限に抑えたり、市場動向を予測したりするなども実現できるようになります。
計算に伴う消費電力が抑えられコストを削減できる
量子コンピュータの計算速度は従来のコンピュータよりも早く、タスク実行までの時間が短縮されることから、計算に伴う消費電力の低減につながります。消費電力が抑えられれば電力に対するコスト削減にもなり、経営によい影響を与えるでしょう。
また、省エネルギーでの運用には、環境負荷の低減にも効果を期待できます。冷却装置や生後装置の電力を考慮する必要はあるものの、地球環境保護の観点からも、将来的に量子コンピュータが広く活用される可能性を秘めているでしょう。
さまざまな分野でのシミュレーションを実行しやすくなる
量子コンピュータは、さまざまな分野への応用が考えられています。
なかでも、創薬分野での活躍が期待されており、新薬やワクチンの開発において、分子レベルのシミュレーションを量子コンピュータで効率化できれば、感染症や難病の治療法確立に貢献するでしょう。
分子シミュレーションは、素材や物質の解析にも用いられるため、製品開発や素材研究などの製造業の分野でも量子コンピュータが活躍する可能性があります。
量子コンピュータを企業に導入する4つのステップ
企業で量子コンピュータを導入する際は、以下のステップで進めていきましょう。
- 量子コンピュータの仕組みや特性などを理解する
- 専門家と協力しシステムやサービスを開発する
- 特定のプロジェクトでスモールスタートする
- 効果検証しインフラやスキルなどの改善を図る
量子コンピュータは先進的な技術であるため、まずは組織やチーム全体で仕組みや特性などを理解する必要があります。
極めて専門性が高い領域であり、導入にあたっては社内または社外の専門家と連携し、システムやサービスを開発するのがおすすめです。
本格的な実用化はまだ進んでいない技術でもあるため、いきなり全社的に導入するのではなく、特定のプロジェクトでスモールスタートしましょう。実際の効果検証を行ったうえで、インフラや実用に必要なスキルなど、課題に応じて改善を図ることが大切です。
量子コンピュータを企業に導入する際の注意点
量子コンピュータを導入することで期待できるメリットだけではなく、以下のポイントに注意する必要があります。
- 外部からの干渉で計算にエラーが発生するおそれがある
- 実用レベルでの開発・導入は研究段階にある
量子ビットは熱やビット同士の干渉などの影響を受ける場合があり、それらのノイズが計算のエラーを引き起こすおそれがあります。
また、量子コンピュータは注目の技術ではあるものの、現状実用化に取り組んでいる段階です。本格的な開発や導入は少し先になると考えられるため、それまでに理解を深め、実用化のタイミングですばやく動き出せるようにするとよいでしょう。
量子コンピュータの活用事例
SMBCグループは、量子コンピュータの実用可能性に着目し、スタートアップ企業のQuanmatic(クオンマティク)社と協働し、銀行アプリ上の広告配信最適化に向けてPoC(概念実証)を実施しました。
Quanmatic社は、量子計算やアルゴリズム開発の第一人者である早稲田大学の戸川望教授とともに設立された企業で、研究者や戦略コンサルタントなどの経験をもつ経営陣を中心に、顧客に寄り添った技術提案や実装を支援しています。
三井住友銀行デジタル戦略部での先端技術の調査・導入を検討するなかで、Quanmatic社との縁があり、銀行が抱える多くの課題のうち、ユーザーにいかに適切な広告を配信するのかを検証する取り組みを開始しました。
広告配信最適化だけではなく、金融分野での量子技術活用におけるマイルストーンとなる取り組みであり、誰もがデジタル金融サービスを安心して利用できる社会の実現を目指しています。
量子コンピュータを活用したSMBCグループとQuanmatic社が協働した事例を詳しく知りたい方は、ぜひ以下の事例をチェックしてみてください。
金融×量子コンピューティングの可能性を見据えて。Quanmatic社と広告配信最適化のPoCを実施
【まとめ】量子コンピュータを理解してビジネスへの活用を検討してみよう
量子コンピュータは、従来のコンピュータよりも早い計算処理を可能にし、膨大なデータから高度な分析結果を導いたり、さまざまな分野の効率化やイノベーションにつながったりすることを期待されています。
現在は研究段階ですが、本格的に導入されることになれば、日常生活やビジネスに大きな変化をもたらすでしょう。
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