サステナビリティ

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ステークホルダー・ダイアログ 2010 参加者

現状の問題点を踏まえ、評価の枠組みの改善に向けて

司会
最初に、「SMBC環境配慮評価融資」の概要の説明をお願いします。
藤崎
当行では2006年頃から、中小企業の環境面での取り組みを評価し、融資の際に金利を優遇する商品を展開するなど、企業の環境配慮活動を後押ししてきました。さらに2008年10月からは中堅企業から大企業向けに「SMBC環境配慮評価融資」の取り扱いを始めました。環境配慮に関する評価の客観性を確保するために、グループ内シンクタンクの日本総合研究所に業務委託し、お客さまにご記入いただいた調査票とお客さまへのヒアリングをもとに、7段階で評価する仕組みになっています。融資に際しては、環境経営の今後の更なる進展に向けた助言や評価結果の還元をするほか、プレスリリースによる公表も行います。この融資により、優れた環境配慮を実施している企業が増えるとともに、当行が告知することでその企業の社会的評価の向上に寄与し、さらに社会に環境経営の視点を広める一助となればと考えています。
太田氏
評価に使用される調査票を拝見しましたが、とりわけ中小企業にとっては、定量評価が難しい内容の質問もあるようです。また、社会的に最近注目されている生物多様性のように、時代の流れに応じて変更すべき項目もあるので、定期的に調査票を見直す必要がありますね。
水口氏
それから土壌汚染のようなネガティブ要素だけでなく、環境の改善につながるポジティブな要素も積極的に評価するとよいと思います。
車谷
そうですね。従来、お金を貸すとか企業を買収するといった金融活動に際しては、リスクとなりうるネガティブ要因をチェックすることに焦点が当てられてきたので、ポジティブな面を評価して価値を上げる仕組みがありませんでした。どのようなポジティブ要素を評価するかについて抽出が難しいため、SMBC環境配慮評価融資の仕組みを通じて、企業における環境配慮の現状への理解を深め、データを蓄積していくことで、少しずつでも環境配慮経営をプラスに評価する仕組みを整備していくことができればと考えています。
藤井氏
ところで、この融資を受けようと考える企業は、すでに環境配慮活動を始めていて、自信のある企業ですよね。低い評価を受けるケースはないのではありませんか?
藤崎
実は私たちもそのように予想していたのですが、実際は、「これから環境活動を始めるので、自分たちの環境活動の進捗度合いをこの「SMBC環境配慮評価融資」の評価結果を活用して定期的にチェックしていきたい」という企業もいらっしゃいます。
司会
そういう意味では、調査票の評価はコミュニケーション手段という側面もあります。そうした観点ではいかがでしょうか。
田中氏
フィギュアスケートに例えれば、調査票のチェック項目は「基準点」で、自社の強みのアピールは「表現点」のような位置づけですね。スタンダードな評価に加えて、自分たちが誇る特徴的な本業は何か、あらためて捉え直す機会にもなります。調査票の設計もよくできているので、これから改善していけば、さらに期待できると思います。また、私も多くの企業を取材している中で、広報やIR、財務の部署とCSRの部署間の連携が取れていないケースが多いと感じます。このような融資の場合、広報、財務と環境の担当者のコミュニケーションの場ができるのもメリットですね。

信頼性が高まれば、融資先の広まりも加速する

田畑氏
先ほどご指摘があったように、調査票には非常に細かい具体的な質問もあって、中小企業には答えられないものも少なくないです。企業の規模によって身の丈に合った審査ができるようにしてはいかがでしょうか。例えば「どんな環境活動をしていますか?」という単純な問いだけにして、審査は厳しく評価するのもいいかもしれません。
太田氏
評価基準の目安も必要です。例えば、最高評価を取った企業で、新聞で取り上げられるような問題が発生した場合、格下げするのか。あるいは、仮に低評価を取った企業は、次に高評価を狙えるチャンスはあるのか。公表するかどうかは別として、方針はあったほうがいいと思います。この環境配慮評価の仕組みは、いわゆる監査ではないとはいえ、基準が曖昧だと信用されません。一度獲得した高評価が既得権になるようでは、評価の信頼性が確保できません。
水口氏
評価された水準を維持しているかどうかのモニタリングも必要になってきますね。モニタリングを実施できる企業は、評価を内部化できているということです。
藤井氏
銀行が評価・モニタリング手順を内部化すべきかどうかは、一つの論点ですが、現段階での判断は一長一短だと思います。それよりも、評価・モニタリングの各段階で銀行がどうやって主体的に関われるかが焦点です。環境改善に結びつく貸出先の事業展開を促しつつ、銀行にとっても収益増につながる新たな資金需要を増やしていけるかが、企業としての銀行にとって重要な課題です。
奥野
これからは各営業店でこの商品を販売することに加えて、この商品を通じて環境配慮活動を支援することで、三井住友銀行と顧客の結び付きを強めるきっかけになることを望んでいます。
田畑氏
事業そのものを環境配慮型にするためには、かなりの資金が必要な企業もありますから、今後もこのような商品の需要が拡大する可能性は大きくなっていくと思いますね。

連携して基準をつくれば、金融業界の信頼を高められる

水口氏
三井住友銀行は、「エクエーター原則」にも署名されていますが、そうしたプロジェクト融資の視点から取り組まれる部署と、1つの企業を評価対象として環境配慮評価融資をする部署とは、どのように連携しているのでしょうか?
車谷
当行では、経営の管轄部署である経営企画部がCSR全体を統括し、それぞれのプロダクトの担当と連携しています。経営企画部を通じて、トップのコミットが強く働く仕組みになっています。
水口氏
「SMBC環境配慮評価融資」では、企業に対して日本総合研究所が付与した評価を三井住友銀行が活用をしています。評価を活用する立場となるからには、自らもそれに相応しい環境方針や環境に対するコミットメントを示すことが求められると思います。その意味で、環境省が進めている「環境金融行動原則」の策定なども、リーダーシップを取って進めていくべきではないでしょうか。
太田氏
他行との差別化として一行だけで実施するのではなく、金融業界で一緒に連携してやれば、認知度も社会的信頼もさらに高まります。
藤井氏
行動原則の策定に関しては、国の主導ではなく民間が連携して進めたほうがいいと私は思います。オランダでは、国よりも、事業評価尺度の蓄積がある金融のプロが、適切なプロジェクトを選んで融資しています。その評価が確かなら、「この銀行に任せれば、社会が良くなるようにお金が回る」といった評判も預金者から得られるようになります。

重要なキーワードは、「つながり」や「分かりやすさ」

司会
多くの中小企業では省エネの取り組みが進んでおらず、その大きな理由として「資金不足」が挙げられていますが、それに対して何ができるでしょうか?
田畑氏
「資金不足」と同時に「人手不足」も要因にあると思います。例えば、「SMBC環境配慮評価融資」の調査票にしても、内容が多すぎて記入に手が回らない中小企業もあるはずです。まずは、環境配慮に対してどのようなことをやっているか、例えば環境省が認定する「環境カウンセラー」や、エコ検定に合格した「エコピープル」は何人いるかといったことを質問し、その後で簡易化された評価方法を選択できるようにしてはどうでしょうか。タイムリーに融資を受けるために、スピーディに融資できるようにすることが重要です。
田中氏
銀行は、店舗があり営業の方がさまざまな接点を持っていますから、「メディア」としての特性を備えています。人と人、人と企業、企業と自治体をつなぐ役割を果たせます。その特色を生かして、この融資を利用すると何らかのご縁ができたり、何か関連イベントに社員が参加するとポイントになるなど、中小企業の方々も銀行の環境配慮型サービス・商品を使って事業を発展させ、有益な成果を出すきっかけづくりができたらいいですね。
奥野
そういう意味では、まずは第一線にいる当行職員が環境への関心を高めて、お客さまの意識や行動を理解することがこれからますます重要になると感じています。

メガバンクだからこそ、環境配慮を金融に組み込む責務がある

水口氏
これまでの「環境」という枠組みを越えた「サステナビリティ」の視点も重要になってきています。「金融とサステナビリティ」のテーマも、国際社会やNPO、NGOの間で関心が非常に高まっています。日本でも、自分たちの預金が何に使われているか、預金者の立場で考えようというキャンペーンを展開するNGOも現れています。ヨーロッパでは、クラスター爆弾の製造に関与している企業に融資している銀行をチェックするNGOもあります。反社会的勢力に関しては言うまでもありませんが、戦争や環境破壊に関与している企業への融資は、銀行にとってリスクになるのです。どんな企業に対して融資しているか、アカウンタビリティが求められたときにきちんと説明できれば、信頼を高めることができます。
田中氏
一本の筋を通しつつ、ステークホルダーごとに表現を適切に変えて伝えることが重要なポイントです。攻めのPRも守りのPRもしっかりできれば、評価は高まります。この融資の最大のメリットは、やはりプレスリリースで三井住友銀行さんと一緒に環境活動に力を入れていることをPRできることだと思うので、Webでのリリース発行以外にも、PRを広げていかれることを期待します。また、この商品を広めていく上で、キャッチコピーのようなコミュニケーションワードにも工夫の余地があるかと思います。
先ほど話題になった評価の付与ですが、過去の行為への評価ではないことを印象づけ、「これからステップアップしたい人たちを応援する」という姿勢を効果的に示すことができれば、共感する人が増えると思います。
藤井氏
評価の付与に関して、メガバンクだからこそ引き受けなければならないリスクもあると思います。特に環境に関しては、新たな規制ができるとか、新たな有害物質が発覚するなどの予測できないリスクもありますが、誰かがそのリスクを引き受けて資金を供給しなければ、取り組みが広まらない。取り組みが広まるとリスクは軽減され、逆に収益機会に転じる可能性もあります。そうした将来リスクを先取りできるのは、メガバンクです。
太田氏
大企業の環境配慮は「やって当たり前」と見られており、今後はより厳しい視線で見られることになります。そして、環境配慮に取り組むことが期待される中小企業も多くなります。だからこそ、この環境配慮評価融資を中小企業に対して細やかにモニタリングできるように、限られた資金や人材を生かせる仕組みにレベルアップしていくことを期待します。金融が担う公共性の意味でも、それは重要なことだと思います。


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