サステナビリティ

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ステークホルダー・ダイアログ 2011 参加者

T.環境配慮型融資の拡大に向けて

環境評価に対する企業のニーズと環境配慮型融資の拡大に向けて


司会
最初に「SMBC環境配慮評価融資/私募債」の現状について、説明をお願いします。
藤崎
環境配慮評価融資は、私募債とあわせたご利用額で、2008年度に8件185億、2009年度は25件802億円、2010年度は2月末まで69件1,182億円と順調に取り組みを伸ばしており、商品取り扱い開始以来のご利用実績は、約100件2200億円となっています。
「SMBC環境配慮評価融資」は、主に大企業様向けの商品設計でしたので、昨年のこの委員会で、「中堅・中小企業様にあわせた評価の仕組みを組み込んだ商品を作ってはどうか」とのご意見をいただいたことを受け、2010年10月、中堅・中小企業様向け商品として、「SMBC環境配慮評価融資/私募債 ecoバリューup」をリリースしました。同時に、当行のホームページ内に、SMBC環境配慮評価融資/私募債をお使いいただいたお客さまの企業ロゴやプレスリリース、或いはその企業の環境情報などを提供するWebサイトを立ち上げることで、ご活用いただいたお客さまの環境への取り組みを後押しする仕組みづくりを行ってきました。
司会
着実に伸びている環境配慮評価融資ですが、ここ数年で、企業側の自社の環境格付けを取得したいというニーズが高まっているということでしょうか。
塚田氏
あらゆる産業が環境という言葉をはずしてはビジネスができない時代になっています。環境対策を積極的にやる事が、ビジネスそのものにつながる時代です。その上、ただ、やっているのではなく、その取り組みが社会的に評価され価値を持つことが非常に重要です。SMBCの環境配慮評価融資は、取り組みの中身を評価して、改善に向けたフォローを行う設計なので、非常に価値があると思います。
CO2排出25%カットという目標を達成するためには、今後は官民によりアライアンスを組んで進めていくことが必要であると思いますが、そのためにも金融機関の役割は非常に大きいと思います。
司会
金融機関側でも意識の変化のようなものがありますか。
竹ヶ原氏
企業にとって、環境に配慮した経営を行う最大のモチベーションは、そのことが企業価値に反映されることです。環境に配慮した活動を行うことで、自社の株価が上がるとか、借入れがしやすくなる、あるいは保険の料率が下がるなど、金融機関がいかにメリットを返していけるかが鍵になります。
環境に配慮した活動と信用リスクというのは、実は親和性が高いと思います。環境に関してリスク管理がしっかりしている会社は、短期的に見ればフリーキャッシュフローでマイナス要因かもしれませんが、長い目で見ると倒産確率が低くなると思います。このことを実証できるのは、環境配慮評価をしっかりと行っている金融機関だけです。金融機関が環境配慮評価を行う事は、長い目で見れば、金融市場が企業に価値を返していく重要なプロセスになると思います。
藤井氏
本来、金融とは、社会のニーズやそのリスクをしっかり把握し、その評価を行い、その結果として、適切に社会にお金を回していく仕事です。そこに、新しい要素として「環境」をどのように評価するかという課題が出てきました。環境配慮評価融資は、それを解決するためのファイナンス手法の一つだと思います。政府の補助金に頼るだけではなく、民間がお金をいかに回していくかが重要であり、かつ、それがビジネスになるわけです。これからは環境を的確に評価できる金融機関が勝ち残っていくのではないでしょうか。
田中氏
企業活動において、今や「環境経営」の取り組みは当たり前になりました。借り入れを必要とする企業としては、環境に対する取り組みを含む社会的活動が金融機関にどのように評価されるかという点は非常に大きい意味を持ちます。 従来の融資では、なかなか評価の基準が外部からはわからないものですが、「環境」という身近な指標ができたことは大きな進歩であり、環境に取り組むことが、自社にとってのチャンスになるということが実感できれば、特に今回作られた中堅・中小向けの商品は、世の中に活力を与える存在になると思います。
司会
海外でもこういう動きはあるのでしょうか。
平松氏
直接金融が主流の海外では、投資家である公的年金等が、「責任投資原則」に則って、ESG(環境・社会・企業統治)へ配慮した資金運用をしてほしいと運用会社に対して要請し始めています。
一方、間接金融が主流の日本国内では、その間接金融の担い手である銀行、特にメガバンクの融資対象企業に対する評価は大きな影響を持っています。企業が環境配慮評価融資制度に取り組んだ結果、その提示された評価に基づき、より一層環境配慮を進めるインセンティブが生まれることで、よい循環が生まれると思います。
司会
同じく環境配慮評価融資を行われている日本政策投資銀行からご覧になって、環境配慮型融資の拡がりに、質的な課題があると感じていますか。
竹ヶ原氏
一部には、環境省の利子補給制度を使うことだけが目的になってしまっている環境格付が出てきていることも事実です。環境金融というものが拡がる過渡期の現象としてやむを得ない面はあるものの、そういった、安易な環境配慮評価が拡がってはいけないと思います。 環境配慮評価融資は、借り入れをするお客さまとの対話を通じて、そのお客さまの環境への取り組みに気づきを与えられるような融資商品であるべきだと思います。
そういった意味でも、三井住友銀行の中堅・中小向けの環境配慮評価融資は中堅・中小企業の環境配慮評価における一つの尺度になると思います。
司会
環境配慮型融資をより拡げていくためにどんなことが必要でしょう。
竹ヶ原氏
大企業だけでなく、中小企業へのアプローチが必要ですが、中小企業の評価は、やはり大企業の評価とは違います。 中小企業のオーナーの皆さんが、本業の中で無理や無駄を省こうと取り組んでいることが、実はエネルギー効率の改善であったり、環境への配慮につながっていることを正しく評価し、引き出してあげることが重要です。
地方銀行とは、そういった観点で問題意識の共有化を図ることが必要だと感じています。

当行独自の環境評価基準の地方銀行等への展開および社会におけるスタンダード化について


司会
環境配慮評価のスキームを社会におけるスタンダード化、標準化して全国に拡げようとする場合、ビジネスとなり得るでしょうか。
藤井氏
環境配慮評価の普及を図る過渡期には他の地方銀行との連携というのも必要かもしれません。しかし、いずれは、融資先をめぐって地方銀行とも競い合うことが普通の市場の流れであると思います。そうした適正な環境投融資競争が、結果として優秀な企業を育てていくことになるでしょう。
欧米では、環境配慮評価において、対象となる企業の評価ではなく、環境関連プロジェクトに関する評価に移っています。環境配慮型融資を拡げていくためには、中小企業を対象に拡げるだけでなく、日本でも、プロジェクトベースで実施し、さらに、そのノウハウを持って、海外市場に進出することが必要だと思います。
司会
地方公共団体との連携も考えられますか。
藤井氏
地方公共団体が実施している制度と連携する、或いは、地場経済で地道に取り組んでいる企業を応援または一緒にやっていくという方法は考えられます。
しかし、現在、地方のマーケットは十分に活性化していません。また地域に強い地方銀行という存在もあります。資金力のあるメガバンクが地方公共団体と組んで行う場合は、環境配慮事業を行っている地域の企業等を掘り起こし、地方公共団体につなげていくという観点が重要ではないかと考えます。
平松氏
日本にはまだないスキームですが(注:2011年3月時点)、インフラファンドというものがあります。これまで地方公共団体が一手に引き受けてきた事業において、今後は地方財政が直接ファイナンスを付けていくことが困難な部分に対して、環境を軸として地方公共団体と地銀とメガバンクが組んで長期のファイナンスを付けていくスキームを考えていくというのも一案であり、そこには長期的な資金運用の機会を求める投資家からのリスクマネー提供ニーズも存在しているはずです。
田中氏
地方には企業だけでなく、地方公共団体や公的機関、大学などの学校法人で、素晴らしい技術やノウハウ等の資産をお持ちのところがたくさんありますが、それらは個々に地道な活動をしていて、なかなかつながる機会がないようです。そのような情報が唯一集まるところが銀行であり、だからこそ銀行自体が媒体となり、横のつながりはもとより企業間の連携が築ける場を提供してほしいと思います。また、現時点では環境配慮経営がなされておらず、環境配慮評価融資が受けるレベルに達していない企業だとしても、有効な情報を提供しながら潜在的なものを引き出し、数年かけてでも、将来の融資につなげていけるようにする事も必要ではないでしょうか。
塚田氏
環境への取り組みを熱心に行っている地方の企業も多いのですが、ただ正当に財が回っていないので、評価も正しく行われにくいということもあるのではないでしょうか。そういった意味では、諸官庁の政策誘導や税制とリンクさせると同時に、メガバンクが地方銀行も巻き込んで、ビジネスモデルをきちんと提示していき、よいものは正当に評価をする仕組みを構築することができれば、地方の振興にもつながっていくと思いますね。
司会
企業の環境配慮への取り組みの評価基準をスタンダード化することは必要でしょうか。
塚田氏
この時期、企業では様々な取り組みが行われており、そこからは様々な価値が生まれています。その価値が何かは、それぞれの企業の実態に合わせて評価するものですから、評価基準は、ケースバイケースで異なると思いますね。他方で、一つの企業、一つの事象に対して評価する基準がいくつもあるということも問題だとは思いますので、そういったバランスを考えながらのスタンダード化というのは必要なのではないでしょうか。
藤井氏
三井住友銀行の「社会的責任」として、自行で先進的に構築してきた取引先企業の環境配慮取り組み評価のノウハウを、広く地方銀行などに提供して、地方銀行の環境取り組みの拡大や、社会の環境配慮行動の底上げに資し、かつ結果として、その三井住友銀行のノウハウがスタンダードとなることには大きな意義があると思います。
半面で、本来、金融機関の環境格付は、それぞれの銀行において、内部格付の一部に加わるべきものですから、最終的にはそれぞれの銀行が、顧客である企業の環境配慮状況の評価を含めた独自の評価尺度で企業を評価し、融資を実行するのが筋でもあります。その独自評価の結果が、適正なリターンや配当につながっていくことが重要だと思います。その意味で、自行独自のノウハウが詰まった評価基準を、どこまで社会に提供するのか、という課題があるのではないでしょうか。
竹ヶ原氏
環境配慮評価融資という商品は、わざわざ評価という手間、コストをかけて、場合によっては金利も安くするという、いわば矛盾を抱えているように思えます。しかし、リスク評価の観点からすれば、環境は信用リスクに影響すると考えられますから、環境経営度の高い企業への適用金利は、そうでない企業に比べて本来低くてよいはずという仮説がなりたちます。逆に、環境経営度の低い企業に対する金利を引き上げた方がよいという判断もありえます。いずれにしても、非財務情報による補正を通じて、より精緻な信用リスク評価に基づく、金利設定につなげたいというのがこうした商品の発想なわけです。いずれ、環境要素が内部のリスク評価に完全に取り込まれれば、今の様な付加的な評価を行う融資商品はいらなくなるかもしれませんが、そこまで行き着くにはまだ時間がかかると思いますので、それまでは、いまの環境配慮評価融資の仕組みで企業の評価を行うというのは非常に重要です。
藤井氏
欧米では、あえて「環境配慮」と言わずに、環境関連投融資は利益を生むからという理由で、通常の投資対象にするファンドが増えてきています。企業がESGに適正に取り組む結果が、コスト面よりも、大きなリターンを生むという判断で資産運用を行っているわけです。日本も政府の補助金政策から脱却して、環境事業を一刻も早くビジネスとして自立させるべきです。そして、更にアジア市場を開拓してほしいと思います。
地方公共団体と銀行が組むという点で、アメリカでは、州政府が信用補完を行い、金融機関がファイナンスの実施やプロジェクトの評価を行う例があります。日本でも、行政が環境配慮企業に対して信用補完を提供するだけでなく、必要な環境規制については法規制を迅速に整備することで、企業はその規制に対して、より効率的に対応するためにはどうすべきかといったニーズが出る仕組みになっています。

II. 建物等における環境評価について


建物の環境評価に対するニーズについて


司会
環境配慮型の建物が増え、その建物自体の環境評価をしてほしいというニーズが、企業側から多く寄せられるようになっているようですね。
塚田氏
居心地がよく、かつ環境にもやさしい建物に価値があると考える企業は多くなりました。これまで環境と経済は両立が難しいとされていたわけですが、今では、地球環境が成り立ってはじめて、経済活動が成り立つという考えが浸透しています。こういう考え方は、ビルや土地開発でも同じで、豊かなビル、豊かな都市の定義が変化してきています。ただし、経済合理性も重要ですから、環境一辺倒というわけにはいきません。どうバランスをとるかが企業の考えどころだと思います。
平松氏
いくつかの国が、独自にグリーンビル(環境に配慮したビルのこと)の評価・認証制度を持っており、評価・認証制度は、建物自体の環境性能の判断基準として有効です。一方で、不動産投資家にはそれぞれのビルの環境性能を比較をしたいというニーズがありますが、国によって制度の内容が少しずつ異なるために、単純には比較ができません。例えば、アメリカのLEED(リード)、イギリスのBREEAM(ブリーアム)、オーストラリアのGreenStar(グリーンスター)、日本のCASBEE(キャスビー)という世界の主だった評価制度のうち、LEED、BREEAM、Green Starの3制度は、CO2排出量の算定方法についての互換性を整備することで合意をしていますが、日本のCASBEEはまだそこに至っていません。日本の省エネルギー技術や建築には非常に素晴らしいものが多いのですが、海外でもわかる「共通言語」として発信できていないのが非常に残念です。実際に、海外の不動産投資家から、日本のビルに対して、「あのビルはLEEDで言えばどれくらいのレベルになるのかを教えて欲しい」という問い合わせが入るようになりました。環境性能に関する「共通言語」や「共通のものさし」を持たないことで、今後、海外の投資家などから評価をされにくくなる、お金がつきにくくなる、ということにもなりかねないのではないかと思います。

建物の環境評価と経済的価値の関連について


司会
環境配慮制度で高く評価されると、それが物件の価値に反映されるのでしょうか。
竹ヶ原氏
EUでは、建物取引の際に、EUの指令で、1m²あたりのエネルギー使用量を記したエネルギー証明書の発行が義務付けられています。日本でも、このような仕組みが定着すれば、より効率がよい建物の需要が増えることになりますので、環境性能が上がれば不動産マーケットでの評価が上がることにつながると思います。
藤井氏
アメリカでは、電気機器の省エネルギー促進制度である「エナジースター」の考え方と建物の環境配慮を評価するLEEDを組み合わせ、よりわかりやすい環境評価指標を作って建物を評価し、資金調達につなげるファイナンス開発の動きもあります。
司会
建物の環境性能の評価、例えばCASBEEのSランク(素晴らしい)といった評価は、一般の人にも身近になり得るでしょうか。
塚田氏
川崎市ではCASBEEの値を公表して、容積率を緩和するなどのインセンティブを与えたり、一定以上のCASBEEの値を有する企業については、市が金融機関と連携し融資を行っています。環境対策というのは、政策誘導がないと、なかなかインセンティブが働きにくいものですから、川崎市のような政策とビジネスを組み合わせる仕組みが重要ではないかと思います。
田中氏
グッドデザイン賞などのように、CASBEEの評価結果が公表されることはよいことと思います。旧来は環境を重視したビルで過ごすことには、漠然と「我慢が必要」というイメージがありましたが、最近は、技術の深化のお陰で快適性が担保され、健康に寄与し、かつ環境にもいいという考え方になっています。環境に配慮されたビルで働く人々が、精神的また健康面でもよい影響を受ければ、労働生産性は確実に上がるでしょう。こういった働きやすさなどをできるかぎり数値で公表すると、マーケットからの需要が高まっていくのではないかと思います。成果を見える化して、マーケットの声を追い風に、動かしていくという視点も必要なのではないでしょうか。
平松氏
LEEDではその評価項目の中に「生産性の向上」なども考慮されるようになっており、建物の環境価値と経済価値が一体化するように配慮されています。国内でも、例えば、東京のシティバンク、福岡のスターバックスの店舗などがLEEDのグリーンビル認証を取得しています。これらグローバルに展開する外資系企業では、他国であっても自社の事業所を設置する際にはLEED認証を取得することを会社の方針として定めている企業が多くあります。そしてこの動きは、外資系以外の企業にも広がってきています。

建物の環境評価を金融機関が構築することの意義


司会
CASBEEの認証を受けるためにはかなりの費用が必要ですが、例えば環境評価にその簡易版を使ったりするといったニーズはあるのでしょうか。
平松氏
はい。現在CASBEE不動産マーケット普及版の開発が進められています。ここで、国際的に認知されている仕組みと平仄があっていることが重要です。独自の基準であっても、国際的な仕組みとの整合性が取れていて、かつ定量的に設定されている基準であれば、マーケットが価値を認めてくれるようになると思います。
司会
既存の建物を改築する場合にも評価はできるのでしょうか。
平松氏
これからは、建物の単純な建て替えではなく、新しい環境性能等の基準を満たすための大規模な修繕や改修も多くなってくると思われます。こういうケースで、金融機関が一定の基準を設けてファイナンスを行うことは、非常に重要な役割だと思います。
藤井氏
欧米では、既存建物については、地方公共団体や金融機関がエネルギー効率のよい設備の導入に対して資金助成を行い、その省エネ設備の設置をきっかけに、既存建物の改修を促す制度があります。省エネ設備の設置の結果、削減できた光熱費等を融資の元本利払いに回すことで、既存の建物所有者の負担を減らそうというものです。さらに、投融資資金を調達するために、債券を発行し、その債券が市場で売買されています。これは、CO2削減、ビルの無駄な取り壊しの減少など、コスト削減につながり、結果として、投資家にとっても新しい投資対象が生まれているわけです。日本でも、こういう仕組みを民間主導で作っていくとよいでしょう。
司会
グリーンビルディングの可能性は大きいようですが、国としてのアプローチはまだ始まっていないのでしょうか。
塚田氏
住宅などは、エコポイントの導入で、環境評価の価値が認識されていて、需要も大きく出てきています。環境によいことやっている建物の建築には、それをお金で評価してあげるというインセンティブを与えることが重要ではないかと思います。
平松氏
国際的に見ても、今後、不動産取引の際に建物のエネルギー性能評価を提出することを義務付ける国が増えてくる可能性が高いと思います。米国材料試験協会という国際標準化機関が建物のエネルギー性能評価のガイドラインを新たに発行していますが、今後、建物のエネルギー性能評価は不動産取引に必要な情報として、担保価値にも直結してくると考えています。
司会
多くの貴重な意見をいただきました。本日は皆さまありがとうございました。



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