サステナビリティ

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ステークホルダー・ダイアログ 2012 参加者

育児支援によって少子化問題を支援していく

小河
前半に有識者の皆さまから問題提起を頂き、後半はその問題提起を受けて、SMFGが大企業として、また、金融機関としてどのように関わっていけばいいのか対応策を議論していきたいと思います。最初にSMFGがこれまで取り組んできた内容をご紹介ください。
中村
一般的に少子化に関して企業が外に向かって働きかけをするという場合、「育児支援」への取り組みが可能性のある分野のひとつと考えています。SMFG内では、グループ各社で従業員サポートプログラムという名の下に、制度の整備を進めてきました。具体的にはグループ全体で育児休業制度、介護休暇制度、短時間勤務制度などに関しては既に法定基準を上回る導入を行っており、また企業によっては託児補給金の支給、結婚・出産を機に退職した社員を再雇用する制度などがあり、仕事と家庭の両立を支援する環境整備を進めています。
一方で企業外に対しては、昨年の夏ごろから実施した「SMBCプロボノプロジェクト」において、育児支援を行う3つの団体に対して特定NPO法人としての認定取得に向けた事務運営や、寄付金の管理などのアドバイスを行いました。これは結果的に育児支援を行っている組織や団体を支援するという関わり方につながっています。寄付を通じて、社内の約1万2千名が参加するボランティア基金で資金的な支援も行っています。このような活動の実績はありながらも、現状は活動が十分に体系だっておらず、今後の課題だと感じています。


母子の孤立を生む地域の問題

小河
SMFGが育児支援に対して企業外の活動をどのようにしていくべきかという課題があげられました。では、現実として育児を取り巻く環境にはどのような問題が起きていて、課題になっているのでしょうか。
柳澤
少子化問題と少子社会における子育ての問題は非常に密接に関連しています。少子化とは合計特殊出生率でいうと2.1を下回る状態が持続することを指しますが、その中でも1.5未満を超少子化と呼んでいます。日本の出生率は2005年に最低の1.26を記録し、ここ数年は1.39程度で推移しています。このままの状況が続くと、今後1.2〜1.3で推移するだろうと言われています。1年間に生まれる子供の数は第一次ベビーブームの頃(1947〜49)に比べて40%程度にすぎません。
OECD加盟国における合計特殊出生率と女性労働力率の関係で見ると、女性の就業が進んでいる国でむしろ出生率が高いというデータがあります。また、今後日本では急激に15歳から64歳の生産年齢人口が減少していき、そうなると労働の担い手が不足することになります。M字を示す女性労働力率の凹みにあたる20歳から40歳くらいまでの女性の労働力率を上げることが、日本社会の永続性に欠かせません。それと若い女性の妊娠・分娩・子育てを両立させることこそ大きな課題です。
少子化の直接的要因は、未婚率の上昇、晩婚化、非婚化が挙げられます。この背景にはさまざまな要因が考えられます。アンケート等では育児・教育に関する経済的負担がトップにきますが、これが真の問題なのかどうかは判断が難しく、むしろ子育て環境に関する問題が重要ではないかと考えています。例えば近年の子供と家族の状況では、日本には世界最高水準の母子保健医療レベルがある一方で、低出生体重児の割合の増加や子供の虐待の激増があります。虐待件数は、1999年の1万1千件から増加を続け、2009年は4万4千件、10年は5万5千件、11年は6万件を超えています。社会の変化が、子供たちの生活を変化させる一方、家庭・地域の育児力と学校の教育力は低下し、さらに子供たちだけでなく、親子の心の問題が非常に深刻な状況で、それが虐待につながっています。子供の心に影響する多様な問題の増加・深刻化が現在の問題点だと言えます。

池本
乳幼児と学童に分けて情報を整理したいと思います。乳幼児期は虐待の増加が非常に深刻で、その背景に母子の孤立があります。母子が孤立する原因の一つに日本の労働状況の問題があり、日本では長時間(週50時間以上)働いている人の割合の少なさでOECD36カ国中35位、余暇時間の長さも36カ国中35位です。男性の家事・育児時間は1日59分で、これはOECD平均131分の半分にも満たない水準です。男性の育児への関与がとても低い状況があります。もう一つは地域コミュニティの希薄化があります。これは隣に誰が住んでいるか分からないとか、日々の困ったことはすぐコンビニで解決するなど、社会の変化もあって人と出会う機会が減ってしまい、社会からの孤立感が子育ての大変さにつながっていると考えられます。学童に関しても子供がストレスを抱え学校内の暴力が増えていて、いじめ、不登校も問題となっています。子供のストレスの原因は2つあると考えています。一つは、遊びとか自然体験など、子供が本来育つべき環境が社会の変化とともに無くなってきていて、政策的にも児童館という子供が遊ぶ施設が財源不足のために閉鎖されています。雪が積もっても、ぐちゃぐちゃになるからという理由で校庭で遊んではいけないという学校もあります。近年必要性が高まっている学童保育も数が不足し、かつ活動のあり方の議論も深まっていません。
もう一つは子供が狭い人間関係の中にいることです。接するのが学校の先生か親か、クラスの友達くらいで、異年齢の友達や大人など、いろいろな価値観を持った人たちと接する機会がありません。
問題はいくつもありますが、一番問題だと感じているのは、子供の視点での議論が欠けていて、子供にやさしいという視点が、海外と比べて日本にはほとんどないということです。国連では子供の権利が守られているかをチェックする機関を設置するべきだと言っていて、多くの国では子供オンブズマンが置かれていますが、日本にはありません。海外では子供にやさしい街づくり(Child Friendly Cities)など、国連の子供の権利条約の視点に沿った議論が多くあります。
少子化・育児支援といった場合、ワークライフバランスに関しては母親だけでなく父親も含め、乳幼児期だけでなく学齢期まで対象を広げ、コミュニティづくりでは母子の孤立を解消し子供の人間関係や体験を広げることが課題だと考えています。
奥山
子育てに関しては第一子出産時の母親の年齢が平均で30歳を超え、川崎市では33歳の地区もあります。自治体など制度上のフォーマルな支援と地域やコミュニティのインフォーマルな支援の両面で、晩婚化など時代背景に対応した新しい結婚、子育てのモデルを示す必要があるのではないでしょうか。
横浜の例では、半分以上の母親が出産前に小さい子供の世話をしたことなく母親になっていますし、結婚・出産には子育ての孤立感、負担感があります。その背景には子育て支援施設が迷惑施設だと言われているなど、子供嫌いなのではないかと思うくらい子供にフレンドリーじゃない今の世の中があります。子育て家庭の孤立に関しては漠然とした不安感を多くの母親・父親が持っています。若い世代は転出入も激しく、周りに知り合いがいなかったり、シングルマザーでは親だけで子供をうまく育てていくには限界がありますので、やはり地域社会が子育てを応援する仕組みを持っていく必要があります。制度上の話で言えば日本は諸外国に比べ、GDPに対して子供や子育て家庭への支出が占める割合が非常に少ない。これが育児施設の不足や質の低下に関係していると考えられます。そういった現状を踏まえて子育てをしやすい地域社会にするためには子育て支援をするNPOの育成が大事です。日本には介護保険という高齢者向けの仕組みはあっても子供たちへの仕組みはまだまだ弱いのが現状で、2015年度に向けて国は新しい制度を作ろうとしています。それが各地域で機能する仕組みになるように企業も含めて子育てに関わるあらゆる人たちがもっと社会に対して声を出していくべきではないでしょうか。

国と企業が協力することで育児問題は解決に近づく

高見
これまでの議論で出た問題はスウェーデンも経験してきた問題です。スウェーデンの出生率は経済と政策の安定で2011年以降は1.9で推移するだろうという公の見解になっています。スウェーデンでも今に至るまで長い時間がかかりましたが、問題を克服した例として日本も希望が持てると思います。EUでも出生率が低い国は保育施設の不足と、女性の労働率の低さが関係しています。EUでは女性の労働率を70%にすることを目標にしており、出生率の高い北欧諸国は概ねその目標を達成しています。また、保育園の入園率もスウェーデンでは、3歳未満が63%、3歳以上が94%と高い状況です。
スウェーデンにもかつて子育ては女性がするものという風潮がありましたが、政府が、父親のみが取れる2ヶ月の父親育児休暇を導入してから、社会の意識が変わり、企業も協力的になったことで男性の育児参加を実現しました。また、女性の社会進出が急増し、ベービーブームもあったため保育園が不足して子供を預けられない時期がありましたが、自治体に責任を持たせ、親が保育園に入れたいと申請してから3カ月以内に場所を提供しないといけないという法律ができたことで、今では質的にも満足度の高い保育園が必ず見つかるようになっています。また、県と自治体が親子のネットワークづくりを支援することで母子の孤立を防いでいます。また、子供が病気になったときには給料の80%を保障される介護休暇を年間120日取ることができるのが働く親にとってとても大きな意味を持ちます。
企業の動きとしてはこの30年でスウェーデン企業の家族に対する考え方が大きく変わりました。エーリクソンというスウェーデンの大企業が先駆けて育児休業中に社会保険から出る給料の80%の、残り20%を支払うファミリーポリシーを掲げたことで男性の育児休暇の取得が進みました。なぜかと言えば、最も大きなハードルであった給与が保障されたことだけでなく、育児休暇を取った男性は仕事のマネジメントが上手になって帰ってきたり、社内にも育児休暇を取った上司が増えるなどで企業内の雰囲気が育児を重視する考え方に少しずつ変化するという循環が生まれたからです。
しかしスウェーデンでも問題がないわけではありません。女性のキャリア志向が進んでおり、出産の高齢化が進んでいてストックホルムでは第一子の出産が35歳くらいになっています。しかし残業がないなど、企業の努力もあって今日本が抱えている少子化問題、母子の孤立、幼児の虐待などはスウェーデンではほとんど聞くことはありません。
小河
少子化問題や育児支援は問題提起だけでも幅が広いテーマだということがよく分かりました。以上の問題提起を受けてSMFGの考え方を改めてお聞かせください。
久保
貴重なご意見とショッキングな事実をご教示頂き大変感謝しています。少子化問題に関しては政府レベルでもいろいろな議論がされていますが、日本では緊急度合いや深刻度合いが施策に反映されていないと感じています。女性の労働力の問題、少子化の問題は日本が長期的に発展していくための解決すべき一丁目一番地の問題ではないでしょうか。私自身、イギリスで子供を7年間育てた経験がありますが、イギリスは子供に大変フレンドリーです。ニューヨークですら子供に優しい社会になっています。日本、とくに東京では子供に非常に冷たい。なぜ日本はこのようになってしまったのか考えさせられます。
その中で、SMFGとして何ができるかをずっと考え続けてきました。社内ではいろいろな取り組みをしていて企業としてやらなければならない課題も一部見えてきてはいますが、今後対外的に、あるいは本業の中でどのように問題に取り組んでいけるのか、この点についてご意見を頂きたいと考えています。

企業が持つ社会への影響力

小河
では、SMFGが企業として、あるいは金融機関としてこの問題にどう関わっていけばいいのかについて議論していきたいと思います。先行事例としてスウェーデンではどのような例がありますか?
高見
子育て問題と環境の問題は似ていて、企業の自主性だけに任せてはなかなかうまくいきません。大きな枠組みをつくる国や自治体に影響力を発揮して、企業としての問題意識を発信すべきではないでしょうか。スウェーデンでも企業内に保育園を作るなどの動きがありますが、あまりうまくいっていません。企業の役割としては基盤整備よりも子供にスポーツの育成を支援したりする例が多くあります。本業の中では企業の環境評価と同じように、育児度の評価を採り入れる動きをしてはどうでしょうか。
小河
先ほど、問題提起の中で地域・社会が子供に冷たいのではないかという意見がありました。
奥山
ファミリーフレンドリーな社会にするために大企業の役割は非常に重要だと考えています。例えば飛行機に乗るときに子供連れが優先されるのは国際スタンダードを企業が先導した例だろうと思います。では金融機関には何ができるか?と考えると、CSRの一環で自社のファミリーポリシーを公開したり、銀行の利用者の視点で見ると外国籍の方やシングルマザーなどある特定の条件の方々にも計画性があれば融資を受けやすくするなど、家族の多様性に対応できる銀行のあり方が考えられるのではないでしょうか。NPOの立場からすると、企業は社会的に良い活動をしていてもうまくアピールできていないように見えます。冒頭ご説明頂いた育児支援団体に対する支援なども、もっと積極的に行って、かつ情報をどんどん開示して頂きたいと思います。
柳澤
小児科医という子供の代弁者の立場としては、将来を担う子供たちの育成を社会全体がもっと真剣に考え、子供と家族のために国や自治体、企業は積極的な投資をして頂きたいと思います。また、社会全体で子育てを支援することを通じて、虐待を減らしていくことが必要です。医学的見地から言えば、将来の生活習慣病のリスクにつながる低体重出生は高齢出産と明らかに関係があります。若い年齢で結婚することができ、キャリア形成と妊娠・出産・育児を両立できる企業の働き方を是非考えて頂きたいと思います。
池本
企業ができることとしては3つあります。第一に、保育所不足に関して企業の対策というと、すぐ企業内保育所という話になりますが、むしろ子供の立場で考えると通勤は負担なので、最近は企業の不動産を活用してその地域のための保育施設をつくる動きがあります。もともと企業内保育所にしようとしていたところを認定こども園として地域にも開放した会社もありました。2つ目はNPOの支援です。資金面で支援したり、NPOは事務所でも困っているので、スペースを貸すだけでも支援になります。会社の事務所の一角を社員のボランティア活動に開放して、その社員のボランティア活動を会社の社会貢献活動としてアピールしている企業もありました。3つ目は、NPOのニーズと企業が貢献できることをマッチングする機能です。イギリスでは学校と企業をつなぐ機関が地域にあります。金融機関が多くの企業と接点があるメリットを活かして、企業を子育て支援や教育の現場につなぐコーディネート組織のような機能を持てると、地域や教育現場にとって大変助かる存在になります。
そのほか、銀行としては育児支援に積極的な企業が有利になるような市場作りや、運用益の一部を児童養護施設や貧困家庭など子供・子育て支援に使う金融商品の開発なども考えられます。また、保育や子育て支援に関するビジネスが増えるなか、そのような産業の健全な育成の観点で、本業を通して企業の質の部分を評価できるような仕組みがあるといいのではないでしょうか。少子化問題は持続可能な社会をつくるという意味で、環境問題でもあると考えています。企業としての対応も、環境問題に対する手法が応用できると思います。
高見
SMFGはせっかく素晴らしい活動をしているのですが、社外とのコミュニケーションが弱い印象があります。例えば先進企業でグループをつくって共同でPRを行ったり、あるいは、NPOと一緒にオピニオンを形成していくなどの活動ができるのではないでしょうか。
奥山
オピニオンの形成への企業の関わり方として、少子化問題についての問題意識や、活動している内容、これから目指していきたい社会へのコミットメントを示して頂けるととても影響力が大きいと思います。

問題意識をかたちにして育児支援に取組んでいく

久保
確かにSMFGで行っているさまざまな取組みについては、うまく社会に発信できていない可能性があります。銀行、そして金融グループの社会に対する影響力というものを考えれば、SMFGが育児支援に積極的になっていくことで世間にいい影響を与えることも可能になると思います。SMFGのCSRにおいて、環境問題への取組みは非常に大きなテーマの一つで、企業の環境への配慮度合いを勘案して融資条件を決めるという商品は、社会的にも評価を受けています。これと比べると少子化・育児支援についてはまだまだ取り組みが足りていないことを実感しています。先ほど、子育て問題と環境問題は似ているとのご指摘がありましたが、グループの中でもまず銀行としてソフト面を含めてできることから早急に着手しなければならないと感じています。経営陣の中でも少子化問題については強い問題意識を持っているのですが、一方で社内において問題意識を共有する難しさも感じているところです。ワークライフバランスなど社内の制度は作りましたが、制度を使う側が気持ちよく使える状況にあるかと言えば必ずしもそうなっていないかもしれません。社内の問題意識の共有を進め、頂いた意見を一つでも二つでも具体的に動かして社外に発信していきたいと思います。
中村
本日はさまざまな観点から貴重なご意見、ご提言を頂きまことにありがとうございました。有識者の皆さまからは商品・サービスの開発、世の中への発信、内部への浸透など広い範囲にわたって大きな宿題を頂きました。SMFGが少子化問題という大きな社会課題に貢献できるよう、取組んでいく決意を新たにいたしました。



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