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炭素情報開示と新興国企業

 2011年11〜12月のダーバン会議(COP17/CMP7)が、新しい「議定書もしくは法的文書、法的成果」を2015年までにつくるという結論で終わったことを受けて、先進国の産業界には一種の一服感のようなものが生まれているように見える。日本では、原発事故による化石燃料への依存が、欧州では金融危機による景気の先行き不安が、北米ではシェールガスといった新たな資源への期待感が、温室効果ガス排出への懸念を片隅に追いやってしまったかのようだ。

 そんな中で、世界の有力企業に対して炭素情報の開示を求める「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)」の2012年の調査協力の依頼が2月から始まっている。CDPは、地球温暖化対策に関心を有する投資家の存在を背景に2002年に発足した活動で、企業に気候変動対策に関する質問書を送付し、その回答を公開するというものだ。当初、全世界の大手500社を対象に調査依頼が始まったのが、今では約6,000社以上に規模が拡大している。

 4月、台湾でCDPの調査対象企業に対する説明会に出席する機会を得た。日本の経験を紹介してほしいという依頼であったが、地元企業の真摯に対応しようという熱意には驚かされた。2010年からは開示状況を評価するディスクロージャー・スコアの公表が始まり、2011年からは対策の実施度を評価するパフォーマンス・スコアが公表されたことで、日本企業の中には、その格付け的な手法に眉をひそめる声がないとはいえない。一方で、台湾企業は高い評価を獲得するために、できる取り組みは何でもやろうという意気込みだった。

 これを企業文化の違いだと片づけるのは簡単だ。ただ、新興国企業が温室効果ガス排出抑制に不熱心だというステレオタイプな見方は、もはや通用しないだろう。自国に義務が課されていなくとも、グローバル市場で支持される企業になるために自発的に動く。そうした感度の高い企業が新興国からも確実に生まれていることに注目したい。

(株式会社日本総合研究所 足達 英一郎)