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コロナ禍を機に、結婚式場から総合プロデュース業へ。八芳園が挑むDXによる変革

創業78年を迎え、ウエディング事業を中心に宴集会場・レストラン事業等を展開する株式会社八芳園。いま、八芳園はコロナ禍を経て、DXを大胆に取り入れ、総合プロデュース事業へと転換を遂げようとしています。
では八芳園はなぜ、DXにより変革を遂げようとしているのか。今回のインタビューではコロナ禍で大きくDXに舵を切った経緯や具体的な施策、今後の展望などについて、2021年11月18日に開催されたプラリタウン・三井住友銀行共催のDXイベント「SMBC Group Digital Summit 2021」にもご登壇いただいた株式会社八芳園取締役・経営管理部長の薮嵜正道(やぶさき まさみち)氏にお話を伺いました。

人件費高騰・人口減少・婚姻率低下、そしてコロナ禍。業界が抱える課題にDXで挑む

DX推進の経緯について教えてください。

5~6年前から少しずつ仕掛けを始めていましたが、コロナを機に一気に転換を図ろうと、2021年にDX推進部を作りました。

ブライダル業界などサービス業は一般的にはフェイス・トゥ・フェイスの仕事が多いと思いますが、なぜDXの推進が必要だと考えたのでしょうか?

理由は2つあり、1つはネガティブな側面です。人件費の高騰を考えると、どう考えてもデジタル化に向き合う必要性を感じていました。

私たちの業界はそもそもデジタルに触れる機会が少ないので、私も含めて情報漏洩などトラブルを恐れる気持ちがありました。しかし、実際に触れてみてわかったのは、デジタルは味方になる存在で、活用すべきだということです。働き方改革や生産性の向上、人件費の高騰を解決するにはデジタルを導入すべきだと確信しました。

もう1つの理由はイノベーションです。私たちのような企業の場合、イノベーションを起こして進化させていかないと人口減少や婚姻率の低下というネガティブな要素に負けてしまいます。重視したのはDXのX。トランスフォーメーションを起こすためにデジタルに向き合う仕掛けをし始めたのが5、6年前です。

まず、どのようなことから始めたのでしょうか?

当時、社内は何から何までほぼ紙で処理をしている状態でした。例えば、社員台帳は紙の履歴書が閉じてあるファイル。一番大事な資源であり財産である人材を透明化していくと、さらに価値が高まると考えて、最初は紙の情報をデジタルデータにしていくところから始めました。

経営層を始め、社内の反応はいかがでしたか?

最初はほとんどの人が反対でした。残業申請なども全部紙で、それひとつ変えるのも一苦労。当時はチャットツールも導入しておらず、社内の連絡は内線。しかし、最初は反対されるということは想定内でした。

どうやって理解を広げていったのでしょうか?

まずは社員の身近なところからIT化していくことに注力しました。例えば、給与に関すること。まずは紙の給与明細をデジタル化し、他には内線の代わりになるチャットツールや人事、労務のツールを入れました。最初から100点を狙うのではなく、無理なく80点を目指したことが良かったと思っています。全員を納得させるのは難しいので、まずは8割の人がいいなと思えるようにしようという考えで進めました。

他にはどのような施策を取りましたか?

さまざまなツールを試しました。コロナ禍の前にはマーケティングオートメーションのツールを導入したものの、全く使えずに失敗したこともあります。その時に学んだのは社内文化の変革を最初にやらないとうまくいかないということです。弊社には350人から400人ぐらいの社員がいるので、私だけがいいと思っても意味がありません。

結果的にコロナ禍をデジタルの土台ができている状態で迎えることができたのは大きかったです。平時ではなかなかデジタル化が進みませんでしたが、コロナという緊急事態によって大きく進めることができました。

最初の緊急事態宣言が発令された際には、休業を余儀なくされましたよね。

はい。創業以来初めて、営業はできる状態なのにシャッターを閉めることになりました。それが衝撃的な光景として、今でも目に焼き付いています。当時はまだウイルスに関して未知の部分が多く、お客様のことを考えて2ヶ月半の自主休業をしました。かなり辛い時期でしたね。

休業中はいつもより時間がありましたので、デジタルに関する研修をしたり、仕事の棚卸しをしたり、機器の導入や料理開発など、時間があるからこそできることを積極的にやりました。

コロナ禍を機に、結婚式場の八芳園から総合プロデュース企業へ

SMBCグループとの取り組みについても教えてください。

事業再構築補助金を申請するタイミングで三井住友銀行さんとお話をさせていただきました。デジタルに強いビジネスコンサルティング会社も、この時にご紹介いただきました。そのタイミングで多くの企業さんと出会わせていただき、その中にDXによる新規サービス構想やデジタルツールの導入があったということです。

具体的にはどのような構想を持っていたのでしょうか?

結婚式場だけの八芳園からは卒業したいと思っていました。もちろん、結婚式場をやめるわけではなく、総合プロデュース企業になる道を描いています。ブライダルのビジネスは好調でしたが、コロナ禍および少子化で見通しがつかないなか、延長線上でできるビジネスを探していました。ひとつは、BtoBイベントの主催です。例えば、東京オリンピックではホストタウンの食のプロデュースをさせていただきました。デジタル化によって、結婚式以外の分野にも私たちのプロデュース能力やおもてなしを広げていけると考えています。

どのようなことを企画し、実行されたのでしょうか?

まずは長い間準備を重ねたにも関わらず、全て振り出しに戻ってしまうという、一番ダメージを受けた新郎新婦様のためにできることを考え、Zoomを活用したオンライン結婚式に取り組みました。しかし、もともとはWeb会議システムなので、理想通りにはいきませんでした。

それなら自分たちで作ってみようという話になり、一方通行ではなくて双方向で話せて、さらにテーブル移動もできるというSaaS(クラウドで提供されるソフトウェアサービス)作りに取り組みました。三井住友銀行さんにも調べていただいて、助成金も活用しました。

従来の結婚式では、足が悪い方やご懐妊されている方、ご病気の方を呼ぶのは無理だというのが前提になっていました。しかし、ダイバーシティの観点からも全員が出席できるようにすべきだという思いがあり、サービス作りに取り組みました。

SaaSのサービスを自ら作ってしまったことには驚きました。

すでに売り出していて、他の企業様にも導入いただいていますし、さらに改善ができると思っています。他にもオーダーメイドでの食の配送サービスや、ECサイトにも取り組んでいます。

BtoB向けの新規ビジネスの営業に、Sansanのツールを活用

他にも、Sansanのツールを導入されたと伺いました。

三井住友銀行さんが実施していた「テレワーク導入支援プログラム」で、Sansanのサービスを導入しました。請求書のデジタル化が遅れていたので、まずはSansanが提供しているBill Oneというクラウド請求書受領サービスの利用から始めています。単にPDF化するのではなく、プラットフォーム上でダイレクトにやり取りできるのでとても便利です。今は7割ぐらいの請求書はBill Oneを使っています。紙の請求書のやり取りで発生する、「誰の手元にあるのかわからない」というような不毛なやり取りもなくなりましたね。

その後、名刺管理サービスも使いはじめました。決め手となったのは名刺の読み取り精度です。デジタル化のツールを導入しても、使い勝手が悪いと社員は使わなくなり、無駄になってしまいます。名刺をただデータにするのではなく、営業スタイルを変えるところまで進めたかったので、精度が高いのは大事なポイントでした。

企業との接点を増やすためには、デジタル上で多くの接点を持つことが必要です。そこで、それぞれの担当者同士のやり取りで発生する情報が大切なことに気付きました。そのため、BtoBビジネスにおける社員一人ひとりの接触を見える化し、整理をしました。メールやDMも、担当の方のお名前を入れた形で送ることができ、ツールの導入効果はすぐに現れました。

BtoB向けのDMというのはどのようなものでしょうか?

コロナ禍を経て、私たちのサービスの幅は広がっています。先ほどオンライン結婚式の説明をさせていただきましたが、そのほかにもイベントの配信や非接触パネルの商品など、BtoB向けの商品が増えています。しかし今までのBtoC向けの商品ではありませんので、新たに顧客を開拓する必要があります。上流の部分から全部、セールスの手法を変えないといけないことに気付いて、一から作っていきました。会社の文化を変革しない限り、BtoBのデジタルビジネスはうまくいかないと思い、過去のものは一度捨てました。

BtoBの新たな商品はホームページで説明するよりも、担当者に直接情報を伝える方が効果的です。さらに一人ひとりの社員の接触情報が可視化できると、無駄がなくなります。すでに他の社員が名刺交換をしている方とお会いする際に「いつもありがとうございます」という一言を添えるだけで、セールスの結果は変わります。Sansanのツールで手法も結果も変わりました。

攻めのDXで、業界全体のイノベーターに

コロナがブライダル業界に与えた影響は大きく、大変な期間だったと思います。そのような中で、デジタル化のためのツールやDX施策によって、大胆に変革をされたという印象を受けました。

私たちはこの2年間で6、7年分の利益を失いました。もうそこは逆の発想で投資だと思っています。コロナでお金が減ったのではなく、お金を投資したというイメージです。その失ったお金でデジタルの導入が早めることができたと考えています。感覚値では、普通なら10年かかることを1年でできました。

生き残るためには損益分岐点を下げることが必要です。私たちは10%ぐらい損益分岐点を下げられましたが、これはデジタルがあったからこそ。チャットツールや評価システム、勤怠などをデジタル化していることが損益分岐点を下げることに役立っています。社員の人数が10%から15%ぐらい自然減になっている中でも耐えられているのは、間違いなくデジタルの力です。

今後、DXにどのように挑戦していきますか?

お客様の人生の1ページに記憶を残せる私たちの仕事はすばらしい仕事だと思っていますし、ブライダルやサービス業に誇りを持っています。

ただ、イノベーションやデジタルに対するリテラシーが低いせいで、社会的地位が低く見られることもあり、悔しい思いをしてきました。そのため、弊社だけではなく、業界全体でイノベーションを起こすためにDXを推進していきたいです。

リアルのおもてなしと同じことがデジタルでもできるという発想は八芳園しか持っていないと思っています。自分たちの事業や業界をどうしていきたいのかという思いが大切で、デジタルツールの効果を性急に求めるのではなく、設計図を作ることが必要です。

企業として歴史を持ちながら、長期的な視点でイノベーションを起こそうとされていることがよくわかりました。

攻めのデジタルをもっと強化していきたいです。そのためには、データの整備が必要です。年間に2000組前後のお客様の結婚式をさせていただいている企業は日本にはあまりないと思います。7万から8万あるデータをもっと活用しないといけません。そのような取り組みを続けていくと、業界のデジタルへの考え方が変化するというイメージを持っています。

リアルと同じレベルで感動を与えられるようなデジタルの文化を生み出せば、私たちがDXの起点の1つになれると思っています。デジタル化へのチャレンジを今後も続けていきます。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 株式会社 八芳園 取締役 経営管理部 部長

    薮嵜 正道氏

    ホテルにてホスピタリティの深さ、ゲストハウスにて事業推進の視点を学び、株式会社八芳園に入社。
    新規事業の立ち上げ、主軸の婚礼事業、企画広報などを経て、2016年改革を起こすべく経営管理部門へ。総務、労務に DX 改革を起こし社内のデジタルリテラシーの底上げを図る。
    「ホスピタリティ業界の社会的地位向上」を目指し、DX 部門/DX 事業の立ち上げや「ホスピタリティ業界×DX」のイノベーションを起こしつつ、さらに新たなコンテンツを導入し続けている。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。